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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.11.23 Fri » 『未知五篇』

【承前】
 雑誌〈アンノウン〉の傑作選 The Unknown (1963) が好評だったらしく、すぐに続編が出た。同じD・R・ベンセン編の The Unknown Five (Pyramid, 1964) である。ただし、当方が持っているのは1978年に出たジョーヴ/HBJ版だが。

2009-2-9 (Unknown 5)

 この本もエド・カーティアのイラストを再録して売りにしているが、もうひとりジョン・ショーンハーのイラストを(描きおろしで!)収録している。ふたりの名前が表紙に載っているのに注意されたい(ただし、この版の表紙絵は、ロウィーナ・モリスの筆になるもの)。

 ショーンハーは〈アスタウンディング/アナログ〉の黄金期を支えた名イラストレーター。表紙を75回も描いていて、ヒューゴー賞も受賞した人である。
 たぶんフランク・ハーバートの《デューン》シリーズを題材にした一連のイラストがいちばん有名だと思う。サンドワームがすごい迫力で、ポスターやカレンダーにもなっているので、どこかでご覧になったことがおありだろう。画家の名前を知らなくても、絵を見れば、ああ、あれかと思われるのではないか。
 わが国であまり知られていないのは、SF界に見切りをつけて去っていったからかもしれない。1968年のことだが、この時点では描きおろしに応じてくれたわけだ。白黒のペン画は、カラーのスーパーリアルタッチとは趣がちがうが、これはこれですばらしい。

 話を本にもどそう。例によって目次を書き写しておく――

著者よ! 著者よ! アイザック・アシモフ
The Bargain クリーヴ・カートミル
The Hag S`eleen シオドア・スタージョン * `e は本当はアクサン
地獄は永遠に アルフレッド・ベスター
The Crest of the Wave ジェーン・ライス

 アシモフの作品は、じつは〈アンノウン〉に載っておらず、本書が初出。裏話が面白い。
 姉妹誌〈アスタウンディング〉の常連だったアシモフは、なんとか〈アンノウン〉にも小説を載せたいと思っていた。が、ファンタシーは苦手でキャンベル編集長のお眼鏡にかなう作品を書けなかった。6度めの挑戦でようやく採用されたが、掲載される前に雑誌が休刊となり、以来お蔵入りとなっていた。それが20年ぶりに陽の目を見ることになったのだという。
 まあ、アシモフの初期作品集『母なる地球』(ハヤカワ文庫SF)を読んだ人は、とっくにご存じだろうが。

 ベスターの作品は、当方が訳して作品集『願い星、叶い星』(河出書房新社)に入れた。最初はこれをテキストにして翻訳したのだが、あとで短篇集に収録されているヴァージョンを見たら、かなり手がはいっていて、どう考えても後者のほうが出来がいいので、そちらに合わせて翻訳を直したという経緯がある。
 
 未訳の3篇は、スタージョンの作品もふくめていまひとつ。当時は斬新だったのだろうが、いまとなっては古くさいタイプの怪奇小説である。

おまけ
 カートミル作品に付されたカーティアのイラスト。

2009-2-9 (Unknown 3)

「地獄は永遠に」に付されたショーンハーのイラスト。

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(2009年2月9日)

2012.11.21 Wed » 『未知』

【前書き】
 以下は2009年2月7日に書いた記事である。雑誌の傑作選つながりで公開する。


 昨年の12月25日、アメリカSF界に偉大な足跡を残した画家エド・カーティアが永眠した。カーティアといえば、故野田昌宏氏をSFに狂わせた画家であり、いまさら当方ごときが何か書くまでもあるまいと思ったが、この人のイラストを売り物にしたアンソロジーを持っていたのを思いだしたので、遅ればせながら追悼をしたいと思う。

 まずはD・R・ベンセン編の The Unknown (Pyramid, 1963) だ。表題の Unknown は、SF誌〈アスタウンディング・サイエンス・フィクション〉の姉妹誌として創刊され、アメリカ幻想文学界に新風を吹きこんだとして著名なパルプ・ファンタシー雑誌〈アンノウン(ワールズ)〉のこと。1939年から43年のあいだに39号しか出なかったが、その影響力には絶大なものがある。そのベストとして編まれたのが本書というわけだ。表紙にカーティアの名前が出ていることに留意されたい。

2009-2-7 (Unknown 1)

 編者ベンセンのことはなにも知らなかったが、調べてみたらピラミッド・ブックスの編集者だった。そうか、ディ・キャンプの〈剣と魔法〉アンソロジーをはじめとするファンタシー路線は、この人が仕掛け人だったのか。

 さいわい邦訳された作品が多いので、目次を書き写しておく――

まちがえられた後光 ヘンリー・カットナー
Perscience ネルスン・S・ボンド
昨日は月曜日だった シオドア・スタージョン
The Gnarly Man L・スプレイグ・ディ・キャンプ
凄涼の岸 フリッツ・ライバー
小人の棲む湖 H・L・ゴールド
Double And Redoubled マルコム・ジェイムスン
月のさやけき夜に マンリー・ウェイド・ウェルマン
ミスター・ジンクス ロバート・アーサー
スナル虫 アントニー・バウチャー
悪魔と坊や フレドリック・ブラウン

 これにアイザック・アシモフの前書きと編者の序文がつく。

 ちなみに〈SFマガジン〉1971年6月号が、このアンソロジーを母体に「なつかしのアンノウン特集」を組んでいる。カットナー、ウェルマン、アーサーの作品が訳出され、エド・カーティアのカットが何枚か紹介されているのだ。
 この時期の同誌が、アチラのアンソロジーから作品を抜粋して特集の形にしているのは前に書いたとおりだが、この特集では、めずらしくその旨が明記されている。

 未訳作品だが、さすがに未訳で残っているだけあって、たいしたことがない。が、ディ・キャンプの作品は例外。サーカスで見せ物になっているゴリラ男が、じつは本物のネアンデルタール人だったという話。このネアンデルタール人は不死身のうえに頭脳明晰、非の打ち所のない紳士なのだが、わざと粗野な原人のふりをしている。見せ物に出ていれば、だれも自分が本物だとは思わないからだ。

おまけ
 スタージョン「昨日は月曜日だった」の挿し絵。コミック路線。

2009-2-7 (Unknown 2)

 ジェイムスン作品の挿し絵。怖い絵もいいね。

2009-2-7 (Unknown 3)

(2009年2月7日)

2012.11.01 Thu » 『強健な剣士たち』

【承前】
 ハンス・ステファン・サンテッスンの〈剣と魔法〉アンソロジー第二弾は The Mighty Swordsmen (Lancer, 1970) だ。前作に引きつづき、ジム・ステランコが表紙絵を担当しているが、今回はグラフィックなサイケ調がすばらしい。

2006-5-27(Swordsmen 2)2006-5-27(Swordsmen 1)

 収録作品はつぎのとおり。例によって作者名のあとに所属するシリーズ名を付す――

Keeper of the Emerald Flame リン・カーター 《ゾンガー》
「ショアダンの鐘」ロジャー・ゼラズニイ 《ディルヴィシュ》
Break the Doors of Hell ジョン・ブラナー 《黒衣の旅人》
The People of the Summit ビヨルン・ニューベリー 《コナン》
「炎の運び手」マイクル・ムアコック 《エルリック》
「黒河を越えて」ロバート・E・ハワード 《コナン》

 このうちカーターとニューベリーの作品は書き下ろし。前者のゾンガーはともかく、後者の贋作コナンはいただけない。同時に収録されている真正コナンが、シリーズ最高傑作との呼び声も高い「黒河を越えて」とあっては、贋作の粗ばかりが目立つのだ。読者のご機嫌をうかがいすぎた感じだ。

 あとはブラナーの《黒衣の旅人》シリーズの収録が珍しい。すこしでも新味を出そうと知恵を絞っているのがわかって、この本も印象は好ましい。(2006年5月27日)

【追記】
 ニューベリーの贋作コナンに関しては、斯界の先達、佐藤正明氏がご自身のホームページ「Babelkund」で邦訳を公開されている。リンクはトップ・ページに貼ってもらいたいとのことなので、ここから「裏Babelkund」→「ハイボリア博物館」→「山頂の民」と進んでいただきたい。

 カーターの作品は、若きゾンガーの冒険を描いた型どおりのものだが、けっこう面白い。
 ブラナーの作品については別項を立てる。


2012.10.31 Wed » 『強健な野蛮人たち』

 楽しいアンソロジー・シリーズをつづける。
 ディ・キャンプのつぎは弟子のリン・カーターというのが筋かもしれないが、ジム・ステランコつながりで、ハンス・ステファン・サンテッスンの The Mighty Barbarians (Lancer, 1969) をとりあげる。

2006-5-26(Barbarian 2)2006-5-26(Barbarian 1)

 版元は《コナン》シリーズで大当たりをとったランサー。満を持してのアンソロジー登場というところか。編者はSF誌〈ファンタスティック・ユニヴァース〉やミステリ雑誌〈セイント〉の編集長を務めた人で、SFのアンソロジーやUFO関係の著作を遺している。

 収録作品はつぎのとおり(作者名のあとに付したのは、所属するシリーズ名)――

「海王の留守に」フリッツ・ライバー 《ファファード&グレイ・マウザー》
The Stronger Spell L・スプレイグ・ディ・キャンプ 《プサード》
「ドラゴン・ムーン」ヘンリー・カットナー 《エラーク》
Thieves of Zangabal リン・カーター 《ゾンガー》
「魔女誕生」ロバート・E・ハワード 《コナン》

 表紙の惹句を見ればわかるが、編者はヒロイック・ファンタシ-ではなく、〈剣と魔法〉という用語を使っている。
 ご覧のとおり、有名シリーズの揃い踏み。カーターの作品は書き下ろしで、独自性を出そうという編者の苦心がうかがえる。
 ちなみにディ・キャンプの作品は、魔法合戦に材をとったユーモア篇、カーターの作品は、若きゾンガーの活躍を描いたもの。手堅すぎる気がしないでもないが、けっこう好きな本である。
 
 蛇足。このころのペーパーバックは、糊の劣化で、すぐに表紙と本体が分離し、ページがバラバラになる。したがって、本の修理に勤しむ毎日である。なにやってんだか。(2006年5月26日)

2012.10.29 Mon » 『妖術師たちと剣士たち』

【承前】
 L・スプレイグ・ディ・キャンプのヒロイック・ファンタシー啓蒙アンソロジー。第四弾は Warlocks and Warriors (Putnam, 1970)だ。これまでの3冊とは版元を変えて、ついにハードカヴァーに出世。とはいっても、当方が持っているのは、例によって翌年にペーパーバック落ちしたバークリー版なのだが。

2006-5-24(Warlocks 2)2006-5-24(Warlocks 1)

 さて、初のハードカヴァーということで、気合いがはいっているはず。大いに期待させるが、すでに競合アンソロジーが何冊もあったため、落ち穂拾いのような苦しい内容になっている――

Introduction L・スプレイグ・ディ・キャンプ
Turutal レイ・カペラ
The Gods of Niom Parma リン・カーター
「死霊の丘」ロバート・E・ハワード 《ソロモン・ケイン》
「暁の雷鳴」ヘンリー・カットナー 《エラーク》
「盗賊の館」フリッツ・ライバー 《ファファード&グレイ・マウザー》
「暗黒神のくちづけ」C・L・ムーア 《ジョイリーのジレル》
「チュー・ブとシーミッシュ」ロード・ダンセイニ
「蟹の王」クラーク・アシュトン・スミス 《ゾシーク》
「蜘蛛の谷」H・G・ウェルズ
「ショアダンの鐘」ロジャー・ゼラズニイ 《ディルヴィシュ》

 未訳の2篇は同人誌に載ったもの。カペラの作品は、ハワードの〈ハイボリア時代〉の設定を借りた創作。カーターの作品は、ダンセイニのパスティーシュ。どちらもファン・ライティングの域を超えるものではない。
 ハワードの作品は《ソロモン・ケイン》シリーズだし、ウェルズの作品ともども場違いな感は否めない。おそらく、4冊のなかで最低の出来だろう。ディ・キャンプの解説も文章の使いまわしが目立つ。

 表紙絵は一見フラゼッタに思えるが、じつはジム・ステランコ。横長の絵なので、裏表紙もスキャンしておいた。背の部分が欠けているので、厳密には一枚絵にはなっていないが、構図などはわかると思う。
 なお、収録作の一部では、イラストのかわりに簡単な地図が付されている。書き忘れたが、これは前著 Fantastic Swordsmen も同じ。ハヤカワ文庫版《コナン》シリーズの場合、それぞれの作品に簡単な地図が付いていたのは、この影響だと思われる。

 余談だが、ゼラズニイの短篇はファンジンに翻訳を載せたことがある。掲載誌〈ローラリアス〉6号の発行は1982年。われながら、三つ子の魂百までだ。(2006年5月24日)

2012.10.28 Sun » 『幻想の剣士たち』

【承前】
 L・スプレイグ・ディ・キャンプのヒロイック・ファンタシー啓蒙アンソロジー。第三弾は The Fantastic Swordsmen (Pyramid, 1967) だ。

2006-5-23(Fantastic)

 このころになると、ランサー版《コナン》シリーズの刊行がはじまっており、さすがに前のように選りどり見どりというわけにはいかなくなってくる。

 まずは内容を見てもらおう。例によって作者名のあとに所属するシリーズ名を付す――

Introduction: Tellers of Tales L・スプレイグ・ディ・キャンプ
「黒い蓮」ロバート・ブロック
「サクノスを除いては破るあたわざる堅砦」ロード・ダンセイニ
「トムバルクの太鼓」ロバート・E・ハワード&L・スプレイグ・ディ・キャンプ 《コナン》
The Girl in the Gem ジョン・ジェイクス 《戦士ブラク》
「ドラゴン・ムーン」ヘンリー・カットナー 《エラーク》
「蕃神」H・P・ラヴクラフト
「歌う城砦」マイクル・ムアコック 《エルリック》
The Tower ルイジ・デ・パスカリス

 このうちハワード&ディ・キャンプ(ハワードの遺稿にディ・キャンプが補筆した没後共作)、ムアコック、デ・パスカリスの作品が書き下ろし。編者が新味を出そうと知恵を絞ったのがわかる。
 ちなみにデ・パスカリスの作品は、イタリア語からの翻訳。もっとも、出来はファンジン・レヴェルだが。ジェイクスの作品は、《戦士ブラク》シリーズ第一作である(これも凡作)。
 
 新顔は3人。逆にハワードとダンセイニは3冊すべてに顔を出している。なんにせよ、この3冊に登場した作家たちが、ディ・キャンプの考えるヒロイック・ファンタシーの中核であり、それがほぼそのままの形でわが国に伝えられたのである。

 もちろん、当方もその影響をもろに受けているわけで、『不死鳥の剣』(河出文庫)にはダンセイニの上記作を採らせてもらった。(2006年5月23日)


2012.10.27 Sat » 『七の呪文』

【承前】
 L・スプレイグ・ディ・キャンプのヒロイック・ファンタシー啓蒙アンソロジー第二弾が、The Spell of Seven (Pyramid, 1965)だ。造本面では前著と同様にフィンレイのイラストを使っているのが特徴。

2006-5-22(Spell)

 内容はつぎのとおり(作者名のあとに付してあるのは、所属するシリーズ名)――

Introduction: Wizards and Warriors L・スプレイグ・ディ・キャンプ
「珍異の市」フリッツ・ライバー 《ファファード&グレイ・マウザー》
「暗黒の偶像」クラーク・アシュトン・スミス 《ゾシーク》
「ギベリン族の宝蔵」ロード・ダンセイニ
「飢えた密林人」L・スプレイグ・ディ・キャンプ 《プサード》
「闇の三王」マイクル・ムアコック 《エルリック》
「魔術師マジリアン」ジャック・ヴァンス 《滅びゆく地球》
「ザンボウラの影」ロバート・E・ハワード 《コナン》

 作家の顔ぶれは4人まで前著と同じで、ディ・キャンプがこのあたりをヒロイック・ファンタシーの中核とみなしているのがわかる。(2006年5月22日)

2012.10.26 Fri » 『剣と魔法』

 L・スプレイグ・ディ・キャンプといえば、ヒロイック・ファンタシーというジャンルの命名者であり、その中興の祖として多大な功績をあげた人だが、1960年代後半に一連の啓蒙的アンソロジーを編んでいる。Swords And Sorcery (Pyramid, 1963) は、その記念すべき第一弾である。

2006-5-21(Sword)

 内容はつぎのとおり(作者名のあとに付したのは、所属するシリーズ名)――

Introduction: Heroic Fantasy L・スプレイグ・ディ・キャンプ
「吟遊詩人ヴァラの剛胆」ポール・アンダースン
「宝石屋サンゴブリンドの悲惨な物語」ロード・ダンセイニ
「月下の影」ロバート・E・ハワード 《コナン》
「暗黒の砦」ヘンリー・カットナー 《レイノル王子》
「海王の留守に」フリッツ・ライバー 《ファファード&グレイ・マウザー》
「サルナスをみまった災厄」H・P・ラヴクラフト
「ヘルズガルド城」C・L・ムーア 《ジョイリーのジレル》
「アタマウスの遺言」クラーク・アシュトン・スミス 《ハイパーボリア》

 注記しておくと、ダンセイニの作品は、原書では長い題名の後半が省略されて、“Distressing Tale of Thangobrind the Jeweller”という短い題名になっている。弟子のリン・カーターもバランタインの短篇集で勝手にダンセイニ作品を改題しており、ビブリオ・マニア泣かせというほかない。
 
 ディ・キャンプの序文は、「3分でわかるヒロイック・ファンタシー」とでもいうべき概論。定義と歴史をこれ以上なく簡潔に述べている。わが国にこのジャンルの紹介がはじまったとき、だれもがこの序文を引き写していたのも当然だろう。
 ちなみに、「ヒロイック・ファンタシー」という言葉が、はじめて公になった場としても名高い。

 もちろん、当方もその影響を受けていて、『不死鳥の剣』(河出文庫)にはカットナーの作品を採らせてもらった。シリーズ第二作を単体で収録したのは、ディ・キャンプを見習ったわけだ。

 造本面では、ヴァージル・フィンレイのイラストを持ってきて、挿絵がわりに使っているのが特徴。もちろん、べつの小説のために描かれたものなので違和感は否めないが、フィンレイの絵が見られるのだから文句なしである。(2006年5月21日)

2012.08.30 Thu » 『剛勇の谺 第三集』その2

 昨日のつづきで、Echoes of Valor Ⅲ がいかにマニアックかという話。

Ⅲ マンリー・ウェイド・ウェルマン
 Hok Goes to Atlantis

 第三部は前巻に引きつづき、ウェルマンの《ホク》シリーズから1篇。ホクが見知らぬ国へ遠征したら、そこは高度な文明社会。だが、あまりにも退廃していて、腹を立てたホクが神殿かなにかを壊したら、大陸が沈んでしまった。つまり、これがアトランティス沈没の真相であったという話。
 シリーズ第二作にあたる作品だが、これが再録された理由は明らかで、永らく幻だったから。ほかの作品が67年から70年にかけて〈ファンタスティク〉に再録されたのに対し、これだけその機会に恵まれなかったのだ。しかし、出来映えのほうはイマイチで、珍しさだけを基準に作品は選んではいかんなあ、と思わされる。

Ⅳ ジャック・ウィリアムスン
 Wolves of Darkness

 第四部は意外な人選で、ウィリアムスンのノヴェラが収録されているが、これは〈剣と魔法〉ではない。ワグナーの解説によると、人狼をテーマにした現代ものの怪奇スリラーで、初出は1932年。長篇『エデンの黒い牙』(1940)の原型的作品だそうだ。
 長さが215枚もあるし、お目当てだった〈剣と魔法〉でもないので、この作品は読まなかった。ワグナーの解説が面白いので、原文のまま引いておく――

 “Wolves of Darkness” is an unbashed horror thriller, written in the most florid language of the pulps. Can you say “ululation”? How many times?

V ニッツィン・ダイアリス
 Nictzin Dyalhis: Mysterious Master of Fantasy サム・モスコウィッツ(エッセイ)
 The Red Witch
 サファイアの女神
 The Sea-Witch

 第五部には伝説のパルプ作家ニッツィン・ダイアリスの中篇3篇と、古典SF研究の泰斗サム・モスコウィッツによる評伝が収録されている。

 モスコウィッツの評伝は、これだけで項目を立てる価値があるので次回に紹介するとして、ダイアリスの作品について簡単に触れておく。

 The Red Witch は、輪廻転生をテーマにした綺譚。原始人の時代と現代を舞台に、運命的な恋をした男女と、女に横恋慕した族長との因縁が語られる。男女は現代に生まれかわっているが、族長だけは呪いのせいで半死の状態を何万年もつづけているという点が独創的だが、文章がいかにもパルプで、読むのがつらい。

 「サファイアの女神」は古典的ヒロイック・ファンタシー。当方はこの作品が大好きで、前記『不死鳥の剣』を編んだとき、安野玲氏に新訳してもらったうえで収録した。
 二種類の既訳が、三種類の媒体に掲載されたことのある作品だが、ほとんどの人が本邦初訳と勘違いしていたので驚いた。古い邦訳、あるいはマイナーな媒体への掲載は、存在していないのと同じということか。

 The Sea-Witch は、掲載誌〈ウィアード・テールズ〉が人気投票を行ったとき上位にはいった作品で、なにを見ても名作あつかいされている。が、これも大時代な輪廻転生もので、あまり高い評価はできない。兄弟を惨殺され、自分も陵辱された北欧の尼僧が、現代に生まれかわって復讐を果たす話である。

 すでにお気づきのように、この巻は〈剣と魔法〉でない作品が多く収録されている。たしかに珍しい作品が並んでおり、パルプ研究家としての編者の力量には敬服するが、ヒロイック・ファンタシー・アンソロジーという当初の趣旨からはズレているのも事実。それが理由かどうかは知らないが、このシリーズは第三集で終わった。初心忘れるべからずである。(2009年3月9日)

2012.08.29 Wed » 『剛勇の谺 第三集』その1

 このさいカール・エドワード・ワグナー編のヒロイック・ファンタシー・アンソロジー第三弾 Echoes of Valor Ⅲ(Tor, 1991) も紹介しておこう。ワグナーのマニアぶりに拍車がかかって、資料としては貴重きわまりないのだが、当初の路線からは逸脱した感もあり、痛し痒しの本だ。

2009-3-9(Echoes 3)

 長くなるのは目に見えているので、最初に目次をかかげるのはやめて、セクションごとに解説していこう。

Ⅰ ロバート・E・ハワード
 The Shadow of the Vulture

 第一部はロバート・E・ハワードの中篇を収録。ただし、これは〈剣と魔法〉ではなく、オスマン・トルコのウィーン包囲を題材にした歴史冒険小説である。なぜそんなものがはいっているかというと、本篇にレッド・ソーニャ(Red Sonya)が出てくるから。

 といっても、コミックス版コナンに登場し、ブリジット・ニールセン主演の映画も作られた女剣士を思い浮かべてはならない。鎖かたびらのビキニを身にまとったあの女傑は一字ちがいの Red Sonja で、マーヴェル・コミックスが創造した人物。ハワードの作品には登場しないのである。

 とはいえ、まったくのゼロから生まれたわけではなく、本篇に登場するロシア人女剣士を霊感源(のひとり)として創られたと思しい。ワグナーは実例を示したうえで、両者の混同を戒めているわけだ。

 しかし、女剣士の活躍を期待すると当てがはずれる。本篇の主人公は、ゴトフリート・フォン・カルマバッハというドイツ人の酔いどれ戦士。赤毛のソーニャは、強烈な印象を残すとはいえ、あくまでも脇役にとどまるのだ。ちょうど「赤い釘」におけるコナンとヴァレリアの関係と同じである。しかも、話は暗鬱な歴史ものなので、〈剣と魔法〉を期待した読者は面食らったと思われる。

 余談だが、ハワードは中世フランスを舞台にした女剣士もの《ダーク・アグネス》シリーズも書いている。強い女が好きだったみたいだ。

Ⅱ ヘンリー・カットナー
 呪われた城市
 暗黒の砦
 
 第二部には《サルドポリスのレイノル王子》シリーズが収録されている。
 作者のカットナーは、ハワードの死後〈剣と魔法〉に手を染め、ふたつのシリーズを遺したが、そのうちの片方がこのシリーズ。〈ウィアード・テールズ〉の競合誌として誕生した〈ストレンジ・ストーリーズ〉に掲載されたが、同誌が短命に終わったため、このシリーズも2篇で終わった。
 第一作「呪われた城市」は〈ミステリマガジン〉1971年1月号に訳載されているが、このタイトルが問題。というのも、目次には「呪いの城市」と記され、本文扉には「呪われた城市」と記されている悩ましいケースだからだ。同誌の総目録には「呪われた城市」で記載されているので、それにしたがったが、当方は「呪いの城市」で記憶していた。
 シリーズ第二作は長いこと未訳だったが、当方が〈剣と魔法〉のアンソロジー『不死鳥の剣』(河出文庫、203)を編んだとき、これを収録することに決め、安野玲氏に訳してもらった。
 カットナーの愛妻C・L・ムーアの傑作「ヘルズガルド城」と並べたのは、当方の誇りとするところだ。(2009年3月8日)