2013.07.24 Wed » 『魔術の諸領域』
昨日紹介した本と対になるのが Realms of Wizardry (Doubleday, 1976)だ。同時に発売されたらしく、二冊の独立したアンソロジーというよりは、大著の二分冊といった性格らしい。

編集方針は姉妹編とほぼ同じで、大家の有名作から無名作家の珍品までとりそろえている。とはいえ、本書のほうが〈剣と魔法〉寄りで、カーターの趣味を色濃く反映している。
収録作16篇中、長篇の抜粋が4篇。すなわちキャベル『ジャーゲン』、ハガード『洞窟の女王』、メリット『金属モンスター』、ボク『魔法使いの船』である。もっとも、キャベルの抜粋は、独立した作品として雑誌に発表された部分なので、短篇として見ることも可。
残りのうち邦訳があるのは、ダンセイニ「ギベリン族の宝蔵」、ラヴクラフト「サルナスを襲った災厄」、ブロック「黒い蓮」、ムーア&カットナー「スターストーンを求めて」、ヴァンス「無宿者ライアン」、ムアコック「オーベック伯の夢」、ゼラズニイ「セリンデの歌」。
このほかゲイリー・マイヤーズ、リチャード・ガーネット、ドナルド・コーリイ、ロバート・E・ハワード、クリフォード・ボールの作品が収録されている(が、邦訳したいほどの秀作はない)。
見てのとおり非常に手堅いラインナップ。定番が多く、面白みに欠けるが、啓蒙アンソロジーだからこれでいいのだろう。
それにしても、こういう本を編むときダンセイニの作品は重宝する。20枚以下の傑作がゴロゴロしているから、ほんとうに選り取りみどりなのだ。あらためて、その偉大さに敬服する。(2007年6月3日)

編集方針は姉妹編とほぼ同じで、大家の有名作から無名作家の珍品までとりそろえている。とはいえ、本書のほうが〈剣と魔法〉寄りで、カーターの趣味を色濃く反映している。
収録作16篇中、長篇の抜粋が4篇。すなわちキャベル『ジャーゲン』、ハガード『洞窟の女王』、メリット『金属モンスター』、ボク『魔法使いの船』である。もっとも、キャベルの抜粋は、独立した作品として雑誌に発表された部分なので、短篇として見ることも可。
残りのうち邦訳があるのは、ダンセイニ「ギベリン族の宝蔵」、ラヴクラフト「サルナスを襲った災厄」、ブロック「黒い蓮」、ムーア&カットナー「スターストーンを求めて」、ヴァンス「無宿者ライアン」、ムアコック「オーベック伯の夢」、ゼラズニイ「セリンデの歌」。
このほかゲイリー・マイヤーズ、リチャード・ガーネット、ドナルド・コーリイ、ロバート・E・ハワード、クリフォード・ボールの作品が収録されている(が、邦訳したいほどの秀作はない)。
見てのとおり非常に手堅いラインナップ。定番が多く、面白みに欠けるが、啓蒙アンソロジーだからこれでいいのだろう。
それにしても、こういう本を編むときダンセイニの作品は重宝する。20枚以下の傑作がゴロゴロしているから、ほんとうに選り取りみどりなのだ。あらためて、その偉大さに敬服する。(2007年6月3日)
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2013.07.23 Tue » 『妖術の諸王国』
リン・カーターが編んだ空想世界ファンタシーの啓蒙アンソロジーには Kingdoms of Sorcery (Doubleday, 1976)というのがある。

だが、この本は意外に世に知られていない。というのも、ローカスの短篇集・アンソロジー・リストから、どういうわけか漏れているからだ。世に出まわっているカーターの著作リストは、このリストを基にしたものが多いので、当然ながら記載されていないのである。
当方は本書の姉妹篇を手に入れたとき存在を知り、あわてて注文したのだった。
本書はカーターが編んだ一連の啓蒙アンソロジーとしては初のハードカヴァー。そういうわけでなかなか気合いがはいっており、大家の有名作から同人誌レヴェルの珍品までとりそろえている。主要な短篇はすでに使ってしまったという事情もあるのだろうが、類書には見られないユニークな目次になっているのはたしか。
だが、その編集方針が裏目に出た感がある。というのも、収録作19篇中7篇が長篇の抜粋。6篇が10枚以下の掌編なのだ。
おそらく本書は見本市であって、興味があったら同じ作者の単行本に手をのばしてくれということなのだろう。だが、アンソロジーとして見れば、首をかしげざるを得ない。長篇の一部抜粋で、その作品の真価が伝わるとは思えないし、散文詩のような掌編は、物語を愛好する読者を敬遠させるだけだからだ。
ちなみに、抜粋が載っている長篇はベックフォード『ヴァテック』、エディスン Misteress of Misteresses、プラット The Well of the Unicorn、 ホワイト「石にさした剣」(ただし、邦訳版からは削除された部分)、ルイス『ライオンと魔女』、トールキン『旅の仲間』、アダムズ『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』。
邦訳がある作品はライバー「ランクマー最高の二人の盗賊」、ポオ「影」、「沈黙」、C・A・スミス「悲しみの星」、「記憶の淵より」。
このほかヴォルテール、マクドナルド、モリス、ロバート・H・バーロウ、ディ・キャンプの短篇と、スミスの散文詩がさらに1篇載っている。姉妹編とくらべると、民話/寓話色の濃い作品を集めたものといえる。(2007年6月2日)

だが、この本は意外に世に知られていない。というのも、ローカスの短篇集・アンソロジー・リストから、どういうわけか漏れているからだ。世に出まわっているカーターの著作リストは、このリストを基にしたものが多いので、当然ながら記載されていないのである。
当方は本書の姉妹篇を手に入れたとき存在を知り、あわてて注文したのだった。
本書はカーターが編んだ一連の啓蒙アンソロジーとしては初のハードカヴァー。そういうわけでなかなか気合いがはいっており、大家の有名作から同人誌レヴェルの珍品までとりそろえている。主要な短篇はすでに使ってしまったという事情もあるのだろうが、類書には見られないユニークな目次になっているのはたしか。
だが、その編集方針が裏目に出た感がある。というのも、収録作19篇中7篇が長篇の抜粋。6篇が10枚以下の掌編なのだ。
おそらく本書は見本市であって、興味があったら同じ作者の単行本に手をのばしてくれということなのだろう。だが、アンソロジーとして見れば、首をかしげざるを得ない。長篇の一部抜粋で、その作品の真価が伝わるとは思えないし、散文詩のような掌編は、物語を愛好する読者を敬遠させるだけだからだ。
ちなみに、抜粋が載っている長篇はベックフォード『ヴァテック』、エディスン Misteress of Misteresses、プラット The Well of the Unicorn、 ホワイト「石にさした剣」(ただし、邦訳版からは削除された部分)、ルイス『ライオンと魔女』、トールキン『旅の仲間』、アダムズ『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』。
邦訳がある作品はライバー「ランクマー最高の二人の盗賊」、ポオ「影」、「沈黙」、C・A・スミス「悲しみの星」、「記憶の淵より」。
このほかヴォルテール、マクドナルド、モリス、ロバート・H・バーロウ、ディ・キャンプの短篇と、スミスの散文詩がさらに1篇載っている。姉妹編とくらべると、民話/寓話色の濃い作品を集めたものといえる。(2007年6月2日)
2013.07.22 Mon » 『古きに代わる新しき世界』
リン・カーターの空想世界啓蒙アンソロジー第二弾が、New Worlds for Old (Ballantine, 1971) だ。

変わった表題だが、これにはつぎのような意味がある。
むかしから人間は、「ここではないどこか」を空想してきた。かつてその空想の地は、地球上のどこかにあるとされていた。だが、時代が下るにつれ、地球上にそのような土地が存在しないことが明らかになり、ちがう種類の別世界を空想せざる得なくなった。それが「古きに代わる新しき世界」である。
というわけで、その「古き世界」をテーマにしたのが、本書の姉妹編 Golden Cities, Far (Ballantine, 1970) で、こちらは神話・伝説の再話やそれを題材にした創作を集めている。それに対して本書は、個人が空想した別世界を舞台にしたファンタシーを集めている。
さすがに第二弾だけあって、作家の選択にちょっとヒネリが見られる。例によって作家名を列挙する。
ウィリアム・ベックフォード(C・A・スミス訳)、エドガー・アラン・ポオ、ジョージ・マクドナルド、オスカー・ワイルド(詩)、ロード・ダンセイニ、H・P・ラヴクラフト、ゲイリー・マイヤーズ、リン・カーター、ジョージ・スターリング(詩)、ロバート・E・ハワード、C・L・ムーア、クリフォード・ボール、クラーク・アシュトン・スミス(詩)、マーヴィン・ピーク。
そろそろ珍しい作品が底をついたのか、いろいろと苦しい選択。 たとえば、ピークの作品が収録されていると聞くと色めきたつ向きもあるだろうが、じっさいは『タイタス・アローン』から削られた章が載っているだけ。羊頭狗肉の感が強い。
それでも、スターリングとスミスの師弟をそろい踏みさせるなど、知恵を絞ったあとは見える。
ちなみにクリフォード・ボールというのは、コナン・フォロワー第一号ということで、古手の〈剣と魔法〉ファンには有名な作家だが、訳されていないのには理由がある。発表された三篇、すべて箸にも棒にもかからない駄作なのだ。いくら珍しいからといって、駄作を収録するのはやはり良くない。肝に銘じておこう。(2006年10月3日)

変わった表題だが、これにはつぎのような意味がある。
むかしから人間は、「ここではないどこか」を空想してきた。かつてその空想の地は、地球上のどこかにあるとされていた。だが、時代が下るにつれ、地球上にそのような土地が存在しないことが明らかになり、ちがう種類の別世界を空想せざる得なくなった。それが「古きに代わる新しき世界」である。
というわけで、その「古き世界」をテーマにしたのが、本書の姉妹編 Golden Cities, Far (Ballantine, 1970) で、こちらは神話・伝説の再話やそれを題材にした創作を集めている。それに対して本書は、個人が空想した別世界を舞台にしたファンタシーを集めている。
さすがに第二弾だけあって、作家の選択にちょっとヒネリが見られる。例によって作家名を列挙する。
ウィリアム・ベックフォード(C・A・スミス訳)、エドガー・アラン・ポオ、ジョージ・マクドナルド、オスカー・ワイルド(詩)、ロード・ダンセイニ、H・P・ラヴクラフト、ゲイリー・マイヤーズ、リン・カーター、ジョージ・スターリング(詩)、ロバート・E・ハワード、C・L・ムーア、クリフォード・ボール、クラーク・アシュトン・スミス(詩)、マーヴィン・ピーク。
そろそろ珍しい作品が底をついたのか、いろいろと苦しい選択。 たとえば、ピークの作品が収録されていると聞くと色めきたつ向きもあるだろうが、じっさいは『タイタス・アローン』から削られた章が載っているだけ。羊頭狗肉の感が強い。
それでも、スターリングとスミスの師弟をそろい踏みさせるなど、知恵を絞ったあとは見える。
ちなみにクリフォード・ボールというのは、コナン・フォロワー第一号ということで、古手の〈剣と魔法〉ファンには有名な作家だが、訳されていないのには理由がある。発表された三篇、すべて箸にも棒にもかからない駄作なのだ。いくら珍しいからといって、駄作を収録するのはやはり良くない。肝に銘じておこう。(2006年10月3日)
2013.07.21 Sun » 『若き魔術師たち』
リン・カーターが編んだアンソロジーは数多いが、その嚆矢が The Young Magicians (Ballantine, 1969) だ。

高名な《バランタイン・アダルト・ファンタシー》シリーズの一冊で、同時に出た Dragons, Elves, Heroes (Ballantine, 1969) とは姉妹編の関係にある。つまり、どちらも彼のいう空想世界ファンタシーの啓蒙アンソロジーなのだが、カーターが近代ファンタシーの祖と目すウィリアム・モリス以前/以後で二巻に分かれており、こちらが「以後」にあたるわけだ。
まだ「空想世界ファンタシー」という言葉を発明してなかったらしく、ここでは「トールキン風ファンタシー」という言葉を使っているが、それがどのようなものかは、収録作家の顔ぶれを見れば一目瞭然である。
ウィリアム・モリス、ロード・ダンセイニ、E・R・エディスン、ジェイムズ・ブランチ・キャベル、H・P・ラヴクラフト、クラーク・アシュトン・スミス、A・メリット、ロバート・E・ハワード、ヘンリー・カットナー、L・スプレイグ・ディ・キャンプ、ジャック・ヴァンス、C・S・ルイス、J・R・R・トールキン、リン・カーター。
このほか、諸般の事情で収録できなかった作家として、以下の名前が献辞にあがっている。
ロイド・アリグザンダー、ポール・アンダースン、ジェイン・ギャスケル、ジョン・ジェイクス、フリッツ・ライバー、マイクル・ムアコック、アンドレ・ノートン。
ここで強調したいのは、カーターが空想世界ファンタシーをあまり細分化せず、ひとまとめにあつかっていること。エディスンとラヴクラフトとアリグザンダーをいっしょに並べる人間は、そうはいない。
当方としても、サブジャンルのちがいをいいたてる現在の風潮には違和感を感じているので、このカーターの姿勢には大いに共感する。たしかにジャンルは細分化できるし、その独自性を主張することもできるが、そんなことをしても益はないような気がする。
アガサ・クリスティもダシール・ハメットもミステリなのだから、トールキンもハワードも空想世界ファンタシーでいいじゃないか、というのが率直なところである。(2006年10月2日)

高名な《バランタイン・アダルト・ファンタシー》シリーズの一冊で、同時に出た Dragons, Elves, Heroes (Ballantine, 1969) とは姉妹編の関係にある。つまり、どちらも彼のいう空想世界ファンタシーの啓蒙アンソロジーなのだが、カーターが近代ファンタシーの祖と目すウィリアム・モリス以前/以後で二巻に分かれており、こちらが「以後」にあたるわけだ。
まだ「空想世界ファンタシー」という言葉を発明してなかったらしく、ここでは「トールキン風ファンタシー」という言葉を使っているが、それがどのようなものかは、収録作家の顔ぶれを見れば一目瞭然である。
ウィリアム・モリス、ロード・ダンセイニ、E・R・エディスン、ジェイムズ・ブランチ・キャベル、H・P・ラヴクラフト、クラーク・アシュトン・スミス、A・メリット、ロバート・E・ハワード、ヘンリー・カットナー、L・スプレイグ・ディ・キャンプ、ジャック・ヴァンス、C・S・ルイス、J・R・R・トールキン、リン・カーター。
このほか、諸般の事情で収録できなかった作家として、以下の名前が献辞にあがっている。
ロイド・アリグザンダー、ポール・アンダースン、ジェイン・ギャスケル、ジョン・ジェイクス、フリッツ・ライバー、マイクル・ムアコック、アンドレ・ノートン。
ここで強調したいのは、カーターが空想世界ファンタシーをあまり細分化せず、ひとまとめにあつかっていること。エディスンとラヴクラフトとアリグザンダーをいっしょに並べる人間は、そうはいない。
当方としても、サブジャンルのちがいをいいたてる現在の風潮には違和感を感じているので、このカーターの姿勢には大いに共感する。たしかにジャンルは細分化できるし、その独自性を主張することもできるが、そんなことをしても益はないような気がする。
アガサ・クリスティもダシール・ハメットもミステリなのだから、トールキンもハワードも空想世界ファンタシーでいいじゃないか、というのが率直なところである。(2006年10月2日)
2013.07.17 Wed » 『白き狼の物語』
【前書き】
以下は2005年12月23日に書いた記事である。誤解なきように。
ひょんなことから、エルリックものの短篇“The White Wolf's Song” (1994) を訳すことになった。エルリックとは、もちろん、マイクル・ムアコックが生んだ〈剣と魔法〉史上最大のアンチ・ヒーローのことである。
じつは7年前にも別口の話があって、そのとき訳しておいたのだが、さる事情でお蔵入り。それが陽の目を見ることになったのだ。
というわけで、旧訳に手を入れるだけでいいと思っていたのだが、世の中それほど甘くはない。旧訳のあまりのひどさに愕然として、全面的に訳しなおしたしだい。自分でいうのもなんだが、かなり良くなっているはずである。
それでも、文章によっては、一字一句変わっていないところもあり、われながら苦笑せざるを得なかった。
それはさておき、そのテキストに使ったのが、オリジナル・アンソロジー Tales of the White Wolf Edited by Edward Kramer (Borealis, 1994) である。

小谷真理さんにアメリカ土産としていただいたもの。あらためてお礼申しあげます。
これはエルリック・トリビュートのアンソロジーで、ムアコック本人のほかに20人と3組(2人で共作)の作家がエルリックにまつわる作品を寄せている。
顔ぶれは有名無名いろいろだが、タッド・ウィリアムズ、ナンシー・A・コリンズ、カール・エドワード・ワグナー、コリン・グリーンランド、ニール・ゲイマンなどは、わが国でも知られているだろう。
全部を読んだわけではないが、読んだなかでいちばん面白かったのはゲイマンの“One Life Furnished with Early Moorcock”という短篇。ストーリーというほどのものはなく、エルリックに熱中する12歳のファンタシーおたく少年の日常がスケッチされる。おそらくゲイマンの自伝的要素が強いのだろうが、同じ1960年生まれの身としては、他人ごととは思えない。読むと切なくなるような佳品。余談だが、ゲイマンがユダヤ系とは知らなかった。ひとつ利口になった。
つぎに面白かったのは、ワグナーの“The Gothic Touch”だろうか。ワグナーのアンチ・ヒーロー、ケインがエルリックとムーングラムを呼び寄せて、ゴシックでSF的ともいえる冒険を繰り広げる一篇。楽しんで書いているのが伝わってくるのがいい。
肝心のムアコックの短篇は、2月に拙訳が世に出るので、そのときお読みください(追記参照)。(2005年12月23日)
【追記】
「白き狼の歌」という訳題で『文藝別冊 ナルニア国物語――夢と魔法の別世界ファンタジー・ガイド』(河出書房新社、2006)というムックに掲載された。このムックは映画『ナルニア国物語 第一章:ライオンと魔女』の公開に合わせて出たものだが、《ナルニア国物語》のガイドブックというわけではなく、前半《ナルニア》関連、後半異世界ファンタシー全般という構成になっており、興味深いインタヴューや論考が掲載されている。
さらにムアコックの短篇のほか、オースン・スコット・カードとジェイン・ヨーレンの本邦初訳短篇も載っている。あまり知られていないようなので特記しておく。
ちなみに、「白き狼の歌」は、エルリックが《第二エーテル》の世界に迷いこむ話であり、厳密にいえば《第二エーテル》シリーズに属す。その証拠に“The Black Blade's Summoning”と改題のうえ、同シリーズ第二巻 Fabulous Harbours (1995) に収録されている。
以下は2005年12月23日に書いた記事である。誤解なきように。
ひょんなことから、エルリックものの短篇“The White Wolf's Song” (1994) を訳すことになった。エルリックとは、もちろん、マイクル・ムアコックが生んだ〈剣と魔法〉史上最大のアンチ・ヒーローのことである。
じつは7年前にも別口の話があって、そのとき訳しておいたのだが、さる事情でお蔵入り。それが陽の目を見ることになったのだ。
というわけで、旧訳に手を入れるだけでいいと思っていたのだが、世の中それほど甘くはない。旧訳のあまりのひどさに愕然として、全面的に訳しなおしたしだい。自分でいうのもなんだが、かなり良くなっているはずである。
それでも、文章によっては、一字一句変わっていないところもあり、われながら苦笑せざるを得なかった。
それはさておき、そのテキストに使ったのが、オリジナル・アンソロジー Tales of the White Wolf Edited by Edward Kramer (Borealis, 1994) である。

小谷真理さんにアメリカ土産としていただいたもの。あらためてお礼申しあげます。
これはエルリック・トリビュートのアンソロジーで、ムアコック本人のほかに20人と3組(2人で共作)の作家がエルリックにまつわる作品を寄せている。
顔ぶれは有名無名いろいろだが、タッド・ウィリアムズ、ナンシー・A・コリンズ、カール・エドワード・ワグナー、コリン・グリーンランド、ニール・ゲイマンなどは、わが国でも知られているだろう。
全部を読んだわけではないが、読んだなかでいちばん面白かったのはゲイマンの“One Life Furnished with Early Moorcock”という短篇。ストーリーというほどのものはなく、エルリックに熱中する12歳のファンタシーおたく少年の日常がスケッチされる。おそらくゲイマンの自伝的要素が強いのだろうが、同じ1960年生まれの身としては、他人ごととは思えない。読むと切なくなるような佳品。余談だが、ゲイマンがユダヤ系とは知らなかった。ひとつ利口になった。
つぎに面白かったのは、ワグナーの“The Gothic Touch”だろうか。ワグナーのアンチ・ヒーロー、ケインがエルリックとムーングラムを呼び寄せて、ゴシックでSF的ともいえる冒険を繰り広げる一篇。楽しんで書いているのが伝わってくるのがいい。
肝心のムアコックの短篇は、2月に拙訳が世に出るので、そのときお読みください(追記参照)。(2005年12月23日)
【追記】
「白き狼の歌」という訳題で『文藝別冊 ナルニア国物語――夢と魔法の別世界ファンタジー・ガイド』(河出書房新社、2006)というムックに掲載された。このムックは映画『ナルニア国物語 第一章:ライオンと魔女』の公開に合わせて出たものだが、《ナルニア国物語》のガイドブックというわけではなく、前半《ナルニア》関連、後半異世界ファンタシー全般という構成になっており、興味深いインタヴューや論考が掲載されている。
さらにムアコックの短篇のほか、オースン・スコット・カードとジェイン・ヨーレンの本邦初訳短篇も載っている。あまり知られていないようなので特記しておく。
ちなみに、「白き狼の歌」は、エルリックが《第二エーテル》の世界に迷いこむ話であり、厳密にいえば《第二エーテル》シリーズに属す。その証拠に“The Black Blade's Summoning”と改題のうえ、同シリーズ第二巻 Fabulous Harbours (1995) に収録されている。
2013.06.26 Wed » 『呪文』
【承前】
マーティン・H・グリーンバーグのショートショートが収録されていたアンソロジーを紹介しよう。Spells (Signet, 1985) である。

グリーンバーグがアイッザック・アシモフ、チャールズ・G・ウォーと組んで出していた《アイザック・アシモフのファンタシーの魔法世界》というシリーズの第4巻。表題どおり「呪文」 を題材にした12篇を集めている。
表紙絵は、石川県出身だが、アメリカを拠点に活動する画家キヌコ・クラフトの作品。
さいわい多くの作品に邦訳があるので、簡略化した形で目次を示そう。例によって発表年と推定枚数を付す――
1 どなたをお望み ヘンリー・スレッサー 1961 (15)
2 The Christmas Shadrach フランク・R・ストックトン 1891 (55)
3 雪の女 フリッツ・ライバー 1970 (200) *《ファファード&グレイ・マウザー》
4 目に見えぬ少年 レイ・ブラッドベリ 1945 (25)
5 The Hero Who Returned ジェラルド・W・ペイジ 1979 (65)
6 Toads of Grimmerdale アンドレ・ノートン 1973 (135) *《ウィッチ・ワールド》
7 A Literary Death マーティン・H・グリーンバーグ 1985 (7)
8 悪魔と賭博師 ロバート・アーサー 1942 (45)
9 競売ナンバー二四九 アーサー・コナン・ドイル 1892 (90)
10 焼け死んだ魔女 エドワード・D・ホック 1956 (55) *《サイモン・アーク》
11 キャンパスの悪夢 スティーヴン・キング 1976 (60)
12 奇跡なす者たち ジャック・ヴァンス 1958 (205)
ご覧のとおり、ファンタシー、ホラー、SF、ミステリをごった煮にしたうえ、古くは1891年、新しくは1985年と選択の幅を大きくとっている。したがって、なにが飛び出してくるのかわからない面白さがある。
未訳の作品について触れておくと、2は「女か虎か」で有名な作者のロマンティック・コメディー。三角関係に悩む青年が、人の熱い気持ちを冷ます魔力を秘めた文鎮を手に入れ、それを使って自分の都合のいいようにことを運ぼうとしてひどい目にあうが、最後にはめでたしめでたしで終わる。19世紀の作品だけあって、非常にのんびりした味わい。そこが評価の分かれ目だろう。
5は異世界ファンタシー。平凡な暮らし送ってきた渡し守が、一生に一度の冒険に出て、真の勇者であることを証明する。やや眼高手低の感あり。
6は《ウィッチ・ワールド》シリーズの1篇。あえて端的にいえば、戦争中、敵にレイプされて、望まない子供を身ごもった女性が人生を切り開いていく話。フェミニズム色が濃くて、作者の金看板であるジュヴナイルSFとは大きく印象が異なる。(2013年6月22日)
マーティン・H・グリーンバーグのショートショートが収録されていたアンソロジーを紹介しよう。Spells (Signet, 1985) である。

グリーンバーグがアイッザック・アシモフ、チャールズ・G・ウォーと組んで出していた《アイザック・アシモフのファンタシーの魔法世界》というシリーズの第4巻。表題どおり「呪文」 を題材にした12篇を集めている。
表紙絵は、石川県出身だが、アメリカを拠点に活動する画家キヌコ・クラフトの作品。
さいわい多くの作品に邦訳があるので、簡略化した形で目次を示そう。例によって発表年と推定枚数を付す――
1 どなたをお望み ヘンリー・スレッサー 1961 (15)
2 The Christmas Shadrach フランク・R・ストックトン 1891 (55)
3 雪の女 フリッツ・ライバー 1970 (200) *《ファファード&グレイ・マウザー》
4 目に見えぬ少年 レイ・ブラッドベリ 1945 (25)
5 The Hero Who Returned ジェラルド・W・ペイジ 1979 (65)
6 Toads of Grimmerdale アンドレ・ノートン 1973 (135) *《ウィッチ・ワールド》
7 A Literary Death マーティン・H・グリーンバーグ 1985 (7)
8 悪魔と賭博師 ロバート・アーサー 1942 (45)
9 競売ナンバー二四九 アーサー・コナン・ドイル 1892 (90)
10 焼け死んだ魔女 エドワード・D・ホック 1956 (55) *《サイモン・アーク》
11 キャンパスの悪夢 スティーヴン・キング 1976 (60)
12 奇跡なす者たち ジャック・ヴァンス 1958 (205)
ご覧のとおり、ファンタシー、ホラー、SF、ミステリをごった煮にしたうえ、古くは1891年、新しくは1985年と選択の幅を大きくとっている。したがって、なにが飛び出してくるのかわからない面白さがある。
未訳の作品について触れておくと、2は「女か虎か」で有名な作者のロマンティック・コメディー。三角関係に悩む青年が、人の熱い気持ちを冷ます魔力を秘めた文鎮を手に入れ、それを使って自分の都合のいいようにことを運ぼうとしてひどい目にあうが、最後にはめでたしめでたしで終わる。19世紀の作品だけあって、非常にのんびりした味わい。そこが評価の分かれ目だろう。
5は異世界ファンタシー。平凡な暮らし送ってきた渡し守が、一生に一度の冒険に出て、真の勇者であることを証明する。やや眼高手低の感あり。
6は《ウィッチ・ワールド》シリーズの1篇。あえて端的にいえば、戦争中、敵にレイプされて、望まない子供を身ごもった女性が人生を切り開いていく話。フェミニズム色が濃くて、作者の金看板であるジュヴナイルSFとは大きく印象が異なる。(2013年6月22日)
2013.01.01 Tue » 『大海蛇!』
【前書き】
明けましておめでとうございます。
新年最初は、干支にちなんで大海蛇をテーマにしたアンソロジーを紹介したい。「シーサーペント」は、厳密には「蛇」とはかぎらないのだが、細かいことは気にせずにいこう。
ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワの幻獣アンソロジー・シリーズその2。こんどは Seaserpents! (Ace, 1989) である。大海蛇はもちろんのこと、その同類である「水中に住む巨大生物」をテーマにしている。この手の作品には当方、目がないのだ。
表紙絵は日系のヒロ・キムラ。大海蛇が東洋風の龍になっているのはご愛敬か。

収録作はつぎのとおり――
Algy L・スプレイグ・ディ・キャンプ
Out of Darkness リリアン・スチュワート・カール
海の怪獣! ラリー・ニーヴン
The Horse of Lir ロジャー・ゼラズニイ
The Mortal and the Monster ゴードン・R・ディクスン
海に落ちた男 ジョン・コリア
The Dakwa マンリー・ウェイド・ウェルマン
The Kings of the Sea スターリング・E・レイナー
Grumblefritz マーヴィン・ケイ
マルカークの悪魔 チャールズ・シェフィールド
ニーヴンの作品は《タイムハンター・スヴェッツ》ものの1篇。このシリーズに属す作品は、Unicorns! にも採られていた。編者たちが同シリーズを高く評価していることがうかがえる。たしかに、このシリーズはニーヴンのユーモアと屁理屈が理想的な形で合体している。連作をまとめた『ガラスの短剣』(創元SF文庫)は、もうすこし話題になってもいいと思う。
シェフィールドの作品は、チャールズ・ダーウィンの祖父、エラズマス・ダーウィンを主人公とする連作の1篇。ネッシーみたいな怪物が出てくる。
未訳の作品のなかでは、ゼラズニイの作品がいちばんいい。一種の伝奇小説で、代々〈リールの馬〉と呼ばれる大海蛇の世話をしている一族の存在が明かされる。静謐なムードがみごと。
ディ・キャンプの作品は、ネッシーのような怪物の偽物を作って世を騒がす話で、ちょっと面白い。
あとはどれもいまひとつの出来。
けっきょくいちばん面白いのは、コリアの作品。近いうちに出す予定の怪物小説アンソロジーに新訳を入れるので、お楽しみに(追記参照)。(2006年12月8日)
【追記】
無事に拙編のアンソロジー『千の脚を持つ男――怪物ホラー傑作選』(創元推理文庫、2007)に収録された。
明けましておめでとうございます。
新年最初は、干支にちなんで大海蛇をテーマにしたアンソロジーを紹介したい。「シーサーペント」は、厳密には「蛇」とはかぎらないのだが、細かいことは気にせずにいこう。
ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワの幻獣アンソロジー・シリーズその2。こんどは Seaserpents! (Ace, 1989) である。大海蛇はもちろんのこと、その同類である「水中に住む巨大生物」をテーマにしている。この手の作品には当方、目がないのだ。
表紙絵は日系のヒロ・キムラ。大海蛇が東洋風の龍になっているのはご愛敬か。

収録作はつぎのとおり――
Algy L・スプレイグ・ディ・キャンプ
Out of Darkness リリアン・スチュワート・カール
海の怪獣! ラリー・ニーヴン
The Horse of Lir ロジャー・ゼラズニイ
The Mortal and the Monster ゴードン・R・ディクスン
海に落ちた男 ジョン・コリア
The Dakwa マンリー・ウェイド・ウェルマン
The Kings of the Sea スターリング・E・レイナー
Grumblefritz マーヴィン・ケイ
マルカークの悪魔 チャールズ・シェフィールド
ニーヴンの作品は《タイムハンター・スヴェッツ》ものの1篇。このシリーズに属す作品は、Unicorns! にも採られていた。編者たちが同シリーズを高く評価していることがうかがえる。たしかに、このシリーズはニーヴンのユーモアと屁理屈が理想的な形で合体している。連作をまとめた『ガラスの短剣』(創元SF文庫)は、もうすこし話題になってもいいと思う。
シェフィールドの作品は、チャールズ・ダーウィンの祖父、エラズマス・ダーウィンを主人公とする連作の1篇。ネッシーみたいな怪物が出てくる。
未訳の作品のなかでは、ゼラズニイの作品がいちばんいい。一種の伝奇小説で、代々〈リールの馬〉と呼ばれる大海蛇の世話をしている一族の存在が明かされる。静謐なムードがみごと。
ディ・キャンプの作品は、ネッシーのような怪物の偽物を作って世を騒がす話で、ちょっと面白い。
あとはどれもいまひとつの出来。
けっきょくいちばん面白いのは、コリアの作品。近いうちに出す予定の怪物小説アンソロジーに新訳を入れるので、お楽しみに(追記参照)。(2006年12月8日)
【追記】
無事に拙編のアンソロジー『千の脚を持つ男――怪物ホラー傑作選』(創元推理文庫、2007)に収録された。
2012.12.31 Mon » 『一角獣!』
ユニコーンつながりで、ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ編のアンソロジー Unicorns! (Ace, 1982) を紹介しよう。

これはダン&ドゾワが出していた一連の幻獣アンソロジーの第一弾。第二弾が邦訳のある『魔法の猫』(扶桑社ミステリー)で、これらが好評だったらしく、幻獣シリーズは全部で15冊にふくれあがった(同じ版元から同じスタイルで違う編者で出た本はのぞく)。
余談だが、「幻獣」という言葉は、やはり特殊な言葉らしく、以前あるところで「幼獣」と誤植された。もしかすると、編集者か印刷所の人が気を利かせたつもりだったのかもしれない。なんにしろ、それ以来、説明ぬきで使えそうな媒体でしか使わなくなった言葉だ。ここなら大丈夫だろう。
さて、収録作は16篇で、ファンタシーとSFがゴチャ混ぜになっている。目次を書き写すと長くなるので、邦訳があるものだけ挙げると――
「一角獣の泉」シオドア・スタージョン
「中世の馬」ラリー・ニーヴン
「白いロバ」アーシュラ・K・ル・グィン
「ユニコーン・ヴァリエーション」ロジャー・ゼラズニイ
「ユニコーンが愛した女」ジーン・ウルフ
「ユニコーン」T・H・ホワイト(『永遠の王』から抜粋)
あとはL・スプレイグ・ディ・キャンプ、ハーラン・エリスン、トマス・バーネット・スワン、スティーヴン・ドナルドスン、ヴォンダ・N・マッキンタイア、ドゾワ、フランク・オウエンといった名前が並ぶ。駄作もないかわりに、とびきりの傑作もない。ひとことでいえば手堅いアンソロジーだが、冒頭にアヴラム・デイヴィッドスンの風変わりなエッセイ(追記参照)がはいっているのがアクセントになって、アンソロジー自体の印象を強めている。
未訳作品のなかでは、スワンの掌編“The Night of the Unicorn”がまあまあ。スワンにはめずらしく現代のユカタン半島を舞台にしている。15枚と短いので、ファンジン向きの作品となっており、当方は三つのファンジン翻訳を知っている。そういえば、エリスンの“On the Downhill Side”という短篇もファンジン翻訳があったなあ。
ドナルドスンは50年代SF風のアンチ・ユートピアもの、マッキンタイアは出来の悪い少女漫画風なので、ファンの人は期待しないように。(2006年12月2日)
【追記】
《非歴史上の冒険》と題されたノンフィクション・シリーズの1篇“The Spoor of the Unicorn”のこと。2012年5月1日の記事を参照してもらえればさいわい。

これはダン&ドゾワが出していた一連の幻獣アンソロジーの第一弾。第二弾が邦訳のある『魔法の猫』(扶桑社ミステリー)で、これらが好評だったらしく、幻獣シリーズは全部で15冊にふくれあがった(同じ版元から同じスタイルで違う編者で出た本はのぞく)。
余談だが、「幻獣」という言葉は、やはり特殊な言葉らしく、以前あるところで「幼獣」と誤植された。もしかすると、編集者か印刷所の人が気を利かせたつもりだったのかもしれない。なんにしろ、それ以来、説明ぬきで使えそうな媒体でしか使わなくなった言葉だ。ここなら大丈夫だろう。
さて、収録作は16篇で、ファンタシーとSFがゴチャ混ぜになっている。目次を書き写すと長くなるので、邦訳があるものだけ挙げると――
「一角獣の泉」シオドア・スタージョン
「中世の馬」ラリー・ニーヴン
「白いロバ」アーシュラ・K・ル・グィン
「ユニコーン・ヴァリエーション」ロジャー・ゼラズニイ
「ユニコーンが愛した女」ジーン・ウルフ
「ユニコーン」T・H・ホワイト(『永遠の王』から抜粋)
あとはL・スプレイグ・ディ・キャンプ、ハーラン・エリスン、トマス・バーネット・スワン、スティーヴン・ドナルドスン、ヴォンダ・N・マッキンタイア、ドゾワ、フランク・オウエンといった名前が並ぶ。駄作もないかわりに、とびきりの傑作もない。ひとことでいえば手堅いアンソロジーだが、冒頭にアヴラム・デイヴィッドスンの風変わりなエッセイ(追記参照)がはいっているのがアクセントになって、アンソロジー自体の印象を強めている。
未訳作品のなかでは、スワンの掌編“The Night of the Unicorn”がまあまあ。スワンにはめずらしく現代のユカタン半島を舞台にしている。15枚と短いので、ファンジン向きの作品となっており、当方は三つのファンジン翻訳を知っている。そういえば、エリスンの“On the Downhill Side”という短篇もファンジン翻訳があったなあ。
ドナルドスンは50年代SF風のアンチ・ユートピアもの、マッキンタイアは出来の悪い少女漫画風なので、ファンの人は期待しないように。(2006年12月2日)
【追記】
《非歴史上の冒険》と題されたノンフィクション・シリーズの1篇“The Spoor of the Unicorn”のこと。2012年5月1日の記事を参照してもらえればさいわい。
2012.12.15 Sat » 『わが最愛の幻想短篇』
『千の脚を持つ男』関連話のつづき。
同書には場違いを承知でジョン・ウィンダムの短篇を入れた。ストレートなモンスター小説がつづくので、毛色のちがった作品が必要だし、逆にこの作品もほかの場所で読むより光って見えると思ったからだ。
この短篇はマーティン・H・グリーンバーグ編のアンソロジー My Favorite Fantasy Story (DAW, 2000) を拾い読みしているときに見つけた。
同書は現役のファンタシー作家に「わが最愛の幻想短篇」を選んでもらい、そのコメントとともに作品を載せたもの。珍しくグリーンバーグ単独で編んでいると思ったら、編集の実質は他人まかせなのであった。

だれがどの作品を選んでいるのか興味深いので、長くなるが目次を書き写しておく。括弧内が推薦者である――
The Ghosts of Wind and Shadow チャールズ・デ・リント(タニヤ・ハフ)
魔術師マジリアン ジャック・ヴァンス(ロバート・シルヴァーバーグ)
Troll Bridge テリー・プラチェット(ミシェル・ウェスト)
The Tale of Hauk ポール・アンダースン(ミッキー・ザッカー・ライハート)
うちの町内 R・A・ラファティ(ニール・ゲイマン)
The Gnarly Man L・スプレイグ・ディ・キャンプ(テリー・プラチェット)
若者よ、口笛吹けばいざ行かん M・R・ジェイムズ(モーガン・ルリウェリン)
Homeland バーバラ・キングソルヴァー(チャールズ・デ・リント)
Stealing God デブラ・ドイル&ジェイムズ・D・マクドナルド(キャサリン・カーツ)
Shadowlands エリザベス・ウォーターズ(マリオン・ジマー・ブラッドリー)
Mopsa the Fairy ジーン・インゲロウ(ジーン・ウルフ)
無宿者ライアン ジャック・ヴァンス(ジョージ・R・R・マーティン)
The Spring マンリー・ウェイド・ウェルマン(アンドレ・ノートン)
地獄行列車 ロバート・ブロック(リック・ホータラ)
The Dancer from Dance M・ジョン・ハリスン(スティーヴン・R・ドナルドスン)
お人好し ジョン・ウィンダム(マット・コステロ)
旅商人の話 チャールズ・ディケンズ(マーガレット・ワイス)
ユニコーン・ヴァリエーション ロジャー・ゼラズニイ(フレッド・セイバーヘーゲン)
知らない名前が多いが、一概に当方の勉強不足とはいいきれない。たとえば、ジーン・ウルフが選んだのは、1869年に刊行された無名の児童書。しかも単行本なので、これだけで同書の四分の一を占める。こういうのを平気で推薦してくるところが、くせ者のくせ者たる所以である。
あるいは、デ・リントの選んだのは、1950年代おけるある先住民一家の生活を描いた主流小説。マジック・リアリズムといっていえないことはないが、これをファンタシーという人間は百人にひとりくらいだろう。
未訳の作品のなかでは、そのデ・リントとポール・アンダースンの作品が頭ひとつ抜けている。前者は、現代の荒んだ都市に隠れ住む妖精たちの活動を描いたデ・リント流アーバン・ファンタシー。後者は、死者の蘇生を題材にした北欧神話風の作品。
アンダースンの作品は、河出文庫から出る予定(だった)〈剣と魔法〉アンソロジーに訳出する話があったが、企画が流れたと思われる。正式な断りはもらっていないが。無念。(2007年10月23日)
同書には場違いを承知でジョン・ウィンダムの短篇を入れた。ストレートなモンスター小説がつづくので、毛色のちがった作品が必要だし、逆にこの作品もほかの場所で読むより光って見えると思ったからだ。
この短篇はマーティン・H・グリーンバーグ編のアンソロジー My Favorite Fantasy Story (DAW, 2000) を拾い読みしているときに見つけた。
同書は現役のファンタシー作家に「わが最愛の幻想短篇」を選んでもらい、そのコメントとともに作品を載せたもの。珍しくグリーンバーグ単独で編んでいると思ったら、編集の実質は他人まかせなのであった。

だれがどの作品を選んでいるのか興味深いので、長くなるが目次を書き写しておく。括弧内が推薦者である――
The Ghosts of Wind and Shadow チャールズ・デ・リント(タニヤ・ハフ)
魔術師マジリアン ジャック・ヴァンス(ロバート・シルヴァーバーグ)
Troll Bridge テリー・プラチェット(ミシェル・ウェスト)
The Tale of Hauk ポール・アンダースン(ミッキー・ザッカー・ライハート)
うちの町内 R・A・ラファティ(ニール・ゲイマン)
The Gnarly Man L・スプレイグ・ディ・キャンプ(テリー・プラチェット)
若者よ、口笛吹けばいざ行かん M・R・ジェイムズ(モーガン・ルリウェリン)
Homeland バーバラ・キングソルヴァー(チャールズ・デ・リント)
Stealing God デブラ・ドイル&ジェイムズ・D・マクドナルド(キャサリン・カーツ)
Shadowlands エリザベス・ウォーターズ(マリオン・ジマー・ブラッドリー)
Mopsa the Fairy ジーン・インゲロウ(ジーン・ウルフ)
無宿者ライアン ジャック・ヴァンス(ジョージ・R・R・マーティン)
The Spring マンリー・ウェイド・ウェルマン(アンドレ・ノートン)
地獄行列車 ロバート・ブロック(リック・ホータラ)
The Dancer from Dance M・ジョン・ハリスン(スティーヴン・R・ドナルドスン)
お人好し ジョン・ウィンダム(マット・コステロ)
旅商人の話 チャールズ・ディケンズ(マーガレット・ワイス)
ユニコーン・ヴァリエーション ロジャー・ゼラズニイ(フレッド・セイバーヘーゲン)
知らない名前が多いが、一概に当方の勉強不足とはいいきれない。たとえば、ジーン・ウルフが選んだのは、1869年に刊行された無名の児童書。しかも単行本なので、これだけで同書の四分の一を占める。こういうのを平気で推薦してくるところが、くせ者のくせ者たる所以である。
あるいは、デ・リントの選んだのは、1950年代おけるある先住民一家の生活を描いた主流小説。マジック・リアリズムといっていえないことはないが、これをファンタシーという人間は百人にひとりくらいだろう。
未訳の作品のなかでは、そのデ・リントとポール・アンダースンの作品が頭ひとつ抜けている。前者は、現代の荒んだ都市に隠れ住む妖精たちの活動を描いたデ・リント流アーバン・ファンタシー。後者は、死者の蘇生を題材にした北欧神話風の作品。
アンダースンの作品は、河出文庫から出る予定(だった)〈剣と魔法〉アンソロジーに訳出する話があったが、企画が流れたと思われる。正式な断りはもらっていないが。無念。(2007年10月23日)
2012.11.25 Sun » 『未知』(ベイン版)
ヘンリー・カットナーの作品をいくつか読む必要が生じた。理由はそのうち明らかになると思う。
そのうちの1篇が“The Devil We Know”というノヴェレット。これはSFではなく、「悪魔との契約」をひとひねりしたホラー系の作品だ。
20年くらい前に読んで、そこそこ面白かった記憶があるので、この作品が収録されているアンソロジーを引っぱりだしてきた。スタンリー・シュミット編 Unknown (Baen, 1988) である。

表題どおり1939年から1943年にかけて出ていた伝説のファンタシー雑誌〈アンノウン〉の傑作集。同種の試みとしては、すでにこの日記で紹介したD・R・ベンセン編の傑作選(2種類)があるが、収録作は1篇も重複していない。編者の趣味のちがいも大きいのだろうが、それだけ同誌の内容が豊富だった証左でもある。
編者のスタンリー・シュミットはアメリカのハードSF作家だが、むしろSF誌〈アナログ〉の編集長として有名だろう。なんと1978年からずっと編集長の座にあるのだ。もっとも、1980年から毎年ヒューゴー賞の編集者部門の候補になりながら、いちども受賞していないところを見ると、その手腕は堅実ながら凡庸というあたりかもしれない(追記1参照)。
ハードSF誌の編集長がファンタシー雑誌の傑作選を編むのを疑問に思う人がいるかもしれないが、これは理にかなった人選。というのも、〈アンノウン〉というのは、〈アナログ〉の前身である〈アスタウンディング〉の編集長だったジョン・W・キャンベルが創刊したファンタシー雑誌だから。売り物は「理屈っぽさ」で、伝統的な怪奇幻想小説とは一線を画していた(とはいえ、それは建前で、じっさいは古臭い怪奇小説も載っているのだが)。
シュミットの趣味なのか、本書には「理屈っぽさ」とユーモアを兼ね備えた作品が多くおさめられている。収録作はつぎのとおり(例によって推定枚数を付す)――
1 たぐいなき人狼 アンソニー・バウチャー (150)
2 The Coppersmith レスター・デル・レイ (45)
3 裏庭の神様 シオドア・スタージョン (55)
4 Even the Angels マルコム・ジェイムスン (35)
5 煙のお化け フリッツ・ライバー (45)
6 Nothing in the Rules L・スプレイグ・ディ・キャンプ (95)
7 A Good Knight's Work ロバート・ブロック (65)
8 The Devil We Know ヘンリー・カットナー (70)
9 みみず天使 フレドリック・ブラウン (140)
未訳作品について簡単に触れておくと、2はエルフの鋳掛け屋の話。ほのぼのとした味わいが悪くない。
4は公文書やら私的メモを並べて、天国も地獄もお役所仕事で運営されているようすを描きだすユーモア譚。
6は人魚を水泳競技の試合に出す話。主人公が弁護士で、この行為がルール違反に当たるかどうかが綿密に検討される。
7はマーリンの命で聖杯を置く台の探索に送りだされたアーサー王臣下の騎士の話。もちろん魔法の力で時空を超え、現代アメリカの片田舎にやって来るのである。
8については、もうじき邦訳をお目にかけられる予定なので、そちらをお読みいただきたい(追記2参照)。(2011年4月7日)
【追記1】
シュミットは今年ついに勇退した。編集長としての在位期間は34年におよび、伝説の名編集ジョン・W・キャンベル・ジュニアをもうわまわる最長記録を打ち立てた。が、けっきょくヒューゴー賞はとれなかった。
【追記2】
〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2011年7月号に掲載された「おなじみの悪魔」のこと。この号は水木しげるをフィーチャーした「ゲゲゲのミステリ〈幻想と怪奇〉」という特集を組んでおり、その一環だった。当方は作品選びに一部協力したのだが、その詳細については項をあらためる。
そのうちの1篇が“The Devil We Know”というノヴェレット。これはSFではなく、「悪魔との契約」をひとひねりしたホラー系の作品だ。
20年くらい前に読んで、そこそこ面白かった記憶があるので、この作品が収録されているアンソロジーを引っぱりだしてきた。スタンリー・シュミット編 Unknown (Baen, 1988) である。

表題どおり1939年から1943年にかけて出ていた伝説のファンタシー雑誌〈アンノウン〉の傑作集。同種の試みとしては、すでにこの日記で紹介したD・R・ベンセン編の傑作選(2種類)があるが、収録作は1篇も重複していない。編者の趣味のちがいも大きいのだろうが、それだけ同誌の内容が豊富だった証左でもある。
編者のスタンリー・シュミットはアメリカのハードSF作家だが、むしろSF誌〈アナログ〉の編集長として有名だろう。なんと1978年からずっと編集長の座にあるのだ。もっとも、1980年から毎年ヒューゴー賞の編集者部門の候補になりながら、いちども受賞していないところを見ると、その手腕は堅実ながら凡庸というあたりかもしれない(追記1参照)。
ハードSF誌の編集長がファンタシー雑誌の傑作選を編むのを疑問に思う人がいるかもしれないが、これは理にかなった人選。というのも、〈アンノウン〉というのは、〈アナログ〉の前身である〈アスタウンディング〉の編集長だったジョン・W・キャンベルが創刊したファンタシー雑誌だから。売り物は「理屈っぽさ」で、伝統的な怪奇幻想小説とは一線を画していた(とはいえ、それは建前で、じっさいは古臭い怪奇小説も載っているのだが)。
シュミットの趣味なのか、本書には「理屈っぽさ」とユーモアを兼ね備えた作品が多くおさめられている。収録作はつぎのとおり(例によって推定枚数を付す)――
1 たぐいなき人狼 アンソニー・バウチャー (150)
2 The Coppersmith レスター・デル・レイ (45)
3 裏庭の神様 シオドア・スタージョン (55)
4 Even the Angels マルコム・ジェイムスン (35)
5 煙のお化け フリッツ・ライバー (45)
6 Nothing in the Rules L・スプレイグ・ディ・キャンプ (95)
7 A Good Knight's Work ロバート・ブロック (65)
8 The Devil We Know ヘンリー・カットナー (70)
9 みみず天使 フレドリック・ブラウン (140)
未訳作品について簡単に触れておくと、2はエルフの鋳掛け屋の話。ほのぼのとした味わいが悪くない。
4は公文書やら私的メモを並べて、天国も地獄もお役所仕事で運営されているようすを描きだすユーモア譚。
6は人魚を水泳競技の試合に出す話。主人公が弁護士で、この行為がルール違反に当たるかどうかが綿密に検討される。
7はマーリンの命で聖杯を置く台の探索に送りだされたアーサー王臣下の騎士の話。もちろん魔法の力で時空を超え、現代アメリカの片田舎にやって来るのである。
8については、もうじき邦訳をお目にかけられる予定なので、そちらをお読みいただきたい(追記2参照)。(2011年4月7日)
【追記1】
シュミットは今年ついに勇退した。編集長としての在位期間は34年におよび、伝説の名編集ジョン・W・キャンベル・ジュニアをもうわまわる最長記録を打ち立てた。が、けっきょくヒューゴー賞はとれなかった。
【追記2】
〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2011年7月号に掲載された「おなじみの悪魔」のこと。この号は水木しげるをフィーチャーした「ゲゲゲのミステリ〈幻想と怪奇〉」という特集を組んでおり、その一環だった。当方は作品選びに一部協力したのだが、その詳細については項をあらためる。