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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.05.19 Sun » 『剃刀つきの鞍』

 カウパンクという言葉をご存じだろうか。
 1980年代の末期、アメリカにスプラッタパンクを自称するホラー作家の一群があらわれた。過激な暴力描写とロック感覚を売りものにしたホラーの書き手たちで、その作風からラウド・ホラーとも呼ばれた。当時、モダンホラーを否定して、クラシック・ホラーへの回帰を叫ぶ者たちがいたのだが、その一派の理想であるクワイエット・ホラー――つまり、抑えた筆致で淡々と怪異を綴る作品――に真っ向から異を唱えた形だったからだ。

 そのスプラッタパンクが勢いにまかせ、ウェスタンの世界に殴りこみをかけたのがカウパンク――という触れこみなのだが、もちろんこれは冗談。ジョー・R・ランズデールをはじめとする一部のウェスタン好きが、趣味を全開にしてホラー・ウェスタンを書きあげ、それを集めて本にしたというのが実態である。
 その本というのが、ランズデールとパット・ロブラットの編になる書き下ろしアンソロジー Razored Saddles (Dark Harvest, 1989) だ。ただし、当方が持っているのは、翌年にエイヴォンから出たペーパーバック版だが。

2011-7-1(Razored Saddle)

 題名は、もちろん leather saddles にかけているのだろう。
 全部で17の作品がおさめられており、このうちロバート・R・マキャモンの「黒いブーツ」とランズデールの「仕事」は邦訳がある。

 なじみのない名前をずらずら挙げても仕方がないので、わが国でも多少は知られている名前だけ挙げると、ルイス・シャイナー、F・ポール・ウィルスン、デイヴィッド・J・スカウ、アル・サラントニオ、リチャード・レイモン、ニール・バレット・ジュニア、ハワード・ウォルドロップ、リチャード・クリスチャン・マシスンなどが作品を寄せている。

 スプラッタ西部劇はむしろ少数派で、民話調のホラーからSF仕立てのものまで、ヴァラエティに富んでいるが、作品の水準はあまり高くない。
 集中ベストはチェット・ウィリアムスンの “Your Skin's Jes's Soft 'N Purty...” He Said. だろうか。西部に憧れて移住してきた都会育ちの作家(男性)が、地元の荒くれ男にレイプされる話。その男が作家に向かっていう言葉、「おめえの肌は娘っこみたいにやわらけなあ」が表題である。ひどい話。(2011年7月1日)


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2013.01.16 Wed » 『カリフォルニア魔術』

【承前】
 昨日書いたとおり、50年代初頭から60年代初頭にかけてSF/ホラー、男性雑誌、TV、映画の世界にまたがる緊密なネットワークができていた。このネットワークを構成していたのが、主に南カリフォルニアを根城にする作家グループであり、その中心にボーモントがいた。彼らは単に「グループ」と呼ばれたが、このグループを記念する意図で編まれたのが、ウィリアム・F・ノーラン&ウィリアム・シェイファー編のアンソロジー California Sorcery (Cemetery Dance, 1999) だ。当方が持っているのは、例によって2001年に出たエースのペーパーバック版である。

2006-6-19(Californian)

  クリストファー・コンロンによる序文は、このグループの成立から消滅まで詳細に語っており、非常に読み応えがある。尾之上浩司氏が、この序文を基にした文章を〈ミステリ・マガジン〉に書いたことがあるが、あまり話題にならなかった。もういちどキチンと紹介する価値があると思う。

 つづいてノーランの懐旧談。そしてメンバーの新作など12篇の小説がならぶ。収録作家はつぎのとおり――

 リチャード・マシスン、ハーラン・エリスン、チャールズ・ボーモント、ウィリアム・F・ノーラン、ジョン・トマーリン、ロバート・ブロック、レイ・ラッセル、ジェリー・ソール、チャド・オリヴァー、チャールズ・E・フリッチ、ジョージ・クレイトン・ジョンスン、レイ・ブラッドベリ。

 このうちエリスン、ブロック、オリヴァーは再録。ブロックとオリヴァーは故人なのでしかたがないが、エリスンは例によって原稿を落としたのだろう。
 マシスンはもう短篇を書かないという理由で、45年も前の作品を蔵出し。人生の一断面を切りとった味わい深い純文学である。ボーモントは故人だが、未発表作品が採られており、こちらは古風なゴースト・ストーリー。ブラッドベリもたぶん旧作の蔵出しだろう。やはり苦い味のする純文学だ。
 あとはバリバリの新作で、なかではノーランの中篇が力作。ウェスタンとSFのクロス・ジャンル作品である。ラッセルは本書が出る前に他界したので、おそらくこれが遺作。

 この本はこのまま邦訳を出したい。全部で600枚くらいだから、それほど厚くはならない。既訳はオリヴァーの「吹きわたる風」だけなので、セールス・ポイントは多いと思うのだが。(2006年6月19日)

【追記】
 いまのところ本書の邦訳は実現していない。とはいえ、本書の序文は「カリフォルニアの魔術師たち」という邦題で〈SFマガジン〉2007年5月号に訳出できた。この号は当方の企画で「異色作家特集Ⅰ」を組んでおり、ボーモントの短篇「ウィリー・ワシントンの犯罪」も拙訳で載っている。

 文中にある尾之上浩司氏の文章は、氏の企画で「新旧異色作家競演」という特集を組んだ〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2005年8月号に特集解説として掲載された「まさに掌篇と呼びたくなる小説たち」であることを明記しておく。


 

2012.12.17 Mon » 『集中死霊』

 前回紹介した本のなかで、フレデリック・ポールの選んだのが、早世した盟友C・M・コーンブルースの「小さな黒いカバン」という作品だった。
 現代にまぎれこんだ未来の医療器具が、アル中で資格剥奪された元医師の手にわたり……という作品だが、期待されるようなハートウォーミングな方向へは行かず、ただただ苦い結末を迎える。ペシミストだったコーンブルースの本領発揮というべき(暗澹たる)秀作である。
 
 この作品をトリに持ってきたアンソロジーがある。カール・エドワード・ワグナー編の医学ホラー・アンソロジー Intensive Scare (DAW, 1990) だ。
 表題は intensive care (集中治療)のもじり。この日記では原題を無理やり直訳することにしているので、上記のようにしたが、苦しまぎれもいいところ。なにかうまい駄洒落を思いついた人は教えてください。

2008-10-29(Intensive )

 さて、編者のワグナーは、怪奇幻想文学に精通した作家・編集者であると同時に、医学の博士号を持ち、精神科医として病院勤務も経験した人物。本人も「エリート」や“Into Whose Hands”といった医学ホラーの傑作をものしている(追記1参照)。こういうアンソロジーを編むには最適の人材といっていい。じっさい、百年にわたるスパンで幅広いジャンルから名作・秀作・珍作・怪作を集めている。
 ラインアップはつぎのとおり――

最後の一線 デニス・エチスン
呪いの家 シーベリー・クイン
闘士ケイシー リチャード・マッケナ
死骸盗人 ロバート・ルイス・スティーヴンスン
検視 マイクル・シェイ
Back to the Beast マンリー・ウェイド・ウェルマン
The Incalling M・ジョン・ハリスン
サノクス令夫人 A・コナン・ドイル
針男 ジョージ・R・R・マーティン
謎の腫瘍 エドガー・ジェプスン&ジョン・ゴーズワース
Camps ジャック・ダン
死体蘇生者ハーバート・ウェスト H・P・ラヴクラフト
小さな黒いカバン C・M・コーンブルース

 見てのとおり、肉体的な意味で痛そうな作品ばかり。医学ホラーというと、やはりメスで切ったり、注射針を刺したりする作品が多くなるのだろう。あー、いや。

 邦訳のある作品ばかりだが、「謎の腫瘍」という短篇は、たぶんご存じの方がすくないだろう。腫瘍を切開したら、体内に蛸が巣くっていたという話で、真面目なのかギャグなのかわからない珍品。大きくふくらんだ部分を切開すると、患者の体内で目玉がギロリと光る場面が忘れられない。当方が偏愛するゲテモノである。

 未訳の作品について触れておくと、ウェルマンの短篇は、ある科学者がみずからの体で先祖返りの実験をする話。著者のデビュー作だが、いまとなっては箸にも棒にもかからない凡作。ワグナーがこれを入れたのは、身内びいきだったのかもしれない。
 ダンの中篇は、病人の朦朧とした意識が、ナチの強制収容所にいるユダヤ人の意識とつながる話。これまた陰々滅々としたスペキュレイティヴ・フィクションである。ハリスンの中篇は、内容をまるで憶えていない。

 マーティンの「針男」は新訳する予定があるので乞御期待(追記2参照)。もうひとつ埋もれさせておくのが惜しいのが、シェイの「検視」だが、その話はまたこんど。(2007年10月29日)

【追記1】
〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2009年12月号が「メディカル・ミステリ処方箋」という特集を組んだとき、ワグナーの短篇「最後の一刀」が訳載された。現代医療の矛盾をついた作品で、後味の悪さは特筆に値する。

【追記2】
 編訳したジョージ・R・R・マーティンのホラー傑作集『洋梨形の男』(河出書房新社、2009)に入れるつもりだったが、ページ数の関係で見送った。残念。

2012.12.13 Thu » 『怪物の怪物本』

【前書き】
 以下は2007年4月11日に書いた記事である。


 懸案だったモンスター小説アンソロジー(追記参照)に目処がついた。早い人には去年の8月末に原稿をあげてもらったのに、当方がずるずると遅らせていた仕事である。まったく申し訳ない。とりあえず入稿はすませた。先は長いが、まずはひと安心である。

 前にも書いたが、これは創元推理文庫F分類から出す予定のアンソロジー。収録作家はつぎのとおり――
 ジョゼフ・ペイン・ブレナン、デイヴィッド・H・ケラー、P・スカイラー・ミラー、シオドア・スタージョン、フランク・ベルナップ・ロング、アヴラム・デイヴィッドスン、ジョン・コリア、R・チェットウィンド・ヘイズ、ジョン・ウィンダム、キース・ロバーツ。
 SF作家ということになっている人も多いが、作品はすべて怪奇幻想小説である。

 さて、このアンソロジーを編むにあたって参考にしたうちの一冊が、マイクル・オショーネシー編 The Monster Book of Monsters (Bonanza, 1988) だ。

2007-4-11(Monster Book)

 じつをいうと、ブレナンの小説の原文を入手するつもりで買ったのだが、これが当方の趣味にぴたりと一致した本で、大いに参考にさせてもらったしだい。
 編者についてはなにも知らない。続刊が予定されていたようだが、けっきょく出なかった。やはり当方が大喜びする本は売れないのだよ。

 これはイギリスで出た本で、ハードカヴァー350ページを超える大著。「A is for ALIENS, ANDROIDS, AAAARGH!」、「B is for BIRDS, BEASTS AND BLOOD」といった具合にキーワードが立てられ、アルファベット26のセクションに50篇がおさめられている。
 モンスター小説を広義にとり、中国の志怪からニューウェーヴSFまで、雑多なジャンルを網羅している。短いものはわずか1ぺージ、長いものは100枚の中篇と長さもバラバラなら、内容のほうも玉石混淆。レイ・ブラッドベリ「霧笛」のような定番もあれば、ネルスン・ボンド「見よ、かの巨鳥を!」のような掘り出しものもあり、ロバート・ブロック「蛇母神」のような駄作もあるといった具合。とはいえ、ほかではお目にかかれないような作品が多く、舐めるように読ませてもらった。

 結果として、ブレナン「沼の怪」のほか、ミラーの海底原人もの“The Thing on the Outer Shoal” とヘイズの心霊吸血鬼もの“Looking for Something to Suck” を採らせてもらった。オショーネシーさん、ありがとう。 (2007年4月11日)

【追記】
 拙編のアンソロジー『千の脚を持つ男――怪物ホラー傑作選』(創元推理文庫、2007)のこと。


2012.11.19 Mon » 『怪奇な話』――ピーター・ヘイニング追悼

【前書き】
 本日は怪奇幻想文学研究の先達、ピーター・ヘイニングの5回忌である。故人を偲び、訃報に接したさいに認めた日記を公開する。


 イギリスのアンソロジスト、ノンフィクション作家、ピーター・ヘイニングが11月19日に亡くなったそうだ。享年67。そんなに若かったのか、と意外の念に打たれる。とにかくキャリアが長いので、もっと年上かと思っていた。

 調べてみたら、1965年から2007年にかけて多くのアンソロジーを編み、その数は130を超える。玉石混交の感は否めないが、非常に珍しい作品を発掘してくれるので、ほかには得がたいアンソロジストだった。
 邦訳されたもののなかでは、『ヴァンパイア・コレクション』(角川文庫)と『死のドライブ』(文春文庫)が出色。力のこもった解説とあわせて、たっぷりと勉強させてもらった。

 さて、掲題の『怪奇な話』は、吉田健一の作品集ではなく、ヘイニングが編んだアンソロジー Weird Tales (Neville Spearman, 1976) のこと。ただし、当方が持っているのは、90年にキャロル&グラフから出た復刊版のハードカヴァーだが。

2007-11-25(WT)

 表題どおり、伝説の怪奇パルプ雑誌〈ウィアード・テールズ〉の傑作集。同種の本がたくさん出ているので、いかに差別化をはかるかがアンソロジストの腕の見せどころだが、さすが練達の手になるものだけあって、みごとな出来映えとなっている。

 というのも、小説を集めるだけではなく、パルプ雑誌の誌面そのものをよみがえらせる作りになっているのだ。つまり、誌面をファクシミリで複写し、そのまま版下にしているわけだ。
 したがって、当時のイラストや広告、さらには読者のお便り欄、怪奇実話、イラスト企画(ヴァージル・フィンレイとリー・ブラウン・コイ)、埋め草の詩などが復刻されている。

 もちろん小説も充実している。全部で22篇が収録されているが、定番は避けて、その次くらいの作品を選んでいるのが特徴か。
 邦訳がある作品を並べると、「帰ってきた男」E・ハミルトン、「眠りの壁の彼方」H・P・ラヴクラフト、「アドンパの庭園」C・A・スミス、「不死鳥の彼方」H・カットナー、「谷間は静かだった」M・W・ウェルマン、「バルザックの珍獣たち」R・ブロック、「バーン! おまえは死んだ!」R・ブラッドベリ、「監房ともだち」T・スタージョン、「場違いな存在」E・F・ラッセル、「人喰い沼」A・ラッドの10篇。
 このほかR・E・ハワード、A・ダーレス、S・クイン、H・S・ホワイトヘッド、F・ライバー、M・E・カウンセルマンなど、主要な作家はひと通り顔をそろえている。

 今夜はこの本を拾い読みして、故人の徳を偲ぼうと思う。合掌。(2007年11月25日)

おまけ
 当方のお気に入りの画家、ボリス・ドルゴフのイラスト。

2007-12-25(WT 3)

 出版社アーカム・ハウスのアピール。千人の読者がいれば本が出せるのだ。みんな、自分のお気に入りの作家の本だけでなく、ウチで出す本を全部買ってくれ、という悲痛な呼びかけ。

2007-12-25(WT 2)

2012.10.24 Wed » 『クトゥルー2000』

【承前】
 ジェイムズ・ターナーが編んだアンソロジーを紹介をしておこう。ものは Cthuluh 2000: A Lovecraftian Anthology (Arkham House, 1995) だ。ただし、当方が持っているのは、例によって99年にデル・レイから出たトレードペーパーバック版だが。

2008-7-20(Cthulhu 2000)

 表題を見ると、《クトゥルー神話》アンソロジーかと思うが、じっさいはちょっとちがう。副題にあるとおり、ラヴクラフトの精神を新世紀に伝えていこうという趣旨で編まれており、収録作品はかならずしも《クトゥルー神話》にふくまれるわけではない。というのも、ラヴクラフトは、《クトゥルー神話》ばかり書いていたわけではないからだ(たとえば、ブラック・ユーモアの秀作「死体安置所にて」などを思いだしてもらいたい)。
 したがって表題は一種のインチキだが、やはりインパクトは絶大。ターナーの商売人としての才覚をよく表している。

 特徴は、ラヴクラフトの作品や《クトゥルー神話》がポップ・カルチャーの一部となっている現状を踏まえ、そのイメージや用語を借りて独自の作風を追求している作品、逆に神話用語はいっさい使わないのにラヴクラフトの後継者ぶりを発揮している作品を選んでいること。同じように、ラヴクラフト/《クトゥルー神話》の新世代作家を網羅しながら、ラヴクラフトの完全コピーに喜びをおぼえている同人誌レヴェルの作品をずらりと並べたロバート・M・プライス編の The New Lovecraft Circle (1996) とは好対照である。

 収録作品はつぎのとおり――

1 荒地  F・ポール・ウィルスン
2 Pickmans' Modem  ローレンス・ワット=エヴァンズ
3 シャフト・ナンバー247  ベイジル・カッパー
4 彼の口はニガヨモギの味がする  ポピー・Z・ブライト
5 The Adder  フレッド・チャペル
6 Fat Face  マイクル・シェイ
7 大物  キム・ニューマン
8 “I Had Vacantly Crumpled It into My Poket...But by God, Eliot, It Was a Photograph from Life!”  ジョアンナ・ラス
9 ラヴクラフト邸探訪記  ゲイアン・ウィルスン
10 考えられないもの  ブルース・スターリング
11 角笛を持つ影  T・E・D・クライン
12 Love's Eldritch Ichor  エスター・M・フリーズナー
13 道化師の最後の祭り  トマス・リゴッティ
14 The Shadow on the Doorstep  ジェイムズ・P・ブレイロック
15 黄泉の妖神  ジーン・ウルフ
16 パイン・デューンズの顔  ラムジー・キャンベル
17 大理石の上で  ハーラン・エリスン
18 北斎の富嶽二十四景  ロジャー・ゼラズニイ 

 ラス、スターリング、ブレイロックなど、ターナーの肝いりでアーカム・ハウスから本を出した作家をはじめとして、SF畑の人材が目立つ。彼らの作品は、守旧派からは総すかんを食いそうなものが多く、ターナーの面目躍如である。
 ちなみに1,9,15は、やはりラヴクラフト・トリビュートを意図してロバート・E・ワインバーグ&マーティン・H・グリーンバーグが編んだオリジナル・アンソロジー『ラヴクラフトの遺産』(創元推理文庫)から、3,11,16はラムジー・キャンベル編による新世代作家《クトゥルー神話》オリジナル・アンソロジー『真ク・リトル・リトル神話大系 6(Ⅰ―Ⅱ)』(国書刊行会)から採られている(追記参照)。
 後者は自社本からの再録になるが、宣伝の意図や、作者に印税をまわす意図があったのだと思う。もちろん質は折り紙つきなので、はじめて読む読者のためを思えば、再録も歓迎したい。

 未訳作品に触れておきたいが、記憶がたしかなものだけについて書く。
 12はラヴクラフトの子孫(若い女性)が、「インスマウスの影」をロマンス出版社に送りつけてきたことからはじまるドタバタを描いた作品。たぶん発想の大元は Lovecraft という名前が「愛の技巧」という意味を持つことだと思う。細かいくすぐりがいっぱいで、ゲラゲラ笑いながら読める。
 5も抱腹絶倒のパロディ。『ネクロノミコン』という書物は、ほかの本と接触させると、そのエネルギー/美質を吸い取り、内容を劣化させる性質があった、という発想で書かれている。ミルトンの詩が、どんどん劣悪になっていく過程がおかしい。
 2は題名がすべてを語っているショートショート。
 8のおかしな表題は、ラヴクラフトの「ピックマンのモデル」に出てくる台詞から。そのイメージを借りて、現代人の孤独を描いたみごとな作品である。
 14は、神話用語はいっさい出てこないながら、ラヴクラフトの「インスマウスの影」を強く想起させる技巧的な作品。

 ちなみに18は拙訳が小川隆・山岸真編『80年代SF傑作選[上]』(ハヤカワ文庫SF)におさめられている。作品自体はサイバーパンク風味の電脳ものだが、途中で冗談のように《クトゥルー神話》のモチーフが使われており、訳しながらニヤニヤしたものである。《クトゥルー神話》がポップ・カルチャーのイコンとなっていることを如実に示す作品といえよう。(2008年7月20日)

【追記】
 同書はのちに新装版が出た。『新編 真ク・リトル・リトル神話大系』の第6巻と第7巻(ともに国書刊行会、2009)である。


2012.09.25 Tue » 『戦慄』

【前書き】
 以下は2005年8月24日に書いた記事である。誤解なきように。


 9月にハヤカワ文庫NVから新装版が出る『闇の展覧会』(1980)の第二分冊『罠』に解説を書いた。ホラー・オリジナル・アンソロジーの金字塔として名高い本だが、編者カービー・マッコリーが、同書の前に編んだ原型のような本がある。それが Frights (St.Martin's, 1976) だ。ただし、当方が持っているのは翌年にワーナー・ブックスから出たペーパーバック版である。

2005-8-24(Frights)

 じつは同書は抄訳が出ている。1977年にKKベストセラーズから刊行された『心理サスペンス』がそれだ。1987年に『恐怖の心理サスペンス』と改題のうえワニ文庫に収録されたので、こちらでご存じの方が多いかもしれない。

2005-8-24(心理サスペンス)2012-9-21(Wani)

 しかし、この本を抄訳といっていいか疑問が残る。全14篇のうち7篇(+フリッツ・ライバーの序文)しか訳されてないのはいいとしても、日本で2篇を勝手に追加したうえ、全体を怪奇実話のコラム風に改変してあるのだ。
 最たる例がロバート・ブロックの作品で、新作書き下ろしが売りなのに、その作品をはずして、40年近く前の「かぶと虫」という作品と差し替えている。さらに、かぶと虫の一人称で語られる物語を三人称に書き直し、長さを半分に縮めるという荒技。
 ついでに書くと「スカラブの呪い」という新しい題名でわかるように、問題のかぶと虫は古代エジプトのフンコロガシなのだが、イラストには日本のカブトムシが描いてあるのもすごい。

2012-9-21(scarab)

 とにかく原書のコンセプトとはまったく別物なのである。もうすこし詳しいことは解説に書いたので、そちらをお読みいただきたい。

 この抄訳もどきしか読んでいなかったので、これを機会に全体を原書で読んでみた。
 未訳作品のなかでは、幽霊屋敷を新しい感覚でよみがえらせたラッセル・カークの技巧的な中篇と、ヴェトナムを舞台にしたデイヴィッド・ドレイクの植物モンスター・ホラーがなかなかの出来。ジョン・ジェイクス&リチャード・E・ペックのノスタルジックな幽霊小説も悪くない。残りはジョー・ホールドマン、R・A・ラファティ、ロバート・エイクマンといった布陣。まともな形で邦訳が出なかったのは、つくづく不幸であった。(2005年8月24日)

【追記】
 書き忘れたが、日本で追加されたもう1篇は、マクナイト・マーマーの「嵐の夜」という短篇。〈ミステリマガジン〉1966年1月号に掲載された「あらし」の流用である(どちらも矢野浩三郎訳)。
 ブロックの本来の収録作「温かい別れ」は、短篇集『殺しのグルメ』(徳間文庫)に訳出された。


2012.09.24 Mon » 『世界幻想文学賞 第二巻』

 ついでにスチュアート・デイヴィッド・シフがフリッツ・ライバーと共編したアンソロジー The World Fantasy Award Volume Two (Doubleday, 1980) も紹介しておこう。

2012-9-19(World Fantasy)

 表題どおり、世界幻想文学賞の受賞作や候補作を収録したアンソロジーで、5月24日に公開した記事 でとりあげた第一巻(ゲイアン・ウィルスン編)につづき、第2回と第3回の分を総括している。
 といっても、作品選択にあたってはかなり知恵を絞っているので、そのあたりの解説つきで目次を簡略化して書き写してみよう――

1 Terror, Mystery,Wonder  フリッツ・ライバー(序文)
2 鞭うたれた犬たちのうめき  ハーラン・エリスン(第2回短篇集部門候補作 Deathbird Stories より)
3 呪われた村〈ジェルサレムズ・ロット〉  スティーヴン・キング(第2回長篇部門候補作『呪われた町』の代わりとしてスピンオフ短篇を)
4 十月のゲーム  レイ・ブラッドベリ(第2回生涯功労賞部門ノミネートを祝して、第1回大会で朗読された作品を)
5 煙のお化け  フリッツ・ライバー(第2回生涯功労賞受賞者の自選作品)
6 ベルゼン急行  フリッツ・ライバー(第2回短篇部門受賞作)
7 夢幻泡影 その面差しは王に似て  アヴラム・デイヴィッドスン(第2回短篇集部門受賞作『エステルハージ博士の事件簿』より)
8 The Ghastly Priest Doth Reign  マンリー・ウェイド・ウェルマン(第2回短篇集部門、生涯功労賞部門ノミネートを祝して)
9 エジプトからの訪問者  フランク・ベルナップ・ロング(第2回短篇集部門、特別賞プロ部門、生涯功労賞部門ノミネートを祝して)
10 真夜中のハイウェイ  デニス・エチスン(第3回短篇部門候補作、ならびに第3回短篇集・アンソロジー部門受賞作 Frights より)
11 The Barrow Troll  デイヴィッド・ドレイク(第2回短篇部門候補作、ならびに第3回特別賞部門受賞者シフが編集している雑誌〈ウィスパーズ〉より)
12 Two Suns Setting  カール・エドワード・ワグナー(第3回短篇部門候補作、ならびに第2回特別賞ノンプロ部門受賞出版社カーコサの主幹として)
13 恐怖の遊園地  ラムジー・キャンベル(第3回短篇部門候補作、ならびに第3回短篇集・アンソロジー部門受賞作 Frights より) 
14 There's a Long, Long Trail a Winding  ラッセル・カーク(第3回短篇部門受賞作、ならびに第3回短篇集・アンソロジー部門受賞作 Frights より)

 このほかシフの前書き、特別賞プロ部門を受賞した出版社ドナルド・M・グラント、オルタネート・ワールド・レコーディング社、特別賞ノンプロ部門を受賞したカーコサ、スチュアート・デイヴィッド・シフ=〈ウィスパーズ〉、画家部門を受賞したフランク・フラゼッタ、ロジャー・ディーンの功績を称える文章、候補作リストが載っており、画家部門の候補となったティム・カーク、スティーヴ・フェビアンの絵が別刷りで2枚ずつ収録されている。ちなみに、表紙絵は受賞者のロジャー・ディーンの手になるもの。

 未訳作品について簡単に触れておくと、1は長文の幻想怪奇文学論。8はアメリカ南部を舞台にした田舎ホラー。11はヒロイック・ファンタシー。12もヒロイック・ファンタシーで、作者の代表作《ケイン》シリーズに属す1篇。14は幽霊屋敷ものの秀作である。

 シフが編集の才を発揮しており、読み応えのあるアンソロジーだが、残念ながらこのシリーズは2巻で終わった。(2012年9月19日)

【追記】
 書き忘れたが、「個人短篇集」部門は、第3回から「短篇集・アンソロジー」部門に変更された。
 文中に何度か出てくる「第3回短篇集・アンソロジー部門受賞作 Frights 」については次回とりあげる。

2012.09.23 Sun » 『囁き』

 ついでにスチュアート・デイヴィッド・シフ編《ウィスパーズ》シリーズの第一集 Whispers (Doubleday, 1977) も紹介しておく。ただし、当方が持っているのは、例によって87年にジョーヴから出たペーパーバック版だが。

2012-9-18(Whispers)

 シフの序文につづいて20の作品が収録されている(うち12篇が再録、残りが書き下ろし)。邦訳があるのは、当方の知るかぎり、カール・エドワード・ワグナー「棒」、ロバート・ブロック「道を閉ざす者」、ジョン・クロウリー「古代の遺物」、ラムジー・キャンベル「煙突」の4篇。

 上記以外の面々で目立つのは、デイヴィッド・ドレイク、フリッツ・ライバー、ウィリアム・F・ノーラン、ヒュー・B・ケイヴ、デニス・エチスン、リチャード・クリスチャン・マシスン、レイ・ラッセル、ブライアン・ラムリー、ロバート・エイクマン、ジョゼフ・ペイン・ブレナン、マンリー・ウェイド・ウェルマンといったところだろう。
 
 新旧とりまぜた顔ぶれだが、全体としてはヴェテラン作家の貫禄勝ち。集中ベストはワグナーの傑作だが、つぎに来るのはブロック、ブレナンといったオールド・タイマーの作品だ。

 ブロックの作品は、短篇集『殺しのグルメ』(徳間文庫)に訳出されているので、くわしい説明は省くが、作者自身と自作を題材にしたメタ・ホラーであり、自虐をいとわない作風がすばらしい。老いてますます盛ん、という感じだ。

 ブレナンの作品“The Willow Platform”は、悪魔の召喚を題材にした田舎ホラーで、ラヴクラフト・パスティーシュの趣がある。古風だが、迫力は満点。

 あとはロビン・スミスという英国人作家の“The Inglorious Rise of the Catsmeat Man”という短篇が面白い。超自然の要素のない殺人鬼もので、シフも述べるとおり、アンブローズ・ビアスを連想させるブラック・ユーモアたっぷりの作品である

 ちなみに、ラムリーの短篇“The House of Cthulhu”は、雑誌〈ウィスパーズ〉第1号の巻頭を飾った作品だという。超古代大陸を舞台に、邪神クトゥルーの館へ攻めこもうとする蛮人戦士たちの活躍を描いており、「たぶん、プロ作品としては初のヒロイック・ファンタシー版《クトゥルー神話》だろう」とシフは述べている。(2012年9月18日)

2012.09.22 Sat » 『囁き 第三集』

 ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌〈ナイトランド〉3号が発売された。内容は版元のサイトを参照していただくとして、まずは無事な刊行を祝いたい。

 当方は今号にカール・エドワード・ワグナーの中篇「夜の夢見の川」を訳出した。このエロティック・ホラーの秀作を紹介するのは念願だったので、それが実現してとてもうれしい。
 ちなみに、風変わりな題名は、ミュージカル「ロッキー・ホラーショウ」からの引用。元の詞は「The darkness must go down the river of night's dreaming」である。
 ワグナーがこの作品の一部で試みた特異な文体を、どこまで日本語に移せたかは心もとないが、ひとりでも多くの人にこの作品を読んでもらいたい。

 さて、「夜の夢見の川」は、スチュアート・デイヴィッド・シフが編んだアンソロジー Whispers Ⅲ (Doubleday, 1981) に発表された。ただし、当方が持っているのは、例によって1988年にジョーヴから出たペーパーバック版である。

2012-9-17(Whispers 3)

 すこし説明が必要だろう。
 もともとシフは〈ウィスパーズ〉というホラー系のセミプロジンを発行していた。1973年から87年にかけて、不定期で16号(合併号があるので、名目上は24号)を出し、ホラー不遇の時代に貴重な短篇発表の場を作った。その功績を認められ、4度も世界幻想文学賞に輝くなど、非常に評価が高い。

 この成功を承け、シフは大手出版社と契約を結び、アンソロジストとしても活躍をはじめる。最初に手がけたのが、雑誌と同名の《ウィスパーズ》というシリーズだった。
 これは雑誌〈ウィスパーズ〉から選びぬいた作品に、書き下ろしの新作を加えたもの。1977年から87年にかけて全部で6冊が出たほか、そこからさらに選りすぐった作品に新作を加えた The Best of Whispers (1994) が出ている。
 今回とりあげるのは、アンソロジーのほうの第三集というわけだ。

 シフの序文につづいて、14篇がおさめられている(うち5篇が再録で、残りは書き下ろし)。邦訳があるのは、当方の知るかぎり、デニス・エチスン「最後の一線」、ラムジー・キャンベル「自分を探して」、カール・エドワード・ワグナー「夜の夢見の川」の3篇である。

 パルプ時代の生き残りから、モダンホラー世代まで、ヴァラエティ豊かな顔ぶれがそろっている。めぼしい名前をあげると、上記に加え、デイヴィッド・ドレイク、ヒュー・B・ケイヴ、フィリス・アイゼンシュタイン、ロジャー・ゼラズニイ、フランク・ベルナップ・ロング、フリッツ・ライバー、ウィリアム・F・ノーランといったところ。

 未訳のなかでいちばんいいのは、アイゼンシュタインの“Point of Departure”だろう。ゴーストストリー仕立てで兄妹の和解を描いた作品で、古風な枠組みながら、現代感覚が横溢している。

 次点はチャールズ・E・フリッチの“Who Nose What Evil”か。題名からして駄洒落だが、内容も相当におかしい。ある日めざめると、鼻のなかにお姫さまと悪い魔法使いに住みつかれていた男の話。フェアリー・テール風の不条理小説かと思っていると、強烈なバッド・エンディングが待っている。

 僅差でつづくのが、ゼラズニイの“The Horse of Lir”。ネス湖の怪物を思わせるシーサーペントを代々世話している一族の話。静謐な雰囲気がすばらしい。これはどこかに訳したいものだ。(2012年9月17日)