fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2024.01 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 » 2024.03

2013.06.20 Thu » 『女剣士』

 確認したいことがあって、ロバート・E・ハワードの本をひっぱりだしてきた。Sword Woman (Berkley, 1979)である。

2012-3-9 (Sword Woman)

 もともとは1977年にゼブラ・ブックスから出たものの再発。署名の上に文字がかぶさっているが、表紙絵はケン・ケリーの筆になるものでまちがいない。

 これは中世フランスの女剣士、ダーク・アグネスを主人公にしたシリーズをまとめたもの。表紙絵を見てもらうとわかるが、アグネスの髪は赤く、肌は白い。では、なぜダーク・アグネスと呼ばれるかというと、「彼女のまわりには なにか dark なものが漂っているから」だという。この dark もいろいろな意味がこめてあって、その場その場で「暗い」とか「不吉」とか「陰鬱」とか訳すしかないだろう。

 アグネスは農民の娘だが、貴族の血を引いている。というのも、父親は、さる貴族が農民の娘に産ませた子供だからだ。
 物語はアグネスの婚礼の朝からはじまる。いいなずけは親が決めた農夫で、アグネスはこの男を嫌いぬいている。そして婚礼の場でいいなずけを刺し殺し、村から出奔。街道でエティエンヌという剣士に出会い、助けられたと思ったが、じつはエティエンヌの狙いが自分を娼館に売ることだと知って、この男を半殺しの目にあわせる。ところが、エティエンヌは地元の貴族に命を狙われており、その正体が露見したのは自分のせいだと悟り、命を救うための行動に出る……。

 といった具合で、恐ろしく荒っぽい女剣士の活躍が描かれる。
 中世フランスを舞台に赤毛の女剣士が活躍するといえば、C・L・ムーアの《ジョイリーのジレル》シリーズを連想しないわけにはいかないだろう。
 じっさいハワードは《ジレル》シリーズを意識したらしく、1935年に第一作“Sword Woman”の草稿をムーアに送り、これを気に入ったムーアから「アグネスの活躍をもっと読みたい」という返事をもらっている。ちなみに、《ジレル》シリーズはその前年にはじまっており、ハワードがその影響を受けたと考えたくなるが、真相は不明。

 ともあれ、このシリーズはほかに1篇の完成作“Blades for France”と“Mistress of Death”と題された未完の草稿が書かれたが、けっきょくハワードの生前は未発表に終わった。要するに、売れ口がなかったのである。

 さて、未完の草稿はのちにジェラルド・W・ペイジが補筆し、これが世に出まわった。本書にもこのヴァージョンが収録されている。
 現在では未刊の草稿が公刊されているので、両者をくらべると、うしろのちょうど半分が補筆部分だとわかる。主人公が魔道士に奈落へ引っぱりこまれそうになり、悲鳴をあげて男に慰められるというシーンがあって、ハワードらしくないと思ったら、やはりペイジの書いた部分だった。

 ところで、《ダーク・アグネス》シリーズの第1作と第2作は、超自然の要素がない純粋な歴史冒険小説である。第3作になって、魔道士と蘇生術という要素が導入されるのは、〈ウィアード・テールズ〉向けに方向転換を図ったためと推測されるが、その試みも放棄された。ハワードの心境やいかに。

 もっとも、この3篇では分量がすくなくて本にならないので(全訳して215枚ほど)、本書にはリイ・ブラケットの序文と、未完に終わった長篇(上記シリーズとは無関係)の冒頭部分が2篇おさめられている。(2012年3月9日)

2013.06.19 Wed » 『ロバート・E・ハワードの恐怖小説』

【承前】
 ロバート・E・ハワードのホラー短篇集としては、決定的な本が簡単に手にはいる。ハワード研究の第一人者ラスティ・バークの肝いりで出た The Horror Stories of Robert E. Howard (Del Rey, 2008) だ。

2011-10-6(The Best Horror)

 これは同社から刊行されているイラスト入り叢書の一冊で、ジョージ・ステープルズという人の美麗イラストが全篇に配されている。これを見るだけでも価値があるが、内容のほうも文句なし。ハワードの秀作ホラーはほとんど網羅されており、この本を持っていればワイルドサイド・プレスで出た同種の本は無理して買う必要がない。

 大判トレードペーパー約530ページに小説36篇、詩14篇、付録として未完の草稿4篇が収録されている。そのうち邦訳があるのはつぎのとおり(追記参照)――

小説……「密林の人狼」、「夢の蛇」、「獣の影」、「死霊の丘」、「われ埋葬にあたわず」、「夜の末裔」、「黒の碑」、「屋上の怪物」、「吸血鬼の墓」、「闇の種族」、「鬼神の鬼塚」、「大地の妖蛆」、「闇に待つ顎」、「悪霊の館」、「老ガーフィールドの心臓」、「ブードゥー教の半魚人」、「鳩は地獄から来る」、「死人は憶えている」「アッシュールバニパル王の火の石」
詩……「顕ける窓より」、「断章」

 通常ヒロイック・ファンタシーに分類される《ソロモン・ケイン》シリーズや《ブラン・マク・モーン》シリーズからも作品を採っているのが特徴。

 さすがにめぼしいところは邦訳があり、未訳のものでこれぞという作品は、ボクシング小説仕立ての幽霊譚“The Spirit of Tom Molyneaux”くらい。
 だが、残りの作品もハワード・ファンとしては読んでおきたい。というのも、それぞれがビアス風だったり、ラヴクラフト風だったり、ミステリ仕立てだったり、ウェスタン仕立てだったりと、ハワードの試行錯誤の跡が見えるからだ。

 さて、本書の内容に文句はないが、たとえば昨日紹介した“The People of the Black Coast”のような珍品は入っていない。ハワードの世界は意外に奥が深いのである。(2011年10月6日)

【追記】
 のちに創刊された「ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌〈」ナイトランド〉が、本書から採った作品をステープルズのイラストとともに掲載してくれた。順に「矮人族」(創刊号)、「失われた者たちの谷」(2号)、「墓所の怪事件」(4号)である。




2013.06.18 Tue » 『ブードゥー教の半魚人』

【承前】
 ロバート・E・ハワードのホラー短篇集としては、Black Canaan (Berkley, 1978) というのもある。

2011-10-5(Black 1)

 バークリーから刊行されていた折り込みポスター付きペーパーバックの一冊で、ネットにその画像があったので借りてきた。

2011-10-5(Black 2)

 まるでフランク・フラゼッタの絵のようだが、ケン・ケリーの筆になるものだ。ゲイアン・ウィルスンが序文を書いている。

 収録作は10篇で、そのうち表題作と“Moon of Zambebwei”が昨日紹介した本と重なっている。どちらもアメリカ南部を舞台にしたブードゥー教がらみの話である。
 邦訳があるのは表題作と「黒の詩人」のみ。ちなみに後者はハワードの未完原稿をオーガスト・ダーレスが補完したもの。前者の邦題はあんまりという気もするが、ソノラマ海外文庫がそういう題名にしたので仕方がない。

 表紙絵は“People of the Black Coast”という短篇を題材にしているのだが、これがハワードにしては珍しくSFといえそうな作品。というのも、表題の「ピープル」は、人間ではなく、ここに描かれている巨大蟹のことだからだ。なんと、この蟹は知性を持っていて、文明を築いているのである。

 物語は、主人公と女流飛行家である婚約者の乗った飛行機が、太平洋の孤島に不時着するところからはじまる。黒い岩石がひな壇上に積み上がった特異な地形で、見たところ無人島らしい。主人公はあたりを探検に行くが、帰ってくると婚約者の姿はなく、彼女の片手だけが残っている。
 その直後、主人公は馬よりも大きな蟹の群れに遭遇し、彼らが知性を持つ生物であることを知る。というのも、巨大蟹にはテレパシーがあるらしく、精神攻撃を仕掛けてきたからだ。その代わり、向こうの思考もぼんやりと読める。
 その結果わかったのは、蟹のほうが人間よりも進んだ文明を持っており、島の上部に都市を築いていることだった。ただし、その知性は人間とはまったく異質であり、彼らにとって人間など虫ケラ以下の存在でしかない。婚約者は、彼らの好奇心の餌食になったのだ。
 彼らにとって野獣である主人公は、婚約者の仇をとるため、彼らにゲリラ戦を仕掛ける。巧妙に立ちまわって何匹かを倒すが、しょせん多勢に無勢。やがて命がつきるだろう……。

 というわけで、「野生対文明」という図式はそのままに、怪物と人間の役割を逆転させた作品。ハワードらしいと同時にハワードらしくない珍品といえる。
 生前は未発表に終わり、〈スペースウェイ・サイエンス・フィクション〉1969年9-10月合併号に発表された。(2011年10月5日)

2013.06.17 Mon » 『闇のなかの踏み分け道』

 必要があってロバート・E・ハワードの短篇集 Trails in Darkness (Baen, 1996) を引っ張りだしてきた。

2011-10-4(Trail)

 《ザ・ロバート・E・ハワード・ライブラリ》と銘打たれた叢書の第6弾。第4弾に当たる本のことは、以前この記事でとりあげた。そちらと同じく、S・M・スターリングが短い序文を寄せている。ちなみに表紙絵はC・W・ケリー。

 この本のコンセプトは明確で、「北米を舞台にしたハワードの怪奇小説」ばかりを集めている。全部で10篇が収録されているが、そのうち邦訳があるのは「死人は憶えている」、「ブードゥー教の半魚人」、「闇に待つ顎」、「吸血鬼の墓」の4篇である(追記参照)。

 “Kelly the Conjure-Man”という小品が、ブードゥー教の呪術師を題材にしたノンフィクションであるのをべつにすれば、残りはだいたい邦訳がある作品と同工異曲で、それらより一枚落ちる作品。つまり、西部劇と怪奇小説の合体やら、南部の沼沢地に巣食うブードゥー教の恐怖を描いた作品である。

 そのなかでちょっと面白いのが、“The Valley of the Lost” という短篇。
 西部の荒野を舞台に、ふたつの家族が血で血を洗う抗争をくり広げている。片方は主人公を残すだけとなり、その主人公もついには先住民が忌み嫌う谷へ逃げこむはめになり……と典型的なウェスタン風にはじまるのだが、主人公が洞窟へはいりこんだところで急転直下。なんと、この谷間の地下には、はるかむかし地中へ逃げこみ、いまは退化をとげた矮人族が住んでいたのだ、とアーサー・マッケンばりの怪奇小説になるのだ。
 「ディセント」というろくでもない映画があったが、あれの先駆けだと思ってもらっていい。出来のほうはともかく、ハワードの想像力の本質を生の形で見せてくれる作品といえる。
 
 ところで、この本を引っぱりだした理由は、年末ぐらいに明らかにできるかもしれない。乞御期待。(2011年10月4日)

【追記】
 この後、“The Valley of the Lost”が、「失われた者たちの谷」の題名で「ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌」を標榜する〈ナイトランド〉2号(2012)に掲載された。ただし、不幸な事故があって、不完全な形で世に出てしまった。その詳細については、こちらの記事を参照していただきたい。

2013.06.16 Sun » 『ソロモン・ケイン』

【承前】
 ロバート・E・ハワードの《ソロモン・ケイン》シリーズだが、当方はバンタムから出た2分冊ヴァージョンを持っていた。それぞれ Solomon Kane #1: Skulls in the Stars (1978)、Solomon Kane #2: The Hills of the Dead (1979) と題されている。

2009-3-29 (Solomon Kane 1)
2009-3-29 (Solomon Kane 2)

 造本が面白い。ペーパーバックの表紙が内側に折り込みになっていて、広げると横長の1枚絵になるのだ。
 表紙絵の画家は、2のほうはボブ・ラーキンと判明しているが、1のほうは不明。タッチがちがうので別の画家だと思うが、くわしいことはわからない。表紙絵の版権はバンタム・ブックスの所有になっている。果たしてこの画家はだれなのだろう。ご存じの方がいれば、教えてください。

 内容だが、どちらもJ・ラムジー・キャンベルの序文つき。第一巻には小説7篇と詩1篇、第二巻には小説5篇と詩2篇が収録されている。

 最大の特徴は、未完作品3篇がラムジー・キャンベルによって補完されていること。つまり、ハワードが放棄したあとを承けて物語を書き継いでいるのだ。
 
 英国ホラー界の雄キャンベルとハワード作品の組み合わせは奇異に思えるかもしれない。じつは、このころキャンベルは、ホラーだけでは食っていけないのか、〈剣と魔法〉にも手を染めていた。そのためお鉢がまわってきたのだろうが、この人選は完全に誤っていた。ご承知のとおり、キャンベルの作風は、粘着質な文体でじわじわと恐怖を盛りあげていくものであり、冒険活劇にはおよそ向いていないからだ。要するに水と油である。

 ディ・キャンプが先鞭をつけたせいで、ハワードの未完作品は補完して世に出すことが通例となった。この傾向に異を唱えたのが遺産管財人のグレン・ロードで、主に小出版社のドナルド・M・グラントと組んで、未完作品は未完のまま収録した作品集を刊行しつづけた。その好例が、昨日紹介した Red Shdows である。

 さいわいにも、いまではハワードの主要作品については、未完作品は未完のまま収録した作品集が簡単に手にはいる。たとえば《ソロモン・ケイン》シリーズの場合は、前に紹介した The Savage Tales of Solomon Kane (Wandering Star, 1998 / Del Rey, 2004) という完全版がある。グレン・ロードとラスティ・バーク様々である。(2009年3月29日)


2013.06.15 Sat » 『血まみれの影』

 太っ腹つながりで、天使の贈り物を紹介しよう。つまり、代島正樹さんが譲ってくれた本のこと。その3はロバート・E・ハワード Red Shadows (Donald M. Grant, 1978) だ。

2009-3-28 (Red Shadows)

 大型ハードカヴァー、337ページ。発行部数1350。表紙絵はジェフ・ジョーンズ。さらにカラー・イラストが別刷りで8枚と表紙裏(図版下)に1枚はいっている超豪華版である。

2009-3-28 (portrait)
 
 本書は16世紀の清教徒戦士《ソロモン・ケイン》シリーズの集大成本。グレン・ロードが編集にあたっており、未完作品は未完のまま収録されている。
 前にも書いたが、このシリーズは近い将来邦訳が出るそうなので、内容については触れない。邦訳はいまのところ3篇あり、訳題はつぎのとおりである――「血まみれの影」、「死霊の丘」、「はばたく悪鬼」

 表題を「赤い影法師」と訳すと柴田錬三郎の伝奇小説と同じになって面白いのだが、ここはおとなしく既訳題にならっておこう。

 せっかくなので書誌学的な蘊蓄を少々。
 グラントからこの本が出るのは、じつは本書で三度め。最初は1968年に出た版で、ひとまわりサイズが小さく381ページ。ジェフ・ジョーンズのカラー・イラストは4枚だった。発行部数896。カヴァーではなく、本そのものの表紙の色からこれはレッドと呼ばれる。
 1971年に上記は再刊されたが、表紙の色は濃灰色。これはグレイと呼ばれ、カラー・イラストの位置が本文と合うように修正されていた。発行部数741。
 そして版型、イラストを一新したのが本書というわけだ。

 このシリーズ、当方は別のヴァージョンをペーパーバックで持っていたので、その話は次回に。(2009年3月28日)


2013.06.14 Fri » 『終わりなき探求』

【承前】
 ハワードの書誌をもうひとつ。ポール・ハーマンの The Neverending Hunt: A Bibliography of Robert E. Howard (Wildside Press, 2006) だ。ただし、当方が持っているのは2008年に出たペーパーバック版だが。こちらにもさんざんお世話になった。

2013-6-12 (Neverending)

 縦28センチ、横21センチ、厚さ3センチの巨大な本。図版は1枚もなく、ただひたすらデータが羅列される。その分量は、なんと500ページ以上。無愛想といえばこれほど無愛想な本も珍しいだろうが、ハワードの書誌としては最高峰に位置する。とにかく、情報量がただごとではないのだ。

 目次を簡略化して示す――

散文索引(英語)
散文索引(英語以外)
韻文索引
書簡索引
書籍(英語)
定期刊行物
アンソロジー収録
パンフレット、その他
書籍とアンソロジー(英語以外)

 以上の項目にしたがって、作成者の知りえた情報がすべて記載されている。つまり、本人は現物を見ていない外国語版やファン出版物の情報もまじっており、その信憑性には疑問符がつくということだ。じっさい、日本語版の情報は驚くほど正確だが、誤記のたぐいは多い(たとえば、「屋上の邪神」が“Okiyou No Jashim”となっている)し、誤った推測もなされている。
 
 とはいえ、その点に気をつけさえすれば、ハワードの書誌としてこれほど心強い味方はない。なにしろ、世界一のハワード・コレクター、グレン・ロードの全面協力のもと、世界で二番めのハワード・コレクターが作りあげた書誌なのだから。

 しかも、太っ腹なことに、本書の情報は現在(一部の外国語版情報をのぞいて)すべてネット上で公開され、つねにアップ・トゥ・デートが図られている。世の中には、本当に偉い人がいるものだ。(2013年6月12日)

2013.06.13 Thu » 『ロバート・E・ハワード』

 《新訂版コナン全集》の編纂にあたって、基礎資料のひとつにしたのが Robert E. Howard : A Collector's Descriptive Bibliography of American and British Hardcover, Paperback, Magazine, Special and Amateur Editions , with a Biography (McFarland & Co., 2007) という書誌だ。

2008-7-7(Robert E. Howard)

 内容については、長い副題がすべてを表している。簡単なハワード伝+詳細きわまる書誌である。
 ハワードの書誌に関しては、グレン・ロードの決定的な仕事がある。著者はもちろんそのことを承知していて、ロードの書誌を補完することをめざしている。つまり、ロードの書誌以降に出た版や、ロードの書誌で手薄だったファンジン関係の情報を充実させているのだ。その仕事ぶりは徹底していて、見たことも聞いたこともないようなファンジンや私家版の情報が満載。商業出版についてはいうまでもないだろう。世の中には恐ろしいコレクターがいたものである。

 著者はレオン・ニールセンという人。もしかすると古書商のたぐいかもしれない。というのも、この本は完全なコレクターズ・ガイドで、古書の状態の判定のしかたや、平均古書価までがくわしく書かれているからだ。
 とにかくたいへんな労作で、ロードの The Last Celt と合わせれば鬼に金棒である。

 ところで、この本には「もっとも蒐集価値のあるタイトル」として70冊の題名/版があげられている。そのうち当方が持っているのはたったの3冊。いっぱしのハワード・ファンのつもりだったが、コレクターではなかったわけだ。まあ、安いペーパーバックばっかり買っているので当然といえば当然だが(追記参照)。(2008年7月7日)

【追記】
 その後16冊が追加された。そのうち15冊は代島正樹氏に譲っていただいたものである。あらためて深謝。


2013.06.12 Wed » 『ロバート・E・ハワード傑作集』

【前書き】
 創元推理文庫の《新訂版コナン全集》が、5月末に出た第6巻『龍の刻』をもって完結した。編纂を担当した者としては、ようやく肩の荷がおりた気分だ。最終巻の解説では、作者ロバート・E・ハワード死後の動きを概括した。わが国では知られていなかった事実に重点を置いたので、関心のある向きは是非お読みください。

 そのうちミスが続々と見つかり、天を仰ぐことになるのだろうが、いまは解放感に浸っているので、ハワード関係の蔵書自慢する。まずはハワード研究家ラスティ・バークに敬意を表して、彼が編んだハワード傑作集から。この人の仕事がなければ、《新訂版コナン全集》はずいぶんと見劣りするものになっただろう。ひたすら感謝あるのみだ。


 最新のハワード傑作集を紹介しよう。 The Best of Robert E. Howard, Volume 1 : Crimson Shadows (Del Rey, 2007) と The Best of Robert E. Howard, Volume2: Grim Lands (Del Rey, 2007) だ。

2008-4-5 (best 1)
2008-4-5 (best 2)

 版元のデル・レイは、ハワード研究家ラスティ・バークの監修のもと、イラスト満載のハワード作品集を大判トレード・ペーパーでつぎつぎと出している。本書はその一環であり、バークが満を持して放った傑作集だ。なんでも「友人に読ませるため、これ一冊あればハワードのすべてがわかる本」を作るのが夢だったそうで、その夢を実現したわけだ。もっとも、一冊ではなく、各巻500ページを超える二分冊になったのはご愛敬だが。

 なにしろハワードの全貌をつかめるようにするため、これまでデル・レイで出ていた作品も重複をいとわずに収録している。特徴としては、小説と詩をほぼ交互にならべていること。各巻とも小説16篇、詩12篇をおさめ、バークの序文、気鋭のハワード研究家の解説がつくという内容になっている。

 邦訳があるのはつきのとおり――

第一巻 「影の王国」、「血まみれの影」、「闇の帝王」、「黒の碑」、「灰色の神が通る」、「大地の妖蛆」、「妖蛆の谷」、「黒い予言者」、「黒河を越えて」
第二巻 「ツザン・トゥーンの鏡」、「象の塔」、「はばたく悪鬼」、「老ガーフィールドの心臓」、「鳩は地獄から来る」、「赤い釘」、「キンメリア」(詩)

 未訳の小説はウェスタン、歴史冒険小説、ボクシング小説など。このまま未訳で終わりそうな作品群だ。
 
 じつをいうと、第一巻の序文と解説しか読んでいない。ここにおさめられた作品は、ほとんどほかの本で読んでいるのだ。われながら感心する。
 もともと撫でさするために買った本だが、ほかの本にくらべてイラストの出来がいまひとつなのが残念である。(2008年4月5日)

2013.04.30 Tue » 『大地の妖蛆』

 天使の贈り物その2は、Worms of the Earth (Donald M. Grant, 1974) である。小型ハードカヴァー、233ページ。発行部数2500。

2009-3-25 (Worms of the Earth)

 表紙絵はデイヴィッド・アイルランド。表題作を題材にしているが、まったく同じ構図でヴァージル・フィンレイがイラストを描いており、それにくらべるとだいぶ見劣りがする。とはいえ、白黒のイラストが4枚はいっており、こちらは迫力がある。

2009-3-25 (Worms 3)

 当方はこの本をペーパーバック化したエース版(1979)を所有していた。こちらの表紙絵はサンジュリアンの手になるもの。

2009-3-25 (Worms of the Earth, Ace )

 両者をくらべてみたところ、版面がまったく同じなので、エース版はグラント版をそのまま写真複製して版下にしたとわかった。もちろん、イラストもそのまま使われている。エース版は紙が悪くて、すでに壊れかけているので、この本を譲っていただいたのはありがたいかぎり。

 これはピクト人の王ブラン・マク・モーンのシリーズを集大成したもの。同じ趣旨の作品集は1969年にデルから Bran Mak Morn という本が出ていたが、本の厚みを出すために、コーマック・マク・アートというべつのヒーローを主人公にした作品が1篇混ざっていた。本書はそれを抜いたもので、ブラン・マク・モーンもの集大成としては過不足ない出来となっている。
 収録作品はつぎのとおり――

Foreword  *短い詩とハワードの手紙から抜粋した文章で構成されている
「滅亡の民」  *関連作品 ブラン・マク・モーンは登場しない
Men of Shadows
「闇の帝王」  *《キング・カル》との相乗り作品
A Song of Race  *詩
「大地の妖蛆」
Fragmet  *未完作品の草稿
The Dark Man  *《ターロー・オブライエン》との相乗り作品

 グレン・ロードがかかわっているので、未完作品は未完のまま収録している。

 このシリーズは数がすくないので、他のヒーローとの相乗り作品を入れても以上でほぼすべて。マニアックきわまる編集のワンダリング・スター版 Bran Mak Morn the Last King (2001) でも、未完の草稿やハイスクール時代の習作が増補されているだけ。
 そのわりに令名が轟いているのは、ひとえに「大地の妖蛆」のおかげである。なにしろハワードの最高傑作に推す声もあるくらいで、夢魔的な迫力に満ちた作品。当方もハワードのベスト3にはかならず入れるだろう。

 未訳の“Men of Shadows”は、1926年に書かれたシリーズ第1作だが、〈ウィアード・テールズ〉に投稿して没となった。
 読んでみると、それもしかたなく思える。ローマ軍団に所属する北欧人の戦士が敵対するピクト人に捕まって、彼らの歴史を聞かされるというのが骨子だが、戦闘場面と古老の語りだけで構成されており、向こうの大衆小説がなによりも重視する「葛藤」に欠けているからだ。要するにアマチュアくさい習作というほかない。
 逆にいえば、ハワードがわずか4年で作家として長足の進歩をとげた証左となっている。(2009年3月25日)

【追記】
 グラント版のハードカヴァーは、ハワードの原稿に忠実な版とされていたが、宗教や人種に関する記述が勝手に削られていることが最近の研究で判明し、その信頼性が揺らいでいる。

 さて、ハワードの話はいくらでもつづけられるが、月も替わることだし、話題もがらりと変えよう。乞御期待。