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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.07 Fri » 『創造の谷』

 わけあってエドモンド・ハミルトンの長篇 The Valley of Creation (Lancer, 1964) を読む。当方が持っているのは1967年の新装版である。25年も前に邦訳で読んだきりなので、いい機会だと思って、本の埃を払ってみた(所持している本の状態が悪すぎるので、下の画像は Alexshan Books からの借り物である)。

2005-9-24(Valley)

 もともとは1948年、雑誌に一挙掲載されたものだが、刊行にあたってすこし手がはいっているようだ(たとえば、朝鮮戦争について言及があったりする)。

 舞台は第二次大戦後の混乱期にあった中国。主人公エリック・ネルスンは、さる軍閥の傭兵だったが、共産軍に追いつめられ、いまはチベットに近い辺境で死を覚悟する身である。
 そこへさらに奥地から、彼の部隊を雇いたいという者があらわれる。男はル・ランから来たというが、そこは地球上のあらゆる生命が発祥したという伝説の地。渡りに船とばかりル・ランに赴くと、そこは知性を持ち、テレパシーで会話する狼、虎、馬、鷲が、人間と同等の権利で暮らしている土地だった。ネルスンたちを雇ったのは、人間の優越を主張して、反旗をひるがえした者たちだったのだ。
 
 こうしてネルスンたちは戦いに参加するが、ストーリーはいかにもハミルトンらしくねじれを見せる。敵につかまったネルスンは、精神を若い狼に移植され、狼として生きることで、大義は敵にあることをさとるのだ。しかし、奸智に長けた傭兵の軍略で、勝利は反乱軍のものとなる。はたして、人間・動物同盟軍の巻き返しはなるのか……。

 記憶にあったとおり、山田正紀『崑崙遊撃隊』を連想させる秘境ロマンス。当方が大好きなタイプの作品で、楽しんで読んだが、いまの目で見るとすこし薄味すぎる嫌いがある。リヴァイヴァルさせる価値はないだろう。
 
 ちなみに、本書は『最後の惑星船の謎』(田沢幸男訳。久保書店QTブックス、1975)として邦訳が出ているが、この邦題はいただけない。理由はお察しのとおり。(2005年9月24日)

2005-9-24(QT)


2012.09.06 Thu » 『向こうはどんなところだい?』

【前書き】
 編訳したエドモンド・ハミルトン傑作集『フェッセンデンの宇宙』(河出文庫、2012)の見本が届いた。〈奇想コレクション〉版の9篇に3篇を増補し、文庫版編訳者あとがきを書き足した新編集版である。

2012-9-5(Fessenden)

 愛着のある本が、新たな形で世に出ることになってとても嬉しい。これを祝して、文庫化決定にさいして書いた記事を公開する。


 前に書いたとおり、この文庫版には音楽CDのボーナス・トラック的感覚で3篇を追加する。具体的には「世界の外のはたごや」、「漂流者」、「フェッセンデンの宇宙(1950年版)」である。

 このうち2篇の翻訳底本に使ったのが、エドモンド・ハミルトンの短篇集 What's It Like Out There ? And Other Stories (Ace, 1974) だ。

2012-6-3(What's)

 ハミルトンはパルプ作家の悲哀をかこった人で、あれほど多くの短篇を書きながら、それが本にまとまることは珍しかった。連作をのぞけば、1936年にイギリスで出た The Horror on the Asteroid & Other Tales of Planetary Horror につぐ第二短篇集ということになる。

 まずは目次を書き写しておこう。例によって発表年と推定枚数を付す――

1 向こうはどんなところだい? '52 (65)
2 The King of Shadows '47 (55)
3 漂流者 '68 (20)
4 蛇の女神 '48 (80
5 The Stars, My Brother '62 (115)
6 夢見る者の世界 '41 (95)
7 神々の黄昏 '48 (110)
8 太陽の炎 '62 (40)
9 世界の外のはたごや '45 (45)
10 The Watcher of the Ages '48 (40)
11 超ウラン元素 '58 (55)
12 眠れる人の島 '38 (40)

 未訳の2と10は、どちらも秘境小説の枠組みでSF的アイデアを開陳する物語。前者は中央アジア、後者は南米が舞台で、探検家が超古代文明の遺物に遭遇する。4、7、12も一種の秘境小説なので、本書を通読すると、たいていの日本の読者が思い描くのとはべつのハミルトン像が生まれる。

 当方はこの系統の小説が大好きなので積極的に紹介してきたが、さすがに2と10を翻訳する気にはならなかった。『フェッセンデンの宇宙』には「風の子供」という秘境小説がはいっているが、あれは純粋なファンタシーなので、いまでも面白く読める。いっぽう2と10は、エネルギー生物やら超古代文明が生んだ不死身のアンドロイドやらが題材で、古めかしさばかりが目立つのだ。

 未訳で残る5は、当時のハミルトンらしく厭世観を色濃くただよわせた宇宙小説。スペース・オペラ的設定で、地球人のおごりが糾弾される。(2012年6月3日)

 

2012.09.05 Wed » 『生命の星』

 つづいて、ハミルトンの未訳長篇を紹介しよう。The Star of Life (Torquil, 1959)である。〈スタートリング・ストーリーズ〉1947年1月号に発表された同題作品の単行本化。

2005-6-2(Star)

 主人公は人類初の月周回飛行に旅立った宇宙飛行士。ところが、事故が起きて、仮死状態のまま宇宙空間を漂流することになる。2万年後にふたたび太陽系にもどってきて、仮死状態からさめると、そこはヴラメンという種族が圧制を敷き、地球人から宇宙航行の権利を奪っている世界だった。当然ながら主人公は、地球人の不満分子とともに宇宙船を建造し、ヴラメンに反抗を企てる。

 ところが、このあとストーリーは奇妙にねじれていく。もともと胡散臭いやつと思われていた主人公は、地球人のなかで孤立し、むしろ捕虜にしたヴラメンの女に惹かれていくのである。そして最後には苦い苦い結末が待っている。
 翌年発表された『虚空の遺産』と非常によく似たトーンで書かれており、ハミルトンの虚無的な面が十二分に出ているが、『虚空の遺産』にはおよばない。訳す価値はないだろう。

 ちなみに、アポロ13号の事故が起きたとき、ハミルトンはこの作品の冒頭を思いだし、自分があんなことを書いたから事故が起きたのではないか、と奇妙な罪悪感をおぼえたそうである。(2005年6月2日)


2012.09.04 Tue » 『ヴァルハラのヤンキー』

【承前】
 こんど出すハミルトン傑作集幻想怪奇篇には「神々の黄昏」(1948)という中篇を入れる。北欧神話に材をとった作品で、ときどきSF的な合理化がまじるのだが、基本的には魔法が働くファンタシーである(追記参照)。

 おそらくその作品の原型で、もっとSF寄りなのが、The Monesters of Juntonheim (World Distributors, 1950)という長編である。
 書誌的なことを書いておくと、この作品は最初 A Yank at Vallhara の題名で〈スタートリング・ストーリーズ〉1941年1月号に発表された。50年に改題のうえ単行本化。だが、73年にエースのダブルに収録されるとき、元の題名にもどされた。当方が持っているのは、このエース版である。
 マーク・トウェインの『アーサー王宮廷のヤンキー』のもじりだろうから、元の題名のほうがいい。

2005-6-1 (Yank)

 内容はというと、アメリカの飛行士が北欧上空で異次元にまぎれこむ。そこは北欧神話の世界そのものであり、神々と巨人族の戦いに巻きこまれ、両者の滅亡を見届けるというもの。つまらなくはないが、これなら中篇「神々の黄昏」のほうが出来がいい。神話に出てくる魔法的な要素を放射能や冷凍睡眠という言葉で説明するSF的合理化が古びてしまっているからだ。
 たぶん作者自身もその点に気づいて、よりファンタシー寄りの作品に作り替えたのだろう。(2005年6月1日)

【追記】
 上記のとおり、『眠れる人の島』(創元SF文庫、2005)に新訳(市田泉訳)を収録した。

2012.09.03 Mon » 『生命の湖』

【前書き】
 以下は2005年5月31日に書いた記事である。


 エドモンド・ハミルトン関係の蔵書自慢。ものは The Lake of Life (Robert Weinberg, 1978) だ。

2005-5-31(Lake)

 これはパルプ雑誌研究家として有名なロバート・ワインバーグが出していた「ロスト・ファンタシー」というパルプ小説復刻シリーズの一冊で、本文80ページのパンフレット(私家版)。ハミルトンが〈ウィアード・テールズ〉に3回連載したショート・ノヴェルが収められている。

 と書いたのは、このパンフレットが形式としては複数作家の作品を収録したアンソロジーであるからだ。無名作家のごく短い短篇が2篇併載されているのである(追記1参照)。

 といっても、パッと見ただけではアンソロジーとはわからない。なにしろ目次もなければ、扉にも、ワインバーグの序文にもその旨の記載がないからだ(日本の奥付にあたる欄にはさすがに載っている)。
 この本は初出誌のページをそのまま版下にしているので、雑誌をそのまま復刻したのかと思ったが、べつの号から短篇を引っ張ってきている。両方とも箸にも棒にもかからない駄作で、いくら穴埋めとはいえ、なんでこんなものを載せたのか不思議でならない。白紙を作らないために、4ページの短篇が2篇あればよかったということなのだろうか。

 さて、肝心の表題作だが、そのうち出るハミルトン傑作集幻想怪奇篇に収めるので、ぜひ現物にあたっていただきたい(追記2参照)。アフリカの奥地へ不老不死の水をたたえた湖を探しに行く話で、当方はこういう秘境探検ものに目がないのである。(2005年5月31日)

【追記1】
 参考までに記しておけば、“The Hunch”by Gene Lyle Ⅲ と“The Inn”by Rex Ernest。 

【追記2】
 この作品は「生命の湖」の訳題で、拙編のハミルトン傑作集幻想怪奇篇『眠れる人の島』(創元SF文庫、2005)に収録した。

2012.09.02 Sun » 『恐怖の小惑星』

 蔵書自慢。エドモンド・ハミルトンの最初の単行本 The Horror on the Asteroid and Other Tales of Planetary Horror (Phillip Allan, 1936) である。

 どういう経緯で出たのかは知らないが、本国アメリカではなくイギリスで出た本。小型のハードカヴァーで、256ページ。70年も前の本にしては、かなり状態がいい。さすがに大枚200ドルをはたいただけのことはある。
 もともとはダストジャケットがついていたようだが、残念ながらなくなっていた。書名や作者名は背にしかはいっていないので、書影のかわりに扉のスキャン画像を載せておく。

2005-5-30(horror)

 さて内容だが、なにしろ《キャプテン・フューチャー》や《スター・キング》はおろか、「フェッセンデンの宇宙」や「反対進化」さえ書かれていなかったころに出た本である。典型的なパルプSFばかり、それも副題が示すようにホラー・テイストの作品を集めている。

 例によって目次を書き写しておこう。発表年と推定枚数の付しておく――

1 The Horror on the Asteroid 1933 (65)
2 呪われた銀河 1935 (50)
3 The Man Who Saw Everything 1933 (35)
4 The Earth-Brain 1932 (75)
5 マムルスの邪神 1926 (40)
6 進化した男 1931 (45)

 ちなみに、5はハミルトンのデビュー作。

 未訳作品について書いておけば、1は大気中の成分の作用で人間が退化してしまう小惑星の話。3は手術で無生物なら透視できるようになった男の話。4は地球の頭脳を怒らせて地震に追われるようになった男の話。いずれも大時代なSF風の奇譚で、邦訳する値打ちはないだろう。

 ともあれ、当時のハミルトンが、怪奇SFの作家だと思われていたことが見てとれる。そういう意味では興味深い本である。(2005年5月30日)

【追記】
 収録作のうち「呪われた銀河」は、拙編のハミルトン傑作集SF篇『反対進化』(創元SF文庫、2005)に新訳を収録した。

2012.09.01 Sat » 『エドモンド・ハミルトン復活』

 編訳したエドモンド・ハミルトン傑作集『フェッセンデンの宇宙』が河出文庫にはいることになった。文庫化にあたって3篇を増補した。
 内訳は、作者本人が自作のベスト短篇に選んだ時間SF「世界の外のはたごや」、アメリカ幻想文学の偉大な先達、エドガー・アラン・ポオへオマージュを捧げた「漂流者」、表題作の改稿ヴァージョン「フェッセンデンの宇宙(1950年版)」であり、すべて当方による新訳である。
 前に書いたとおり、表題作の別ヴァージョンの新訳は念願だったので、今回それがかなった形。すぐれた作家が、どのように自作を改稿するかを示す好例なので、ぜひ同書の巻頭と巻末に配した両者を読みくらべていただきたい。
 9月5日ごろ書店にならぶそうなので、〈奇想コレクション〉版をお持ちの方もお見逃しなく。

 いい機会なので、エドモンド・ハミルトンに関する記事を公開しよう。まずは2010年に出た作品集から。グレッグ・ファウルクス編 Edmond Hamilton Resurrected (Resurrected Press, 2010) である。
 体裁は、250ページ強のトレードペーパー。

2012-8-26(Ed Ham)

 版元は旧作のリプリントを専門とするスモール・プレス。SFがメインだが、ミステリや冒険というカテゴリもある。編集長のファウルクスという人の個人事業に近いらしく、この人が編集した本を出すいっぽうで、この人が書いた小説をプロモートしている。
 編集長の趣味か、1930年代から50年代までの作品が専門領域。忘れられた作家にふたたびスポットを当てようという心意気やよしだが、二流作家、三流作家の名前ばかりがならぶラインナップには、いまひとつ食指をそそられない。

 それはともあれ、本書の目次を書き写しておこう。発表年と推定枚数も付しておく――

1 The Second Satellite 1930 (70)
2 未来を見た男 1930 (35)
3 Monsters of Mars 1931 (95)
4 The Sargasso of Space 1931 (65)
5 The Door into Infinity 1936 (90)
6 The World with a Thousand Moons 1942 (120)
bonus story! And Now a Message... 2010 (45)
special preview! The Laws of Magic 2010 (10)

 最後のふたつがなにかというと、ファウルクスの小説のプロモート。前者は近刊の短篇集から先行掲載。後者は既刊の長篇の抜粋。両方とも読んでみたが、1940年代パルプSF風の作風で、同人誌レヴェルとしかいいようがない。

 肝心のハミルトンの小説はというと、やはり典型的なパルプ小説。1と3と5は、パルプ誌に掲載されたきり埋もれていた作品の復活である。もっとも、当方は好きだが、わざわざ復活させるほどではない気もする。

 1と3は大時代なプラネタリー・ロマンス。1の舞台は地球の成層圏に存在する第二の月、3の舞台は火星だが、ストーリーの骨子は同じ。つまり、探検家がかの地へおもむくと、そこは奇怪な異星人(1はカエル人間、3はワニ人間)が支配する地で、捕まった主人公たちが、虐げられている地球人に似た種族と力を合わせ、叛乱を起こすのである。
 強いて面白い点をあげれば、3に出てくる火星の帝王か。ひとつの頭に三つの体を持つワニ人間なのだが、「巨大な脳に滋養を行きわたらせるためには、三つ分の体が必要だから」こうなっているそうだ。
 余談だが、1は野田宏一郎(昌宏)氏が、〈SFマガジン〉の連載コラム「SF実験室」(1966年6月号)にイラストともども紹介したことがある。
 
 2は、このなかでは異色作。一種のタイムマシンに捕捉され、1944年へ運ばれた15世紀フランス人が、中世へもどってその体験を語ったせいで妖術師あつかいされる話。15世紀の人間の目を通して語られる20世紀文明の描写が読みどころで、たしかに古風なセンス・オブ・ワンダーがある。これだけ邦訳があるのも納得の出来だ。

 4と6は、わりとシリアスなスペース・オペラ。4は事故を起こした宇宙船が、宇宙船の墓場のようなところへ迷いこみ、先に来ていた宇宙ギャングと闘う話(表紙絵参照)。6は、弟を人質にとられた宇宙船乗りが、やむなく宇宙海賊の命令にしたがって、罪のない人々を小惑星ヴェスタへ連れていく話。そこには、ほかの生物に寄生し、意のままにあやつる怪生物がはびこっていて、阿鼻叫喚の地獄図絵が展開される(というのは大げさだが)。
 4はともかく、6はちゃんとひねりがあって、けっこう面白く読めた。

 5は表題から予想されるような異次元冒険譚ではなく、《フー・マンチュー》ものの線をねらった伝奇小説。現代のイギリスが舞台で、新妻を東洋人のオカルト結社に誘拐されたアメリカ人と、スコットランド・ヤードの刑事が冒険をくり広げる。これは掲載誌が〈ウィアード・テールズ〉なので、同誌のカラーに合わせたのだろう。
 
 珍しい小説が読めたので、当方としては満足だが、そういう人はあまり多くなさそうだ。(2012年8月26日)