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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.03.10 Sun » 『フリッツ・ライバー傑作集』

【前書き】
 以下は2008年2月24日に書いた記事である。誤解なきよう。


 ライバー傑作集の目次を作ろうと思って、このところライバーの中短篇ばかり読んでいた。さすがに全作品を読むわけにはいかず、めぼしい作品を読み返したり、未読だった作品を読んだりするだけで終わったが、それでも90篇近くの作品に目を通した。一応納得がいったので、ひとまず区切りとする。
 せっかくの機会なので、埃を払った本のお披露目をしよう。表紙を眺めて楽しんでください。

 まずは向こうで編まれた傑作集に敬意を払って、その名もズバリ The Best of Fritz Leiber (Sphere, 1974) から。これはイギリスで出たペーパーバックが初版で、ハードカヴァーやアメリカ版が後に出た珍しい例である。

2008-2-24(The Best of)

 ライバーはSF、ホラー、ファンタシーの各分野で偉大な足跡を残したが、この本はどちらかというとSF寄り。22篇の代表的短篇を年代順にならべている。邦訳があるのはつぎのとおり――
「正気と狂気」、「若くならない男」、「真夜中の出帆」、「性的魅力」、「バケツ一杯の空気」、「火星のフォックスホール」、「ビッグ・ホリデイ」、「男が悲鳴をあげる夜」、「大いなる旅」、「跳躍者の時空」、「過去を変えようとした男」、「ラン・チチ・チチ・タン」、「マクベスおばあちゃん」、「マリアーナ」、「電気と仲よくした男」、「新しき良き時代」、「骨のダイスを転がそう」。

 未訳の5篇のうち“A Deskful of Girls”という中篇は、代表作のひとつとされているのだが、セックス・シンボルという概念が目新しかった時代のショッカーで、いま読んでもさほど面白くない。
 ライバーという人は「早すぎた才能」なので、先駆性が仇になるときがある。都市型ホラーの古典「煙のお化け」や諷刺SFの古典「性的魅力」が好例だろう。同種の作品がのちにたくさん書かれたせいで、元祖が平凡に見えてしまうのだ。
 ついでに書いておくと、巻末の“America the Beautiful” という短篇は「性的魅力」のリメイクともいうべきディストピアSF。ジーン・ウルフの「アメリカの七夜」を完全に先取りしている。

 当方の編む傑作集は、叢書の性格上、本格SFに偏らないことが前提になる。いろいろと考えた末、「①日本で出ている2冊の短篇集との重複を避ける。②自伝的要素の強い作品を主体にし、未来や宇宙を舞台にしたSF、発表年代の古い怪奇小説、〈剣と魔法〉は除外する」を編集方針とした。したがって、本書からは「跳躍者の時空」と「骨のダイスを転がそう」の2篇を採ることにする。(2008年2月24日)

【追記】
 この時点で企画中だったライバー傑作集は、『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)として実現した。「本格SFに偏らない」という前提条件は、ジャンル混淆をめざした《奇想コレクション》という叢書の性格から導きだされた。





2013.03.09 Sat » ライバーの猫

【承前】
 フリッツ・ライバーが無類の猫好きで、その身辺にはつねに猫がいたことはよく知られている。猫を題材にした小説も多く、それらが Gummitch and Friends (Donald M. Grant, 1992) という本にまとまっていることは、以前この日記に書いたことがある。

 この本にはロジャー・ガーバーディングという人がすばらしいイラストを寄せているのだが、そのときは紹介しなかったので、今回はイラストをお見せする。

blog_import_4f7c59aca5841.jpg

その1。巻頭に飾られている猫の肖像。これがガミッチなのかな。

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その2。短篇「跳躍者の時空」に付されたイラスト。スーパー仔猫ガミッチと、その両親〈馬肉の大将〉と〈猫こっちおいで〉が描かれている(追記参照)。すでに何度も記したように、ライバーの猫ものはいずれも自伝的要素が強く、描かれている男女のモデルはライバー本人と愛妻ジョンキルである。

blog_import_4f7c59afd862a.jpg

その3。短篇“Cat Three“ に付されたイラスト。この魔女みたいな女性は、ミス・スキップシーというすこし頭のおかしい老婆で、三匹の猫と暮らしているのだが、やはりモデルがいる。それが詩人のマーゴ・スキナーだ。晩年のライバーの恋人で、死のまぎわには正式に結婚した。ちなみに同書は「マーゴに」捧げられている。(2008年1月18日)

【追記】
『跳躍者の時空』収録時に、それぞれ〈馬肉のせんせい〉と〈ネコちゃんおいで〉に訳語が変更された。ちなみに原文は Old Horsemeat と Kitty-Come-Here である。

2013.03.08 Fri » 『ガミッチとお友だち』

 ライバーねたをもうひとつ。ご紹介するのは Gummitch And Friends (Donald M. Grant,1992)である。

2005-4-24(Gummitch and Friends)

 ライバーが無類の猫好きだったことは良く知られているが、これはライバーの猫小説ばかりを集めた短篇集。有名なスーパー猫《ガミッチ》連作全5篇とそれ以外の5篇に、付録としてマーゴ・スキナー、カレン・アンダースン、ポール・アンダースンの詩がそれぞれ4篇、1篇、1篇ずつ付くという構成。美麗イラストが10枚もはいった豪華版である。

 小説のうち邦訳があるのは、ガミッチものの短篇「跳躍者の時空」、「猫の創造性」、「猫たちの揺りかご」、「キャット・ホテル」の4作と中篇「影の船」。未訳の作品はどれもたいしたことはないが、「跳躍者の時空」と「影の船」は傑作なので、日本語版を出したいところ。
 そう思って、いろんな出版社に話を持ちかけたのだが、色好い返事はもらえなかった。残念至極である(追記参照)。
 
 ちなみに本書は「マーゴ」に捧げられているが、これは詩が収録されているマーゴ・スキナーのこと。ライバー晩年の恋人で、ライバーが亡くなる少し前には正式に結婚している。(2005年4月24日)

【追記】
 のちにライバー傑作集「跳躍者の時空」(河出書房新社、2910)を編むことができた。本書とはコンセプトがちがうが、《ガミッチ》連作は、この時点で未訳だった「三倍ぶち猫」をふくめ、全作が収録されている。

2013.03.07 Thu » 『ファファードとわたし』

【前書き】
 以下は2005年4月23日に書いた記事である。誤解なきように。


 数日前に東京創元社からフリッツ・ライバーの『妖魔と二剣士』を頂戴した。23年ぶりに邦訳が出た《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの第4巻である。邦訳の出るのが待ち切れなくて、話自体は原書で読んでしまったが、浅倉久志氏の日本語で読めるかと思うと、嬉しくてしかたがない。
 あんまり嬉しいので、仕事が一段落したのをいいことに、ライバーのエッセイ集 Fafhrd & Me (Wildside Press, 1990) を読んだ。

2003-4-23 (fafhrd)

 本書は11篇収録のエッセイ集(うち邦訳があるのは2篇)。後半にH・P・ラヴクラフト関係の文章4篇がまとめられていて、本書の白眉といえるだろう。
 そのうちの2篇「怪奇小説のコペルニクス」と「ブラウン・ジェンキンとともに時空を巡る」は創土社版『ラヴクラフト全集』のⅠとⅣに邦訳があるが、読んだことのある人どころか、その存在を知っている人自体が少ないだろう。2篇とも非常に優れたラヴクラフト論であり、一貫して「科学をバックボーンにした宇宙的恐怖」の作家としてラヴクラフトを称揚している。
 だが、それ以上にすばらしいのが、“My Correspondence with Lovecraft”というエッセイ。晩年のラヴクラフトとの短い交友を綴ったものだが、ふたりの温かい人柄が伝わってきて、読んでいると非常に気持ちがいい。

 表題の“Fafhard & Me” は、《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの裏話を綴ったもの。ちなみに、大男の野蛮人ファファードのモデルはライバー自身で、家庭では「うちのファファード」と呼ばれていた由。シリーズ誕生秘話を語った1962年発表部分と、そこに書けなかった暗黒面を告白した1975年発表部分から成り、『妖魔と二剣士』収録の「星々の船」と「クォーモールの王族」については後者で触れられている。いろいろと面白いエピソードがあるのだが、長くなるのでまたの機会に。

 このほかでは、自伝的エッセイ“My Life and Writing” とユング心理学に基づいた幻想文学論“The Anima Archetype in Science Fantasy” が特に面白いし、ロバート・E・ハワードやE・R・バローズの《火星》シリーズに関する文章が読めるのも嬉しい。(2005年4月23日)