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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.06.11 Tue » 『地獄の地図作成者たち』

 《SF作家の自伝》シリーズ第4弾。ブライアン・W・オールディス&ハリー・ハリスン編 Hell's Cartographers (Harper & Row, 1975) である。これまでの3冊とはちがって、6人の自伝を集めたアンソロジーだ。

2009-9-25(Hell's)

 おかしな表題だが、これはキングズリー・エイミスのSF評論『地獄の新地図』(1960)を承けたもの。エイミスはSFの諷刺的側面を重視しており、SFをこう呼んだ。それなら、おれたちは地獄の地図作成者だ、というわけである。

 収録作家の顔ぶれと生年(と没年)を書いておこう(追記参照)。

ロバート・シルヴァーバーグ (1935-)
アルフレッド・ベスター (1913-1987)
ハリー・ハリスン (1925-)
デーモン・ナイト (1922-2002)
フレデリック・ポール (1919-)
ブライアン・オールディス (1925-)

 シルヴァーバーグがひとり飛びぬけて若く、40歳のときの自伝ということになるが、すでに巨匠だったし、内容も抜群に面白いのは特筆に値するだろう。

 さて、内容だが、この本を基に各作家の経歴が紹介されている。手っ取り早く中身を知りたい人は、以下を参照してもらいたい。

 シルヴァーバーグ 『いまひとたびの生』(ハヤカワ文庫SF)の浅倉久志による解説。『時間線を遡って』(創元SF文庫)の中村融による解説。
 ベスター 『虎よ、虎よ!』(ハヤカワ文庫SF)の浅倉久志による解説。『願い星、叶い星』(河出書房新社)の中村融による編者あとがき。
 ナイト 『ディオ』(青心社)の大野万紀による解説。
 ポール 『ゲイトウエイ』(ハヤカワ文庫SF)の中村融による解説。
 オールディス 『手で育てられた少年』(サンリオSF文庫)の山田和子による解説。

 ハリスンについてもあるのだろうが、思いつかない。(2009年9月25日)

【追記】
 その後、ハリスンが2012年に亡くなった。合掌。

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2013.06.10 Mon » 『人喰い鬼の伝記』

【前書き】
 このたび転居しました。ようやく身辺が落ち着いたので、ブログを再開します。心機一転といきたいところですが、〈SF作家の自伝〉シリーズが途中だったので、そのつづきからはじめます。なんだか締まらない話ですが、気にしないで行きましょう。それでは、今後ともよろしく。


 〈SF作家の自伝〉シリーズ。第3弾はピアズ・アンソニーの Bio of An Ogre (Ace, 1988) だ。ただし、当方が持っているのは、例によって翌年に同社から出たペーパーバック版だが。

2009-9-23(Bio of)

 なにしろ大ヒット作《魔法の国ザンス》シリーズの人なので、その1冊と見まがうような表紙絵がついている。表題の人喰い鬼とはアンソニー自身のこと。怒りっぽくて執念深い性格は自覚しているらしい。じっさい、かなりのトラブル・メーカーぶりである(もっとも、長いものに巻かれない性格ゆえで、かならずしもアンソニーが悪いわけではないようだが)。
 
 アンソニーは1934年生まれで、50歳までの半生を回顧したのが本書。けっこう波瀾万丈の生い立ちで、幼少のころはいじめられ通しだったという。その恨みつらみが克明に書かれているのがすごい。
 恨み節はさらにつづくが、圧巻はアメリカSF作家協会の大物(ロバート・シルヴァーバーグ!)や編集者をこきおろした部分。それでもユーモアを忘れないので、読んでいていやな気分にならないところはさすが。

 印象的なエピソードをひとつ。
 アンソニーの両親は内乱の渦中にあったスペインで救援活動に従事していた。1940年に父親がフランコ政権に逮捕され、国外退去を命じられた。アメリカへわたる航海中、ピアズ少年は6歳の誕生日を迎えた。おりからの物資不足で、テーブルに出されたのはおが屑でできたケーキ――
「砂糖衣で綺麗におおわれ、蝋燭が燃えていたのを憶えている。だが、いざ切り分けようとすると、みんなが変な顔をして、ケーキを持ち去った。そのときはどうしてか分からなかった。……ある意味で、あのケーキはわたしの幼年期を象徴しているように思える。しっかりした土台が、じつはおが屑でできていると分かってしまったのだ」

 ところで、人喰い鬼には「受けた恩義を忘れない」面もあることをアンソニーの名誉のために申し添えておこう。(2009年9月23日)

2013.05.26 Sun » 『わが心をW・H・スミスに埋めよ』

 《SF作家の自伝》シリーズ。第二弾はブライアン・オールディスの Bury My Heart at W. H. Smith's (Hoddedr and Stoughton, 1990) だ。ただし、当方が持っているのは、例によって翌年出たコロネット版のペーパーバックだが。

2009-9-20(Bury My Heart)

 オールディスは自分語りが好きな人なので、自伝めいたものはいくつも発表していたが、これは初の本格的自伝。1925年生まれなので、65歳のときの著作ということになる。
 この人は強面で気むずかしい文学者というイメージがあるが、そのむかし「腕白ブライアン」とあだ名されたほど剽軽で天衣無縫なところがあり、そのうえ辛辣でウィットに富むのだから、いろいろな意味で笑える本になっている。

 題名にあるW・H・スミスというのは書店の名前で、駆け出し時代の著者が通ったオクスフォードのお店。第二次大戦後、東南アジアから復員してきたオールディスは、この静かな大学街で書店勤めのかたわら作家修業をはじめた。そして同書店の安売りで買ったジョージ・R・スチュワートの『大地は永遠に』を読んだことから、生態学的なSFのアプローチに開眼したのだという。
 このころのエピソードでは、イーヴリン・ウォーが好もしくない客だった、というのが爆笑もの。後年のエピソードでは、1970年に日本で開かれた国際SFシンポジウムで同席した小松左京とハンガリーで再会するくだりが興味深い。

 続篇ともいえる著作に The Twinkling of an Eye or My Life as an Englishman: An Autobiogrphy (1998) があるが、そちらは未入手。(2009年9月20日)

【お知らせ】
 転居につき、当分のあいだ更新を停止します。落ち着いたら再開しますので、ひとまずさようなら。

2013.05.25 Sat » 『未来はこうだった――ある回想』

 《SF作家の自伝》シリーズ。第一弾は、生まれた順番でフレデリック・ポールの The Way the Future Was: A Memoir (Ballantine/Del Rey, 1978)。ただし、当方が持っているのは翌年に同社から出たペーパーバック版だが。

2009-9-19 (The Way Future)

 別刷りで写真が16ページついているのが嬉しい。

 この本を入手したときは、彼我のSF界の厚みを痛感させられた。SF作家の自伝が大手の出版社から出て、それがペーパーバックになるのだ。当時のわが国ではおよそ考えられないことだった。
 それから20年以上たって小松左京の自伝が出た。すこしは事態が好転したと思いたいが、これから自伝がふえるかどうかは予断を許さない。まあ、筒井康隆の自伝なら出そうだが、ほかの作家はどうだろう。立派な方がつぎつぎと亡くなっていくので、ぜひとも自伝を書き遺してもらいたいのだが(念のために書いておくが、ここで話題にしているのは自伝であって、評伝や自伝的小説ではない)。
 それにしても作家の自伝は面白い。変わった性格の人が多いうえに、記憶力と再現力が抜群なので、たいてい面白く読めてしまう。作品より面白い場合もすくなくない。

 おっと話がずれた。ポールは1919年生まれなので、今年90歳。つい不謹慎なことを考えてしまうが、この本を上梓したのは50代の終わり。功成り名を遂げた大御所が、青春時代(といっても、この人の場合、50歳くらいまでが青春なのだが)を回想した書ということになる。

 なにしろ、ファン、編集者、エージェント、作家、講演家、アメリカSF作家協会会長、はては親善使節と、SF界の役どころをひと通り演じてきているうえに、すべての面で高い評価を受けている人物だ。エピソードの面白さに加え、独特の饒舌体に乗せられて、一気に読了できる。

 なかでもおかしいのが、あるSF雑誌の不採用通知が立派だったので、それほしさに駄作と承知で投稿をくり返していた話。巨匠12、3歳のころのエピソードである。

蛇足
 豊田有恒の『あなたもSF作家になれるわけではない』を忘れていた。あれも自伝の一種といえるだろう。ほかにあれば教えてください。(2009年9月19日)

【追記】
 山岸真氏にいろいろと教えてもらった。許可を得て、そのコメントを転載する。深謝。

「横田順彌『横田順彌(ヨコジュン)のハチャハチャ青春記』。光瀬龍「ロン先生の青春記」は1940年代限定ですが、密度的には長篇自伝。豊田本がありなら、同じ雑誌に連載された矢野徹「あなたもSF翻訳家になれるわけではない」も(『矢野徹・SFの翻訳』として単行本化)。かんべむさし『むさしキャンパス記』や豊田有恒『日本SFアニメ創世記』はピンポイントすぎるか。夢枕獏も青春回想記みたいなのがあったかも」

2013.02.28 Thu » 『すばらしい新語世界』

 ときどき行く洋古書店が全品半額セールをやっていたので、ついつい買いこんでしまった。こういう機会でなければ買わない本ばかり。バーゲン・セールに群がる人たちのことをちっとも笑えないのである。

 そのうちの1冊が Brave New Words (Oxford University Press, 2007) 。題名の最後が World ではなく、Words であることが示すように、これはSF用語の辞書。小規模なSF用語集なら掃いて捨てるほどあるが、本書は大判ハードカヴァーで350ページ近い大冊。見出し、定義、用例(古い順に複数)と、形式も完璧にととのっている。ちなみにジーン・ウルフの序文つき。

2009-8-14 (Brave New)

 編者はジェフ・プルチャーという人だが、略歴を見ると学者ではないらしい。ということは趣味が高じてこんなものを作ったのか。世の中には奇特な人がいるものだ。

 The Stars My Definition という洒落た題名の序文によると、SFの辞書を作っていると聞かされた人の反応は、たいていふたつに分かれるそうだ。ひとつは「たくさんSFをお読みなんですねえ」と感心するか呆れるタイプ。もうひとつは、どの言葉が載っているのか知りたがるタイプ。
 後者については、熱心なファンなら“ansible”、もっとふつうの読者なら“cyberspace“、“grok”、“tardis”をあげることが多いらしい。

 試みにその“ansible”を引いてみると、アーシュラ・K・ル・グインの造語と注記したあと、どんな距離でも瞬時にして通信を可能にする装置という定義が載っている。そして用例として

1966年 ル・グィン『ロカノンの世界』
1977年 O・S・カード「エンダーのゲーム」(短篇版)
1988年 V・ヴィンジ Blabber
1995年 E・ムーン Winning Colors
2004年 I・スチュアート&J・コーヘン Heaven

からの引用が掲載されている。つまり、ル・グィンの造語が一般化していったことがきちんと跡づけられているわけだが、調査にどれだけの手間暇をかけたのか。想像するだけで気が遠くなる。いやはや、頭が下がるとはこのことだ。(2009年8月14日)


2013.01.13 Sun » 『タネローンの文書保管庫』

 書誌といえば、日ごろお世話になっているのが、リチャード・ビリヨウ編の The Tanelorn Archives (Pandora's Books, 1981) だ。
 これはカナダのファン出版社から出た本で、副題の A Primary and Secondary Bibliography of the works of Michael Moorcock 1949-1979 がすべてを物語っている。

2007-5-17 (Tanelorn)

 とにかく詳細きわまりない書誌で、その情報量には圧倒される。さらには書影も豊富で、眺めているだけでも楽しい。編者の熱意と努力にはほんとうに頭が下がる。

 序文によると、編者(アメリカ人)はジェリー・コーネリアスと自分を重ねているらしい。映画版 The Final Programme (1973) に登場したジェリー(表紙絵のギターを持っている人)と同じ服装をして、イギリス風のアクセントでしゃべっていたとか。このあたり、ムアコック受容のありかたが、わが国とはまったく異なっていることの証左である。
 
 ちなみに以前とりあげた The Time of the Hawklords は、共作あつかいではなく、「ムアコックに影響された小説」のセクションに記載されている。(2007年5月17日)

2013.01.12 Sat » 『アルジス・バドリス・チェックリスト』

 ついでにアルジス・バドリスの書誌も紹介しておく。ごく一部で有名なクリス・ドラムの出版物 An Algis Budrys Checklist だ。作成者はクリス・ドラム本人である。
 奥付にあたるページがないので、発行年は不明だが、最新データが1982年なので、そのころに出たのだと思う(追記参照)。

2008-6-4(Budrys 2)

 縦17.7センチ、横10.8センチ、全16ページのペラペラの小冊子。それでも索引が2ページ分あるところがすごい。ちなみに追加データの紙が1ページ分はさまっている。
 奥付はないが、表紙に発行所の住所が印刷されている。

 ワープロ普及前だったので、タイプ原稿をそのまま版下にして印刷し、紙を二つ折りにしてホッチキスで留めただけ。ISBNもはいっていない。
 ところどころ、手書きで追加訂正してあるのがほほえましい。本当に手作りなんだなあ。

2008-6-4(Budrys 1)

 文字がつぶれて、見づらいことおびただしいが、文句はいうまい。こういうリストを作ってくれるだけでありがたいのだ。持っていれば、なにかの役に立つにちがいない。といっても、まだ役に立ったことはないのだが。(2008年6月4日)

【追記】
 今回調べたら1983年刊という情報を得た。

2013.01.11 Fri » 『アンバーの夢――ロジャー・ゼラズニイ書誌』

 やはり1993年の世界SF大会で手に入れたのが、Amber Dreams A Roger Zelazny Bibliography (Underwood/Miller, 1983)だ。

2005-7-30 (Amber Dream)

 表題どおり、ロジャー・ゼラズニイの詳細をきわめる書誌。ソフトカヴァーとクロス装の2種があり、当方が持っているのは200部限定のクロス装豪華版。ゼラズニイと書誌作成者ダニエル・J・H・レヴァックの署名入りである。

2005-7-30 (Amber Dream 2)

 とにかく驚くばかりの情報量。おまけに単行本のあらゆるヴァージョン、初出雑誌の書影が満載。持っているだけで楽しい本だ。

 ちなみに日本版は『地獄のハイウェイ』、『伝道の書に捧げる薔薇』、『光の王』(海外SFノヴェルズ版)、『わが名はコンラッド』の書影が載っている。(2005年7月30日)

2013.01.10 Thu » 『窮極のSFガイド』

 1993年の世界SF大会(ConFrancisco)で手に入れたのが、イギリスの批評家デイヴィッド・プリングルの The Ultimate Guide to Scinece Fiction (Grafton, 1990)だ。

2005-7-31 (Ultimate)

 扉ページに著者サイン入り。もっとも、最初は落書きだと思ったのだが。

2005-7-31 (Ultimate 2)

 『窮極のSFガイド』とは大きく出たものだが、そう名乗りたくなるのも無理はない。なにしろ大判ハードカヴァーで400ページ。事典形式で3000以上の作品がとりあげられ、★の数(0から4)で採点されている上に、短評がついているのだから。

 とはいえ、タイトルがあがっていても短評のない場合もある。
 たとえば、シリーズものは第1作の評で全体について触れられているし、同一著者の短篇集は評が1つだけで、残りは「同傾向」とあっさり片づけられている。タイトルを引いたとき、前者はともかく、後者は騙されたような気分になる。

 しかし、労作であることはたしか。こんな莫迦な本は二度と出ないかもしれない。(2005年7月31日)

【追記】
 1995年に出た第二版では、ページ数は481、作品数は3500に増えたそうだ。内田昌之氏のご教示による。深謝。

2012.12.09 Sun » 『地球空洞説』

 ロスト・ワールドとか、地球空洞説とかいう言葉を聞くと、それだけで胸がワクワクしてくる。だから、この本が届いたときは仕事をほっぽりだして飛びついた。デイヴィッド・スタンディッシュというジャーナリストが書いたノンフィクション Hollow Earth (Da Capo Press, 2006) である。

2006-10-7(Hollow)

「地中にあるとされる想像上の異境、幻想的な生物、進歩した文明、奇蹟の機械にまつわる長く興味深い歴史」という長い副題からわかるとおり、地球空洞説の発生から現在までを丹念にたどった研究書。けっこう学術的な本で、トンデモ本のたぐいではない。

 章題を見れば、おおよその内容はわかるだろう――

1 空洞科学
2 シムズの穴
3 極地ゴシック――レイノルズとポオ
4 ジュール・ヴェルヌ――地質学の中心への旅
5 サイラス・ティードとコレシャニティ
6 空洞ユートピア、ロマンス、お子様向けの読み物
7 地球の核のエドガー・ライス・バロ-ズ
8 地球空洞説は生きている――邪悪なナチ、空飛ぶ円盤、スーパーマン、ニュー・エイジ・ユートピア

 ご覧のとおり、フィクションとノンフィクションが等価でとりあげられているのが特徴。とりわけ、いまは忘れられた地球空洞説に基づく小説を片っ端から紹介した6章は圧巻。プレSF史に興味がある当方としては、たいへん勉強になった。

 しかし、この姿勢が弱点になっている感は否めない。こういう題材は虚実の皮膜が薄いから面白いのであって、最初からフィクションだとわかっていると、それだけでワクワク感が減ってしまうのだ。
 題材からして読者を選ぶ本だが、この内容を喜ぶ読者はさらに限られるだろう。そのひとりであることを喜んでいいのやら悪いのやら……。(2006年10月7日)