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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.07.09 Tue » 『時間から出た物語』

【承前】
 つぎにとり寄せたのが、バーバラ・アイアスン編の Tales out of Time (1979, Faber & Faber) というアンソロジー。イギリスの図書館から出た廃棄本である。

2012-12-21 (Tales)

 序文や解説のいっさいない本だが、ラインナップや、アイアスンが編んだべつの本の情報と考えあわせると、どうやらヤング・アダルト向けの本のようだ。
 まず目次を書き写しておく。例によって、発表年と推定枚数を付す――

1 ポーリーののぞき穴  ジョン・ウィンダム '51 (60)
2 去りにし日々の光  ボブ・ショウ '66 (25)
3 時に境界なし  ジャック・フィニイ '62 (40)
4 アリスの教母さま  ウォルター・デ・ラ・メア '25 (65)
5 もののかたち  レイ・ブラッドベリ '48 (45)
6 Time Traveling  H・G・ウェルズ 1895 (15) *「タイム・マシン」からの抜粋
7 Blemish  ジョン・クリストファー '53 (25)
8 愛の手紙  ジャック・フィニイ '59 (35)
9 フォークナー氏のハロウィーン  オーガスト・ダーレス '59 (25)
10 Phantas  オリヴァー・オニオンズ '10 (45)
11 新加速剤  H・G・ウェルズ '01 (40)
12 Trying to Connect You  ジョン・ロウ・タウンゼンド '75 (35)
13 雷のような音  レイ・ブラッドベリ '52 (35)
14 死線  リチャード・マシスン '59 (15)

 4と12が児童文学畑の作品である。

 定番に珍しい作品を合わせた意欲的なラインナップ、といっていえないことはないが、フィニイ、ブラッドベリ、ウェルズと2篇ずつ選ばれている作家が3人もいるとあっては、やや安易な感は否めない。

当方のアンソロジーの選択候補になったのは7と10。結論からいえば、どちらも駄目だった。

 7はファースト・コンタクトもの。未来の地球に銀河連盟からの大使がやってきて、都市化・機械化の進みすぎた文明に失望するが、むかしながらの生活様式を守る変人たちの村に行きあたって……というお話。手塚治虫の漫画みたいだ。これは時間ものではなく、このアンソロジーのなかでは完全に浮いている。作品もたいしたことないが、それ以上に編者の選択に首をひねった。

 10は難破船にタイムスリップをからめた海洋奇談。かなり癖のある文章で、遭難者の錯乱した心理が克明に描写される。が、タイムスリップの仕掛けそのものは他愛ない。労多くして実りすくなしだ。

 せっかくなので12も読んでみたら、これは拾いものだった。
 恋人とひどい喧嘩をした青年が、なんとか彼女に連絡をつけようとする。いま謝らないと、彼女はローマへ飛んでいってしまい、今生の別れとなるからだ。
 しかし、青年はボートで運河を航行しており、あたりに電話というものがない。ようやく荒野のただなかに電話ボックスを見つけたが、回線がどうかしているらしく、なかなかつながらないし、つながってもトラブルつづきで恋人と話ができない。しかも、事故があったから電話をゆずってくれという人たちが、入れ替わり立ち替わりやってくるのだ。見たところ、事故など起きていないのだが……。
 これも一種のタイムスリップものだが、青年の焦燥感が如実に伝わってくる。さすがに『未知の来訪者』(岩波書店)という時間ものSFを書いた作者だけのことはある。
 もっとも、携帯電話が普及したいまとなっては、話そのものが成立しなくなっているかもしれないが。(2012年12月21日)


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2013.07.08 Mon » 『時間内の旅』

【前書き】
 今月の20日ごろ、拙編の新しいアンソロジーが出る。題して『時を生きる種族――ファンタスティック時間SF傑作選』(創元SF文庫)。版元のサイトでは、書影も収録作も公開されているので、とりあえずこちらをご覧ください(と書いたあと、「編者あとがき」も版元サイトに掲載された)。
 すでに当方の手を離れていて、あとは刊行を待つばかりだが、せっかくの機会なので、収録作関連の記事を公開する。


 企画中の時間SFアンソロジーだが、あいかわらず作品選びをつづけている。というのも、編集部と話し合った結果、全篇「本邦初訳&単行本初収録」作品で固めることになったからだ。
 そのためロバート・A・ハインライン「輪廻の蛇」とロッド・サーリング「フライト33 時間の旅」を見送ることになり、代わりの作品を探しているのである。

 そういうわけでロバート・シルヴァーバーグ編の時間SFアンソロジー Trips in Time (1977) をとり寄せた。初版はトマス・ネルスンから出たハードカヴァーだが、当方が買ったのは2009年にワイルドサイド・プレスから出たトレード・ペーパー版である。

2012-12-19 (Trips)

 収録作はつぎのとおり。例によって発表年と推定枚数も添えておく――

1 限りなき夏  クリストファー・プリースト  '76 (55)
2 王様のご用命  ロバート・シェクリイ  '53 (30)
3 Manna  ピーター・フィリップス  '49 (75)
4 The Long Remembering  ポール・アンダースン  '57 (35)
5 過去を変えようとした男  フリッツ・ライバー  '58 (20)
6 聖なる狂気  ロジャー・ゼラズニイ  '66 (20)
7 マグワンプ4  ロバート・シルヴァーバーグ  '59 (55)
8 Secret Rider  マータ・ランドール  '76 (70)
9 宇宙シーソー  A・E・ヴァン・ヴォート  '41 (35)
 
 編者はアンソロジストとして定評があるが、文学的野心に満ちた創作とはちがって、SFファン気質をまるだしにするところに特色がある。本書もその例にもれず、じつに手堅いアンソロジーになっている。このまま訳したら、初心者向けのいい入門書になりそうだ。

 それはさておき、こちらの作品選びの話にもどすと、上記に加え、さらに無版権という条件がつくので、選択の対象となるのは3、4、5、7の4篇である。

 じつは7が意中の作品だった。ユーモアものがほしいところだったし、「輪廻の蛇」がラインナップからはずれたので、時間ループものが許されるようになったからだ。
 そこで原文で読みなおし、これは復活させる価値があると確信したので、当方のアンソロジーに収録することに決めた。既訳は浅倉さんの手になるものなので、なんの問題もない。
 
 4にも期待をかけていたのだが、こちらはいまひとつだった。過去の人間に精神を乗り移らせる形での時間旅行をあつかったもので、迷信に満ちみちた原始人の野蛮な生活が描かれる。とにかく、原始人に関するロマンティックな幻想を打ち砕くことを目的としており、読んでいてつらい。

 5は《改変戦争》シリーズに属すアイデア・ストーリー。語りのうまさで読ませる作品だが、これを復活させるよりは、同シリーズに属す未訳作品を採ったほうがいい。

 3は中世の修道院に出没する幽霊と時間旅行をからめた作品。前に読んでまったく面白くなかったので、今回は読みなおさなかった。

 というわけで、「マグワンプ4」を選べたのでよかった。(2012年12月19日)


2013.07.01 Mon » 『無限への手先』

【承前】
 セイバーヘーゲン追悼シリーズその3は、またまた変化球で、故人が夫人ジョーンとともに編んだアンソロジー。チェスをテーマにSFとファンタシーを集めた Pawn to Infinity (Ace, 1982) である。

2007-7-9(Pawns)

 表題はわざと直訳したが、pawn はもちろんチェスの駒を意味する。
 もちろん、じっさいにチェスを指す作品が大半だが、チェス的なゲーム、あるいは状況ということで選ばれた作品もある。
 収録作品は13篇。興味深い内容なので、目次を書き写しておこう――

1 The Marvelous Brass Chess Playing Automaton  ジーン・ウルフ
2 ユニコーン・ヴァリエーション  ロジャー・ゼラズニイ
3 The Immortal Game  ポール・アンダースン
4 モーフィー時計の午前零時  フリッツ・ライバー
5 Unsound Variations  G・R・R・マーティン
6 A Game of Vlet  ジョアナ・ラス
7 無思考ゲーム  フレッド・セイバーヘーゲン
8 A Board in the Other Direction  ルース・バーマン
9 ヴォン・グームの手  ヴィクター・コントスキー
10 Kokomu  ダニエル・ギルバート
11 モクソンの人形  アンブローズ・ビアス
12 Rendevous 2062  ロバート・フレイジャー
13 Reflections on the Looking Glass: An Essay  アルフレッド・スチュアート 

 このうち最後のふたつは、それぞれ詩とエッセイ。ライバーの短篇は、将棋雑誌に邦訳があるそうだが、未見(追記1参照)。

 小説に関しては、定番を抑えたうえで、珍しい作品を拾っており、編者のやる気が伝わってくる。
 もっとも、アンダースンの作品のように、チェスのアンソロジーにはいっているというだけで、結末が読めてしまう例もあるが。作品自体はなかなかの出来なので、ちょっと勿体ない。(追記2参照)

 ちなみに、マーティンのノヴェラは、近刊予定のマーティン短篇集『洋梨形の男』に入れる。ホラー風味のSFで、いやーな感じの秀作なので、乞御期待。早く出せるように、がんばらないとなー。(追記3参照)(2007年7月6日)

【追記1】
 この後、チェスをテーマにした若島正編のアンソロジー『モーフィー時計の午前零時』(国書刊行会、2009)が刊行され、この邦訳が収録された。同書はセイーバーヘーゲン夫妻のアンソロジーを踏まえており、1が「素晴らしき真鍮自動チェス機械」として邦訳されたほか、2と9も編者によって新訳された。訳題はそれぞれ「ユニコーン・ヴァリエーション」、「必殺の新戦法」である。

【追記2】
 この記述は当方の不明のなせる業だった。表題の「不滅のゲーム」とは、1851年に行われたチェス史上有名な対局を指し、この小説はその棋譜をなぞっているのだという。竹岡啓氏のご教示による。深謝。

【追記3】
 上述どおり、「成立しないヴァリエーション」としてマーティン傑作集『洋梨形の男』(河出書房新社、2009)に訳出できた。


2013.06.30 Sun » 『バーサーカー基地』

【承前】
 セイバーヘーゲンといえば《バーサーカー》だが、当方が原書で読んだのは The Ultimate Enemy (Ace, 1979) だけ。これは『バーサーカー/星のオルフェ』(ハヤカワ文庫SF)として邦訳が出たので、わざわざ紹介するまでもない。しかたがないので、変化球で行くことにした。

 というわけで、Berserker Base (Tor, 1985) である。もっとも、当方が持っているのは、例によって87年に出たペーパーバック版だが。

2007-7-7 (Berserker Base)

 目次を見ても、本文を見ても長篇小説としか思えないのだが、この本、じつは一種のアンソロジーである。セイバーヘーゲンの原案のもと、六人の作家が新作を書き、そのあいだをセイバーヘーゲンのブリッジがつないだ擬似長篇。当時大流行していたシェアード・ワールドものの一環なのだ。

 作品を寄せた作家は、順にスティーヴン・ドナルドスン、コニー・ウィリス、ロジャー・ゼラズニイ、ポール・アンダースン、エド・ブライアント、ラリー・ニーヴン。このうちニーヴンの短篇は「『涙滴』墜つ」として邦訳がある。

 ゼラズニイやアンダースンのように、いかにもという名前があるいっぽう、ウィリスやドナルドスンのように意外な名前もある。前者は同郷(ニューメキシコ州)のよしみだろうが、後者はどういう縁があったのだろう。ご存じのかたは教えてください。

 さて、内容のほうだが、バーサカーの基地がついに発見され、そこで地球人との戦いが繰り広げられる話らしい。たぶん永久に読まないだろう。こういう本は、持っているだけでいいのである。(2007年7月7日)

2013.06.27 Thu » 『星々に立ち向かう人間』

 マーティン・グリーンバーグの編んだアンソロジーを紹介しよう。といっても、昨日とりあげた本の編者とは別人である。あちらが Martin H(arry) Greenberg (1941-2011) であるのに対し、こちらは Martin (L.) Greenberg (1918-) なのだ。今年95歳で、存命らしい。
 
 こちらのグリーンバーグは、SFファン出版社の濫觴のひとつ、ノーム・プレスの創始者として名高い。もとも熱心なSFファンだったが、第二次世界大戦後、復員して出版業界に身を投じ、ついには友人のデイヴィッド・カイルとともに出版社を興したのだ。戦前に発表されたSFやファンタシーが、パルプ雑誌に載ったきり、消えていきそうな事態を憂慮してのことだった。

 ノーム・プレスは1948年に創立され、SF/ファンタシー史に残る作品をいくつも刊行した。たとえば、アイザック・アシモフの《銀河帝国の興亡》3部作、アーサー・C・クラークの『銀河帝国の崩壊』、ロバート・E・ハワードの《コナン》シリーズ全7巻などだ。が、その詳細についてはべつの機会にゆずるとして、話を先へ進める。

 SFファンあがりだけあって、グリーンバーグはアンソロジーの編纂にも意欲を見せ、全部で8冊を世に問うた。その嚆矢が宇宙SF12篇にウィリー・レイの序文を合わせた Men against the Stars (Gnome Press, 1950) だ。
 好評だったのか、同書は翌年にグレイスン&グレイスンという出版社から収録作を8篇に減らし、配列を大幅に変えた普及版ハードカヴァーが出た。さらに1956年には、収録作を9篇に減らしたペーパーバック版が、ピラミッドから刊行された。当方が持っているのは、1963年に出たその2刷である。

2013-6-23 (Men 1)

 収録作はつぎのとおり。例によって発表年と推定枚数を付す――

1 Men against the Stars  マンリー・ウェイド・ウェルマン  '38 (50)
2 赤い死  ロバート・ムーア・ウィリアムズ  '40 (60)
3 金星サバイバル  ルイス・パジェット  '43 (75)
4 スケジュール  ハリー・ウォルトン  '45 (45)
5 遥かなるケンタウルス  A・E・ヴァン・ヴォート  '44 (55)
6 Cold Front  ハル・クレメント  '46 (45)
7 考える葦  マレー・ラインスター  '46 (45)
8 Competition  E・M・ハル  '43 (60)
9 影の落ちるとき  L・ロン・ハバード  '48 (40)

 面白いのは、目次から8と9が落ちてしまっていること。これもノートに目次を書き写したあと、各作品のページ数を数えようとしていたときに気がついて、びっくりした例である。

2013-6-23 (Men 2)
 
 1は作者の名前からは想像がつかない宇宙開発もの。有人宇宙ステーションの業務をリアルに描いているが、それが仇となって時代遅れがはなはだしい。
 ほかの作品もそれは同じで、ノスタルジーの対象でしかないだろう。

 もっとも、2は個人的に愛着があるので紹介しておこう。
 これは探検隊が火星で怪異に遭遇するホラーSF。エネルギーを吸いとる結晶/ガス状生物が出てくる。ホラーSF傑作選と銘打ったアンソロジー『影が行く』を編んだとき候補に入れたが、クラーク・アシュトン・スミスの傑作「ヨー・ヴォムヴィスの地下墓地」と似ているので落としたという経緯がある。(2013年6月23日)

2013.05.01 Wed » 『アルファ5』

 はじめて買った洋書は、ロバート・シルヴァーバーグの編んだ Alpha 5 (Ballantine, 1974) というアンソロジーだった。
 中学卒業のお祝いに名古屋の丸善に連れていってもらった。生まれてはじめて洋書屋へ行ったわけで、きっと山のように貴重なSFがあるのだろうと思っていた。しかし、回転ラックひとつ分しかなく、『宇宙のランデヴー』が目につくくらいで、がっかりしたことを憶えている。それでも気をとり直して買ったのがこの本だ。

2007-7-29(Alpha 5)

 参考までに目次を書き写しておく――

スターピット  サミュエル・R・ディレイニー
やっぱりきみは最高だ  ケイト・ウィルヘルム
Live, from Berchtesgaden  ジオ・アレック・エフィンジャー
存在の環  P・スカイラー・ミラー
追憶売ります  フィリップ・K・ディック
過去ふたたび  フリッツ・ライバー
A Man Must Die  ジョン・クルート
The Skills of Xanadu  シオドア・スタージョン
特別な朝  ガードナー・ドゾワ

 ちなみに上記の作品のなかで、当時邦訳があったのは、ミラーとディックの作品だけである。
 
 見てのとおり、スペキュラティヴ・フィクション主体の選定で、マニア気どりの若造が、いかにも喜びそうなラインナップ。勇んで買って帰ったはいいが、当然ながら歯が立つわけがなく、けっきょく読みかけては放りだしを繰り返した。
 そして3年後、ふと思いたってライバーの作品を読みはじめたら、最後まで読めてしまったのだ。つまり、それが最初に読み通した英語の小説なのである。

 それにしても、この目次をながめると、当方はこの本の強い影響下にあるようだ。その証拠にウィルヘルムの作品は、山岸真氏と共編したアンソロジー『20世紀SF③ 1960年代 砂の檻』(河出文庫)に収録したし、ドゾワの作品は同人誌に訳出して、その改訳版を〈SFマガジン〉に載せてもらった。まさに「三つ子の魂百まで」である。(2007年7月29日)

2013.04.18 Thu » 『テリーの宇宙』

 偉大なSF編集者の追悼アンソロジーをもう1冊。ベス・ミーチャム編 Terry's Universe (Tor, 1988) である。もっとも、当方が持っているのは、例によって翌年に出たペーパーバック版だが。

2009-2-14(Terry's)

 これは前年の4月に亡くなったテリー・カーの追悼企画。夫の死後、財政的に困窮していた未亡人キャロルを援助するねらいもあり、利益はすべて彼女に贈られるという。

 テリー・カーの業績について書きはじめると、この日記10回分を費やしても足りないので、アンソロジスト・編集者としてSF界に多大な貢献をした人とだけ書いておく。キャンベルが1940~50年代にかけてのナンバー1雑誌編集者なら、カーは1970~80年代にかけてのナンバー1書籍編集者といえるかもしれない。
 ちなみにカーは70年代に《ユニヴァース》というオリジナル・アンソロジーを年1冊のペースで刊行していた。本書の題名は、それをかけているのだろう。

 編者のベス・ミーチャムは、SFファンあがりの編集者。エースでパワーズの『アヌビスの門』などを出したあと、トアに移ってベアの『ブラッド・ミュージック』やカードの『エンダーのゲーム』などを世に出した。この人自身なかなかの名編集者だ。
 故人からじかに薫陶を受けており、その思い出をつづった序文は感動的である。

 さて、内容だが、作家としても活動していた故人の代表的短篇「変身の祭り」(1968)が再録されているほか、ゆかりの作家11人が新作を書き下ろし、原稿を落としたハーラン・エリスンが跋文を寄せている。

 残念ながら「変身の祭り」以外に邦訳はないので、作家の名前だけならべる――

ロバート・シルヴァーバーグ、アーシュラ・K・ル・グィン、フリッツ・ライバー、ケイト・ウィルヘルム、カーター・ショルツ、マイクル・スワンウィック、R・A・ラファティ、キム・スタンリー・ロビンスン、ロジャー・ゼラズニー、ジーン・ウルフ、グレゴリー・ベンフォード

 なんとも豪華だが、作品の出来はいまひとつ。どこかの書評で「ショルツとウィルヘルムの作品をのぞけば、故人の思い出を汚すものばかり」と書かれたくらいだ。
 そのなかで多少ましなのがシルヴァ-バーグの“House of Bones” 。タイムマシンの故障でネアンデルタール人の世界にとり残された人類学者が、彼らの部族に受け入れられるまでの物語。甘めのメロドラマだが、当方は好きだ。(2009年2月14日)


2013.04.16 Tue » 『仰天』

 アルフレッド・ベスターの短篇“Something Up There Likes Me”は、最初ハリイ・ハリスンが編んだオリジナル・アンソロジーで読んだ。Astounding: John W. Campbell Memorial Anthology (Random House, 1973) である。ただし、当方が持っているのは翌年バランタインから出たペーパーバック版だが。

2009-2-12 (Ast)

 題名でおわかりのとおり、1971年に亡くなった〈アスタウンディング/アナログ〉の名物編集長ジョン・W・キャンベルの追悼企画。この種のトリビュート・アンソロジーとしては、SF界ではこれが嚆矢だったのではないだろうか。
 ちなみにハリスンは、キャンベルが〈アナログ〉の編集長を譲ろうと考えたこともある人物で、キャンベルの編集前記の傑作選も編んでいる。当を得た人選といえるだろう。
 
 表紙絵は、ロック・バンドのクィーンがこれを修正したものをアルバム『世界に捧ぐ』のジャケットに使ったので、ものすごく有名だが、もともとは〈アスタウンディング〉1953年10月号の表紙を飾ったもの。画家は当時の新鋭ケリー・フリースである。フリースは本書に描きおろしのイラストを作品毎に寄せているが、スキャナーが不調でご覧にいれられない。残念。

 なにしろ、1940年代に主要なSF作家を育てあげた人だけあって、執筆陣は豪華。しかも、多くの者がキャンベルとの思い出を語った前書きを寄せ、キャンベルとゆかりの深いシリーズものの新作を書き下ろすという形になっている。こういう内容だ――

Introduction: The Father of Science Fiction  アイザック・アシモフ
Lodestar  ポール・アンダースン  《宇宙商人ニコラス・ヴァン・リーン》
「チオチモリン、星へ行く」 アイザック・アシモフ  《チオチモリン》
Something Up There Likes Me  アルフレッド・ベスター
Lecture Demonstration  ハル・クレメント  《メスクリン》
Early Bird  シオドア・R・コグスウェル&シオドア・L・トーマス  《カート・ディクスン》
The Emperor's Fan  L・スプレイグ・ディ・キャンプ  《ノヴァリア》
「兄弟たち」 ゴードン・R・ディクスン  《ドルセイ》
The Mothballed Spaceship  ハリイ・ハリスン  《死の世界》
Black Sheep Astray  マック・レナルズ
「終章」 クリフォード・D・シマック  《都市》
Interlude  ジョージ・O・スミス  《金星等辺中継ステーション》
「ヘリックス・ザ・キャット」 シオドア・スタージョン 
Probability Zero: The Population Implosion  シオドア・R・コグスウェル

 スタージョンの作品は、30年近く前キャンベルに没にされたものの蔵出し。最後の作品は、かつての〈アスタウンディング〉に「蓋然性ゼロ」と題するショート・ショートのコーナーがあったのを再現したものだそうだ。

 先に「執筆陣は豪華」と書いたが、わが国ではマイナーな名前がけっこう混じっている。このあたり、彼我の評価の差であろう(マック・レナルズなど最たる例で、アチラではSF史をひもとけば必ず出てくる名前だが、コチラでの知名度は非常に低い)。
 もっとも、ロバート・A・ハインラインやA・E・ヴァン・ヴォートの名前がないので、オールスターといえないのはたしかだが。(2009年2月12日)

【追記】
 アルフレッド・ベスター関連で書いた記事(こちらを参照)だが、今回はケリー・フリースつながりで公開した。

2013.03.02 Sat » 『空想科学小説的恐龍』

 昨日のつづき。
 チャールズ・G・ウォーとマーティン・H・グリーンバーグがロバート・シルヴァーバーグと組んで編んだ恐竜テーマのアンソロジーに The Science Fictional Dinosaur (Avon/Flare, 1982) というのがある。これも引っぱりだしてきた。

2008-12-4(Dinosaur)

 収録作はつぎのとおり――

コウモリの翼  ポール・アッシュ
The Ever-Branching Tree  ハリイ・ハリスン
When Time Was New  ロバート・F・ヤング
哀れ小さき戦士!  ブライアン・オールディス
狩人の日  アイザック・アシモフ
Hermes to the Ages  フレデリック・D・ゴットフリード
父の彫像  アイザック・アシモフ
Wildcat  ポール・アンダ-スン
われら竜脚類の聖母  ロバート・シルヴァーバーグ

 このあと簡単な恐竜百科が17ページ、参考図書リストが2ページついている。

 さて、このなかからヤングの作品を当方のアンソロジーに採ろうと思っている。
 時間旅行と恐竜と火星人がからむ作品で、のちに書きのばされ Eridahn (1983) という長篇になった。とりたてて優れた作品ではないが、「ロマンティック時間SF傑作選」に「たんぽぽ娘」の作者の名前は欠かせないだろう(追記参照)。

 未訳のなかではハリスンの短篇が面白い。
 タイムマシンが実用化され、小学生の教育にも活用されている時代。今日は生命発生の場面、魚がはじめて陸にあがった場面など、生物進化の重大局面を見学するツアーだ。しかし、子供たちはいっこうに興味を示さず、教師はやる気をなくすのだった、という皮肉な一篇。

 アンダースンの作品は、アラスカに出稼ぎに行くような感じで、ジュラ紀の石油プラントに出稼ぎに行く労働者たちの話で、ちょっと期待はずれだった。(2008年12月4日)

【追記】
 上記ヤングの作品は「時が新しかったころ」として、『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫、2009)に収録された。
 

2013.03.01 Fri » 『恋愛3000年』

【前書き】
 以下は2008年12月3日に書いた記事である。誤解なきように。


 わけあってチャールズ・ウォー&マーティン・H・グリーンバーグ編のアンソロジー Love 3000 (Elsevier/Nelson, 1980) を書棚から引っぱりだしてきた。
 ふだん縁のない出版社の本だが、表紙からすると、ロマンス専門のレーヴェルではないだろか。本の造りが、明らかに女性向けなのだ。まあ、この方面には疎いので、憶測はこれくらいにしておこう。

2008-12-3(Love)

 編者のウォー&グリーンバーグは、主にアシモフをはじめとする有名作家と組んで、70年代から現在にいたるまでアンソロジーを大量生産している工場管理者(追記1参照)。この本は珍しくふたりだけの編集で、しかもウォーの名前が先にきている。とすると、ウォーが主体で作られたのだろう。

 表題を見ればわかるとおり、恋愛をテーマにしたSFのアンソロジー。全体は3部に分かれていて、収録作はつぎのとおり――

〈恋愛と時間〉
時の娘 チャールズ・L・ハーネス
チャリティからのメッセージ ウィリアム・M・リー
When You Hear the Tone トマス・N・スコーシア
〈恋愛と科学技術〉
Share Alike ダニエル・F・ギャルイ
The Littlest People レイモンド・E・バンクス
四次元フープ ジョン・D・マクドナルド
〈恋愛と異世界〉
人間の負う重荷 ロバート・シェクリイ
Home the Hard Way リチャード・M・マッケナ
鉛の兵隊 ジョーン・D・ヴィンジ

 邦訳されたものは、さすがに水準が高いが、未訳の作品は一枚落ちる。なかではスコーシアの作品がちょっといい。
 電話の混線で未来の女性と話をするようになった男。何年かにいちど電話が来るのだが、そのたびに女は若くなっている。とすると、時間の逆行しているべつの宇宙と通じているのか。そしてふたりの時間が交錯したとき……。
 
 さて、この本を引っぱりだした理由も書いておこう。
 じつは、懸案だったアンソロジー企画がようやく動きだして、その原文テクストをコピーするためなのだ。テーマは「ロマンティック時間SF傑作選」。本書からはハーネスとリーの作品を採り、後者は新訳を起こす予定。乞御期待(追記2参照)。(2008年12月3日)

【追記1】
 マーティン・H・グリーンバーグは2011年6月25日に亡くなった。合掌。

【追記2】
 無事に『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫、2009)として刊行された。後者は「チャリティのことづて」という訳題に変わった。