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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.04.24 Tue » 『これぞわたし、ジャック・ヴァンスだ!』

 うれしい本が届いた。ジャック・ヴァンスの自伝 This Is Me, Jack Vance! (Subterranean, 2009) だ。副題に( Or, More Properly, This Is “I”) とあるのがおかしい。

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 40ドルという値段からして大部の本を想像していたのだが、予想よりだいぶ薄い。これはブラッドベリやクラークの伝記を基に予想した当方が愚かだった。部数がひと桁ちがうんだろうなあ。
 本文は192ページで終わっていて、あとは付録。写真セクションが14ページある。はじめて見る写真ばかりで、これからじっくり見る。

 最後のほうを見たら、ヴァンスが影響を受けた作家の名前をあげていた。C・L・ムーア、クラーク・アシュトン・スミス、P・G・ウッドハウス、ジェフリー・ファーノル、エドガー・ライス・バローズ、ロード・ダンセイニ、フランク・L・ボーム。他人とは思えません。(2009年9月17日)


2012.04.23 Mon » 『竜を駆る種族』

 辰年にちなんで、ジャック・ヴァンスの The Dragon Masters (Ace, 1963) を紹介したい。東洋の龍と西洋のドラゴンはほとんど別ものだが、細かいことは気にしないでいこう。

 初版本はエースのダブルの片割れで、反対側は同じヴァンスの The Five Gold Bands (1953) というノヴェラ。後者は典型的なスペースオペラだが、ヴァンス作品のなかでも最低を争う出来なので、内容にはあえて触れないでおく。ただ、この版の表紙がなかなかいいので、画像は紹介しておこう。資料によると、エドワード・ヴァリガースキーという人の絵だそうだ。

2012-1-5 (Dragon Masters)2012-1-5 (Five Golden)

 さて、話を The Dragon Masters にもどすと、迫力満点の表紙絵はジャック・ゴーハンの筆になるもの。麗々しく「ヒューゴー賞長篇賞受賞作」と刷ってあるが、これはまちがい。当時のヒューゴー賞は長篇部門と短篇部門しかなかったので、300枚のノヴェラが短篇賞をとったのである。おそらくヒューゴー賞史上最長の短篇だと思う。ちなみに、同年(1963)の長篇賞はフィリップ・K・ディックの『高い城の男』が獲得した。

 周知のとおり、この本は『竜を駆る種族』(ハヤカワ文庫SF)として浅倉久志訳が出ている。数ある浅倉訳のなかでも屈指の名訳といっていい。浅倉さん本人にとっても愛着の深い翻訳だったようで、そのあたりの事情は2006年に出た新装版のあとがきにくわしい。

 そこでも触れられているとおり、作中に出てくる竜の名前の翻訳がすごい。いくつか例をあげよう――

Termagant 羅刹(ラセツ)
Long-horned Murderer 一角竜(イッカクリュウ)
Striding Murderer 韋駄天(イダテン)
Blue Horror 青面夜叉(ショウメンヤシャ)
Fiend 阿修羅(アシュラ)
Jugger 金剛(コンゴウ)

 ヴァンスの場合、見慣れない言葉があっても、それは造語ではなく、辞書を引けば載っている言葉である。浅倉さんは、仏典にある言葉を探してくることで、ヴァンスの方法論を日本語に応用したわけだ。これが翻訳家になって2年そこそこ、35、6歳のときの仕事なのだから、わが身をかえりみてため息をつくしかない。(2012年1月5日)


2012.04.22 Sun » 『スペース・オペラ』

 白石朗といえば、いまやスティーヴン・キングやジョン・グリシャムの翻訳家として、エンターテインメント翻訳の世界における大御所のひとりだが、この道30数年におよぶ筋金入りのヴァンス・ファンでもある。その白石氏も当然ながら〈ヴァンス・コレクション〉に参画するのだが、選んだのがよりによって Space Opera (Pyramid, 1965) なのだから人を食っている。

2011-11-24(Space Opera)

 これは文字どおりスペース・オペラの話。つまり、宇宙歌劇の話なのだ。

 文明が爛熟した未来。大富豪の有閑マダムが、辺境の異星人にも地球文化のすばらしさを教えようと思いたつ。そのためには歌劇団を仕立て、宇宙船で銀河各地を飛びまわればいい――というわけで、喜び勇んで旅に出たはいいが、行く先々でひどい目に遭うというドタバタ・コメディ。『竜を駆る種族』や『奇跡なす者たち』でヴァンス・ファンになった人が読んだら、びっくりして目をまわしそうな作品だ。

 当方が持っているのは初版。画家はジョン・ショーンハーである。
 それにしてもペーパーバックで143ページ。邦訳して380枚といったところ。むかしの娯楽小説は、これくらいの長さがスタンダードだったのだ。隔世の感とはこのことか。(2011年11月24日)



2012.04.21 Sat » 『マグナス・リドルフの数多の世界』

 前述〈ヴァンス・コレクション〉のうち、酒井昭伸氏は連作短篇集 The Complete Magnus Ridolph (Undrwood-Miller, 1985) を担当される。

 これはマグナス・リドルフという宇宙のトラブル・シューターを主人公とするドタバタSFミステリ・シリーズをまとめたもの。全10篇のうち「ココドの戦士」と「とどめの一撃{クー・ドグラース}」は邦訳があるので、その作風をご存じの方もあるだろう(追記参照)。
 ヴァンスは敬愛する作家としてP・G・ウッドハウスの名をあげているが、その面がよく出た作品群だ。ジョージ・R・R・マーティンの《タフの方舟》シリーズに強い影響をあたえた作品でもあり、これの邦訳が出ればわが国におけるヴァンス評価もすこし変わると思う。

 じつはこのシリーズ、ヴァンス最初期の作品群であり、原稿料の安さに耐えかねて、作者がE・S・ガードナーばりの量産をめざした時期に書かれた作品が多い。つまり、初稿のみで雑誌に発表していた書きとばしである。だが、ヴァンスは本来文章に凝る作家なので、すぐにこのやり方に見切りをつけたという経緯がある。
 そのため作者は出来映えに不満があったらしく、シリーズを本にまとめるとき、特に出来の悪い作品は最初のうち収録せずにいた。
 
 したがって、《マグナス・リドルフ》シリーズは、大別して3種類の本になっている。
 最初が1966年にエースのダブルとして出た The Many Worlds of Magnus Ridolph で、全6篇収録。邦訳のある2篇はこれにはいっている。

 つぎが1980年にDAWから出た同題の本。配列は変えずに、うしろに2篇を増補している。当方が持っている本はこれである(画像参照。画題は「ココドの戦士」で、画家はデイヴィッド・ラッセルとのこと)。 

2011-11-23(Many Worlds)
 
 最後が前述のアンダーウッド・ミラー版で、残りの2篇を追加したほか、作者の「あとがき」が収録されている。
 ヴァンスのファンは熱狂的な人が多いので、どんな不出来なものでも読みたいという声が大きく、作者も押し切られた形である。(2011年11月23日)

【追記】
 この後「蛩鬼{きょうき}乱舞」が〈SFマガジン〉2012年4月号に酒井昭伸氏の訳で掲載された。
 文中、{ }でくくった部分はルビを意味する。



2012.04.20 Fri » 『天界の眼』

 ヴァンスの短篇集『奇跡なす者たち』の解説で酒井昭伸氏が書かれているとおり、版元の国書刊行会では〈ヴァンス・コレクション〉という叢書を企画している。その内容を公開してもいいというお許しをもらったので、そのことを書いてみたい。
 もっとも、企画は確定していないので、そのとおりになるとはかぎらないが。

 いまのところ3冊出るのは確実で、そのうちの1冊を当方が担当する。ものは The Eyes of the Overworld (Ace, 1966) だ。
 当方は最初1972年にイギリスで出たグラナダ/メイフラワー版の2刷(1975)を手に入れ、つぎに1977年に出たポケット・ブックス版を手に入れたが、やっぱりエース版がほしくて、けっきょく初版を買った。それくらいこの本に惚れこんでいるのである。

 これは数十億年の未来を舞台にしたカラフルなファンタシー〈滅びゆく地球〉シリーズの第二作。第一作は『終末期の赤い地球』(久保書店)として邦訳が出ているが、設定が共通するだけで、話が連続しているわけではない。つまり、この第二作だけ読んでもいいわけだ。
 
 当方は30年前からこの作品の面白さを喧伝してきた。最初に文章を発表したのは1982年。ローラリアスというファン・グループがSF大会向けに発行したヒロイック・ファンタシー啓蒙ファンジン『ローラリアス別冊 Book of HF』(奥付1982年8月14日)で第二次世界大戦後の〈剣と魔法〉というお題をあたえられたとき、その一番手として〈滅びゆく地球〉シリーズをとりあげたのだ。

 つぎは雑誌〈幻想文学〉19号がヒロイック・ファンタシー特集を組んだ1987年。このときは未訳の〈剣と魔法〉を紹介しろというお題をあたえられて、やはり The Eyes of the Overworld を大々的にとりあげたのだった。

 そのあとはだいぶ飛んで、『不死鳥の剣――剣と魔法の物語傑作選』(河出文庫)というアンソロジーを編んだ2003年。このときは連作長篇 The Eyes of the Overworld の第一話を「天界の眼」の題で訳出した。

 もちろん、これらを読んだ人はすくないだろうから、影響力があったとは思えない。それでも自分の手で邦訳を出せるチャンスがめぐってきたのだから、まさに虚仮の一念だ。

 じつは、もっと早い時期に浅倉久志訳が出てほしいと思っていたので、正直いうと複雑な心境。だが、いまは幸運を噛みしめるべきだろう。

 ところで、本の内容については今回あえて触れなかった。近いうちに現物をお目にかけるので、ぜひそちらをお読みいただきたい。

2011-11-21(Eyes 1)

(上)エース版。画家はジャック・ゴーハン。まんなかの人物が主人公キューゲルで、手に持っているのは〈森羅万象〉。さる魔術師がたいへんな苦労の末、この世に呼び出したのだが、キューゲルがその苦労を無にしてしまう。


2011-11-21(Eyes 2)

(上)グラナダ版。有翼の魔物が檻をさげているが、そのなかにはいっているが主人公。


2011-11-21(Eyes 3)

(上)ポケット版。舟の上で驚いているのが主人公。となりは、あっさり見捨てられる気の毒なヒロイン。(2011年11月21日)




2012.04.18 Wed » 『保護色その他の短篇』

 まずはお詫びから。
 昨日、「奇跡なす者たち」に材をとったジャック・ゴーハンの絵を紹介するという意味のことを書いたが、そんな絵はなかった。この作品を収録した Fantasms and Magics (1978) という短篇集と、今回とりあげようと思った短篇集の収録作に重複があったため、両者を混同していて、後者の表紙絵を「奇跡なす者たち」を描いたものだと勘違いしていたのだ。
 記憶だけに頼り、確認を怠ったために生じた失敗である。深く反省するしだい。お詫びに「月の蛾」のイラストもスキャンしたので、お許しあれ。

2011-9-23 (Moon Moth)

 さて、紹介しようと思った短篇集は The World Between and Other Stories (Ace, 1965) だ。エース・ダブルの一冊で、カップリングはおなじヴァンスの連作集 Monsters in Orbit (Ace, 1965)。

2011-9-23 (The World Between)
 
 まずは目次をかかげる。例によって発表年と推定枚数も書いておく――

保護色  '53 (90)
月の蛾   '61 (100)
新しい元首  '51 (70)
悪魔のいる惑星  '55 (65)
無因果世界  '57 (25)

 問題の表紙絵は、表題作「保護色」に材をとったもの。これはエコロジーSFのはしりのような作品で、生物進化を加速させて兵器を作りだし、それで戦争をする話。じつは「奇跡なす者たち」にもまったく同じ要素があり、それが混同の原因になったと思われる。甲冑をまとい、剣をふるっている人物が描かれているのも混同の原因か(じつは中世風の甲冑ではなく、特殊な宇宙服なのだが)。

 カップリングのほうにも触れておくと、ノヴェラ2篇を合わせた連作集で、ヴァンスには珍しい女主人公が活躍するSFミステリになっている。
 第一作「アバークロンビー・ステーション」(1952)は、若く野心に燃えるヒロインが軌道上に浮かぶ上流階級の居住ステーションに潜りこみ、その暗部を白日のもとにさらすというストーリー。〈SFマガジン〉1993年3月号に訳出したことがある。
 第二作 Chowell' s Chickens (1952)は、ヒロインが出生の秘密を探る話だが、出来のほうは一枚落ちる。
 表紙絵(図版下)は「アバークロンビー・ステーション」の一場面を描いているが、だいぶ誇張がある。画家はジェローム・ポドウィルという人らしい。(2011年9月23日)

2011-9-23 (Monsters in Orbit)

【追記】
 上記のうち「保護色」、「月の蛾」、「無因果世界」は先述の『奇跡なす者たち』(国書刊行会、2011)に収録されている。


2012.04.17 Tue » 『奇跡なす者たち』のこと

 浅倉久志編、浅倉久志・酒井昭伸訳のジャック・ヴァンス傑作集『奇跡なす者たち』(国書刊行会、2011)を読んだ。

 本邦初訳2篇をふくむ8篇収録だが、とにかく表題作、「月の蛾」、「最後の城」とつづく後半が圧巻。スペース・オペラと〈剣と魔法〉のあわいに文化人類学的アイデアをちりばめ、カラフルな風景描写、文物描写で染めあげたヴァンス流SFの真髄を、練達の訳文ともども堪能した。やっぱりおれは、こういうのがいちばん好きなんだよ。

 表題作と『竜を駆る種族』はこんなに共通点があったのか、とか、「月の蛾」はゲラゲラ笑えるなあ、とか、「最後の城」は《キューゲル》シリーズとよく似ているなあ、とか再認識することしきり。ヴァンスの作品はひと通り読んでしまったよ、という人にも再読を強くお勧めしておく。

 先日ロバート・シルヴァーバーグの自伝を読んだところ、『ヴァレンタイン卿の城』の大本がヴァンスの『大いなる惑星』であることを認めていた。「保護色」を読めば、だれでもジョージ・R・R・マーティンの《タフ》シリーズを連想するだろうし、「月の蛾」からダン・シモンズの《ハイペリオン》シリーズを連想する人もいるだろう。これらの作家のルーツとしてヴァンスが認識されれば、わが国における評価も変わってくるかもしれない。

 その意味で、酒井昭伸氏による「訳者あとがき」は、まことに当を得ている。ヴァンスの影響の大きさを述べ、その作風を解説したあと、詳細な評伝を付すという構成で、なんと20ページ(400字詰め原稿用紙にして50枚)におよぶ力作なのだ。さらに著作リストが9ページついているので、資料的価値も絶大。ファン必携とはこのことである。

 ありゃ、表題作に材をとったジャック・ゴーハンのイラストの紹介をかねて、ヴァンスの短篇集をとりあげようと思ったのに、前ふりが長くなってしまった。例によって、つぎの岩につづく。(2011年9月22日)



2012.04.16 Mon » 『終末期の赤い地球』

 エムシュが表紙絵を描いている本といえば、ジャック・ヴァンス The Dying Earth (1950) のランサー版ペーパーバックをお見せしたい。画家の記載はないが、この絵を見ればわかるし、書誌に当たったらエド・エムシュウィラーとあったので、まちがいない。

2011-12-20(Dying Earth)

  これはヴァンスの単行本デビュー作。初版はヒルマンという小出版社から出たペーパーバックだが、刊行から間もないうちに版元が倒産し、あまり市場に出まわらなかったとのことで、いまでは稀覯本になっている。

 永らく絶版だったが、1962年にランサーがペーパーバック版として復活させた。当方が持っているのはこちらの初版である。
 表紙に「限定版」と刷ってあるが、よほど部数がすくなかったのか。状態が悪く、表紙の一部が破れてしまっているのが残念。

 説明が遅れたが、ヴァンスの代表作〈滅びゆく地球〉シリーズの第一作。科学が衰退し、魔法が復活したはるかな未来を舞台に、魔道士や盗賊の活躍するカラフルな物語だ。ジョージ・R・R・マーティンやジーン・ウルフがファンタシー史上屈指の傑作と持ちあげたおかげか、近年ますます評価が高まっている。

 さて、ここからは蘊蓄。
 ヒルマン版とランサー版には大きなちがいがふたつある。第一に、連作形式の第一話と第二話の順番が入れ替わっていること。第二に、第五話 “Ulan Dhor Ends a Dream” が “Ulan Dhor” と改題されたこと。後者はともかく、前者はテキスト上、大きな問題をはらんでいる。

 冒頭の二話は、〈暮れゆく地球の物語〉として、1971年に〈SFマガジン〉誌上に訳載された(佐藤正明訳)。6月号掲載の「ミール城の魔法使」と10月号掲載の「魔法使と謎の美女」である。この順番は、ランサー版にならっている。

 その後、完訳が『終末期の赤い地球』(久保書店QTブックス)として1975年に刊行された(日夏響訳)が、こちらは「魔術師マジリアン」が第一話で、「ミール城のトゥーリャン」が第二話だった。この順番はヒルマン版にならっている。
 同書の裏表紙にはヒルマン版の書影も掲載されているから、その本を持っていた人が日本にいたのだろう。すごいコレクターがいたものだ。

 ちなみに第三話とのつづき具合からすると、ヒルマン版のほうがしっくり来るが、共通の主人公(魔術師トゥーリャン)がいるという立場をとると、ランサー版のほうがわかり易い。ランサー版以降は、その順番が踏襲されている。すくなくとも、うちにある各種の版は、全部そうなっている。(2011年12月20日)

【追記】
 伝説的なSFイラストレーター、エド・エムシュウィラーについて書いた一連の記事のうちのひとつだが、今回ヴァンス篇に組みこんだ。

 久保書店版に付された福島正実の解説には、フルタイム作家となったヴァンスが、「戦後のSF界の好調ムード、とくに雨後の筍のように増えたSF雑誌のライターとして、数多くの短編を書きまくるが、やがて、一九五〇年、最初のSF長編を完成する」とあるが、これは古い情報に基づく誤り。じっさいは1945年のデビュー前に雑誌に投稿していたが、採用されなかったことがわかっている。〈スリリング・ワンダー・ストーリーズ〉の編集者だったサム・マーウィンの証言による。



2012.04.15 Sun » 「ヴァンス、ヴァンス、ヴァンス!」

 SFファン交流会の11月例会に参加してきた。お題は「ヴァンス、ヴァンス、ヴァンス!」(追記1参照)。
 浅倉久志氏亡きいまとなっては日本最高のヴァンス翻訳者/紹介者である酒井昭伸氏を迎えて、孤高のSF作家ジャク・ヴァンスについて語りたおしてもらおうという企画。酒井さんのお相手が必要だということで当方に声がかかり、ふたつ返事で出演してきた。

 内容については、参加した者の特権なのでここでは触れない。当方は酒井さんとふたりで3時間もヴァンスについて話せたので大満足だったが、中身が濃すぎて聴衆の多くはついてこれなかったかもしれない。

2011-11-20(Miracle Workers)

 さて、上に掲げた画像は、酒井さんにお見せするために持っていったもの。酒井さんが訳されたヴァンスのノヴェラ「奇跡なす者たち」(追記2参照)が〈アスタウンディング〉1958年7月号に発表されたときのイラストである。
 描かれているのは、作中に登場する魔術師たちだが、左の人物はエド・エムシュウィラー、まんなかの人物はロバート・シルヴァーバーグがモデルになっているのだ。それにはこういう裏話がある。

 当時、新進のSF作家だったシルヴァーバーグは、定期的に雑誌の編集部へ通っていた。ある日、友人のイラストレーター、エド・エムシュウィラーとふたりで〈アスタウンディング〉の編集部を訪ねたところ、イラストレーターのケリー・フリースがやってきて、ヴァンスの作品について編集者のジョン・W・キャンベルと打ち合わせをはじめた。そのときフリースは、たまたま同席していたシルヴァーバーグとエムシュウィラーの顔をスケッチし、それをイラストに使ったというのだ。

 シルヴァーバーグの自伝 Other Spaces, Other Times (2009) に載っていた話である。(2011年11月20日)

【追記1】
 SFファン交流会というグループが、月にいちどの割合で会合を開いている。さまざまなテーマを決めて講師を招き、その話を聴講するという集まりだ。この企画は2011年11月19日に実施された。

【追記2】
 浅倉久志編のヴァンス傑作集『奇跡なす者たち』(国書刊行会、2011)に収録。上記の集まりは、同書の刊行を承けてのことだった。