fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.05 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 » 2012.07

2012.06.16 Sat » 『谺に耳をすませ』

【前書き】
 以下は2010年12月14日に書いた記事である。誤解なきように。


 夏からやっていた仕事が、とりあえず終わった。ブラッドベリの伝記の翻訳である(追記1参照)。
 なにしろ1000枚の大著なので、翻訳作業そのものにも時間をとられたが、それ以上にブラッドベリの作品の読み返しに時間をとられた。というのも、ブラッドベリの作品の内容に踏みこんだ記述が多いので、再読しないと不安で仕方がないのだ。まあ、再読自体は楽しかったが、それ以外の本がまったく読めなくなるのが困った。とにかく、今年の後半はブラッドベリ漬けで終わったような気がする。

 ゲラを見るのはもちろんのこと、邦訳書誌や索引の作成といった面倒な仕事がまだ残っているのだが、ひとまず解放感に浸っている。今日くらいはブラッドベリのブの字も見たくない。

 といった舌の根も乾かないうちに、ブラッドベリのインタヴューを紹介しよう。サム・ウェラー著 Listen to the Echoes: The Ray Bradbury Interviews (Melville House / Stop Smilling Books. 2010)である(追記2参照)。

2010-12-14(Listen)

 今年の6月に出た本で、伝記の翻訳の参考にしようと思って買った。著者のウェラーは、その伝記の著者でもある。どういうことか説明しよう。
 ウェラーは伝記を書くため4年がかりでブラッドベリに膨大なインタヴューをおこなった。その成果は伝記に結実したが、使われなかった部分も多く、その内容がめっぽう面白い。これを埋もれさせておくのは惜しいと考えた人がたくさんいて、インタヴューを整理しなおした本が出たというしだい。伝記と重複する部分が多いが、読みものとしての面白さは抜群なので、興味の向きには強くお勧めする。

 全体は13章に分かれ、「子供時代」「ハリウッド」「自作について」「信仰」「政治」「SF」といった具合に話題ごとにインタヴューが整理されており、さらに付録として、1976年におこなわれたが、これまで未発表だった雑誌のインタヴューが併載されている。ついでに書いておくと、収録されている写真は珍しいものばかりで、見ていると顔がにやけてくる。

 伝記に載っていないエピソードをひとつ紹介しよう。
 ブラッドベリが29歳のとき。バス停でUCLA行きのバスを待っていると、同じベンチに22歳くらいの青年がすわっている。青年は山ほど本をかかえていて、それがすべて科学書。人なつっこいレイは、青年に話しかけ、青年がUCLAのSFクラブの会員だと知る。
「好きな作家は?」
「ええと、アシモフ、クラーク、ハインライン……」
 しばらく待っていると、「ブラッドベリ」と名前があがった。
「ああ、ブラッドベリ! きみはブラッドベリが好きなのかい?」
「ええ、大好きです」
「ブラッドベリに会ってみたくないかい?」
「ぜひ会ってみたいです」
「そうか、きみの目の前にいるよ」
 バスが来て、車内でふたりの会話はつづく。
「きみの出身は?」
「キューバです」
「へえ、キューバのどこ? ハバナ?」
「その近く。ピカ・デ・ビアというところ」
「へえ、そういえば、ラストネームはなんていうの?」
「ヘミングウェイ」
 青年は文豪アーネスト・ヘミングウェイの息子だったのである。

蛇足
 本書の序文は、伝説のロック・バンド、ピクシーズのリーダー、ブラック・フランシスが書いている。ミュージシャンといえば、デイヴィッド・ボウイやサミー・デイヴィス・ジュニアがブラッドベリの大ファンで、ブラッドベリとの出会いに関して面白いエピソードが載っているのだが、またべつの機会に。(2010年12月14日)

【追記1】
 拙訳『ブラッドベリ年代記』(河出書房新社、2011)のこと。

【追記2】
 この本は先ごろ『ブラッドベリ、自作を語る』(晶文社、2012)として邦訳が出た。

スポンサーサイト