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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.22 Fri » 『英国における科学ロマンス 1890―1950』

 〈SFマガジン〉2009年8月号を見たら、書評欄で林哲矢氏が拙編のアーサー・C・クラーク傑作選第1巻『太陽系最後の日』(ハヤカワ文庫SF、2009)をとりあげて、かなり高い評価を下してくれていた。
 もちろん、そのこともうれしいが、それ以上にうれしかったのは、最大の収穫として、牧眞司氏の労作である年譜とならべて、「英国科学ロマンスの後継者としてクラークを再考する解説」を挙げてくれたこと。というのも、公の場で当方の主張にはじめて反応してくれた人があらわれたからだ。すくなくとも、「英国科学ロマンス」という用語を使った反応ははじめてだ。

 この十数年、当方はことあるごとに「アメリカのサイエンス・フィクションとは別個に存在した英国固有の文芸ジャンル」である科学ロマンスの重要性を訴えてきた。だが、賛同にしろ疑義にしろ、それに対する反応は聞いたことも見たこともなかった。正直いって徒労感にとらわれていたのだが、こうして好意的に反応してくれる人があらわれて、勇気百倍である。

 解説でも明記したように、当方の主張は英国の作家・批評家ブライン・ステイブルフォードが、その著 Scientific Romance in Britain 1890-1950 (Fourth, 1985) で展開した説の受け売り。刊行から数年後に入手したのだが、発行部数がよほどすくなかったらしく、すでに稀覯本と化していた。たしか古書で200ドルくらいしたと思う。清水の舞台から飛び降りる気持ちで買ったが、それだけの値打ちのある本だった。

2009-6-26 (Scientific Romance)

 その主張を簡単にいうなら、1890年ごろ英国に科学ロマンスと呼ばれる文芸ジャンルが誕生し、アメリカのサイエンス・フィクションとは平行して進化をとげたが、1950年ごろ、後者に吸収される形で消滅した、となるだろう。膨大な資料を基にその消長を語ったのが本書というわけだ。

 ある紹介文で本書の内容を知ったときの衝撃は、いまでもはっきり憶えている。それまでもイギリスSFとアメリカSFはかなりちがうと感じていた。だが、そのちがいを説明するには、国民性といった漠然とした要素以外に思いつかなかった。ところが、まったくべつの歴史と理念を持つジャンルのちがいであることがわかったのだ。すべての違和感が一挙に解消されて、目の前がパーッと明るくなったような気がしたものだ。
 だからこそ、なんとしても現物を読もうと思ったのだった。

 ステイブルフォードという人は、批評家としてはわりに凡庸で、鋭い洞察のようなものはないのだが、実証に重きを置いた本書では、篤実な性格がプラスに働いている。なにしろ、本書の大部分は、出版状況の概説と、いまでは入手もむずかしい作品の要約なのである。
 
 本書で項目が立っている作家の名前をあげておこう。さて、何人くらい知っていますか?
 
ジョージ・グリフィス、H・G・ウェルズ、M・P・シール、アーサー・コナン・ドイル、ウィリアム・ホープ・ホジスン、J・D・ベレズフォード、S・ファウラー・ライト、オラフ・ステープルドン、ニール・ベル、ジョン・グローグ、C・S・ルイス、ジェラルド・ハード

(2009年6月26日)


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