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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.23 Sat » 『最終戦争以前』

 前回の記事に対して、英国のニュー・ウェーヴSF運動を考えれば、英国科学ロマンス説は「実に納得がいく」というコメントをいただいた。
 おっしゃるとおりで、1960年代に英国で展開されたニュー・ウェーヴ運動は、アメリカSFの植民地化していたイギリスで、作家たちが自国の伝統に回帰しようとした面もあった。要するに、アメリカSFとちがったものを書こうとしたら、お祖父さんたちが手本を示してくれていたわけだ。

 その急先鋒だったのがマイクル・ムアコックとブライアン・オールディス。とりわけムアコックは英国科学ロマンスの伝統について自覚的で、みずからの古雑誌コレクションを基にアンソロジーを編んでいるほど。それが Before Armagedon (W.H.Allen, 1975) だ。もっとも、当方が持っているのは、例によって翌年ウィンダムから出たペーパーバック版だが。

2009-6-27 (Before Almageddon)

 序文でムアコックが英国科学ロマンスを概説している。浩瀚なステイブルフォードの研究とはくらべるべくもないが、ステイルブルフォードとはちがい、H・H・マンロー(別名はサキ)の警世小説を高く評価している点が目を惹く。
 ジョージ・メレディスがH・G・ウェルズに合作を持ちかけたエピソードを紹介し、自分の最愛の作家ふたりの合作が実現しなかったのは残念至極と書いているのもおかしい。
 さらにいえば、ジャンルが成立すると、その約束ごとに縛られて作家の想像力が衰退するのはいまもむかしも同じといって、SFの現状を批判しているのが、いかにもである。

 収録作はつぎのとおり――

1 The Battle of Dorking G・T・チェズニー
2 Dr Trifulgas ジュール・ヴェルヌ
3 The Raid of Le Vengeur ジョージ・グリフィス
4 The Great War in England in 1897 ウィリアム・ル・キュー
5 Life in Our New Century W・J・ウィントル
6 三番目の霊薬 E・ネズビット

 ヴェルヌの作品がはいっているのは、その影響で英国科学ロマンスが成立したから。この作品は邦訳があるかもしれないが、原題不詳で調べがつかなかった(追記参照)。
 
 1は未来戦記ブームを巻き起こした作品。英国本土が外国に蹂躙されるさまを克明に描いているが、はるか未来から当時をふり返るという形式をとっているのが興味深い。じっさいに読んでみると、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』がこの作品の影響下にあることがよくわかる。

 3と4も未来戦争もので、前者はちがうタイプの潜水艦の死闘を描き、後者は飛行船によるロンドン空爆の模様を描いている。ムアコックによれば、これら新型兵器がヴェルヌ由来というわけだ。

 序文でムアコックは続刊の構想を披露しているが、けっきょく出なかった。古典SFが読まれないのは、いずこの国も同じようだ。(2009年6月27日)

【追記】
 原題は“Frritt-Flacc”であり、「ごごおっ・ざざあっ」の題名で〈水声通信〉2008年11・12月号に訳載されていると判明した。藤元直樹氏のご教示による。深謝。

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