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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.24 Sun » 『空の大元帥』

 ムアコックは英国科学ロマンスの伝統にのっとった小説も書いている。その最良の例が The Warlord of the Air (English Library, 1971) だ。もっとも、当方が持っているのは、1981年に出たパンサー版だが。

2009-6-30 (Warlord of the Air)

 物語は二重の枠をそなえている。まず序文でムアコックが、以下の文章は自分と同名の祖父の遺品から発見された手記をそのままの形で載せたものだと告げる。
 そして祖父マイクルは、1903年にインド洋の小島でオズワルド・バスタブルと名乗る不思議な男に出会った顛末を語り、彼から聞いた異常な物語を詳述する。
 
 形式自体が古風だが、内容であるバスタブルの物語は、それに輪をかけて古風。簡単にいうと改変歴史ものだが、イギリス伝統の植民地文学→秘境小説→ユートピア文学→未来戦争小説と推移していく。19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んだった小説ジャンル各種を試しているらしい。

 1902年、インド陸軍の大尉だったバスタブルが、ひょんなことから1973年の世界に迷いこんでしまう。そこはボーア戦争を最後に平和がつづいており、英米仏露日の五大列強の支配のもと、一種のユートピアとなっていた。だが、その平和をおびやかす存在がいた。テロをくり返す無政府主義者である。バスタブルは最初、無政府主義者に批判的だったが、帝国主義の圧政のもと、貧困に苦しむ植民地の実態を知り、飛行船から成る彼らの空軍に身を投じるのだった……。

 最後にバスタブルは、広島に原爆を落とし、そのエネルギーでまた別の世界に吹き飛ばされてしまう。彼はいう――「いまは1903年だ――ひとつの1903年にはちがいない――でも――このおれの1903年じゃない」

 このあと祖父のメモがつき、1907年に発明された飛行機が恐ろしい兵器として発展していった過程を浮かびあがらせる。そして最後に孫ムアコックの付記で、祖父が1916年にソンムで戦死したことが告げられる。

 バスタブルの物語は、ジョージ・グリフィスの未来戦争小説+H・G・ウェルズのユートピア小説といった趣である。いまならスチームパンクで通るかもしれない。

 ムアコック作品ではおなじみの神出鬼没キャラクター、ユーナ・パーソンが登場し、いわゆる《エターナル・チャンピオン》シリーズに組みこまれている。バスタブルの物語は、このあと The Land Leviathan (1974)、 The Steel Tsar (1981) が出て三部作となった。

 ちなみにバスタブルという名前は、ムアコックが子供のころに愛読したE・ネズビットの児童文学に由来するそうだ。『宝さがしの子どもたち』のシリーズですね。(2009年6月30日)

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