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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.25 Mon » 『解放されたドラキュラ』

 ムアコックとならんで、英国科学ロマンス風の作品を盛んに書いていたのが、ブライアン・オールディス。SFの始祖をポオでもヴェルヌでもなく、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』と定めたことでおわかりのように、自国のSFの伝統にきわめて自覚的だった。

 とはいえ、アメリカSF、とりわけジョン・W・キャンベル・ジュニア時代の〈アスタウンディング〉に対する愛着が強すぎて、英米のSFを不可分一体のものと考えている。そこが、ある時点まで両者は別ものだったと考えるステイブルフォードとのちがいである。

 オールディスは優れた批評家でもあるので、既存の作品を批判的に換骨奪胎した作品を書くと傑作が生まれることがある。その好例が邦訳も出た『解放されたフランケンシュタイン』(1973)だが、その続編が今回ご紹介する Dracula Unbound (Grafton. 1991) だ。もっとも、当方が持っているのは、翌年同社から出たペーパーバック版だが。

2009-7-1(Dracura)

 前作と同様の趣向で、本書はブラム・ストーカー作『吸血鬼ドラキュラ』の登場人物が実在していたという設定で語られる。主役をつとめるのは、前作に引きつづき、時間旅行者ジョーゼフ・ボーデンランド。今回のボーデンランドは、1999年のアメリカで大企業の社長となっている。
 物語は、彼が出資した古生物学の発掘調査現場で幕をあける。ユタ州の砂漠から、六千五百万年前の地層に埋もれていた棺が発見されたのだ。しかも、おさめられていた人骨には翼の生えていた形跡がある。さらに、人骨の胸からは銀の弾丸が回収され、ふたつ目に発見された棺では、木の杭を胸に打ちこまれた人骨が見つかる。まるで伝説の吸血鬼退治ではないか。これはいったいなにを意味するのか?
 おりしも、発掘現場には謎の発光物体が出没するようになり、ボーデンランは、その発光物体に乗り移って驚愕の事実を知る。それは未来の吸血鬼種族が発明したタイム・マシンだったのだ!
 
 タイム・マシンの出てくる小説らしく、プロットは時空を股にかけて展開するので、下手な要約はやめておこう。主要なパートである1869年では、ストーカー夫妻、ストーカーが秘書をつとめた名優ヘンリー・アーヴィング(ドラキュラ伯爵の風貌にはこの人の面影があるという)、狂人レンフィールド、ヴァン・ヘルシング教授などが登場し、ストーカーとボーデンランドが吸血鬼退治に乗りだして、過去と未来へ飛ぶとだけいっておく。
 要するに、ストーカーが執筆中だった作品は、この事件に影響されて完成を見たというわけだ。その意味では拙訳のある作者のH・G・ウェルズ・トリビュート作品「唾の樹」と似ている。

 オールディスはこの作品につめこめるだけのものをつめこんだ。吸血鬼の正体の生物学的解明、恐竜絶滅の謎、『ドラキュラ』=梅毒文学論、ヴィクリア朝ロンドンの路上観察……。盛り沢山すぎて未消化の感はいなめない。傑作はそう簡単に生まれないようである。(2009年7月1日)

【追記】
「SFスキャナー」がらみで書いておけば、〈SFマガジン〉1997年11月号が「真紅の夢」と題して吸血鬼特集を組んだとき、当方は同欄で本書を紹介した。


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