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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.07.07 Sat » 『ひとりで歩む者』

【承前】
 ディ・キャンプ夫妻の伝記に対しては、「事実を歪曲しすぎ」という批判の声があがった。では、ほんとうのハワードはどういう人物だったのか? その疑問に答えてくれるのが、ノーヴェリン・プライス・エリスの One Who Walked Alone (Donald M. Grant, 1986)である。

2006-2-28(The One Who Walks Alone)

 なにしろ著者はハワードの恋人だった女性。ハワードが30歳の若さで自殺するまでの3年間、親しく語らい、愛しあい、最後には袂を分かった人である。両親をのぞけば、彼女以上にハワードのことを知る人間はいない。その証言のひとつひとつが重みを持っている。
 さらに、著者は作家志望の教師であり、当時の模様を日記に克明に記していた。会話などは小説仕立てで記録されており、じつに生々しい。

 本書を読むと、なにより印象に残るのは、ハワードの奇人変人ぶり、偏屈ぶりである。頑固で、怒りっぽくて、皮肉屋で、被害妄想の気がある。近くにいたら、さぞつきあいにくいだろう(他人事じゃないね)。
 だが、通読するうちに、そのかたくなさは、蟹が甲羅でやわらかい肉を守っているようなものだとわかってくる。タフガイ風の外面の下には、傷つきやすい子供が隠れているのだ、と。

 もっとも、著者はそこのところに失望して、ハワードと別れることを決めたのだった。

 要するに、本書は赤裸々なハワード伝であると同時に、1930年代に生きたインテリ女性の内面の記録でもあるのだ。

 ちなみに、本書はダン・アイルランド監督、ヴィンセント・ドノフリオ、レニー・ゼルウィガー主演で「草の上の月」(1996)という秀作映画にもなった。のちにアカデミー賞女優になるゼルウィガーの力演が光るが、それ以上に舞台となるテキサスの風景がすばらしい。
 蛇足だが、当方が持っている3刷は、その映画のスチールをカヴァーにしている。写真の女性は、著者本人ではないので、おまちがいなく。(2006年2月28日)

【追記】
 本書の内容は創元推理文庫《新訂版コナン全集》第5巻『真紅の城砦』(2009)の解説でくわしく紹介した。

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