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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.07.15 Sun » 誤植や否や

【前書き】
 以下は2009年5月27日に記したものである。


 アーサー・C・クラーク『海底牧場』の原型短篇を新訳することになって、とりあえず訳しおえたのだが、一個所問題点が残った。つぎのような文章だ――

he swung Sub 5 round so that the camera could search the turgid waters.

 問題は「turgid」という単語。あまり見かけない言葉だが、辞書を引くと「ふくらんだ」とか「腫れた」とかいった意味らしい。しかし「腫れた海」とはなんであろうか?
 こういうときは勘が働くようになっていて、おそらく誤植だろうと見当がついた。「tur」ではじまる言葉を辞書で見ていくと、「turbid」というのがある。これなら「濁った」という意味なので、文脈にピタリとおさまる。そういうわけで「濁った水」と訳した。

 さて、訳了後、参考のため福島正実編『未来ショック』(講談社文庫、昭和50年7月15日第1刷発行、昭和53年5月25日第5刷発行)に収録された高橋泰邦の訳を見たら、当該個所はこうなっていた――「艇を急旋回させて、カメラがふくれあがった海中を探れるようにした」
 
 あれま。
 当方が使用したテキストは最新版の The Collected Stories of Arthur C. Clarke (Tor, 2001) なので、高橋氏が依拠したテキストとは同じわけがない。とすれば、「ふくれあがった海」というものがあるのだろうか、それとも原書の誤植が延々と継承されているのだろうか。果たして真相はいかに? (2009年5月27日)

【追記】
 上記の新訳版「海底牧場」は、当方が編んだ《ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク》第2巻『90億の神の御名』(ハヤカワ文庫SF、2009)に収録された。
 なお、“turgid water”は“swollen water”と同じ意味で、川の増水などを描写する表現だとご教示いただいた。しかし、この場合は水中なのでやはり疑問が残る。この点に関しては進展があったので、つぎの岩につづく。

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