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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.07.17 Tue » 『珊瑚の海岸』

【前書き】
 以下は2009年9月15日に書いた記事である。誤解なきように。


 10月に出る《ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク》第3巻『メデューサとの出会い』(ハヤカワ文庫SF)の訳者校正がやっと終わった。当方が担当したのは小説1篇、エッセイ4篇なので、全体の2割ほど。例によって編集者さまが膨大な調べものをしてくれたおかげで、多数の誤訳・悪訳が未然に防がれた。本当に神田のほうには足を向けて寝られない。

 さて、短篇集『10の世界の物語』にはいっていた「憎悪」という短篇を新訳したのだが、これはオーストラリアの真珠採り漁場を舞台にした作品。この前読んだクラークの海洋ノンフィクション The Coast of Coral (Harper, 1956)が、校正にさいして大いに役立った。同書にその辺のことがくわしく書かれていたからだ。

2009-9-15 (Coast 1)

 それによると、小説のなかに書かれている真珠採り潜水夫の生活は、クラークの親友マイク・ウィルスンの実体験に基づいているらしい。
 どういう生活かというと、船の狭苦しい寝棚で眠り、目をさますと、大きなゴキブリに足の指をかじられているような暮らしである。クラーク自身も同地へ赴いたが、調査船に乗ったので、そういう目にはあわずにすんだそうだ。

 それはともかく、これはめっぽう面白い本である。スキューバ・ダイヴィングにかぶれたクラークが、オーストラリアのグレート・バリア・リーフへ潜りに行くのが骨子だが、いまとちがって現地へ行くだけで大変。その珍道中も面白いし、現地での興奮ぶりも愉快。クラークのユーモアは控えめなので、ふだんは口もとがほころぶくらいだが、この本に関しては、何度も笑い声が出た。

 上品なユーモアの一例。
 島から帰ってきて、疲れきったクラークとウィルスンが鉄道で本土を旅行していたときのこと。赤道に近い土地なのに、信じられないくらの寒さで、用意周到の現地の人たちは、車内にストーヴを持ちこんでいるほど。ガタガタ震えるばかりで、眠るどころの騒ぎではない。とうとう停車時間を利用して貨物車まで寝袋をとりに行き、それにくるまることにした。やっと人心地ついたクラークは思う――「寝袋はぬくぬくと暖かく、わたしはこの快適さを一分でも長く味わっていたくて、ひと晩じゅう起きていてもいいと思った」(2009年9月15日)

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