fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.06 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 » 2012.08

2012.07.19 Thu » 『拝啓、炭素基盤二足歩行生物殿!』

 クラークほどの作家になると、小説はほとんど訳されているが、ノンフィクションになると話はべつ。共著もふくめれば、三分の一以上が未訳ではないだろうか。
 そういうノンフィクションの業績をコンパクトにまとめた本がある。イアン・T・マッコリー編 Greetings, Carbon-Based Bipeds! Collected Essays, 1934-1998 (St.Martin's, 1999) である。ただし、当方が持っているのは、例によって翌年同社から出たトレード・ペーパーバックだが。

2007-12-22(Greetings)

 副題にあるように、1934年から98年にかけて書かれたエッセイ、書評、ノンフィクションなどを精選したもの。編者はクラークとは50年以上のつきあいになる科学ジャーナリストで、 世に知られていない珍しい文章を発掘するいっぽう、定番をキチンとおさえ、手堅い傑作集を作っている。ちなみにクラークの長篇『宇宙島に行く少年』は、この人に捧げられている。

 邦訳のある『未来のプロフィル』や『スリランカから世界を眺めて』などと重複する部分も多いが、はじめて見るような文章もある。
 たとえば1940年代の文章は、ほとんどがファンジンや航空宇宙業界の専門誌に書かれたもの。若き日のクラークというのはあまり想像がつかないが、この辺の文章を読んでいると、目を輝かせて宇宙開発について語るSFファンの姿が浮かんでくる。
 当然ながらロケットや宇宙に関するものが多いが、ロード・ダンセイニの魅力を熱っぽく語ったものもある。
 もちろん、通信衛星のシステムを予言した有名な科学論文も載っているし、第二次大戦中に従事していたレーダー誘導システムの開発秘話もある。後者はユーモラスな筆致で書かれており、じつに面白い(この体験を基にクラークはのちに長篇小説を書いたが、あいにく未訳である。残念)。

 だが、圧巻は50年代に書かれたスリランカとその海に関する一連のエッセイだろう。新天地を見つけた喜びと、海のすばらしさ、恐ろしさが瑞々しいタッチで描かれており、読んでいると胸が躍る。
 とりわけクラークは水中撮影の分野でパイオニアのひとりであり、海中映画草創期の悲喜こもごもを綴った部分は読ませる。当方も海に潜るので贔屓目もあるかもしれないが、それでもこの辺の著作が未訳なのは、惜しいといわざるを得ない。

 ほかにもすばらしい文章が目白押しだが、80年代、90年代になると追悼文が多くなるのがなにか悲しい。(2007年12月22日)

【追記】
 クラークが亡くなり、〈SFマガジン〉2008年6月号が追悼特集を組んだとき、同書から選びぬいた三篇を訳載した。上記のレーダー誘導システム開発秘話「貴機は着陸降下進路に乗っている――と思う」、科学エッセイ「ベツレヘムの星」、海洋ノンフィクション「グレート・リーフ」である。
 これらは当方が編んだ《ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク》全3巻(ハヤカワ文庫SF、2009)に順におさめられた。

スポンサーサイト