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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.07.30 Mon » 『単子宇宙』

 ついでだからジョージ・ゼブロウスキーの短篇集も紹介しておこう。The Monadic Universe (Ace, 1977) である。1985年に改訂版がエースから出て、当方が持っているのはこちらのヴァージョンだ。

2011-3-21(Monadic)

 この本は永らく当方にとって憧れの対象だった。というのも、故ジーン・ヴァン・トロイヤー氏が〈SFマガジン〉1978年9月号の「SFスキャナー」欄でこの本を紹介していて、それが著しく興味をそそったからだ。しかも、掲載されていた著者の写真がまた恰好よかった。革のコートをまとい、眼鏡をかけた青年がこちらをにらんでいる図で、なにか非常に寒々とした雰囲気がただよっていた。
 
 紹介されていた作品を読みたくて仕方なかったのが、いっこうに邦訳されない。ゼブロウスキーの邦訳は「星のめぐり」という短篇ひとつだけという時代が長くつづいた。前にも書いたが、そのおかげで飢餓感が募りに募って、このころ幻だった作品にはいまでも執着がある。

 そういうわけで、1985年に改訂版を手に入れたときはうれしかった。すぐに「はじめての愛、はじめての恐れ」という海洋SFを翻訳して、ファン出版であるTHATTA文庫から出してもらった。のちに〈SFマガジン〉に翻訳を載せてもらえるようになると、ヴァン・トロイヤー氏の紹介にあった「異教の神」という短篇を邦訳して持ちこんだ。当方にとっては同誌で4作めに当たる。
 その後も「言葉そうじ」という短篇を同誌に載せてもらったほか、当方の企画で海洋SF特集を組んだときに前記「はじめての愛、はじめての恐れ」を転載してもらった。これで憑きものが落ちたのか、ゼブロウスキーへの執着はなくなった。

 むかし話が長くなったが、内容を記しておこう。
 元版はトマス・N・スコーシアの序文と短篇12篇を収録。改訂版は、ハワード・ウォルドロップの序文と短篇2篇を追加しているほか、一部の作品にかなり手がはいったり、改題しているとのこと。このうち邦訳があるのは、いままでに題名があがった4篇だけだ。

 誤解を恐れずにいえば、初期の荒巻義雄に似た作風。つまり、いかにもSF、SFした設定に哲学的思索を盛りこんでいるのだ。その好例が、ライプニッツの思想を基盤にした形而上学的宇宙SFである表題作。こんな話だ――

 超空間航法が実現し、人類初の恒星船が飛び立つ。が、それと同時に地球が破壊されてしまう。超空間駆動装置によって新たなエネルギーが開放され、実在の根本が消滅させられたのだ。なぜなら、超空間には思考に反応して「実在」をゆがめる性質があり、数十億の人間のあい矛盾する知覚が、実在を破壊してしまったから。
 宇宙船の乗組員たちは、自分たちが同じ問題にとらわれていることに気づく。新しい実在を創らないかぎり、超空間から出ることはできない。だが、実在とはなんだ……。

 これはいまでも読む価値がある。どこかに訳したいものだ。(2011年3月21日)

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