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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.13 Mon » 『ファンタシーの新世界』

 テリー・カー編のアンソロジーといえば、忘れてはならないのが、1970年前後に出た『ファンタシーの新世界』シリーズ3冊だ。

 当時のアメリカでファンタシーといえば、多くの場合は『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』といった作品を指す言葉であり、児童文学とほぼ同義だった。そういう状況を変えようとして、いっぽうではリン・カーターが〈剣と魔法〉系統の小説をせっせとプロモートし、いっぽうではテリー・カーが、いわゆる異色作家短篇や幻想小説をプロモートしていた。
 当方はどっちの系統も好きなので、この人たちの編んだファンタシーのアンソロジーはたいてい持っているし、その作品選択には強い影響を受けている。しばらく、そのあたりのことを書いてみよう。

 まずはカーの New Worlds of Fantasy (Ace, 1967) である。

2006-7-8(New Worlds 1)

 ケリー・フリースのイラストが各篇の冒頭に配されていて、持っているとうれしい本だ。内容もなかなかいい。ちょっと長くなるが、収録作品を見てもらおう――

「聖なる狂気」ロジャー・ゼラズニイ
Break the Door of Hell ジョン・ブラナー
「不死の人」ホルヘ・ルイス・ボルヘス
「せまい谷」R・A・ラファティ
「彗星の美酒」レイ・ラッセル
The Other キャサリン・マクリーン
A Red Heart and Blue Roses ミルドレッド・クリンガーマン
Stanley Toothbrush テリー・カー
「リスの檻」トマス・M・ディッシュ
「死神よ来たれ」ピーター・S・ビーグル
「ナックルズ」カート・クラーク
「消えたダ・ヴィンチ」J・G・バラード
「ティモシー」キース・ロバーツ
Basilisk アヴラム・デイヴィッドスン
The Evil Eye アルフレッド・ギレスピー

 ちなみに、カート・クラークは、ドナルド・E・ウェストレイクの筆名(のひとつ)。
 
 SFファンになじみのある名前をならべたうえで、ボルヘスやビーグルの作品を混ぜるという作り。非リアリズム小説で、児童文学以外ならなんでもあり、という非常に範囲の広いラインナップだ。おそらくジュディス・メリルの仕事を意識していたのだろう。イギリス勢が多い点など、ニュー・ウェーヴ運動を意識していたのは明らかだ。
 正直いって玉石混淆だが、意欲的な目次であることはまちがいない。なかでもボルヘス、ラファティ、ビーグルの作品は、傑作といっていい。
 
 未訳作品について触れておくと、いちばん良かったのはクリンガーマンの作品。ひょんなことから家にはいりこんできた図々しい男の話だと思っていると、だんだん超自然ホラーになるが、すべては語り手の妄想ともとれる。題名は男の腕に彫ってある刺青のこと。
 カーの作品は、思念の実体化現象をあつかった軽めのファンタシーで、一種のラヴ・コメディになっている。
 ブラナーの作品は《黒衣の旅人》シリーズ第二作。皮肉な味わいが持ち味の〈剣と魔法〉で、ちょっとヴァンス風。
 デイヴィッドスンの作品は「どんがらがん」の続編であり、このアンソロジーのための書き下ろし。
 ギレスピーの作品は、〈恐るべき子供〉と〈未来を写すカメラ〉というモチーフの組み合わせ。前衛的とまではいかないにしろ、かなり風変わりな叙述形式で書かれている。初出は〈サタデイ・イヴニング・ポスト〉だそうだ。ちょっと驚いた。(2006年7月8日)
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