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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.16 Thu » 『失われた世界』刊行百周年のこと

 世間はシャーロック・ホームズ関連で大いに盛りあがっているようだ。めでたいかぎりだが、作者アーサー・コナン・ドイルの名を聞けば、べつの小説のほうが先に思い浮かぶ当方としては、こんなことをいいたくなる――ひとつ大事なことを忘れていませんか。今年は『失われた世界』刊行百周年なんですよ、と。
 
 『失われた世界』というのは、コナン・ドイルの代表作のひとつ。〈ザ・ストランド・マガジン〉に連載されたのが1912年4月号から11月号なので、今年がちょうど百周年にあたるのだ。

 いまさら説明するまでもないが、南米奥地に周囲とは隔絶した台地があって、いまも恐竜や原人が生き残っているという物語。その後、同工異曲の作品を無数に生みだし、〈ロスト・ワールド〉ものというサブジャンルが成立する原動力のひとつとなった。
 ――古典を読んで、「パターンどおり」と評す人がいるが、これは話が逆。その古典がパターンを作ったのである。以上、蛇足――
 当方はこの小説が子供のころから大好きで、いろいろな翻訳でくり返し読んできた。いつしか同書に関する背景知識も集まってきたので、それを整理する意味もあって一文をしたためたこともある。〈SFマガジン〉1999年1月号に発表した「アマゾン奥地の博物学者」がそれだ。
 自分でいうのもなんだが、同書の秘密にかなり深いところまで分け入れたと思うので、ご興味の向きは探して読まれたい。すくなくとも、たいていの人が知らない事実が発見できるはずだ。たとえば、主役のひとりロクストン卿にはモデルになった人物がいて、その人物の行跡が同書に深い影を落としている事実は、もっと知られたほうがいい。

 ところで1912年といえば、大正元年にあたる。藤元直樹氏作成のドイル邦訳書誌によれば、『失われた世界』の邦訳は、早くも大正4年からはじまっているらしい。

 子供向きのリライトをのぞけば、第二次世界大戦後だけでも8種類の訳本があるとのこと(平成12年の時点で)。当方はそのうちの5種類を持っているとわかった。

 ここを見ている何人かには鼻で笑われそうだが、いまでは珍しくなった本の書影をかけげておく。時代がかったイラストがいい感じだ。

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 上。ハヤカワ・SF・シリーズ版。昭和38年初版だが、当方が持っているのは昭和41年9月15日発行の再版。
 訳者は新匠哲夫。したがって、ハヤカワ文庫SF版の『失われた世界――ロスト・ワールド』(平成8年)や、その元本である『世界SF全集3 ドイル』(昭和45年)におさめられた加島祥造訳とは別物。福島正実が、古色蒼然とした復元図を基にした恐竜図鑑的な解説を書いている。

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 上。角川文庫版。初版は昭和42年1月30日発行で、当方が持っているのは同年6月30日発行の3版。遠藤拓也という画家の挿し絵入り。
 永井淳訳で、ちょっと挑発的なあとがきを書いている。要するに、ホームズばかりがドイルじゃないんだよ、という天の邪鬼的正論。(2012年1月20日)

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