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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.23 Thu » 「黒い異邦人」のこと

 《新訂版コナン全集》第5巻(追記参照)の解説から削った話。
 
 1935年1月から2月にかけて、ロバート・E・ハワードは《コナン》シリーズ第19作にあたる “The Black Stranger” というノヴェラを書きあげた。だが、これは〈ウィアード・テールズ〉編集長ファーンズワース・ライトに拒絶された。おそらく、最初のうちコナンの正体がぼかしてあったり、コナンの登場しない場面が延々とつづく構成が気に入らなかったのだと思う。
 ともあれ、ハワードは没原稿を改稿し、海賊船長、黒ずくめのヴルミアを主人公とする歴史冒険小説 “Swords of the Red Brotherhood” に作り替えた。こちらは、ある冒険パルプ誌に売れたのだが、掲載前にその雑誌がつぶれ、けっきょくハワードの生前は未発表に終わった。
 
 1951年にL・スプレイグ・ディ・キャンプが草稿を発見し、大幅な改稿をほどこした。このヴァージョンは “The Treasure of Tranicos” と改題のうえ、ノーム・プレス版コナン全集 King Conan (1953)に収録された(ハヤカワ文庫SF『大帝王コナン』に収録の「トラニコスの宝」は、これを翻訳の底本にしている)。だが、その前にプレヴューとして新雑誌の創刊号に目玉として掲載された。〈ファンタシー・マガジン〉1953年3月号に載った “The Black Stranger” がそれだが、これは編集長レスター・デル・レイがさらに手を加えた短縮版だった。

2009-2-21(Black Stranger)

 そこで3種類の原文をくらべてみたのだが、ディ・キャンプの行なった改竄には怒りをおぼえた。第1巻のときディ・キャンプの改稿ぶりを綿密にチェックしたので、そのやり口はわかっているつもりだったが、この作品に関してはその上をいく改竄ぶりだったのだ。

 文章を削ったり足したりするのは、まあ編集者の権限だろう。登場人物の名前を変えるのも許す。だが、ハワードの意図と反する形で話の内容を変えてしまうのは許せない。

 というのも、この話でコナンは一介の野蛮人なのだが、時系列的につぎに来る「不死鳥の剣」では、すでにアキロニアの国王になっている。そこで話に連続性を持たせるため、後者の登場人物を何人も勝手に登場させ、この時点でコナンの敵や友人だったことにしているのだ。

 《コナン》シリーズは、いわゆるシリーズ・キャラクターがほとんど登場しないことで知られている。美女にしろ、強敵にしろ、一回出てきたらそれで終わり。作者のほかのシリーズには、くり返し顔を見せる登場人物が存在するので、そこに作者の意図が働いていることは明らかだ。その意図を踏みにじるような改稿は、蛮行といわざるを得ない。

 こんど訳出した「黒い異邦人」は、もちろんハワードのオリジナル・ヴァージョンに基づくものである。

おまけ
 図版を見るとわかるが、キャプションのあとにプロローグ的な文章がはじまっている。じつはこれもハワードの原文にはない。「トラニコスの宝」には付いていないので、デル・レイの書き足しだと思うが、確証はない。(2009年2月21日)

【追記】
 『真紅の城砦』(創元推理文庫、2009)のこと。同書には「黒い異邦人」のほか、「不死鳥の剣」「真紅の城砦」の二中篇、さらには資料編として未完成の小説「辺境の狼たち(草稿)」、創作メモ「ハイボリア時代の諸民族に関する覚え書き」「西方辺境地帯に関する覚え書き」を収録した(資料編収録作はすべて本邦初訳)。


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