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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.07 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 » 2012.09

2012.08.27 Mon » 『剛勇の谺 第二集』その2

 昨日のつづきで、ワグナー編のアンソロジーがいかにマニアックかという話。

 Echoes of Volor Ⅱ の第二部はC・L・ムーア編。このセクションはムーアの小説4篇と自伝的スケッチ、それにまつわる他人のエッセイ4篇を収録している。なんとこのうち商業誌からの再録は「スターストーンの探索」1篇だけ。あとはファンジンからの再録か、本書のための書き下ろしなのだ。

 ムーアの代表作《ノースウェスト・スミス》シリーズは50年代に単行本にまとめられたが、同人誌発表の作品や、未来の夫カットナーと共作したお遊び的要素が強い作品(つまり「スターストーンの探索」)はそこから漏れていた。要するに、本書はアメリカの読者にとって幻だった4篇を収録しているのだ。
 しかも「暗黒界の妖精」については、共作者アッカーマンが1948年にファンジンに寄せた裏話を再録し、さらにその記事についての文章を書き下ろしで寄せてもらっている。
 「狼女」と「短調の歌」については、古典SF研究の泰斗モスコウィッツに書き下ろしの序文をもらっている。
 さらに、1936年にファンジンに載ったきりだったムーア自身の自伝的文章を再録しているのだ。まさに至れり尽くせりである。

 第三部はリイ・ブラケット&レイ・ブラッドベリ編。ブラケットが途中まで書いたが、急遽ハリウッドに行くことになり、弟子であるブラッドベリにあとを託したノヴェラ「赤い霧のローレライ」を収録している。
 ブラッドベリは師匠の完全コピーを試み、原稿を読んだブラケットに「驚いたわね。あんたはあたしよ!」といわれたエピソードを披露している。さらに自分の担当分がどこからか、ヒントをあたえたうえで「つなぎ目がわかったら知らせてくれ」といっている。
 この作品はとりわけ珍しいものではないが、当時は入手しにくかったのだろう。ちなみに主人公の異名はコナンという。

 第四部はマンリー・ウェイド・ウェルマン編。《ホク》シリーズに属す1篇と未完の断片を収録している。
 《ホク》シリーズというのは、ウェルマンが1939年から42年にかけて5篇発表した原始人もの(追記参照)。主人公のホクはクロマニヨン人の英傑で、弓を発明したり、アトランティスを沈めたり、ネアンデルタール人を掃討したりした人物である。この時代には恐竜の生き残りがいて、ホクは翼竜やトリケラトプスと闘ったりもする。この設定からハリウッドの恐竜映画、たとえば『紀元前百万年』(1940)などが思いうかぶが、じっさいウェルマンは自作をパクられたとこぼしていたという。
 ちなみにホクの事跡は曖昧な記憶となって後世に伝えられ、そこからヘラクレスの伝説が派生したのだということになっている。

 ウェルマンは晩年になってシリーズを再開させることにし、40数年ぶりにホクの物語を書きはじめた。そして最初のページをタイプし、鉛筆で二、三の訂正をほどこしたあと、二ページめをタイプライターに挟んで2とナンバリングしたところで席を立った。そして二度と帰らなかったという。
 本書にはシリーズの掉尾を飾るノヴェラと、絶筆になった断片が収録されている。
 
 出来映えのほうだが、良くも悪くもパルプ時代の産物としかいいようがない。〈剣と魔法〉というよりは、19世紀から連綿とつづく通俗的な原始人小説である。初出がSF誌〈アメージング・ストーリーズ〉だったせいもあるのだろうが、数多い科学的な注釈が、いまとなってはキャンプな味を出している――というのはウェルマンびいきのワグナーの弁だ。(2009年3月3日)

【追記】
 未発表作が1篇あったと判明した。次回はその件について。