fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.08 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 » 2012.10

2012.09.01 Sat » 『エドモンド・ハミルトン復活』

 編訳したエドモンド・ハミルトン傑作集『フェッセンデンの宇宙』が河出文庫にはいることになった。文庫化にあたって3篇を増補した。
 内訳は、作者本人が自作のベスト短篇に選んだ時間SF「世界の外のはたごや」、アメリカ幻想文学の偉大な先達、エドガー・アラン・ポオへオマージュを捧げた「漂流者」、表題作の改稿ヴァージョン「フェッセンデンの宇宙(1950年版)」であり、すべて当方による新訳である。
 前に書いたとおり、表題作の別ヴァージョンの新訳は念願だったので、今回それがかなった形。すぐれた作家が、どのように自作を改稿するかを示す好例なので、ぜひ同書の巻頭と巻末に配した両者を読みくらべていただきたい。
 9月5日ごろ書店にならぶそうなので、〈奇想コレクション〉版をお持ちの方もお見逃しなく。

 いい機会なので、エドモンド・ハミルトンに関する記事を公開しよう。まずは2010年に出た作品集から。グレッグ・ファウルクス編 Edmond Hamilton Resurrected (Resurrected Press, 2010) である。
 体裁は、250ページ強のトレードペーパー。

2012-8-26(Ed Ham)

 版元は旧作のリプリントを専門とするスモール・プレス。SFがメインだが、ミステリや冒険というカテゴリもある。編集長のファウルクスという人の個人事業に近いらしく、この人が編集した本を出すいっぽうで、この人が書いた小説をプロモートしている。
 編集長の趣味か、1930年代から50年代までの作品が専門領域。忘れられた作家にふたたびスポットを当てようという心意気やよしだが、二流作家、三流作家の名前ばかりがならぶラインナップには、いまひとつ食指をそそられない。

 それはともあれ、本書の目次を書き写しておこう。発表年と推定枚数も付しておく――

1 The Second Satellite 1930 (70)
2 未来を見た男 1930 (35)
3 Monsters of Mars 1931 (95)
4 The Sargasso of Space 1931 (65)
5 The Door into Infinity 1936 (90)
6 The World with a Thousand Moons 1942 (120)
bonus story! And Now a Message... 2010 (45)
special preview! The Laws of Magic 2010 (10)

 最後のふたつがなにかというと、ファウルクスの小説のプロモート。前者は近刊の短篇集から先行掲載。後者は既刊の長篇の抜粋。両方とも読んでみたが、1940年代パルプSF風の作風で、同人誌レヴェルとしかいいようがない。

 肝心のハミルトンの小説はというと、やはり典型的なパルプ小説。1と3と5は、パルプ誌に掲載されたきり埋もれていた作品の復活である。もっとも、当方は好きだが、わざわざ復活させるほどではない気もする。

 1と3は大時代なプラネタリー・ロマンス。1の舞台は地球の成層圏に存在する第二の月、3の舞台は火星だが、ストーリーの骨子は同じ。つまり、探検家がかの地へおもむくと、そこは奇怪な異星人(1はカエル人間、3はワニ人間)が支配する地で、捕まった主人公たちが、虐げられている地球人に似た種族と力を合わせ、叛乱を起こすのである。
 強いて面白い点をあげれば、3に出てくる火星の帝王か。ひとつの頭に三つの体を持つワニ人間なのだが、「巨大な脳に滋養を行きわたらせるためには、三つ分の体が必要だから」こうなっているそうだ。
 余談だが、1は野田宏一郎(昌宏)氏が、〈SFマガジン〉の連載コラム「SF実験室」(1966年6月号)にイラストともども紹介したことがある。
 
 2は、このなかでは異色作。一種のタイムマシンに捕捉され、1944年へ運ばれた15世紀フランス人が、中世へもどってその体験を語ったせいで妖術師あつかいされる話。15世紀の人間の目を通して語られる20世紀文明の描写が読みどころで、たしかに古風なセンス・オブ・ワンダーがある。これだけ邦訳があるのも納得の出来だ。

 4と6は、わりとシリアスなスペース・オペラ。4は事故を起こした宇宙船が、宇宙船の墓場のようなところへ迷いこみ、先に来ていた宇宙ギャングと闘う話(表紙絵参照)。6は、弟を人質にとられた宇宙船乗りが、やむなく宇宙海賊の命令にしたがって、罪のない人々を小惑星ヴェスタへ連れていく話。そこには、ほかの生物に寄生し、意のままにあやつる怪生物がはびこっていて、阿鼻叫喚の地獄図絵が展開される(というのは大げさだが)。
 4はともかく、6はちゃんとひねりがあって、けっこう面白く読めた。

 5は表題から予想されるような異次元冒険譚ではなく、《フー・マンチュー》ものの線をねらった伝奇小説。現代のイギリスが舞台で、新妻を東洋人のオカルト結社に誘拐されたアメリカ人と、スコットランド・ヤードの刑事が冒険をくり広げる。これは掲載誌が〈ウィアード・テールズ〉なので、同誌のカラーに合わせたのだろう。
 
 珍しい小説が読めたので、当方としては満足だが、そういう人はあまり多くなさそうだ。(2012年8月26日)

スポンサーサイト