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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.19 Wed » 『惑星物語傑作選第1集』

 リイ・ブラケット関連で、ブラケット編のアンソロジー The Best of Planet Stories #1 (Ballantine, 1975) を読んだ。

2012-2-22(Planet)

 〈プラネット・ストーリーズ〉というのは、1939年創刊で、1955年に廃刊となったアメリカのパルプSF雑誌。「モダンなスペース・オペラ誌」を標榜しており、波瀾万丈の宇宙活劇を売り物としていた。半裸の美女と宇宙怪物という画題の表紙とあいまって、いわゆるスペース・オペラのイメージ作りに大いに貢献した。要するに、野田昌宏氏を魅了した世界である。

 リイ・ブラケットは同誌の看板作家のひとりであり、60年代末からの回顧ブームの流れに乗って、同誌の傑作選の編集を任されたらしい。続巻が予定されていたが、残念ながら1冊で終わった。

 序文でブラケットがスペース・オペラ擁護の堂々たる論陣を張っている。もっとも、それは日本の読者にとっては前提となる考え方。野田氏の偉大さをあらためて教えられる。
 ブラケットによると、そのむかしSFファンのあいだでは〈プラネット・ストーリーズ〉を酷評することが「おしゃれ」だったらしい。理由は〈アスタウンディング・ストーリーズ〉ではないから。SFファンの性癖というものは、古今東西、あまり変わらないようだ。

 内容はつぎのとおり。例によって、発表年と推定枚数を付記しておく――

1 赤い霧のローレライ   リイ・ブラケット&レイ・ブラッドベリ '46 (185)
2 星ねずみ  フレドリック・ブラウン '42 (65)
3 Return of a Legend  レイモンド・Z・ギャラン '52 (45)
4 Quest of Thig  ベイジル・ウェルズ '42 (35)
5 The Rocketeers Have Shaggy Ears  キース・ベネット '50 (120)
6 The Diversifal  ロス・ロックリン '45 (45)   
7 火星上の決闘  ポール・アンダースン '51 (50)

 通読すると、続巻が出なかった理由がわかる気がする。つまり、同誌がスペース・オペラ一辺倒でなかったことを強調するためか、現代SFを先取りしたような作品が多く採られているのだ。

 火星に植民した地球人が、環境に合わせて変わらざるをえないことを示した3、地球侵略に来た異星人が人間性というものに目覚める4(Thig は誤植ではなく、異星人の名前)、歴史を変えないよう、未来人に監視される現代人の葛藤を描いた6、アメリカ先住民を火星人に置き換えて、白人の驕りを批判した7がそれに当たる。

 しかし、現代的なテーマをあつかっているがゆえに、現代の作品とくらべると稚拙さが目立つ。酷ないい方だが、歴史書の脚注的な価値しかない。先駆的な価値はあっても、エンターテインメントとしては現代の読者にはアピールしないわけだ。
 これは古典SFを愛する者がおちいりがちな陥穽なので、自戒の意味をこめて記しておく。

 そういうしだいでスペース・オペラ/プラネタリー・ロマンスといえるのは1だけ。邦訳もあるのでくわしくは書かないが、これは良質のプラネタリー・ロマンスである。ちなみに本書の表紙絵の画題となっている。画家の名前は記載されていないが、ケリー・フリースにまちがいない。

 ところで、同篇がブラケットとブラッドベリの共作なので、どちらがどの部分を書いたのか、いろいろと憶測されていたらしい。たとえば、詩的な部分はブラッドベリが書いて、アクションはブラケットが書いたといった具合。
 じつはブラケットが書きかけた原稿をブラッドベリが書きついで完成させたもので、その割合は6対4ほどだという。ブラッドベリは後年「つなぎ目が自分でもわからない」と発言しているが、そのつなぎ目をブラケットは序文ではっきりと明かしている。
 要するに、ブラケットの弟子だったブラッドベリが、師匠の作風を完全コピーしたわけである。わが国でもこの作品をブラッドベリ主導と見たがる傾向があるので、この点は声を大にしていっておく。

 2については、いまさらなにかいうまでもない。「現代のおとぎ話」として最高位にランクする作品だ。

 最後に残った5だが、金星上で墜落した偵察艇の一行が、数々の苦難を経て母船へ帰りつくまでを綴った物語。バグリイの『高い砦』を代表とする正統派冒険小説のSF版である。古臭いうえに欠点だらけだが、それでも最後まで読むと熱いものがこみあげてくる。物語の原型の強さというものを感じさせる。はい、こういうの大好きです。(2012年2月22日)


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