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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.26 Wed » 『影絵芝居』

 レイ・ブラッドベリにまたひとつ名誉が加わった。ロサンゼルスの繁華街にある交差点が、「レイ・ブラッドベリ・スクエア」に改名されるとのこと(情報源)。この街に長く住み、この街をこよなく愛したブラッドベリも、きっと喜んでいるだろう。

 いい機会なので、ブラッドベリ・トリビュート・アンソロジーを紹介しておこう。サム・ウェラー&モート・キャッスル編 Shadow Show (William Morrow, 21012) である。
 今年の7月に出た本で、刊行の直前にブラッドベリが亡くなったので、結果的に追悼本となった。

2012-9-22(Shadow Show)

 編者のひとりウェラーは、公認伝記『ブラッドベリ年代記』(河出書房新社)の著者、もうひとりのキャッスルはヴェテランのホラー作家であり、ふたりとも本書に小説を寄せている。

 編者たちの序文、ブラッドベリ本人の短いエッセイにつづき、26人の作家の新作書き下ろしが収録されている。老若男女、ジャンル作家から純文学作家まで多彩な顔ぶれがそろっており、ブラッドベリの幅広い影響力を実証した形だ。
 主な顔ぶれをあげれば、ニール・ゲイマン、マーガレット・アトウッド、ジェイ・ボナジンガ、デイヴィッド・マレル、トマス・F・モンテレオーニ、ジョー・ヒル、ロバート・マキャモン、ラムジー・キャンベル、オードリー・ニフェネッガー、ケリー・リンク、ハーラン・エリスンといったところか。

 特筆すべきは、各篇に「あとがき」がつき、それぞれがブラッドベリへの思いを綴っている点。3、4ページにわたる堂々としたエッセイを書いている人もいて、英米でブラッドベリがどのように受容されているかを示す証言として興味深い。

 もうひとつ特筆すべき点は、ブラッドベリの特定の作品のスピンオフがない点。つまり、『火星年代記』の新しいエピソードとか、『何かが道をやってくる』の後日談のようなものはないということだ。以前紹介したべつのトリビュート・アンソロジーは、スピンオフ作品が中心だったので、きわだった対照をなしている。

 各篇のブラッドベリ度には濃淡があり、ウェラーの短篇のようにブラッドベリの新作といっても通りそうなパスティーシュもあれば、アトウッドの短篇のように、ブラッドベリとはまったくべつの文体で書かれた作品もある。
 とはいえ、いずれもなんらかの形でブラッドベリへの敬意を表しており、トリビュートとしては成功している。

 集中ベストはジョー・ヒルの“By the Silver Water of Lake Champlain”。簡単にいってしまえば、ブラッドベリの名作「霧笛」と「みずうみ」を下敷きにした作品。湖畔に打ち上げられた恐竜の死骸を軸に、主人公となる少年少女のやるせなさ、諦め、怒りなどがヒリヒリするような筆致で描かれており、読む者の胸をえぐる。ジョー・ヒル恐るべし。

 僅差でつづくのが、ロバート・マキャモンの“Children of the Bedtime Machine”。文明が崩壊したあとの世界を舞台に、「就寝前のお話をする機械」(つまりベッドタイム・ストーリーを語るマシンであり、駄洒落めいた表題はここから)を手に入れた老女の話。
 この機械は一種のホログラム投影装置であり、さまざまなキャラクターがあらわれては、お話をしてくれる。そこで語られるのが、(明示はされていないが)ブラッドベリの諸作だという趣向。こうして灰色だった老女の暮らしに一条の光が射す。
 「物語の持つ力」を高らかに謳いあげており、最高のブラッドベリ・トリビュートだ。

 これの裏返しなのが、ボニー・ジョー・キャンベルの“The Tattoo”。カーニヴァルのサイドショーで見た「刺青の女」の、映画のように動いて物語を展開する刺青に魅せられ、自分も同じような刺青を入れた男の話。
 刺青は見るたびにちがう光景、ちがう物語を展開するが、かならず破局に終わる。最初は喜んでいた婚約者は刺青を嫌うようになるが、男は逆に刺青を見ることにしか関心がなくなり、人生を棒にふるのだった……。
 刺青の展開する物語が、ブラッドベリの諸作を連想させるという趣向。こちらは「物語の危険な魔力」をテーマにしており、ブラッドベリのダークな面を拡大したといえる。

 マニア感涙なのが、トマス・F・モンテレオーニの“The Exchange”。若きブラッドベリ本人とH・P・ラヴクラフトをモデルにした人物を登場させ、現実の歴史ではかなわなかった両者の出逢いを演出している。

 この調子で書いていると切りがないので、あとはべつの機会に。ともあれ、全体に水準が高いので、お勧めの一冊である。(2012年9月22日)


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