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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.27 Thu » 『緑の影、白い鯨』

【前書き】
 以下は2007年6月19日に書いた記事に手を加えたものである。


 ブラッドベリほどの作家にしても未訳の長篇はあるもので、それが Green Shadows, White Whale (Knopf, 1982) だ(追記参照)。ただし、当方が持っているのは、例によって翌年バンタムから出たペーパーバック版である。表紙は、ハードカヴァー版よりこっちのほうがいいと思う。
 なお、本書の抜粋の翻訳が、日本版〈エスカイア〉に載ったそうだが、当方は未見。

2007-6-19(Green Shadows)

 題名でピンときた方もいるだろうが、ブラッドベリが50年代から書き継いでいた《アイルランドもの》の集大成。既発表の短篇をつなぎあわせ、新たな章を書き加えて1冊にしている。
 念のために説明しておくと、「緑の影」はアイルランドの風土、「白い鯨」は、ジョン・ヒューストン監督の映画「白鯨」をさす。ブラッドベリはこの映画の脚本を書くため、ヒューストンのお供で9カ月間アイルランドにわたり、監督の気まぐれにふりまわされ、身も心も疲れ切った。そのときの体験を基に書かれたのが、《アイルランドもの》なのである。

 著作権表示のページによると、組み込まれた短篇は「月曜日の大椿事」(4章)、「お邸炎上」(12章)、「オコネル橋の乞食」(13章)、「新幽霊屋敷」(15章)、「ご領主に乾杯、別れに乾杯」(18章)、「なんとか月曜を過ごす」(21章)、「四旬節の最初の夜」(22章)、“McGillahee's Brat”(23章)、「バンシー」(27章)、「冷たい風、暖かい風」(28章)、「国歌演奏短距離走者」(29章)。これらとは別枠で、第9章が“The Hunt Wedding”の題名で〈ジ・アメリカン・ウェイ〉1992年5月号に掲載されたとのこと。

 さて、このページを見たとき、あれっと思った。というのは、アイルランドを舞台に、横暴な映画監督と若い作家の確執を描いたべつの短篇を読んだことがあったからだ。ブラッドベリ特集を組んだ〈ユリイカ〉1982年2月号に載った「ゴールウェイの荒々しい一夜」(宮脇孝雄訳)である。

 ブラッドベリは自作に厳しい人なので、この短篇は使わなかったのだろうかと思いながら本書を読んだら、第6章に組みこまれていた。
 もちろん、場所も人名も文章も大幅に書き換えられている。だが、程度の差はあれ、それはほかの短篇にもいえることなので、この事実が記録から落ちるのはまずいと思う。ここに強調しておくしだい。(2007年6月19日+2012年9月24日)

【追記】
 本書はのちに『緑の影、白い鯨』(筑摩書房、2007)として邦訳が出た。訳者の川本三郎氏は、「訳者あとがき」において、原型短篇について(短篇の題名を記さず、収録短篇集名をあげるという変則的な方法で)触れておられるが、「ゴールウェイの荒々しい一夜」については触れていない。

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