fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.08 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 » 2012.10

2012.09.30 Sun » 『凶運の月』

 今晩は中秋の名月だという。
 そこで、月にまつわる小説を紹介したい。といっても当方がやることなので、とびっきりの怪作なのだが。アル・サラントニオの Moonbane (Bantam Spectra, 1989) である。

2012-5-7(Moon)

 そのむかし高田馬場にあった洋書店ビブロスでこの本を手にとったとき、ジム・バーンズの筆になる表紙絵を見て、「狼男が不死身になるため、スペースシャトルをハイジャックして月へ行く話だったらバカだよな」と思ったのだが、実物はもっとくだらなかった。

 物語は、ある月明かりの夜にはじまる。父親と幼い息子が星空をながめていると、夜空からつぎつぎと隕石が降ってくる。地上に落下した隕石から人狼が出現し、問答無用で人間を襲いはじめる。人狼に噛まれた人間はその同類と化すので、被害は増すばかり。じつは世界じゅうで同じ事態が起きており、文明は崩壊に追いこまれる。

 主人公の父子は、阿鼻叫喚の地獄のなか、必死の逃避行をつづける。その模様が迫力ある筆致で描かれており、けっこう手に汗握らせる。

 途中、地球に住んでいる狼は、大むかし月から来た人狼と、地球の犬とのあいだに生まれた雑種だという驚愕の真実も明かされる。狼が月に向かって遠吠えするのは、故郷を偲んでいるのだ!

 さて、父子はわずかに残った文明の拠点、ケープ・カナヴェラルへ逃げこむ。そこでは人狼族に復讐するため、月へ水爆を落としにいく準備が着々と進められていた。
 やがてスペースシャトルの打ち上げ。父親はクルーとしてシャトルに乗り組んでいるが、彼の体には小さな傷があった。人狼の牙がかすめたところに……。

 ストーリーだけとれば50年代B級SF映画みたいだが、文章はレイ・ブラッドベリばりの抒情派。なにかが根本的にまちがっているような気がしてならない。

 作者のサラントニオは、新進気鋭のホラー作家として将来を嘱望されていた人だが、けっきょく大成しなかった。わが国では短篇がいくつか訳されているほか、編集した巨大オリジナル・アンソロジー『999』(創元推理文庫・三分冊)が刊行されている。(2012年5月7日)

スポンサーサイト