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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.10.04 Thu » 『モーロックの夜』

 すでに旧聞に属するが、SFファン交流会7月例会に出演してきた。お題は「スチームパンクとネオ・スチームパンク」。出演はほかに添野知生、石亀航氏で、当方は元祖スチームパンク担当である。

 周知のとおり、スチームパンクというのは、作家K・W・ジーターの造語。1987年にサイバーパンクをもじって造った言葉で、自作や、仲間であるティム・パワーズやジェイムズ・P・ブレイロックが書いていた一群の作品をさすためのものだった。つまり、なかば架空の19世紀イギリスを舞台にした都市型冒険SF/ファンタシーである。

 したがって、ジーターはスチームパンクのゴッドファーザーであり、その作品 Morlock Night (1979) は元祖スチームパンクとして認められている。初版はDAWから出たペーパーバックだが、当方が持っているのは2011年にアングリー・ロボットから出たペーパーバック。スチームパンクの古典として復刊したもので、その観点から書かれたティム・パワーズの序文と、アダム・ロバーツの跋文がついている。

2012-8-2(Morlock)

 題名から想像がつくかもしれないが、本書はH・G・ウェルズの古典「タイム・マシン」の続篇。タイム・トラヴェラーの話を聞きおえたホッカーなる英国紳士が、その帰り道、アンブローズ博士と名乗る男に話しかけられるところからはじまる。
 アンブローズによれば、未来へ旅立ったタイム・トラヴェラーは、モーロックに捕まってタイム・マシンを奪われた。じつはモーロックには、スーパー・モーロックと呼ばれる優秀な種族がいて、その指揮のもと、彼らはタイム・マシンを改良し、この1892年へ攻めてこようとしているのだという。
 ホッカーはその話を一笑にふすが、霧に巻かれて道に迷ったあと、気がつくと街が瓦礫と化した一画に出る。そこではモーロックとの闘いがすでにはじまっているのだった……。

 こう書くと、まともなSFに思えるが、このあと意表をつく展開が待っている。アンブローズの正体は伝説の魔術師マーリンであり、ホッカーに霊剣エクスカリヴァーの探索を命じるのだ。なぜなら、いまは英国の危急存亡のときであり、アーサー王も転生しているが、アンブローズに敵対する勢力の陰謀で力を奪われている。アーサー王を助けるためには、タイム・マシンを使って四つに分けられたエクスカリヴァーを元にもどす必要があるからだ。

 というわけで、時空を股にかけたホッカーの冒険がはじまるのだ。

 こういう話になった理由は、序文でパワーズが明かしている。それによると、もともとイギリスのある出版社が、アーサー王を主人公にした全10冊のシリーズを企画した。英国が危機におちいった各時代にアーサー王が転生するというコンセプトで、企画はポシャったのだが、ヴィクトリア朝を担当する予定だったジーターは、じっさいに作品を書きあげ、ほかの出版社から刊行したというのだ。ジーターにとって、それぐらい書きたい作品だったわけだ。

 くわしい説明は省くが、本書ではロンドンの下層社会が活写される。下水道網をどんどん下っていくと、ロンドンの地下に海が広がっているというイメージは秀逸。
 もっとも、そこに古代アトランティスの遺物である潜水艦があり、モーロックがそれに乗っているというのだから、やはりまともではない。
 
 ところで、この下水道網は、じつは古典的な〈探索と遍歴〉型エピック・ファンタシーにおける洞窟と同じ機能を持っている。高層建築と山、路地と森のなかの小道といった同様の例をあげ、「ファンタシー空間の都市化」(あるいは都市型エピック・ファンタシーの誕生)という話をしたのだが、うまく伝わらなかったようだ。反省。(2012年8月2日)

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