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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.10.07 Sun » 『奇妙な旅程』

 せっかくなので、ブレイロックの盟友ティム・パワーズの短篇集 Strange Itineraries (Tachyon, 2005) も紹介しておこう。
 版元は新興のスモール・プレス。ここの本は何冊か持っているが、すべて版型がちがうのが面白い。本書は薄手で大判のペーパーバックである。

2007-1-6(Strange)

 ポール・ディ・フィリポが序文を書いていて、パワーズの中短篇が9篇収録されている。うち3篇はジェイムズ・P・ブレイロックとの共作。パワーズは長篇型なので、短篇はこれですべてらしい(追記参照)。ちなみに「遍歴」と「丘をおりる道」は邦訳がある。

 収録作品のほとんどは、ゴースト・ストーリーといえる。とはいえ、ホラーではない。幽霊は出てくるが、その出現がもたらす恐怖が主眼ではないのだ。
 つまり、確固たる現実に超自然が裂け目を入れるところから生ずる恐怖を描くのがホラーなら、現実の輪郭があやふやで、常にゆらいでいる異界との境目を描くのがパワーズのゴースト・ストーリーなのだ。時間をテーマにした作品が多いので、SFに近い印象がある。版元は本書を「サイエンス・フィクション/ダーク・ファンタシー」に分類しているが、まさにその通りである。

 とはいえ、長篇型の作家だけあって、短篇はいまひとつ。どれも悪くはないが、「これぞ傑作!」と叫びたくなるような作品もない。強いていえば、ブレイロックとの共作“Fifty Cents”がいちばん面白い。時間ループを題材に、ひとりの男の悪夢めいた体験を描いた作品である。
 
 ところで、パワーズの作品には「亡妻オブセッション」とでもいうべきものが存在するが、本書も例外ではない。収録作品のほとんどで、主人公の男は妻と死に別れているのだ。
 93年にパワーズに会ったとき、この点について訊いてみたが、答えをはぐらかされた。隣にいた奥さんを指して、「こちらがあなたの亡くなられた奥さんですか」とジョークをいったら、奥さんが「わたしは死んではいませんよ」と返してくれた。いまでは懐かしい思い出である。(2007年1月6日)

【追記】
 それ以後に書かれた作品は、短篇集 The Bible Repairman and Other Stories (Tachyon, 2011) にまとめられた。


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