fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.09 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 » 2012.11

2012.10.17 Wed » 『SF百科事典』

【承前】
 ロバート・ホールドストックという人は、ファンあがりの作家らしく、人脈を活かした本をほかにも作っている。その最良の成果といえるのが、Encyclopedeia of Science Fiction (Octopus, 1978) だ。

2008-10-20(Encyclopedia)
 
 コーヒーテーブル本と呼ばれる、グラフィック主体の大型ハードカヴァー。ほとんどのページにカラー図版が配されており、古いSF雑誌や単行本の表紙はもちろんのこと、当時隆盛を迎えていたイギリスSFアートがふんだんに掲載されている。眺めているだけで楽しい本だ。
 
 表題は百科事典となっているが、じっさいは評論集。SFのさまざまな側面を論じた概説が、全部で12本掲載されている。
 その執筆陣が適材適所という感じ。たとえば、黎明期のSFについてはブライアン・ステイブルフォード、SF雑誌についてはマイクル・アシュリー、「英雄としての機械」というテーマではハリイ・ハリスンが健筆をふるっている。

 なかでもクリストファー・プリーストの“New Wave”という一文は熟読した。表題どおり、1960年代のニュー・ウェーヴ運動を総括した評論だが、〈ニュー・ワールズ〉一派だけでなく、アメリカでの動きにも目配りした非常にバランスのとれた文章で、これを読めばニュー・ウェーヴについて、おおよそのところはわかる。
 あんまり感激したので、勉強をかねて訳すことにし、〈BAGATELLE〉2号に「新しい波――六〇年代の急進的変革」という題名で載せた。

 あとで知ったのだが、ニュー・ウェーヴという言葉は、作家デビュー前のプリーストが、ファンジンで使ったのが最初らしい。フランス映画の「ヌーベル・バーグ」から転用したとのこと。なるほど、ニュー・ウェーヴ運動は、プリーストの人生を変えたのだなあ。道理で力のこもった評論を書くわけだ。

 〈SFマガジン〉2000年2月号が1960年代SFの特集を組んだとき、上記評論を訳しなおしたものを載せてもらった。「ニュー・ウェーヴ――60年代の急進的改革」がそれだが、副題は編集部がつけたものである。

 ところで、今回いろいろと確認するためホールドストックのことを調べたら、SF作家としてはほとんど評価されてないらしいとわかってショックを受けた。
 なにしろ、手持ちの最新SF百科事典(これはほんとうの事典)には項目がなく、よく使う書誌サイトではSF作家ではなくホラー作家に分類されているのだ。ちなみに、どちらもイギリス人の仕事である。
 本国でこうだと、わが国ではもっと知られていないのだろうなあ。角川や新潮文庫で本が出たり、別名義でホラーが6冊も訳されたりした事実は忘れられ、サンリオSF文庫とともに伝説と化すのかもしれない。(2008年10月20日)

【追記】
 本書については、安田均氏が〈SFマガジン〉1979年5月号の「SFスキャナー」欄で紹介されたことがある。
スポンサーサイト