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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.11.05 Mon » 『奇妙なワイン』

 思うところあって、このところハーラン・エリスンの作品を集中的に読んでいた。その過程で、大むかしに拾い読みしただけだった短篇集をちゃんと読んだので、ここに記録しておく。

 問題の本は Strange Wine (Harper & Row, 1978) だ。ただし、当方が持っているのは、例によって翌年にワーナーから出たペーパーバック版だが。ディロン夫妻の表紙絵がすばらしい。

2012-11-1(Strange 1)2012-11-1(Strange 2)

 同書は1975年から77年にかけて発表された近作をまとめた作品集。エリスンらしく、16ページ(邦訳して35枚くらい)もある長い序文に加え、各篇に著者の前書きがつくという饒舌ぶり。この前書きも、短いものは4行だが、長いものは8ページにもおよび、ゴシップ満載で小説本体よりも面白い――といったら語弊があるか。

 表題の「奇妙なワイン」は、収録作の一篇の題名であると同時に、「幻想/ファンタシー」のメタファーでもある。その証拠に「読書とは、奇妙なワインを飲むことだ」とか「奇妙なワインを飲めば、想像力に力が注がれる」といった言葉が序文に記されている。

 収録された15篇のうち邦訳があるのは、当方の知るかぎり、「クロトウン」、「小人たちと働いて」、「ヒトラーの描いた薔薇」の3篇。
 残りの作品も上記と似たような傾向だ。つまり、日常の隙間に超自然との通路が開き、そこにまぎれこんだ人々の悪夢めいた経験を描く作品群。あっさり「トワイライト・ゾーン」タイプといったほうが、話が早いかもしれない。

 集中ベストは邦訳もある「クロトウン」か表題作“Strange Wine”だろうが、これらは筋や設定を書いても魅力は伝わらないので、毛色のちがう作品を紹介しておく。収録作のなかで最長を誇る“The New York Review of Bird”である。

 題名から察しがつくように、出版界を題材にしたギャグ小説。コードウェイナー・バードという売れないSF作家が、自分の成功を妨げているばかりか、愚劣なベストセラーを量産して人心を腐敗させている出版界の大立て者たちに正義(?)の鉄槌をくだしていくといった内容で、往年のパルプ雑誌をにぎわせたスーパーヒーローものの形式で書かれている。
 バードの伯父はザ・シャドウであり、その家系はフィリップ・ホセ・ファーマーが明らかにしている……といった具合にくすぐりだらけだが、長くなるので割愛。

 面白いのは、コードウェイナー・バードというのが、エリスン自身のペンネームである点。もちろん伝説の作家コードウェイナー・スミスをもじった名前で、最初は雑誌の同じ号に自作を2篇載せるとき便宜的に使うペンネームにすぎなかったのだが、TV界に進出してからは、「自分の意に染まない改変のなされた脚本」のクレジットに使う名前となった。エリスン自身の言葉を借りれば、「こいつはクソだ」という意思表明である。
 
 というわけで、いろいろと憶測を呼ぶことはまちがいなし。ちなみに、初出時には大幅に検閲されたので、このヴァージョンが初の完全版だという。

 せっかくなので、さわりを少々。
 悪の巣窟である大書店の仕入れ担当者を拷問する場面。店頭に陳列してあるベストセラーを読み聞かせると――

「知らなかったんです。じつは、どれも読んだことがないんです。絶対に読むなと釘を刺されていたんです。いまはじめて……ああ……ひどい。わたしは、こんなものを人に買わせていたんですか? 恥ずかしい……穴があったらはいりたい」

 もちろん、こうして悔い改めた者は、情報を明かす前に暗殺されてしまうのだ。(2012年11月1日)

【追記】
 上記「小人たちと働いて」は、エリスンの敬愛する大物作家への励ましとして書かれた愛すべき作品。気に入って訳し、〈ミステリマガジン〉2008年8月号に載せてもらった。恒例の「幻想と怪奇」特集号で、このときのテーマは「作家の受難」だった。

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