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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.11.27 Tue » 「おなじみの悪魔」のこと

【承前】
 〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2011年7月号の見本が届いた。特集は「ゲゲゲのミステリ〈幻想と怪奇〉」――なんと、ミステリ(というか英米の怪奇幻想文学)サイドから見た水木しげるの特集である。
 充実した内容については、リンク先を参照してほしい。

http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/711107.html

 さて、当方はカットナーの短篇の翻訳で特集に協力した。じつは作品選びからかかわったのだが、そのあたりの裏話はあまり表に出ることがないので、興味がある人のために書いておこう。

 最初に話があったのは4月1日金曜日。〈ミステリマガジン〉恒例の〈幻想と怪奇〉特集、今年は水木しげる関連で、水木氏が影響を受けた海外作家の短篇を載せる。ついては水木氏がヘンリー・カットナーの名前をあげてきたので、作品選びに知恵を貸してもらえないかというのだ(この時点でマシスンの未訳作品の訳載と、ウェルズ「魔法の店」の再録は決まっており、ページがあればホジスンの作品も再録したいという話だった)。

 カットナーと水木しげるを結びつけて考えたことはなかったが、いわれてみれば作風に共通点があるような気もする。といっても、SFファンにおなじみのユーモアSFではなく、初期の怪奇小説だ。いくつか心あたりがあったので、月曜日まで時間をもらって作品選びをすることにした。できれば未訳作品という注文がついたことはいうまでもない。

 すぐに水木氏の作風に近いと思われる以下の10篇をリストアップして、3日がかりで読破した(括弧内は推定枚数)。

1 The Devil We Know  Unknown '41-8 (70)
2 ヘンショーの吸血鬼  Weird Tales ' 42-5 (40)
3 著者謹呈  Unknown '42-10 (80)
4 幽霊ステーション  Astounding '43-5 (45)
5 Endowment Policy  Astounding '43-8 (45)
6 住宅問題  Charm '44-10 (45)
7 アブサロム  Startling Stories '46-Fall (45)
8 悪魔と呼ぼう  Thrilling Wonder Stories '46-Fall (70)
9 Ex Machina  Astounding '48-4 (100)
10 Home There's No Returning  No Boundaries '55 (75)

 読んでいると、水木しげるの絵で場面が頭に浮かぶ作品があったのには驚いた。われながら、洗脳されやすいなあ。
 基本的に怪奇小説を選んだので、代表作とされる「ボロゴーヴはミムジイ」や《ボグベン一家》シリーズなどは除外してある。それでも、未訳作品ということであえてSFも読んでみた。5、9、10がそれにあたる。このうち9は前回紹介した。

 10については注釈が必要だろう。これはC・L・ムーアとの共作で、珍しく連名で発表された(著者たちの短篇集に書き下ろし)。暴走するロボットの恐怖を描いたサスペンスSFで、水木しげるというよりは手塚治虫の絵で場面が浮かんでくる。いまとなっては完全に時代遅れだが、50年代SF映画そのもののレトロな味わいは捨てがたい。手塚治虫特集のときに推薦しよう。

 さて、10篇を読んでみて、最終的に未訳の1と既訳の6を推薦した。めでたく1が採用され、「おなじみの悪魔」として訳載の運びとなったしだい。
 ほんとうに水木しげるの世界に近いかどうか、ぜひ現物をお読みいただきたい。(2011年5月24日)

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