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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.12.03 Mon » 『ノースウェスト・スミス』

【承前】
 C・L・ムーアの《ノースウェスト・スミス》シリーズは1930年代に発表された。単行本化は50年代にはいってからで、伝説的なノーム・プレス版のハードカヴァー Shambleau and Others (1953) と Northwest of Earth (1953) がそれにあたる。
 ただし、同人誌発表作をはじめとして4篇が落ちているうえ、ムーアのもうひとつの人気シリーズ《ジョイリーのジレル》とのカップリングという変則的な編集で、けっして決定版と呼べるものではない。
 
 ちなみに前者はスミス4篇、ジレル3篇。後者はスミス5篇、ジレル2篇という構成。ひょっとすると、傑作集的な意味合いのあった最初の単行本が好評だったので、あとの巻が出たのかもしれない。

 このあと Shambleau という題名の短編集が58年と61年に出たが、それぞれ3篇、4篇+2篇と作品数はすくなくなっていた。

 わが国では71年から73年にかけてハヤカワ文庫版全3冊が刊行されたが、これはシリーズ13作をすべて収録した完全版。おそらく世界初の偉業である。ノーム・プレス版にはいっていない4篇は、テキストを手に入れること自体がむずかしかっただろうから、関係者の努力には脱帽するしかない。

 本国では81年になって幻想怪奇系の小出版社の雄ドナルド・M・グラントが、Scarlet Dream という題名でようやくシリーズを集成した。これを改題したうえでペーパーバック化したのが、Northwest Smith (Ace, 1982)で、当方が持っているのはこの版である。画家の名前は明記されていないが、たぶんジム・バーンズだと思う。

2008-9-26(Northwest Smith)

 ただし、集成といってもノーム・プレス版の9篇に掌編「短調の歌」(初出〈ファンタスティック・ユニヴァース〉1957年6月号)を増補した内容。つまり以下の3篇が落ちているのだ――

1「暗黒界の妖精」フォレスト・J・アッカーマンとの共作。同人誌〈ファンタシー・マガジン〉1935年4月号掲載。
2「スターストーンの探索」ヘンリー・カットナーとの共作。〈ウィアード・テールズ〉1937年11月号掲載。
3「狼女」同人誌〈リーヴズ〉1938/1939年冬季号掲載。

 1は《スミス》シリーズの熱狂的ファンとの文通から生まれた作品。アッカーマンの考えたアウトラインを基にふたりで肉付けし、ムーアが小説化した共作である。削除版がのちに〈ウィアード・テールズ〉1939年12月号に掲載された。
 2は婚約時代に未来の夫ヘンリー・カットナーと共作したもので、ムーアの二大人気キャラクター、スミスとジレルが競演するお遊び的な作品。カットナー色が強いのが特徴。
 3は初期の習作。SF色のない幻想怪奇小説であり、シリーズ中の異色作。たぶん没原稿なのだろう。

 いずれもマイナーな作品であり、未収録もしかたない気もするが、作品の質とは関係なく、シリーズ全作をそろえたいのが人情というもの。全作を新訳で集成し、新しい情報に基づく解題やさまざまな資料を付した完全版を作るのが当方の野望である。じつはその準備も進めていたのだが、先に論創社版が出てしまった。当方の無能と怠慢のなせる業とはいえ、無念。(2008年9月26日)


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