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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.12.06 Thu » 『C・L・ムーア傑作集』

【承前】
 C・L・ムーア傑作集 The Best of C.L.Moore (SF Book Club, 1975) についても記しておこう。ただし、当方が持っているのは、例によって同年にバランタインから出たペーパーバック版だが。

2008-9-30(Best of C.L.Moore)

 編纂にあたったのはレスター・デル・レイで、デル・レイの序文とムーア本人のあとがきが付いている。
 収録作はつぎのとおり――

シャンブロウ  《ノースウェスト・スミス》
黒い渇望  《ノースウェスト・スミス》
The Bright Illusion
暗黒神のくちづけ  《ジョイリーのジレル》
Tryst in Time
Greater Than God
Fruit of Knowledge
美女ありき
Daemon
ヴィンテージ・シーズン

 これは文字どおりの傑作集で、ムーアの代表作はもれなく収録されている。ムーア単独の作品はすくないので、だれが選んでも、これと似たラインナップになるだろう。

 なにしろ1930年代から40年代にかけての作品なので、古びてしまった部分も多い。
 未訳作品のなかでは“Daemon”がオーソドックスな幻想怪奇小説として秀逸。狂人にだけ真実が見えるというテーマの変種で、弱者に対する視線が優しい。これは訳す価値があると思う。
 あとひとつ選ぶなら、タイム・トラヴェルものに大時代なラヴ・ロマンスをからめた“Tryst in Time” か。これは企画中のロマティック時間SFアンソロジーに入れようと思っているのだが、企画自体が暗礁に乗りあげているので、先行きは不透明なのが残念(追記参照)。

 ちなみに、あとがきでムーアが、デビュー作「シャンブロウ」に関する裏話を書いている。これが従来流布していた説とは正反対の内容。
 つまり、形としてはスペース・オペラであるこの作品は、いろいろなSF誌に掲載を断られたあげく、ようやく幻想怪奇誌〈ウィアード・テールズ〉で陽の目を見たとされている。ところが、ムーアはこのエピソードを否定するのだ――
「わたし自身の完璧に明晰な記憶によれば、最初に送った先が〈ウィアード・テールズ〉だった。その種の雑誌でよく知っていたのは、同誌だけだったからだ。そして採用の通知がきて、直後に(当時としては)途方もない大金である100ドルの小切手が届いた。
 じっさい、処女作が手ひどくあしらわれていたら、ニューヨークの出版社のドアをつぎからつぎへと叩いてまわるような真似が、わたしにできたはずがない。あっさりあきらめて、ほかの活動に鞍替えしていただろう」

 ムーア本人の証言だが、作家の記憶ほど当てにならないものはない。果たして真相はいかに。(2008年9月30日)

【追記】
 その後めでたく企画が成立し、この作品は安野玲氏に訳してもらって、拙編のアンソロジー『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫、2009)に収録できた。訳題は「出会いのとき巡りきて」である。

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