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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.12.12 Wed » 『妖異の海を漂流中』

【前書き】
 以下は2006年6月28日に書いた記事である。海つながりで公開する。


 ウィリアム・ホープ・ホジスンの新しい傑作集 Adrift on the Haunted Seas (Cold Spring Press, 2005) を読んだ。

2006-6-28 (Adrift)

 あまり聞いたことのない版元だが、広告を見ると幻想文学関係の面白そうな本をいろいろと出している。ありゃ、1年くらい前に買ったケネス・モリスの Book of the Three Dragons もここの本だったのか。これは要注目のスモール・プレスだな。
 さて、本書だが、ダグラス・A・アンダースンという人の選で、この人の序文とホジスンの小説が18篇、詩が4篇おさめられている。定番をおさえたうえで、マニアックな作品を忍びこませるという意欲的な作りである。
 邦訳があるのは以下の13篇――「夜の声」、「暁に聞こえる呼び声」、「ジャーヴィー号の怪異」、「静寂の海から(第一部)」、「静寂の海から(第二部)、「漂流船」、「海藻の中に潜むもの」、「ランシング号の乗組員」、「グレイケン号の発見」、「熱帯の恐怖」、「漂流船の謎」、「石の船」、「帰り船〈シャムラーケン号〉」。
 
 じつは今度編むモンスター小説アンソロジー(追記参照)に使える作品がないかと思って読んだのだが、残念ながらそういう作品はなかった。
 
 未訳の作品5篇のうち4篇は、超自然の要素のない海洋小説。たとえば“Through the Vortex of a Cyclone”は、海上で巨大な颱風(サイクロン)に遭遇した帆船の話で、ストーリーと呼べるものはなく、ただひたすら嵐の描写がつづく。ほかも同工異曲。
 残る1篇は海洋怪談だが、凡作。
 さらに未訳だと思っていた作品“Demons of the Sea” は、読んでみたら邦訳のある「ランシング号の乗組員」の別ヴァージョンだと判明した。タコ人間が出てくるのですぐにわかったのだ。邦訳は、オーガスト・ダーレスが勝手に書き直したヴァージョンを基にしているのだが、わざわざ新訳するほどの作品でもない。

 収穫は書誌情報。作品の初出について、わが国で流布している情報は、ほとんどが再録を初出と勘違いしていることがわかった。ホジスンは1918年に亡くなっているので、1920年代の雑誌に初出の作品が多いのは、なんか変だと思っていたが、これで腑に落ちた。もっとも、真の初出は不明になってしまったのだが。

 再録時に改竄された劣悪ヴァージョンが、短篇集『海ふかく』(国書刊行会)のテキストであることもわかった。ダーレスは、ホジスン再評価に多大な功績があった人だが、テキスト・クリティックの面では困った人であったようだ。

 だからこそ原テキストを収録した本を出す意義があるのだが、こういう本を喜ぶのは、よっぽど奇特な人間にちがいない(ホジスンのエッセイ集など、限定150部だそうだ)。コアなホジスン・ファンは、世界じゅうに3桁かもしれない。なんか暗澹たる気分になってきた。(2006年6月28日)

【追記】
 怪物ホラー傑作選と銘打った『千の脚を持つ男』(創元推理文庫、2007)のこと。いい機会なので、この本に関する裏話をつづける。

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