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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2012.11 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 » 2013.01

2012.12.17 Mon » 『集中死霊』

 前回紹介した本のなかで、フレデリック・ポールの選んだのが、早世した盟友C・M・コーンブルースの「小さな黒いカバン」という作品だった。
 現代にまぎれこんだ未来の医療器具が、アル中で資格剥奪された元医師の手にわたり……という作品だが、期待されるようなハートウォーミングな方向へは行かず、ただただ苦い結末を迎える。ペシミストだったコーンブルースの本領発揮というべき(暗澹たる)秀作である。
 
 この作品をトリに持ってきたアンソロジーがある。カール・エドワード・ワグナー編の医学ホラー・アンソロジー Intensive Scare (DAW, 1990) だ。
 表題は intensive care (集中治療)のもじり。この日記では原題を無理やり直訳することにしているので、上記のようにしたが、苦しまぎれもいいところ。なにかうまい駄洒落を思いついた人は教えてください。

2008-10-29(Intensive )

 さて、編者のワグナーは、怪奇幻想文学に精通した作家・編集者であると同時に、医学の博士号を持ち、精神科医として病院勤務も経験した人物。本人も「エリート」や“Into Whose Hands”といった医学ホラーの傑作をものしている(追記1参照)。こういうアンソロジーを編むには最適の人材といっていい。じっさい、百年にわたるスパンで幅広いジャンルから名作・秀作・珍作・怪作を集めている。
 ラインアップはつぎのとおり――

最後の一線 デニス・エチスン
呪いの家 シーベリー・クイン
闘士ケイシー リチャード・マッケナ
死骸盗人 ロバート・ルイス・スティーヴンスン
検視 マイクル・シェイ
Back to the Beast マンリー・ウェイド・ウェルマン
The Incalling M・ジョン・ハリスン
サノクス令夫人 A・コナン・ドイル
針男 ジョージ・R・R・マーティン
謎の腫瘍 エドガー・ジェプスン&ジョン・ゴーズワース
Camps ジャック・ダン
死体蘇生者ハーバート・ウェスト H・P・ラヴクラフト
小さな黒いカバン C・M・コーンブルース

 見てのとおり、肉体的な意味で痛そうな作品ばかり。医学ホラーというと、やはりメスで切ったり、注射針を刺したりする作品が多くなるのだろう。あー、いや。

 邦訳のある作品ばかりだが、「謎の腫瘍」という短篇は、たぶんご存じの方がすくないだろう。腫瘍を切開したら、体内に蛸が巣くっていたという話で、真面目なのかギャグなのかわからない珍品。大きくふくらんだ部分を切開すると、患者の体内で目玉がギロリと光る場面が忘れられない。当方が偏愛するゲテモノである。

 未訳の作品について触れておくと、ウェルマンの短篇は、ある科学者がみずからの体で先祖返りの実験をする話。著者のデビュー作だが、いまとなっては箸にも棒にもかからない凡作。ワグナーがこれを入れたのは、身内びいきだったのかもしれない。
 ダンの中篇は、病人の朦朧とした意識が、ナチの強制収容所にいるユダヤ人の意識とつながる話。これまた陰々滅々としたスペキュレイティヴ・フィクションである。ハリスンの中篇は、内容をまるで憶えていない。

 マーティンの「針男」は新訳する予定があるので乞御期待(追記2参照)。もうひとつ埋もれさせておくのが惜しいのが、シェイの「検視」だが、その話はまたこんど。(2007年10月29日)

【追記1】
〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2009年12月号が「メディカル・ミステリ処方箋」という特集を組んだとき、ワグナーの短篇「最後の一刀」が訳載された。現代医療の矛盾をついた作品で、後味の悪さは特筆に値する。

【追記2】
 編訳したジョージ・R・R・マーティンのホラー傑作集『洋梨形の男』(河出書房新社、2009)に入れるつもりだったが、ページ数の関係で見送った。残念。

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