SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.03.31 Sun » 『ライバー年代記』

【承前】
 海外に本を注文すると、まれに事故が起きる。じつは今回また郵便事故があった。注文から6週間たっても本が届かなかったのである。
 注文のとき、通常なら4週間以内に届くはずだが、諸般の事情で遅れることがあるので、6週間たっても届かなかったら連絡をくれと説明を受けた。その6週間が過ぎたのだ。業者に連絡をとり、面倒な交渉の末、返金に応じてもらった。
 こういうとき業者の対応は千差万別で、連絡しても梨のつぶての業者もいるから、今回はましな方だった。

 ともあれ、すぐべつの古書店に同じ本を注文したのだが、驚くべきことに今日とどいた。注文したのが4月28日だから1週間。日米の郵便組織には不信感を持っていたが、こんどばかりは感心した。郵便屋さん、どうもありがとう。
 というのも、連休のさなかに郵便配達の人がやってきて、郵便受けにはいらない巨大な荷物をとどけてくれたからだ。

 問題の本は、マーティン・H・グリーンバーグ編のフリッツ・ライバー傑作集 The Leiber Chronicles: Fifty Years of Fritz Leiber (Dark Harvest, 1990) である。大きい本であることは知っていたが、いま計ったら、縦26センチ、横18.5センチ、厚さ3.9センチもある。当然ながら梱包も巨大かつ厳重で、箱をあけるだけでひと苦労した。
 ともあれ、いちど手にはいりそこなった本なので、喜びもひとしおだ。

2008-5-6(Leiber Chronicles)

 内容のほうは文字どおりの傑作集で、1939年のデビュー作「森の中の宝石」から83年の“The Curse of the Small and the Stars”まで全部で44の中短篇が収録されている。最初と最後が《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズというのが、いかにもライバーらしい。
 数が多いので題名はあげないが、このうち29篇は邦訳がある(追記参照)
 もっとも、ライバーの存命中に出た本なので、序文とかコメントがついているかと淡い期待をしていたのだが、そういうものはいっさいなし。しょせん、グリーンバーグの編集した本なのであった。

 この本をいままで買ってなかったのは、値段もさることながら、編者の名前からして付録のたぐいに期待が持てなかったから。収録作が傑作ぞろいなのは知っていたが、44篇中42篇はべつの短篇集で持っているから、食指は動かなかったのである。
 ところが、ライバー傑作集を編む話が持ちあがり、残る2篇に目を通したくなったのだ。ひとつは46年発表の“Alice and the Allergy”という短篇。もうひとつは82年発表の“Horrible Imaginings”というノヴェラである。

 前者は〈ウィアード・テールズ〉初出の古いホラー、後者はノヴェラということで、当方の傑作集に入れる可能性はほぼゼロだが、それでも目を通しておかないと、なんとなく落ち着かない。因果な性分である。

 さっそく前者を読んでみたところ、レイプの被害にあった女性とアレルギーを結びつけたショッカー。発表当時はさぞかし衝撃的だったのだろうが、いまとなっては水準作。後者は165枚あることだけ確認した。これだと、いくら傑作でも、紙幅の関係で当方の編む傑作集には入れられない。
 ともあれ、気分がすっきりしたので、心おきなく傑作集を編めそうだ。(2008年5月6日)

【追記】
 この時点で未訳だった「『ハムレット』の四人の亡霊」と「春の祝祭」は、ライバー傑作集『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)に収録できた。
 後者は大先輩、深町眞理子氏に翻訳を打診したところ、当方が用意した原文テキストを読まれたうえで応じてくださった。「大仰でいかめしい文体が面白い」との仰せであった。
 この作品はライバーが60代なかばに書いた作品なので、それより若い翻訳者が訳すと、どうしても原文より若い感じになってしまう。深町氏の円熟の訳文が得られたのは、最大級の喜びだった。



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2013.03.30 Sat » 『フリッツ・ライバー――書誌1934-1979』

【承前】
 フリッツ・ライバーの書誌、古いほうがクリス・モーガン編 Fritz Leiber: A Bibliography 1934-1979 (Morganstern, 1979) だ。本文36ページ、ホッチキス製本のペラペラのパンフレットだが、表紙に厚い紙を使っているのと、書影のページが2ページあるのとで、こちらは出版物という感じがする。といっても、ISBNのない私家版なのだが。
 ちなみに昨日紹介した書誌も、こちらの書誌もイギリスで出たものである。

2008-3-18(Fritz)

 じつは今回ライバーの作品を集中的に読んでいたとき、参照するのはたいていこちらの書誌だった。使い慣れているせいもあるが、新しい書誌がアルファベット順なのに対して、こちらは発表年代順の配列なので、作家の軌跡を見るさいに都合がいいのだ。

 そのうちライバーの著作リストを作らなければならない。書誌を手に入れておいてよかった。(2008年3月18日)

2013.03.29 Fri » 『フリッツ・ライバー――せせら笑う剣士』

【承前】
 フリッツ・ライバーの書誌は二種類持っているが、新しいほうがフィル・スティ-ヴンセン=ペイン&ゴードン・ベンスン・ジュニア編 Fritz Leiber Sardonic Swordsman: 2nd Revised Edition (Galactic Central, 1990) だ。
 前に紹介したことのある〈熱心な読者向けの書誌〉シリーズ第22巻。ワープロのプリントアウトをホッチキスで留めただけの簡単な造りで、小説篇とノンフィクション篇の2分冊になっている。たぶん1冊にすると、ホッチキスで留められないからだろう。上下とも本文45ページのパンフレットである。ちなみに1987年に出たものの改訂版。表紙のデザインは数字と文字が一箇所ずつちがう以外は上下とも同じなので、書影は上だけ載せておく。

2008-3-17(Fritz)

 内容のほうはマニアの鑑というべきか。英米圏にかぎるが、知り得た情報をすべて載せている。つまり、ライバー自身の作品はもちろんのこと、ライバーに関する記事は有力ファンジンに載ったものまで網羅しているのだ。
 
 書誌を眺めていて気づいたのだが、ライバーが〈ファンタスティック〉に書評を書いていたとき、F・ランスロップの筆名で《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの最初の3冊をとりあげたらしい。ジェイムズ・ブリッシュがウィリアム・アセリング・ジュニア名義で自作をしらばっくれて書評した話は有名だが、ライバーも同じことをしていたわけだ。自作をどう評しているのか気になるなあ。(2008年3月17日)

2013.03.28 Thu » 『英雄と恐怖』

【承前】
 注文していたライバーの本が、まず1冊アメリカから届いた。注文から10日めである。
 昨年の秋ごろ、向こうの郵便法が変わって、古書店に注文した本がすべてエアメールの速達で届くようになった。速いのはいいのだが、送料がバカ高くて弱る。こんどの場合、本が1ドル、送料が11ドル50セント。梱包の紙やエアクッションを買っているような気がしてくる。

 愚痴はこれくらいにして、本の紹介をしておこう。
 今回買ったのは Heroes And Horrors (Whispers Press, 1978) のペーパーバック版 (Pocket, 1980) だ。

2008-3-15(Heroes)

 親本の版元は〈ウィスパーズ〉というホラー系のセミプロジンを出していたスモール・プレスで、主宰者はスチュアート・デイヴィッド・シフ。この人の編んだ『マッド・サイエンティスト』というアンソロジーが、創元SF文庫から出ているので、ご存じの向きも多いだろう。
 シフはライバーと懇意だったらしく、〈ウィスパーズ〉に寄稿してもらうだけでなく、アンソロジーを共編したこともある(追記1参照)。本書もこの人が編者で、《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの新作を書き下ろしてもらうことに成功している。
 収録作はつぎのとおり――

①Sea Magic  《ファファード&グレイ・マウザー》
②The Mer Sea  《ファファード&グレイ・マウザー》書き下ろし
③闇の世界
④ベルゼン急行
⑤鏡の世界の午前0時
⑥Richmond, Late September, 1849
⑦モーフィー時計の午前零時
⑧The Terror from Depths
⑨Dark Wings

 シフの緒言とジョン・ジェイクスによる序文つき。ちなみに冒頭の2篇が Heroes のセクション、残りの7篇が And Horrors のセクションに分けられている。

 さて、未読だったのは⑥と⑨の2篇。早速読んでみた。

 ⑥は、題名でピンとくる人もいるだろうが、ポオの死にまつわる作品。ポオが謎の死をとげる直前、シャルル・ボードレールの双子の妹と名乗る女と出会っていたという話。女の正体が最後に暗示され、慄然とさせられる。自身アル中だったライバーは、アル中だったポオに自分を重ねていたようだ。ポオに関する蘊蓄満載の技巧的な作品である(追記2参照)。

 ⑨は一種のエロティック・ホラー。生き別れていた双子の姉妹が、たがいの身の上を語るという形式で、セクシュアルで幻怪なエピソードがつづられる。アニマとアニムスという言葉が出てくることからわかるとおり、ユング心理学の影響下にある作品である。これはなかなかの佳作だった。

 ついでにべつのアンソロジーで読んだ⑧についても触れておくと、1930年代に書かれた手記を公開するという体裁の《クトゥルー神話》。師匠H・P・ラヴクラフトへのオマージュであり、ラヴクラフト自身を思わせる人物も登場する。楽しく読めるが、それ以上でもそれ以下でもない。

 というわけで、⑨を候補に残しておく。(2008年3月15日)

【追記1】
 このアンソロジーについては、2012年9月24日の記事でとりあげた。

【追記2】
 この作品は「一八四九年、九月末、リッチモンド」の題名で〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2008年8月号に訳出した。当方の企画で「作家の受難」という幻想怪奇特集を組んだ号である。
 ついでに書いておくと、上記“Dark Wings”は、けっきょく収録を見送った。

2013.03.27 Wed » 『精神の魔女たち』

【承前】
 フリッツ・ライバー傑作集のために作品選びをするにあたって、ずっと頭にあったのが、ブルース・バイフィールドの評論 Witches of the Mind : A Critical Study of Fritz Leiber (Necronomicon Press, 1991) だった。ホッチキス製本で全76ページのパンフレットだが、内容はとてもいい。

2008-3-14(Witches)

 著者はライバーの活動を四期に分ける。すなわち――

ラヴクラフト期(1936-1949)
グレイヴス期(1949-1958)
ユング前期(1958-1974)
ユング後期(1975-present)

 の四つである。
 簡単に図式化すると、「ラヴククラフト期」はH・P・ラヴクラフトの影響のもとに怪奇小説の革新をめざしていた時代、「グレイヴス期」は、ロバート・グレイヴスの影響のもとに社会諷刺SFを書いていた時代、「ユング前期」は、ユング心理学、とりわけアニマの概念の影響のもとにSFと幻想怪奇小説の融合をめざした時代、「ユング後期」は、ユング派の神話学者ジョゼフ・キャンベルの影響のもとに、その試みを深化させた時代といえるだろう。

 おなじようなことを漠然と感じていただけに、これほど明快に語られているのを見て、すっかり得心してしまった。
 今回わりあい早い段階で初期の怪奇小説や50年代の社会諷刺SFを選択肢からはずしたのは、この本にあと押ししてもらったからだといえる。

 当方はライバーの偽自伝、つまり虚実ないまぜにして身辺雑記のように超自然の出来事を語る作品を偏愛しているのだが、それはバイフィールドのいう「ユング前期」と「ユング後期」に属している。そして58年発表の「跳躍者の時空」は、その転換点となった作品なのである。(2008年3月14日)

2013.03.26 Tue » 『黒いゴンドラ船頭』

【承前】
 フリッツ・ライバーの短篇は本国でも入手しにくくなっており、ジョン・ペランとスティーヴ・サヴィルという人が中心になって、短篇集を編み直している。その第一弾が The Black Gondolier (Midnight House, 2001) だが、460部限定の豪華本であり、当方は03年に[e-reads]という版元から出た普及版トレードペーパーを買った。

2008-3-10(Black)

 ちなみに、ミッドナイト・ハウス版短篇集は、現在第三弾まで出ている。さらに余談だが、ジョン・ペランという人は、最近ホラー系のアンソロジストとして活躍している人で、その動向に注目しているところだ。

 さて、本書だが、ホラー寄りの作品18篇をペランの序文とサヴィルのあとがきで挟んでいる。これまで著者の単行本に未収録だった珍しい作品が何篇かふくまれているのが売りだろう。
 邦訳があるのは「レントゲン写真」、「蜘蛛屋敷」、「人知れぬ歌」、「電気と仲よくした男」、「死んでいる男」、「現代の呪術師」の6篇。

 いっぽう未訳の作品だが、表題作を筆頭に既出の作品が4篇ある。残った8篇のなかでいちばん面白かったのが“Mr. Adam's Garden of Evil”という短篇。共感呪術で特定の人間そっくりになる植物を栽培し、それをいたぶって楽しんでいる男が逆襲される話で、トワイライト・ゾーンの一話みたいなブラック・ユーモアである。
 まあ、落ち穂拾いの感は否めず、当方の編む傑作集に採りたい作品はなかった。

 また余談だが、本書にも大きなミスがある。目次に“The Lone Wolf”とある作品の本文ページを見ると、“The Creature from Cleveland Depths”というタイトルになっているのだ。こういうことになった理由は、何日か前の日記を読んでもらえばわかると思う。なんにせよ、普及版が出るとき直せなかったものか。

 さて、手持ちのライバー短篇集はこれで種切れ。とはいえ、前に紹介した Gummitch and Friends や、いろんなアンソロジーに散らばっている作品からも選んだので、当方の編む傑作集のラインナップを完全に明かしたわけではない。
 じつをいうと、本が厚くなりすぎるので、1篇落とせといわれているのだ。それでもうちょっと考えることにした。
 というわけで、持ってなかった本をいまアメリカから取り寄せているところ。本が届いたら、また紹介しよう。それとも、いいかげんウンザリでしょうか。(2008年3月10日)

2013.03.25 Mon » 『夜の怪物たち』

【承前】
 Night Monsters (Gollancz, 1974) はイギリスで出たホラー寄りの短篇集。もっとも、当方が持っているのは、例によって75年にパンサーから出たペーパーバック版だが。

2008-3-9(Night)

 69年にアメリカで同名の短篇集がエース・ダブルの片面として出ているが、それとは別ものと考えたほうがいい(アメリカ版は4篇収録で、そのうち3篇が本書と共通。イギリス版をたんなる増補版と見るか、べつの本と見るかは書誌によって判断が分かれている)。

 内容はつぎのとおり。アステリスクの付いているのが、アメリカ版と共通する作品だ――

The Black Gondolier *
鏡の世界の午前0時 *
ジェフを探して *
The Creature from Cleveland Depths
歴戦の勇士 《改変戦争》
飢えた目の女
闇の世界

 ライバー入門ホラー篇としては、まずまずの短篇集だ。
 はじめて出てきた“The Black Gondlier”の説明をしておくと、邦訳のある「電気と仲よくした男」の電気を石油に変えたような作品。つまり、石油は意思を持つ生きもので、人知れず人間に害をなしているという妄想にとり憑かれた男の話だ。もちろん、それが妄想なのか現実なのか判然としないようになっている。
 舞台はロサンジェルスに実在するヴェニスという街。イタリアのヴェネチアを模して造られた運河の街で、観光客をあてこんでいたが、いまやすっかりさびれた場所である(ブラッドベリもよくこの街をとりあげる)。男はこの街に住んでいて、謎めいた黒いゴンドラ船頭を夢に見るのである。
 ライバーとしては水準作。「闇の世界」、「歴戦の勇士」、「鏡の世界の午前0時」についてはすでに見送った理由を書いた。そういうわけで、本書から当 方の編む傑作集に採る作品はなかった。(2008年3月9日)

【追記】
 アステリスクで思いだしたが、《改変戦争》シリーズでは、時空の覇権を争っている二大勢力の片割れ、スパイダーの象徴がアステリスクであり、構成員は「*」の紋章を額に刻んでいることがある。なるほど、蜘蛛に見える。以上、まったくの余談。


2013.03.24 Sun » 『狼の夜』

【承前】
 つぎもバランタインの本だが、The Night of Wolf (Ballantine, 1966) はSFシリーズから出た。

2008-3-2 (wolf)

 じつは白石朗さんにいただいたもの。前にも書いたが、王侯貴族のゴミは貧乏人の宝なのである。
 
 この本は一種の連作集。つまり、テーマ的に関連のある作品を改題したうえで並べ、つなぎの文章を追加して統一感を出しているのだ。もっとも、それが成功しているかどうかは疑問だが。

 内容はつぎのとおり(末尾の数字は推定枚数)――

The Lone Wolf  (The Creature from Cleveland Depths 改題) 120
The Wolf Pair  (The Knight of the Long Knives 改題) 215
Crazy Wolf  (「正気と狂気」改題) 40
The Wolf Pack  (Let Freedom Ring 改題) 180

 ご覧のとおりノヴェラが2篇、ほかの短篇集で読んだ作品が2篇という構成なので、この本は読み返さなかった。いずれも古いタイプの社会諷刺SFで、当方がライバーに求めているものとはちがうからでもある。
 まあ、こういう本もあるということだけ書いておく。(2008年3月8日)


2013.03.23 Sat » 『眼のある影』

【承前】
 つぎもバランタイン・ホラー・シリーズの1冊で Shadows with Eyes (Ballantine, 1962) だ。

2008-3-7(Shadows)

 この短篇集は目次がない。中扉があり、日本の奥付にあたるページがあり、いきなり本文がはじまっている。128ページで終わっているので、一台ふやすのを避けたのだろうが、やっぱり不便。活字も小さいし、作品が終わると、つぎの作品が追いこみではじまる。要するに余白がほとんどないのだ。むかしの本はほんとうに紙をケチっていたのだよなあ。

 造りは安っぽいが、内容は悪くない――

闇の世界
死んでいる男
指人形の魔力
現代の呪術師
電気と仲よくした男
A Deskful of Girls

 集中「闇の世界」はライバーの怪奇小説のなかで五指にはいる佳作。ライバーがユング心理学に傾倒しはじめた時期の作品で、作者の考えがわりに生の形で出ている。つまり、小説の形で自己の創作原理を表明したものといえる。
 全篇にみなぎる緊迫感がすばらしいので当方の編む傑作集にも入れるつもりだったが、90枚という長さと既訳がある点がネックになって、けっきょく断念した。(2008年3月7日)

2013.03.22 Fri » 『夜の暗闇の手先どもからの物語』

【承前】
 なんだか変なタイトルだが、Tales from Nights Black Agents (Ballantine, 1961) を直訳すると上のようになる。SFではなく、ホラー・シリーズの1冊として出た本だ。

2008-3-6(Night's)

 ライバー最初の著書は、1947年にアーカム・ハウスから出た作品集 Night's Black Agents だが、本書はそこから《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズに属すショート・ノヴェル「魔道士の仕掛け」を抜いてペーパーバック化したもの。ちなみに、親本に収録の「魔道士の仕掛け」は、『霧の中の二剣士』(創元推理文庫)収録の改稿版とはすこしちがうので、厳密にいえば未訳である。

 じつをいうと、この本の題名がよくわからない。表紙には「Nights Black Agents」、背には「Night's Black Agents」、中扉には「Tales from Nights Black Agents」と書いてあるのだ。いったいどれが正しいのか。
 あちらの書誌を見ると、アーカム・ハウス版と区別するために、中扉に記された題名を採るのが慣例のようだが、そうすると重大なミスが見つかる。というのも、題名の由来はシェイクスピアの『マクベス』に出てくる「night's black agents」なので、所有格を示すアポストロフィが落ちていることになるのだ。

 重要なミスはこれだけではない。表紙、背、中扉すべてで著者名がライバー(Leiber)ではなくリーバー(Lieber)と誤植されているのだ。ライバーは悲しかっただろうなあ。

2008-3-6(Night's 2)

 さて、肝心の内容だが、目次が面白いので、書き写す――

現代の恐怖(MODERN HORRORS)
 煙のお化け
 The Automatic Pistol
 The Inheritance  *The Phantom Slayer 改題
 The Hill and the Hole
 The Dreams of Albert Moreland  *書き下ろし
 魔犬
 Diary in the Snow  *書き下ろし
過渡期(TRANSITION)
 若くならない男
古代冒険譚(ANCIENT ADVENTURES)
 沈める国  《ファファード&グレイ・マウザー》

 アーカム・ハウス版では巻末に「魔道士の仕掛け」が置かれていたわけだ(ここでも「ADVENTURES」と複数形のままになっている。ほんとうに杜撰だなあ)。

 ご覧のとおり、本書のメインは「現代の恐怖」のセクション。「都市文明や機械文明は新しいタイプの恐怖を生みだす。ホラー作家はそれに見合った新しいシンボルを発明しなければならない」というライバーの主張の実践だが、60年前の「現代の恐怖」は、もはや古典的な恐怖であり、したがってこれらは古風な怪奇小説にしか見えない。とりわけ、師匠H・P・ラヴクラフトの影響が強いものほど古びた感がある。ひとことでいって習作である。
 たとえば“The Inheritance”という短篇。どうせ邦訳は出ないだろうからネタをばらすが、実直な警官がじつは連続殺人鬼だったというサイコ・ホラーの先駆的作品だ。発表当時はずいぶんとショッキングだったのだろうが、いまでは目立ったところのない作品になってしまった。
 
 その点、時間を超越した場所を舞台にした残りの二篇は秀作。だが、この手の作品は当方の編む傑作集には採らないことにしたので、残念ながら収録は見送った。(2008年3月6日)

2013.03.21 Thu » 『バケツ一杯の空気』

【承前】
 短篇集 A Pail of Air (1964, Ballantine) は、周知のとおりサンリオSF文庫から邦訳が出た。わが国で出ていた短篇集との重複を避けたので、けっきょく本書の収録作は選ばなかったが、そう決める前に読み返した作品があるので、ついでに紹介しておく。

2008-3-5(A Pail of)

 収録作品はつぎのとおり――
「バケツ一杯の空気」、「ビート村」、「火星のフォックスホール」、「パイプ・ドリーム」、「時間戦士」、「六十四こまの気違い屋敷」、「空飛ぶパン始末記」、「最後の手紙」、「ラン・チチ・チチ・タン」、「性的魅力」、「美女と五人の夫たち」

 表紙絵は「ラン・チチ・チチ・タン」と「ビート村」を題材にしていると思われる。このあと紹介していくが、バランタインの一連のライバー本は、表紙絵がちょっと気味悪い。画家の名前は書かれていないが、おそらくリチャード・パワーズだろう。
 
 集中「バケツ一杯の空気」と「ラン・チチ・チチ・タン」は傑作だと思う。できれば当方の編む傑作集にも入れたかった。(2008年3月5日)


2013.03.20 Wed » 『誘霊灯』

【承前】
 フリッツ・ライバーの傑作集としては The Ghost Light (Berkley, 1984) というすばらしい本がある。もちろん、作品もいいのだが、それ以上に本の造りがいいのだ。

2008-3-4(Ghost 1)

 これは出版プロデューサーのバイロン・プライスが企画した〈SFとファンタシーの傑作〉と題されたシリーズの一冊。トレードペーパーバックの大きな紙面を活かして、ヴィジュアル的にも楽しいものになっている。
 同じ叢書にはいった本としては、かつて邦訳の出たアーサー・C・クラークの『太陽系オデッセイ』(新潮文庫)があるが、ひとりの画家が全作品に挿絵を寄せたアチラとはちがい、この本は作品ごとに画家がちがうという豪華版。しかも、ジョエレン・トリリングという彫刻家が、各作品に出てくる重要な小道具をオブジェにして、その写真を各作品のタイトル・ページに載せている。
 それらの彫刻をある書店のショーウィンドウに飾り、その前でライバー本人がポーズをとっている写真が巻頭に掲げられているのだが、見開きの写真を縮小すると、せっかくのオブジェがよく見えないので、かわりに「跳躍者の時空」に寄せられたオブジェとイラストを載せておく。

2008-3-4(Ghost 2)2008-3-4(Ghost 3)


 収録作品はつぎのとおり――

①The Ghost Light  *書き下ろし
②性的魅力
③A Deskful of Girls  《改変戦争》
④跳躍者の時空  《ガミッチ》
⑤Four Ghosts in Hamlet
⑥骨のダイスを転がそう
⑦珍異の市  《ファファード&グレイ・マウザー》
⑧モーフィー時計の午前零時
⑨Black Glass
⑩Not Much Disorder and Not So Early Sex  *自伝

 例によって未訳作品の説明をしておこう。ただし、既出の③と⑤は省略。
 ①は点灯すると幽霊を集める明かりの話。「誘蛾灯」をもじって「誘霊灯」と造語してみた。非常に自伝的要素の強い作品で、不仲だった息子との関係をゴースト・ストーリーの形で描いている。晩年の作品だけあって、文章や構成にちょっと締まりの欠けるところがあるが、クライマックスの迫力はさすがである。
 ⑨は傑作「あの飛行船をつかまえろ」の姉妹編ともいうべき作品。ニューヨークを訪れた語り手が、知らぬ間に異様な風景の広がる未来にはいりこんでいるのだが、その移行の瞬間がわからないところがミソ。候補がすくなくとも三つあって、タイムスリップ/妄想がいつからはじまったのか判然としないのだ。技巧派の面目躍如である。
 ⑩は単行本1冊の分量は優にある自伝。貴重な写真がたくさん載っている。この自伝を読んで、ライバー作品の秘密がすこし解けたような気がしたものだ。そのあたりは当方の編む傑作集の解説にくわしく書くことにしよう。

 ⑨が秀作なので、これを当方の編む傑作集に採りたかったのだが、最終的に未来を舞台にした作品は除外することにしたので見送り。
 晩年のゴースト・ストーリーとしては“The Button Molder” (1979) という佳作があり、長さも同じ120枚とあって、①とどちらを採るか最後まで迷ったが、父親との関係を象徴的に描いた「二百三十七個の肖像」とテーマ的に対になるので、①を採ることにした(追記参照)。(2008年3月4日)

【追記】
 本が厚くなりすぎるという理由で、けっきょく収録を見送った。
 すでに記したように⑤は「『ハムレット』の四人の亡霊」として『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)に訳出した。



2013.03.19 Tue » 『着陸降下進路』

【前書き】
 本日はアーサー・C・クラークの命日である。故人を偲んで、2009年1月31日に書いた記事を大幅に加筆修正したうえで公開する。


 アーサー・C・クラーク唯一の非SF長篇として名高い Glide Path (1963) を読んだ。初版はハーコート、ブレイス&ワールドのハードカヴァーだが、当方が持っているのは2年後にデルから出たペーパーバックだ。

2009-1-31 (Glide Path)

 第二次大戦中、クラークは技術士官として航空機のレーダー誘導着陸技術の実用化に従事していた。その後GCA(Ground Cotrolled Approach)の略称で世界じゅうに広まり、いまでも安全運航の基礎をなしている技術である。黎明期ならではの苦労の連続だったらしいが、その時代の体験を基にして書かれたのが、この本というわけだ。ただし、本書のなかではGCD(Ground Controlled Descent)という名称に変更されている。

 物語は二十歳そこそこの若き空軍士官、アラン・ビショップが北海沿岸のレーダー基地をあとにするところからはじまる。ビショップは、民間人時代にラジオの修理を職業としており、その知識を買われてレーダー技術仕官に抜擢されたのだが、いま新たな任務があたえられたのだ。その任務とは、レーダーによる航空機の着陸誘導技術の実用化である。アメリカで開発されたばかりの技術だが、ある英国武官がその重要性を見ぬき、アメリカ軍の鼻先から装置と技術者をまとめてイギリスにかっさらってきたのだ。ビショップは、厳重な秘密保持体制のもと、彼らと協力して前例のない仕事にとり組むのだった……。

 戦時中の話だが、舞台はコーンウォールの片田舎、それも訓練部隊の基地とあって、いたってのんびりしている。前半でいちばんサスペンスの盛りあがるのが、クラークの分身である主人公ビショップが、娼館で部下と鉢合わせしそうになる場面なのだから、あとは推して知るべしだ。
 後半にはいると、人の生死にかかわる事態が続出するが、戦争ものに予想される派手な展開とは無縁である(もっとも、主人公がぶっつけ本番で誘導するはめになった謎の実験機が、世界最初のジェット機、ミーティアの一番機だったという飛行機マニアなら泣いて喜ぶ場面もあるが)。

 というわけで、いたって地味な小説ではあるものの、かなり面白い。簡単にいえば、ひとりの青年の成長物語だが、レーダー技術にかかわるエピソードが、それを特異なものにしているのだ。
 さらに主人公をとり巻く人々も個性的で、クラークは淡いユーモアのにじむ筆致で彼らの行状を活写している。それぞれモデルがいるらしいが、とにかくひと癖もふた癖もある人物ぞろいなのだ。

 ちなみに、クラークは戦時中のこの体験をノンフィクションの形でも発表している。「貴機は着陸降下進路に乗っている――と思う」がそれで、拙訳が〈ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク〉第1巻『太陽系最後の日』(ハヤカワ文庫SF、2009)にはいっている。小説の主要エピソードは、こちらでも簡潔に語られているので、未読の人には強くお勧めしておく。(2009年1月31日+2013年3月18日)

2013.03.18 Mon » 『改変戦争』

【承前】
 ライバーの代表作のひとつが《改変戦争》シリーズであることはまちがいない。スネークとスパイダーという二大勢力が、時空を股にかけて覇権を争っている戦争SF、といっていえないことはないが、じっさいは時間と場所を限定し、その一断面を切りとったニュー・ウェーヴの先駆けのような作品群だ。
 長篇『ビッグ・タイム』と中短篇群(その数には諸説ある)から成るが、後者を(一応)集成したのが Changewar (Ace, 1983) である。

2008-3-3(Change)

 このシリーズに属す作品は、当方の編む傑作集には入れないことにしたので、本書は読み返さなかったが、せっかくなので紹介しておく。

 内容はつぎのとおり。題名のあとに当方の採点を付しておく――

過去を変えようとした男  3
歴戦の勇士  4
Damnation Morning  3+  
変化の風が吹くとき  3
Knight Move  2
A Deskful of Girls  3
No Great Magic  4

 表紙絵はジョー・チオドという人が担当しているが、これは“Knight Move”を題材にしたもの。タイム・トラヴェルに関係していることがひと目でわかるだろう。(2008年3月3日)

【追記】
 《改変戦争》シリーズの集成としては、題名と内容が異なる The Change War (Gregg Press, 1978) という本もある。

2013.03.17 Sun » 『人はみなひとりぼっち』

【承前】
 つぎはちょっと変わり種。You're All Alone (Ace, 1972) は、ショート・ノヴェル1篇に中篇2篇を合わせた作品集だ。

2008-3-2(You're)

 例によって目次を書き写すと――

①You're All Alone (325)
②Four Ghosts in Hamlet (105)
③The Creature from Cleveland Depth (140)

 題名のあとの括弧内の数字は推定枚数である。

 ①は未発表の長篇を雑誌掲載のため短縮したもの。問題の長篇は The Sinful Ones (1953) として刊行されたが、これは出版社によって大幅に改竄されるという不幸な目にあった。このときオリジナル原稿は失われ、のちに一部修復版が出ただけで終わった。
 簡単にいうと「宇宙は大がかりな人形劇場のようなもので、人に自由意思はなく、あらかじめ敷かれたレールにそって活動をつづけているだけ。しかし、そのレールからはずれてしまう人間もいて、彼らは人形たちの目には映らない。したがって、好き放題をしているのだが、こうした者たちのあいだにも権力闘争がある」という話。早い時期に人間疎外をあつかった作品といえる。いまならヴァーチャル・リアリティものになるだろう。

 ②は一種のゴースト・ストーリー。ライバーの父親が高名なシェイクスピア劇の俳優で、若いころは本人も父親の主宰する劇団で役者をやっていたのは有名だが、その体験を基にして書かれている。こうして虚実をないまぜにして、身辺雑記のように超自然的現象を語るというのは、ライバーがもっとも得意とするところで、当方はこれを「偽自伝」と呼んでいる。この作品はその好例である。

 ③は、題名を見るとモンスターの出てくる怪奇小説のように思えるが、じつは典型的な社会諷刺SF。核ミサイルを恐れて国民の多くが地下で暮らす時代。ティンクラーという便利な道具(定められた時間が来ると、振動刺激で着用者にそのことを知らせる機械)が発明される。だが、これが国民をコントロールする手段となって……という超管理社会ものである。

 当方が編む傑作集には、“Four Ghosts in Hamlet” を採ることにした(追記参照)。(2008年3月2日)

【追記】
 「『ハムレット』の四人の亡霊」という題名で無事に『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)に訳出できた。

2013.03.16 Sat » 『精神の蜘蛛その他の短篇』

【承前】
 つぎもSF寄りの短篇集で、The Mind Spider and Other Stories (Ace, 1961) だ。

2008-3-1(Mind Spider)

 目次を書き写すと――

①The Haunted Future  (Tranquility, or Elese! 改題)
②Damnation Morning  《改変戦争》
③歴戦の勇士  《改変戦争》
④鏡の世界の午前0時
⑤獣の数字  《改変戦争》
⑥The Mind Spider

 例によって未訳作品について触れておくと、①は精神分析の発達で国民がつねに平穏状態に置かれ、平和なかわりに進歩のなくなった未来のアメリカを舞台に、あるトリックスターが社会をひっかきまわそうとする話。エリスンなどの作品を先取りしていたわけだ。
 ②は、歴史改変を目的に争っているふたつの勢力が、時間戦争の新兵をリクルートする話。ウルトラ・モダンなゴースト・ストーリーともいえる。アル中の一人称で語られるのだが、ライバー自身がアル中だったせいか、その荒涼とした心情吐露に妙な迫力がある。
 ⑥は採点メモに2点がついているので、読み返さなかった。

 集中ベストは古風な怪奇小説「鏡の世界の午前0時」だろう。だが、この手の怪奇小説は当方が編む傑作集には入れないことにした。次点は「歴戦の勇士」か“Damnation Morning”だろうが、《改変戦争》ものは入れないことにしたので見送り。ちなみに、前者はホラーSFアンソロジー『影が行く』(創元SF文庫)に新訳したことがある。(2008年3月1日)

【追記】
 上記“Damnation Morning”は、いま編んでいるアンソロジーに訳出する。詳細は後日。

2013.03.15 Fri » 『星へ行く船』

【承前】
 最初に手に入れたライバーの原書は、短篇集 Ships to the Stars (Ace, 1964) だった。

2008-2-29(Ships)

 名古屋のさる古本屋の一角に、なぜかアメリカのペーパーバックが申し訳程度にならんでいて、そこに交じっていたのだ。同時にウィリアム・R・バーネットの犯罪小説や、エース・ダブルのウェスタンを買ったのを憶えている。1984年のことだ。
 内容はつぎのとおり――

①Dr.Kometevsky's Day 
②大いなる旅
③The Enchanted Forest
④Deadly Moon
⑤Snowbank Orbit
⑥真夜中の出帆

 未訳作品について触れておくと、①は「地球はじつは異星の巨大宇宙船が擬装したもので、人類はその上に発生した黴菌みたいなものだった」というアイデアに基づくSF。大むかし、SFマガジンが奇想SF特集を組んだとき(追記参照)、監修者の大森望氏に推薦したが、 「つまらない」と却下された。
 ③はシェクリイの作品といっても通りそうな宇宙SF。テーマの一部は後年の長篇『放浪惑星』(創元SF文庫)に引き継がれた。ファンジン翻訳時代、発表のあてもないまま訳してみたことがある。ただし、見返すのがいやで、原稿は捨ててしまったが。
 ④は今回読み返さなかったので、内容は不明。採点メモには5点満点で2点がついているので、たいしたことのない作品なのだろう。
 ⑤は星間戦争をあつかった本格SF。全然ライバーらしくなくて、びっくりしたが、先に雑誌の表紙絵があって、それに合わせて書かれた作品だとあとで知った。

 いろいろと思い出深い本なので、つい長々と書いてしまった。集中ベストは「隣の異星人」を主題にした「真夜中の出帆」だが、同じ傾向の作品をべつに採ることにしたので収録は見送った。(2008年2月29日)

【追記】
〈SFマガジン〉1989年7月号の「狂気の沙汰か、SFか!?――奇想SF特集」のこと。 


2013.03.14 Thu » 『フリッツ・ライバーの第二之書』

 昨日紹介した本が好評だったのか、すぐに続編が出た。The Second Book of Fritz Leiber (DAW、1975) である。

2008-2-28(Second Book)

 造りはまったく同じで、フィクション6篇(うち書き下ろし2篇)、ノンフィクション5篇(うち書き下ろし1篇。大幅増補版1篇)がおさめられている。

 この本はノンフィクションに特筆すべきものがあるので、そちらについて先に記す。
 “Fafard and Me” は、前に触れたとおり、《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの裏話。ファンジンに発表された文章を増補したもので、そちらでは書かれなかった暗黒面についてもくわしく、非常に興味深い。
 「ブラウン・ジェンキンとともに時空を巡る」は、「科学をとり入れることで幻想文学に新生面を切り開いた作家」としてH・P・ラヴクラフトを捉えなおそうとする評論。師匠への敬愛と冷徹な分析が両立している力作で、邦訳はあるが、読んだことのある人はすくないだろう。残念。

 では、小説の題名をならべる――

①The Lion and the Lamb
②Trapped in the Sea of Stars  *《ファファード&グレイ・マウザー》書き下ろし
③ベルゼン急行  *書き下ろし
④Scream Wolf
⑤The Mechanical Bride  *TV台本
⑥A Deffence of Werewolves

 未訳作品について解説すると、①は銀河文明を背景にした宇宙SF。②はファファードとグレイ・マウザーが世にも奇怪な航海をする話。④は作者唯一の殺人ミステリ。⑤は人間そっくりの女性型ロボットをめぐるドタバタ。⑥は“Fantasy on the March”という題名で1948年にアーカム・ハウス発刊のリトル・マガジンに掲載されたもの。ストーリーのある小説ではなく、「幻想文学には、科学時代や機械文明にふさわしいシンボルが必要だ」と主張する演説である(余談だが、このなかに「狂気の山脈」という固有名詞が出てくる。クトゥルー原理主義者は、これも神話作品に入れるのだろうか)。

 ⑤については面白いエピソードがある。
 ライバーは49年に「飢えた目の女」という短篇を発表した。セックス・シンボルの登場を予言した優れた現代怪奇小説である。マーシャル・マクルーハンがこれを読んでいたく感心し、そのメディア論『機械の花嫁』でとりあげて称揚した。「もちろん、わたしはうれしかった。もっとも、マクルーハンの本の書評者たちは、無名作家の作品を引用していることに文句をいっていたが。犬どもめ!」とはライバーの弁である。
 さて、TV時代を迎えて、ライバーのところにも台本執筆の依頼がきた。ライバーはマクルーハンに感謝をこめて、彼の本と同じ題名の台本を書いた。しかし、TVドラマは制作されずに終わったのだった。

 集中ベストは「ベルゼン急行」。無駄なところがまったくない珠玉の短篇であり、最後の最後まで当方の編む傑作集の候補に残した。
 だが、作者が説明を一切しないので、注意深い読者でないと、結末にいたる幻想の論理を読みとれないだろう。ほかの作品との兼ね合いもあり、迷った末に収録は見送った。(2008年2月28日)

2013.03.13 Wed » 『フリッツ・ライバーの書』

【承前】
 またしてもライバーの自選集で、 The Book of Fritz Leiber (DAW, 1974) を紹介する。

2008-2-27(Book of)

 版元はエースを辞めた名編集者ドナルド・A・ウォルハイムが1972年に設立した会社。自分の名前を冠しただけあって、初期は非常に意欲的な本を刊行していた。DAWにとって初のライバー本となった本書は、「著者の多彩な才能を集約する」という方針で編まれており、たいへんユニークな造りになっている。
 というのも、SF、ホラー、〈剣と魔法〉をとりそろえた上、小説のあいだにノンフィクション(エッセイ、科学解説、書評など)を挟む構成になっているのだ。たとえば、宇宙を舞台にしたハードSFのつぎには「熱」に関する科学解説が、師匠H・P・ラヴクラフトにオマージュを捧げたホラーのつぎには、師匠の作品を論じたエッセイが、《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズのつぎにはE・R・エディスンとR・E・ハワードの作品をとりあげた書評が来るといった具合だ。

 小説10篇(うち書き下ろし2篇)とノンフィクション9篇(うち書き下ろし1篇)が収録されているが、後者はすべて未訳だし、煩雑になるので小説だけ題名をならべる――

幻影の蜘蛛
A Hitch in Space
幼稚園
Crazy Annaoj
神々の最期
過去ふたたび
Knight to Move  *《改変戦争》
アーカムそして星の世界へ
Beauty and the Stars  *《ファファード&グレイ・マウザー》書き下ろし
猫たちの揺りかご  *《ガミッチ》書き下ろし

 集中ベストは、もっとも早い時期にクローン人間を題材にした「過去ふたたび」だろう。ライバー自身もマイ・フェイヴァリットのひとつにあげているし、当方も個人的に愛着のある作品だが、ちょっと古びた感は否めない。というわけで当方の編む傑作集には、《ガミッチ》もの第三作「猫たちの揺りかご」をとることにした。

 蛇足。表紙絵はジョージ・バーが担当しており、魅力的な猫型異星人女性を描いている。当然これは『放浪惑星』のヒロイン、タイガリシュカだろう。彼女はスフィンクスという名前で「猫たちの揺りかご」出演しているのだ。(2008年2月27日)


2013.03.12 Tue » 『人知れぬ歌』

【承前】
 つぎはイギリスで最初に出たライバー作品集 The Secret Songs (Rupert Hart-Davis, 1968) だ。ただし、当方が持っているのは、例によって75年にパンサーから刊行されたペーパーバック版だが。

2008-2-26(Secret)

 収録作は11篇と小ぶりだが、秀作ばかりを集めており、ライバー入門としては非常にいい選集になっている。序文はジュディス・メリル。
 目次を書き写すと――

冬の蝿
電気と仲よくした男
ラン・チチ・チチ・タン
マリアーナ
性的魅力
緑の月
バケツ一杯の空気
煙のお化け
飢えた目の女
No Great Magic
人知れぬ歌

 集中ベストは筒井康隆も絶賛した前衛劇風の「冬の蝿」。67年に発表されたが、メリルによると、驚くべきことに59年に書かれ、いったんは〈エスクァイア〉に売れたが、掲載されずに終わったのだという。ライバーがニュー・ウェーヴを先取りしていたことがよくわかる。
 次点は未訳の“No Great Magic” 。《改変戦争》シリーズ中の1篇で、あるシェイクスピア劇団の興行を背景に宇宙的/歴史的事件が描かれる。最初は五里霧中だが、徐々に事件の全貌が見えてくる構成がみごと。ただし、シェイクスピア演劇とエリザベス朝イギリスに関する知識が要求される。未訳なので採りたかったが、120枚と長めだし、収録は見送ることにした。この時点で《改変戦争》シリーズはすべて除外することに決定。

 そういうわけで、当方の編む傑作集には「冬の蝿」を採ることにする。(2008年2月26日)

【追記】
 上記「冬の蠅」は、無事に『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)に収録された。

2013.03.11 Mon » 『フリッツ・ライバーの諸世界』

【承前】
 つぎはライバーの自選集 The Worlds of Fritz Leiber (Ace, 1976)。これも22篇収録の分厚い本だ。

2008-2-25(The World of)

 昨日紹介した傑作集を補完する意味あいがあったらしく、作品はひとつも重複していないうえに、ホラーや《ファード&グレイ・マウザー》シリーズにも目配りして、ライバーの幅広い作風を網羅した作りになっている。
 邦訳があるのはつぎのとおり――

「夢の卵」、「美女と五人の夫たち」、「変化の風が吹くとき」、「二百三十七個の肖像」、「パイプ・ドリーム」、「最後の手紙」、「あの飛行船をつかまえろ」、「おわり」。

 傑作集にくらべれば、やや落ちる作品がならんでいる。同じことは未訳作品についてもいえ、どうしても訳したい作品はない。強いていえば、妄想とも現実ともつかぬ形で「隣の異星人」を描いた“Waif”が、アニマ・テーマの作品群に連なるものとして興味深い。

 集中ベストは「あの飛行船をつかまえろ」だが、同じ河出書房新社から出ている年代別アンソロジー『20世紀SF④ 1970年代 接続された女』に入れたので、涙を飲んで見送り。再読して評価のはねあがった「二百三十七個の肖像」を当方の編む傑作集に採ることにする(追記参照)。

 余談だが、本書にはハインラインのジュヴナイルSFにオマージュを捧げた“Our Saucer Vacation”という愉快なパスティーシュがはいっている。ハインラインの文体を模写した明朗快活な宇宙SFだが、構図が逆転しているところがミソ。つまり七本の触手を持つ異星人(オクトパスならぬセプタパス)が、醜い未開人の住む星へ円盤に乗って観光にやって来るのだ。もちろん、その未開の星が地球というわけ。

 アダモヴィッチという地球人に正体がばれそうになったとき、主人公の父親は緑の小人に化けて金星人と名乗り、彼を円盤に乗せて嘘八百を教えこむのだが、そのなかにこんなくだりがある――

 むかしから金星人(あるいは悪い火星人)が地球人に身をやつして活動していた。たとえばプラトン、アリストテレス、クレオパトラ、黒太子、ロジャー・ベーコン、カリオストロ、マダム・ブラヴァツキー、アインシュタイン、エドガー・ライス・バローズ、グレタ・ガルボ、ピーター・ローレ、ベラ・ルゴシ、エドワード・テラー、ジェラルド・ハード、リチャード・シェイヴァー、ヒューゴー・ガーンズバック、マリリン・モンロー。

 一読して大笑い。もっとも、このおかしさは、いまの日本じゃ通用しないだろうな。(2008年2月25日)

【追記】
 残念ながら、本が厚くなりすぎるという理由で割愛を余儀なくされた。



2013.03.10 Sun » 『フリッツ・ライバー傑作集』

【前書き】
 以下は2008年2月24日に書いた記事である。誤解なきよう。


 ライバー傑作集の目次を作ろうと思って、このところライバーの中短篇ばかり読んでいた。さすがに全作品を読むわけにはいかず、めぼしい作品を読み返したり、未読だった作品を読んだりするだけで終わったが、それでも90篇近くの作品に目を通した。一応納得がいったので、ひとまず区切りとする。
 せっかくの機会なので、埃を払った本のお披露目をしよう。表紙を眺めて楽しんでください。

 まずは向こうで編まれた傑作集に敬意を払って、その名もズバリ The Best of Fritz Leiber (Sphere, 1974) から。これはイギリスで出たペーパーバックが初版で、ハードカヴァーやアメリカ版が後に出た珍しい例である。

2008-2-24(The Best of)

 ライバーはSF、ホラー、ファンタシーの各分野で偉大な足跡を残したが、この本はどちらかというとSF寄り。22篇の代表的短篇を年代順にならべている。邦訳があるのはつぎのとおり――
「正気と狂気」、「若くならない男」、「真夜中の出帆」、「性的魅力」、「バケツ一杯の空気」、「火星のフォックスホール」、「ビッグ・ホリデイ」、「男が悲鳴をあげる夜」、「大いなる旅」、「跳躍者の時空」、「過去を変えようとした男」、「ラン・チチ・チチ・タン」、「マクベスおばあちゃん」、「マリアーナ」、「電気と仲よくした男」、「新しき良き時代」、「骨のダイスを転がそう」。

 未訳の5篇のうち“A Deskful of Girls”という中篇は、代表作のひとつとされているのだが、セックス・シンボルという概念が目新しかった時代のショッカーで、いま読んでもさほど面白くない。
 ライバーという人は「早すぎた才能」なので、先駆性が仇になるときがある。都市型ホラーの古典「煙のお化け」や諷刺SFの古典「性的魅力」が好例だろう。同種の作品がのちにたくさん書かれたせいで、元祖が平凡に見えてしまうのだ。
 ついでに書いておくと、巻末の“America the Beautiful” という短篇は「性的魅力」のリメイクともいうべきディストピアSF。ジーン・ウルフの「アメリカの七夜」を完全に先取りしている。

 当方の編む傑作集は、叢書の性格上、本格SFに偏らないことが前提になる。いろいろと考えた末、「①日本で出ている2冊の短篇集との重複を避ける。②自伝的要素の強い作品を主体にし、未来や宇宙を舞台にしたSF、発表年代の古い怪奇小説、〈剣と魔法〉は除外する」を編集方針とした。したがって、本書からは「跳躍者の時空」と「骨のダイスを転がそう」の2篇を採ることにする。(2008年2月24日)

【追記】
 この時点で企画中だったライバー傑作集は、『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)として実現した。「本格SFに偏らない」という前提条件は、ジャンル混淆をめざした《奇想コレクション》という叢書の性格から導きだされた。





2013.03.09 Sat » ライバーの猫

【承前】
 フリッツ・ライバーが無類の猫好きで、その身辺にはつねに猫がいたことはよく知られている。猫を題材にした小説も多く、それらが Gummitch and Friends (Donald M. Grant, 1992) という本にまとまっていることは、以前この日記に書いたことがある。

 この本にはロジャー・ガーバーディングという人がすばらしいイラストを寄せているのだが、そのときは紹介しなかったので、今回はイラストをお見せする。

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その1。巻頭に飾られている猫の肖像。これがガミッチなのかな。

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その2。短篇「跳躍者の時空」に付されたイラスト。スーパー仔猫ガミッチと、その両親〈馬肉の大将〉と〈猫こっちおいで〉が描かれている(追記参照)。すでに何度も記したように、ライバーの猫ものはいずれも自伝的要素が強く、描かれている男女のモデルはライバー本人と愛妻ジョンキルである。

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その3。短篇“Cat Three“ に付されたイラスト。この魔女みたいな女性は、ミス・スキップシーというすこし頭のおかしい老婆で、三匹の猫と暮らしているのだが、やはりモデルがいる。それが詩人のマーゴ・スキナーだ。晩年のライバーの恋人で、死のまぎわには正式に結婚した。ちなみに同書は「マーゴに」捧げられている。(2008年1月18日)

【追記】
『跳躍者の時空』収録時に、それぞれ〈馬肉のせんせい〉と〈ネコちゃんおいで〉に訳語が変更された。ちなみに原文は Old Horsemeat と Kitty-Come-Here である。

2013.03.08 Fri » 『ガミッチとお友だち』

 ライバーねたをもうひとつ。ご紹介するのは Gummitch And Friends (Donald M. Grant,1992)である。

2005-4-24(Gummitch and Friends)

 ライバーが無類の猫好きだったことは良く知られているが、これはライバーの猫小説ばかりを集めた短篇集。有名なスーパー猫《ガミッチ》連作全5篇とそれ以外の5篇に、付録としてマーゴ・スキナー、カレン・アンダースン、ポール・アンダースンの詩がそれぞれ4篇、1篇、1篇ずつ付くという構成。美麗イラストが10枚もはいった豪華版である。

 小説のうち邦訳があるのは、ガミッチものの短篇「跳躍者の時空」、「猫の創造性」、「猫たちの揺りかご」、「キャット・ホテル」の4作と中篇「影の船」。未訳の作品はどれもたいしたことはないが、「跳躍者の時空」と「影の船」は傑作なので、日本語版を出したいところ。
 そう思って、いろんな出版社に話を持ちかけたのだが、色好い返事はもらえなかった。残念至極である(追記参照)。
 
 ちなみに本書は「マーゴ」に捧げられているが、これは詩が収録されているマーゴ・スキナーのこと。ライバー晩年の恋人で、ライバーが亡くなる少し前には正式に結婚している。(2005年4月24日)

【追記】
 のちにライバー傑作集「跳躍者の時空」(河出書房新社、2910)を編むことができた。本書とはコンセプトがちがうが、《ガミッチ》連作は、この時点で未訳だった「三倍ぶち猫」をふくめ、全作が収録されている。

2013.03.07 Thu » 『ファファードとわたし』

【前書き】
 以下は2005年4月23日に書いた記事である。誤解なきように。


 数日前に東京創元社からフリッツ・ライバーの『妖魔と二剣士』を頂戴した。23年ぶりに邦訳が出た《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの第4巻である。邦訳の出るのが待ち切れなくて、話自体は原書で読んでしまったが、浅倉久志氏の日本語で読めるかと思うと、嬉しくてしかたがない。
 あんまり嬉しいので、仕事が一段落したのをいいことに、ライバーのエッセイ集 Fafhrd & Me (Wildside Press, 1990) を読んだ。

2003-4-23 (fafhrd)

 本書は11篇収録のエッセイ集(うち邦訳があるのは2篇)。後半にH・P・ラヴクラフト関係の文章4篇がまとめられていて、本書の白眉といえるだろう。
 そのうちの2篇「怪奇小説のコペルニクス」と「ブラウン・ジェンキンとともに時空を巡る」は創土社版『ラヴクラフト全集』のⅠとⅣに邦訳があるが、読んだことのある人どころか、その存在を知っている人自体が少ないだろう。2篇とも非常に優れたラヴクラフト論であり、一貫して「科学をバックボーンにした宇宙的恐怖」の作家としてラヴクラフトを称揚している。
 だが、それ以上にすばらしいのが、“My Correspondence with Lovecraft”というエッセイ。晩年のラヴクラフトとの短い交友を綴ったものだが、ふたりの温かい人柄が伝わってきて、読んでいると非常に気持ちがいい。

 表題の“Fafhard & Me” は、《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズの裏話を綴ったもの。ちなみに、大男の野蛮人ファファードのモデルはライバー自身で、家庭では「うちのファファード」と呼ばれていた由。シリーズ誕生秘話を語った1962年発表部分と、そこに書けなかった暗黒面を告白した1975年発表部分から成り、『妖魔と二剣士』収録の「星々の船」と「クォーモールの王族」については後者で触れられている。いろいろと面白いエピソードがあるのだが、長くなるのでまたの機会に。

 このほかでは、自伝的エッセイ“My Life and Writing” とユング心理学に基づいた幻想文学論“The Anima Archetype in Science Fantasy” が特に面白いし、ロバート・E・ハワードやE・R・バローズの《火星》シリーズに関する文章が読めるのも嬉しい。(2005年4月23日)

2013.03.06 Wed » 『星を見つけるもの』

【承前】
「毒を食らわば皿まで」ということで、ロバート・F・ヤングの長篇、最後の1冊を読んだ。Starfinder (Pocket, 1980) である。
 表題は主人公の名前なので、訳さないのがセオリーだが、掲題ではあえて訳した。

2011-1-27(Starfinder)

 これは宇宙クジラの話。クジラといっても、姿形は地球のクジラとは似ても似つかない。小惑星のような形をした生物で、時間を超える力がある。人類がこれを捕まえ、脳(正確には神経節)をとりのぞいて内部を改造し、宇宙船にしている時代が舞台だ。

 主人公のスターファインダーは、クジラを殺しすぎて罪悪感をおぼえるようになった捕鯨士。身を持ち崩したうえに、交情中、相手の女を殺してしまい(ただし、簡単に蘇生できる)、逃亡を余儀なくされる。まだ艤装中の宇宙クジラを盗もうとしたところ、このクジラには脳がふたつあって、ひとつが生き残っているとわかる。テレパシーでクジラと意思を通じたスターファンダーは、ともに時空の旅へ乗りだすのだった……。

 本書はちょっと実験的な書き方がされている。ひとつは現在形の文章。もうひとつは、宇宙クジラが絵文字で意思を表す趣向。

2011-1-27(Starfinder 2)

 上に掲げた図を例にとると、順に「時空の海」、「人間」、「宇宙クジラ(*印が脳)」を表していて、全部が合わさると「人間が宇宙クジラに乗って時空の海を航行する」という意味になる。

 時間旅行が出てくるので、例によって「たんぽぽ娘」的展開があるのだが、あとはいわぬが花だろう。代わりに表紙の説明をしておくと、青い薔薇はクジラの神経節の象徴。じっさいにこういう形をしているのだそうだ。(2011年1月27日)

【追記】
 本家〈SFスキャナー〉では、〈SFマガジン〉1982年5月号掲載の同欄で大野万紀氏が本書を紹介されていた。


2013.03.05 Tue » 『最後の世界樹』

【承前】
 ロバート・F・ヤングの長篇その3は、エコロジーSF The Last Yggdrasill (Del Rey, 1982) だ。原型は「妖精の棲む樹」(1959)という130枚の中篇で、深町眞理子訳が〈SFマガジン〉1972年7月号に載っている。ちなみに、同誌はその前号でヤング特集を組んでいるので、長さの関係でそちらに載せきれなかったのかもしれない。

2010-12-23(The Last)

 舞台は惑星プレインズのニュー・アメリカと呼ばれる地。小麦の栽培に適した土地柄で、広大な小麦畑が広がっている。もともとはイグドラシルという途方もない巨木が点在していたのだが、農耕の邪魔だというのでつぎつぎと切り倒され、いまでは最後の一本が残るのみ。
 主人公のストロングは、その最後の木を切り倒しにきた伐採チームの一員。彼が樹上にキャンプしながら、4日がかりで木の枝を伐採し、最後に幹を切り倒す手はずになっている。
 おりしも、その模様を録画しようと報道チームがやってくる。そのリーダーのメリジェーンは、ストロングの元恋人。ふたりのあいだには、感情のもつれが残っていて、ストロングは動揺を隠せない。
 さて、作業初日、彼は木の葉のあいだに不思議な少女の姿を見る。伝説のドリュアス(木の精)なのか、それとも目の錯覚にすぎないのか。その夜、彼はドリュアスの訪問を受け……。

 いままでの3冊のなかで、本書が原型中篇といちばんちがっている。そして、その改稿がいちばん裏目に出ている。というのも、登場人物をふやし、その内面を書きこむことで長篇(といっても300枚弱だが)にしているのだが、その心理描写とやらがお粗末きわまりないからだ。
 内面を書きこむといえば聞こえがいいが、要するに痴話話やら三角関係の話が、回想や内的独白の形で延々とつづくわけで、正直いって読むに耐えない。
 ヒロインのメリジェーンも魅力がない。ストロングに未練があるのに、好きでもないストロングの同僚とダラダラと肉体関係をつづけているという女。もう完全に昼メロの世界である。こういうのが現代的な小説だというまちがった思いこみが、作者か編集者にあったにちがいない。

 それなりに面白いエコロジーSFとしての謎解きが、とってつけたようなのもマイナス点。
  
 この作品で、ヤングはみずからの美質をすべて捨ててしまった。ひょっとすると、これまで紹介した2作がおとぎ話に近かったのは、本書での反省を踏まえたうえだったのかもしれない。(2010年12月23日)

2013.03.04 Mon » 『エリダーン』

【承前】
 ロバート・F・ヤングの長篇その2は、恐竜時代+時間旅行という趣向が楽しい Eridahn (Del Rey, 1988) だ。原型は「時が新しかったころ」(1964)という110枚の中篇で、市田泉訳が拙編のアンソロジー『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫)に収録されている。

2010-12-22(Eridahn)
 
 主人公のカーペンターは、1998年(!)の古生物学協会につとめる下っ端の調査員。愛用のトリケラタンク(トリケラトプスに偽装した地上走行車)に乗り、タイムマシンで白亜紀へやってきた。その時代の地層に、あるはずのない現代人の骨の化石が見つかったからだ。
 白亜紀に到着早々、カーペンターは、恐竜に追いつめられ、木の上で立ち往生していたローティーンの姉弟を助けだす。どこからどう見ても現代のアメリカ人だが、言葉がまったく通じない。だが、姉弟が持っていた万能翻訳機のおかげで会話が成立。ふたりの話によると、彼らは火星の住民で、グレーター・マーズという国の王女と王子。地球へはテロリストに誘拐されて、連れてこられたのだという……。
 
 表題の「エリダーン」は、グレーター・マーズの住人が地球の一部につけた名前。彼らは地球への植民を試みたが、障害が多くて挫折し、50年ほど前に植民地を放棄したことになっている。

 昨日紹介した本と同様、本書も原型のプロットはそのままに、人物やエピソードを書き加えることで長篇にしている。特記しておきたいのは、八千万年前の火星人と20世紀の地球人が生物学にまったく同じという点に一応SF的な説明がなされている点。どちらも「ク」という異星人が種を蒔いたからだというのだ。これは原型中篇になかった特徴である。

 最後は例によって「たんぽぽ娘」と同じパターンのハッピーエンド。どういうことかというと、冴えない中年男とローティーンの少女の淡い恋が描かれ、タイムマシンという便利な道具のおかげで少女だけが年をとり、ふたりが成人として(つまり、社会的なタブーに触れない形で)結ばれるというパターンである。まあ、究極の願望充足ですな。(2010年12月22日)

【追記】
 本家〈SFスキャナー〉では、米村秀雄氏が〈SFマガジン〉1983年10月号の同欄で本書を紹介されている。

2013.03.03 Sun » 『宰相の次女』

 思うところあって、ロバート・F・ヤングの長篇を読んでいる。

 ヤングは本質的に短篇作家だが、SF短篇集を出しにくくなった時流には逆らえず、晩年に長篇を4冊つづけて出した。といっても、そのうちの3冊は、既発表の中篇を書きのばしたショート・ノヴェルで、原型中篇よりはむしろ出来が悪くなっているのだが。
 ともあれ、刊行とは逆の順番にとりあえず3冊読んだので、内容を記しておこう。

 まずは The Vizier's Second Daughter (DAW, 1986)から。表紙絵はサンジュリアン。このころは大活躍だった。

2010-12-21(Daughter)

 表題の一部にもなっているワジールは、イスラム教圏の高官や大臣のこと。その次女が本書のヒロインで、名前はドニヤザード。高名なシェヘラザードの妹だ。といえばお判りのように、本書は『千夜一夜物語』のSF版である。
 原型は「真鍮の都」(1965)という130枚の中篇で、山田順子訳が〈SFマガジン〉1986年6月号に載っている(追記参照)。

 ときは22世紀。タイムマシンが実用化され、歴史的に重要な人物を誘拐してきて、その複製(自動人形)を作り、記憶を消して元の時代へ送り返すという商売が成立している。新米誘拐者のビリングズにあたえられた任務は、9世紀のアラビアへ飛び、『千夜一夜物語』の語り手をスルタンのハーレムからさらってくること。
 首尾よく任務達成と思いきや、さらってきたのはシェヘラザードではなく、その妹だと判明する。さらにタイムマシンに事故が起こり、時間も場所も不明なところへまぎれこんでしまう。そこには『千夜一夜物語』に登場するジンそのものが住んでおり、〈真鍮の都〉と呼ばれる都市宮殿を築いていた……。

 欠点を指摘しようと思えばいくらでも指摘できるが、そういう気がまったく起こらない。読んでいるあいだは楽しいので、娯楽小説としてはこれでいいのだろう。
 ちなみに、ジンそっくりの生物は、はるか未来の地球からこの地へ観光に来ている異星人だとわかる。この辺のSF的合理化が、いまとなっては懐かしい。
 最後は「たんぽぽ娘」と同じ趣向のハッピーエンドで、邦訳したら、受けそうな気がする。(2010年12月21日)

【追記】
 近くこの中篇をふたたび世に出せることになった。いま編んでいるアンソロジーに収録する。詳細は後日。

2013.03.02 Sat » 『空想科学小説的恐龍』

 昨日のつづき。
 チャールズ・G・ウォーとマーティン・H・グリーンバーグがロバート・シルヴァーバーグと組んで編んだ恐竜テーマのアンソロジーに The Science Fictional Dinosaur (Avon/Flare, 1982) というのがある。これも引っぱりだしてきた。

2008-12-4(Dinosaur)

 収録作はつぎのとおり――

コウモリの翼  ポール・アッシュ
The Ever-Branching Tree  ハリイ・ハリスン
When Time Was New  ロバート・F・ヤング
哀れ小さき戦士!  ブライアン・オールディス
狩人の日  アイザック・アシモフ
Hermes to the Ages  フレデリック・D・ゴットフリード
父の彫像  アイザック・アシモフ
Wildcat  ポール・アンダ-スン
われら竜脚類の聖母  ロバート・シルヴァーバーグ

 このあと簡単な恐竜百科が17ページ、参考図書リストが2ページついている。

 さて、このなかからヤングの作品を当方のアンソロジーに採ろうと思っている。
 時間旅行と恐竜と火星人がからむ作品で、のちに書きのばされ Eridahn (1983) という長篇になった。とりたてて優れた作品ではないが、「ロマンティック時間SF傑作選」に「たんぽぽ娘」の作者の名前は欠かせないだろう(追記参照)。

 未訳のなかではハリスンの短篇が面白い。
 タイムマシンが実用化され、小学生の教育にも活用されている時代。今日は生命発生の場面、魚がはじめて陸にあがった場面など、生物進化の重大局面を見学するツアーだ。しかし、子供たちはいっこうに興味を示さず、教師はやる気をなくすのだった、という皮肉な一篇。

 アンダースンの作品は、アラスカに出稼ぎに行くような感じで、ジュラ紀の石油プラントに出稼ぎに行く労働者たちの話で、ちょっと期待はずれだった。(2008年12月4日)

【追記】
 上記ヤングの作品は「時が新しかったころ」として、『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫、2009)に収録された。
 

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