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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.06.30 Sun » 『バーサーカー基地』

【承前】
 セイバーヘーゲンといえば《バーサーカー》だが、当方が原書で読んだのは The Ultimate Enemy (Ace, 1979) だけ。これは『バーサーカー/星のオルフェ』(ハヤカワ文庫SF)として邦訳が出たので、わざわざ紹介するまでもない。しかたがないので、変化球で行くことにした。

 というわけで、Berserker Base (Tor, 1985) である。もっとも、当方が持っているのは、例によって87年に出たペーパーバック版だが。

2007-7-7 (Berserker Base)

 目次を見ても、本文を見ても長篇小説としか思えないのだが、この本、じつは一種のアンソロジーである。セイバーヘーゲンの原案のもと、六人の作家が新作を書き、そのあいだをセイバーヘーゲンのブリッジがつないだ擬似長篇。当時大流行していたシェアード・ワールドものの一環なのだ。

 作品を寄せた作家は、順にスティーヴン・ドナルドスン、コニー・ウィリス、ロジャー・ゼラズニイ、ポール・アンダースン、エド・ブライアント、ラリー・ニーヴン。このうちニーヴンの短篇は「『涙滴』墜つ」として邦訳がある。

 ゼラズニイやアンダースンのように、いかにもという名前があるいっぽう、ウィリスやドナルドスンのように意外な名前もある。前者は同郷(ニューメキシコ州)のよしみだろうが、後者はどういう縁があったのだろう。ご存じのかたは教えてください。

 さて、内容のほうだが、バーサカーの基地がついに発見され、そこで地球人との戦いが繰り広げられる話らしい。たぶん永久に読まないだろう。こういう本は、持っているだけでいいのである。(2007年7月7日)

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2013.06.29 Sat » 『セイバーヘーゲン自選傑作集』

【前書き】
 本日はアメリカのSF作家フレッド・セイバーヘーゲンの命日である。故人を偲び、訃報に接した2007年7月5日に書いた記事を公開する。


 いまごろ知ったのだが、アメリカのSF作家フレッド・セイバーヘーゲンが、去る6月29日に亡くなっていた。享年77。
 デビューは1961年で、去年も長篇が出ていたから、45年も現役だったことになる。典型的な職人作家であり、オリジナリティは皆無に近いが、既存のパターンをうまくひねって、つねに水準以上の作品に仕上げていた。
 その美点や特質は、『バーサーカー/星のオルフェ』(ハヤカワ文庫SF)の解説に書いたことがある。そこにも記したように、当方の好きな作家のひとりだった。まずは合掌。長いあいだご苦労さまでした。

 追悼の意味をこめて、セイバーヘーゲンの本をいくつか紹介する。まずは自選短篇集 Saberhagen: My Best (Baen, 1987) から。表紙絵はトム・キッドの筆になるものだ。

2007-7-5 (Saberhagen)

 表題どおりの内容で、1961年から87年にかけて発表された17篇が収録されている。邦訳がある作品はつぎのとおり――

「バースデイ」、「スマッシャー」*、「和平使節」*、「グッドライフ」*、「鋼鉄の殺戮者」*、「機械の誤算」*、「マーサ」、「地球を覆う影」

 題名のあとに*を付したのは《バーサカー》シリーズに属す作品。セイバーヘーゲンといえばバーサカーというのは、衆目の一致するところであり、本人もそう自負していた証拠である。もっとも、《バーサカー》シリーズ以外の中短篇はほとんど訳されていないわけで、その点がちょっと残念。

 序文もコメントもない無愛想な本だが、セイバーヘーゲン入門にはうってつけの1冊だろう。

 未訳の作品のなかでは“The Long Way Home”というのがちょっとすごい。どうせ邦訳は出ないだろうからネタをばらすが、宇宙船のなかで綱を引っ張ることに一生を捧げている人々が出てくる。その力でエンジンの故障した宇宙船を動かしているのだ。もう何世代がこの作業に従事してきたことか。目的地はまだまだ遠い……。

 C・C・マキャップの「完璧な装備」(こちらは弓で矢を飛ばし、その反動で宇宙空間を航行する)とならぶ二大人力宇宙船ものとして当方は偏愛している。(2007年7月5日)


2013.06.28 Fri » 『フェッセンデンの宇宙』(幻のアンソロジー・シリーズその6)

【前書き】
 昨日、ロバート・ムーア・ウィリアムズの「赤い死」という作品をとりあげた。これを収録したアンソロジーの目次を考えたことがあるので公開する。


 仕事用のメモを整理していたら、5年前に考えたアンソロジーの目次が出てきた。山岸真氏と共編した『20世紀SF』(河出文庫)が出ていたころで、その関連で考えたもの。実現の見込みはなかったので、最初から趣味で作った目次である。
 ひと目見て苦笑せざるを得なかったので、ここに恥をさらすことにする。
 題して、『フェッセンデンの宇宙――1930年代SF傑作選』

1 フェッセンデンの宇宙  エドモンド・ハミルトン  '37(40枚)新訳
2 シャンブロウ  C・L・ムーア  '33(80枚)新訳
3 ブルー・ジラフ  L・スプレイグ・ディ・キャンプ  '39(70枚)新訳
4 時の脇道  マレイ・ラインスター  '34(150枚)新訳
5 火星ノンストップ  ジャック・ウィリアムスン  '39(95枚)新訳
6 最終進化 ジョン・W・キャンベル・ジュニア  '32(50枚)新訳
7 Parasite Planet  スタンリー・G・ワインボウム  '35(65枚)初訳
8 赤い死  ロバート・ムーア・ウィリアムズ  '40(60枚)新訳
9 人間オメガ  ロウェル・H・モロウ  '33(100枚)新訳

 『20世紀SF』は、1冊700枚と規格が決まっていたので、それに合わせてある。
 キャンベル・ジュニアの作品は「影が行く」を採りたいところだが、長すぎるし、すでにこれを表題とするアンソロジーを編んでいたので見送った。
 ワインボウムの作品は、「火星のオデッセイ」が順当だろうが、本邦初訳を1篇くらいは入れたくてこちらを採った。知名度がちがうだけで、出来はあまり変わらない。
 ハミルトンの作品は、それまで流布していた1950年発表の改稿ヴァージョンではなく、初出ヴァージョンを新訳するつもりだった。アイデアの先駆性を評価する声が高いので、それなら原型を見せることに意義があると思ったからだ。この企ては、のちにハミルトン傑作集『フェッセンデンの宇宙』を編んだときに実現した。

 ご覧のとおり、山本弘編のクラシックSF傑作選『火星ノンストップ』(早川書房)と3篇(2、4、5)が重なっている。しかも、2と4に関しては新訳を起こすというアイデアまで同じ。人間、考えることは同じだなあ。
 
 それでも、ディ・キャンプとモロウの作品は捨てがたいものがある。どこかで復活できないものか。(2006年9月24日)



2013.06.27 Thu » 『星々に立ち向かう人間』

 マーティン・グリーンバーグの編んだアンソロジーを紹介しよう。といっても、昨日とりあげた本の編者とは別人である。あちらが Martin H(arry) Greenberg (1941-2011) であるのに対し、こちらは Martin (L.) Greenberg (1918-) なのだ。今年95歳で、存命らしい。
 
 こちらのグリーンバーグは、SFファン出版社の濫觴のひとつ、ノーム・プレスの創始者として名高い。もとも熱心なSFファンだったが、第二次世界大戦後、復員して出版業界に身を投じ、ついには友人のデイヴィッド・カイルとともに出版社を興したのだ。戦前に発表されたSFやファンタシーが、パルプ雑誌に載ったきり、消えていきそうな事態を憂慮してのことだった。

 ノーム・プレスは1948年に創立され、SF/ファンタシー史に残る作品をいくつも刊行した。たとえば、アイザック・アシモフの《銀河帝国の興亡》3部作、アーサー・C・クラークの『銀河帝国の崩壊』、ロバート・E・ハワードの《コナン》シリーズ全7巻などだ。が、その詳細についてはべつの機会にゆずるとして、話を先へ進める。

 SFファンあがりだけあって、グリーンバーグはアンソロジーの編纂にも意欲を見せ、全部で8冊を世に問うた。その嚆矢が宇宙SF12篇にウィリー・レイの序文を合わせた Men against the Stars (Gnome Press, 1950) だ。
 好評だったのか、同書は翌年にグレイスン&グレイスンという出版社から収録作を8篇に減らし、配列を大幅に変えた普及版ハードカヴァーが出た。さらに1956年には、収録作を9篇に減らしたペーパーバック版が、ピラミッドから刊行された。当方が持っているのは、1963年に出たその2刷である。

2013-6-23 (Men 1)

 収録作はつぎのとおり。例によって発表年と推定枚数を付す――

1 Men against the Stars  マンリー・ウェイド・ウェルマン  '38 (50)
2 赤い死  ロバート・ムーア・ウィリアムズ  '40 (60)
3 金星サバイバル  ルイス・パジェット  '43 (75)
4 スケジュール  ハリー・ウォルトン  '45 (45)
5 遥かなるケンタウルス  A・E・ヴァン・ヴォート  '44 (55)
6 Cold Front  ハル・クレメント  '46 (45)
7 考える葦  マレー・ラインスター  '46 (45)
8 Competition  E・M・ハル  '43 (60)
9 影の落ちるとき  L・ロン・ハバード  '48 (40)

 面白いのは、目次から8と9が落ちてしまっていること。これもノートに目次を書き写したあと、各作品のページ数を数えようとしていたときに気がついて、びっくりした例である。

2013-6-23 (Men 2)
 
 1は作者の名前からは想像がつかない宇宙開発もの。有人宇宙ステーションの業務をリアルに描いているが、それが仇となって時代遅れがはなはだしい。
 ほかの作品もそれは同じで、ノスタルジーの対象でしかないだろう。

 もっとも、2は個人的に愛着があるので紹介しておこう。
 これは探検隊が火星で怪異に遭遇するホラーSF。エネルギーを吸いとる結晶/ガス状生物が出てくる。ホラーSF傑作選と銘打ったアンソロジー『影が行く』を編んだとき候補に入れたが、クラーク・アシュトン・スミスの傑作「ヨー・ヴォムヴィスの地下墓地」と似ているので落としたという経緯がある。(2013年6月23日)

2013.06.26 Wed » 『呪文』

【承前】
 マーティン・H・グリーンバーグのショートショートが収録されていたアンソロジーを紹介しよう。Spells (Signet, 1985) である。

2013-6-22 (Spells)

 グリーンバーグがアイッザック・アシモフ、チャールズ・G・ウォーと組んで出していた《アイザック・アシモフのファンタシーの魔法世界》というシリーズの第4巻。表題どおり「呪文」 を題材にした12篇を集めている。
 表紙絵は、石川県出身だが、アメリカを拠点に活動する画家キヌコ・クラフトの作品。

 さいわい多くの作品に邦訳があるので、簡略化した形で目次を示そう。例によって発表年と推定枚数を付す――

1 どなたをお望み  ヘンリー・スレッサー 1961 (15)
2 The Christmas Shadrach  フランク・R・ストックトン 1891 (55)
3 雪の女  フリッツ・ライバー 1970 (200) *《ファファード&グレイ・マウザー》
4 目に見えぬ少年  レイ・ブラッドベリ 1945 (25)
5 The Hero Who Returned  ジェラルド・W・ペイジ 1979 (65)
6 Toads of Grimmerdale  アンドレ・ノートン 1973 (135) *《ウィッチ・ワールド》
7 A Literary Death  マーティン・H・グリーンバーグ 1985 (7)
8 悪魔と賭博師  ロバート・アーサー 1942 (45)
9 競売ナンバー二四九  アーサー・コナン・ドイル 1892 (90)
10 焼け死んだ魔女  エドワード・D・ホック 1956 (55) *《サイモン・アーク》
11 キャンパスの悪夢  スティーヴン・キング 1976 (60)
12 奇跡なす者たち  ジャック・ヴァンス 1958 (205)

 ご覧のとおり、ファンタシー、ホラー、SF、ミステリをごった煮にしたうえ、古くは1891年、新しくは1985年と選択の幅を大きくとっている。したがって、なにが飛び出してくるのかわからない面白さがある。 
  
 未訳の作品について触れておくと、2は「女か虎か」で有名な作者のロマンティック・コメディー。三角関係に悩む青年が、人の熱い気持ちを冷ます魔力を秘めた文鎮を手に入れ、それを使って自分の都合のいいようにことを運ぼうとしてひどい目にあうが、最後にはめでたしめでたしで終わる。19世紀の作品だけあって、非常にのんびりした味わい。そこが評価の分かれ目だろう。

 5は異世界ファンタシー。平凡な暮らし送ってきた渡し守が、一生に一度の冒険に出て、真の勇者であることを証明する。やや眼高手低の感あり。

 6は《ウィッチ・ワールド》シリーズの1篇。あえて端的にいえば、戦争中、敵にレイプされて、望まない子供を身ごもった女性が人生を切り開いていく話。フェミニズム色が濃くて、作者の金看板であるジュヴナイルSFとは大きく印象が異なる。(2013年6月22日)

2013.06.25 Tue » 訃報――マーティン・H・グリーンバーグ

【前書き】
 本日は世界一の生産量を誇ったアンソロジスト、マーティン・H・グリーンバーグの三回忌である。故人を偲んで、以下の記事を公開する。


 アメリカのアンソロジスト、マーティン・H・グリーンバーグが25日に亡くなったそうだ。享年70。癌との長い闘いの末とのこと。

http://www.locusmag.com/News/2011/06/martin-greenberg/

 周知のとおり、いろいろなパートナーと組んでアンソロジーを量産した人。アシモフやシルヴァーバーグと組んだ本が有名で、邦訳もたくさん出ている。選ぶ作品は玉石混淆で、むしろ石が多い。したがって高い評価はできないが、珍しい作品を発掘してくれるので、当方としてはありがたかった。拙編のアンソロジーにもグリーンバーグのアンソロジーから採った作品がたくさんはいっている。その意味でたいへん世話になったので、故人には感謝するばかりだ。

 じつはグリーンバーグの創作をひとつだけ読んだことがある。アイザック・アシモフ、マーティン・H・グリーンバーグ&チャールズ・G・ウォー編の Spells (Signet, 1985) というアンソロジーに書き下ろされた“A Literary Death”という邦訳して7枚ほどのショートショートである。表題は非常に訳しづらいが、「文芸に関連した死」くらいの意味である。

 グリーンバーグがアシモフに書いた手紙という形式をとっており、ある新人作家が編集者を裏切ったために呪いをかけられ、変死をとげた顛末が語られる。その呪いは「おまえは11月20日午後2時に文芸に関連した死をとげる」というもの。その日時が迫るにつれノイローゼになった新人作家は、出版業の総本山であるニューヨークから車で脱出しようとする。 その途次、書籍を運ぶトラックに衝突し、本人は首の骨を折って即死。車は本になかば埋まってしまう。車の時計は20日の午後1時58分で止まっていた……。(2011年6月26日)

2013.06.24 Mon » 『夕べはかならずやって来る』

 グレン・ロードは、ハワード書誌学の基礎を築いた偉人であり、ハワードの遺産管理人として未発表だった原稿を続々と公刊するいっぽうで、改作や模作を量産して金儲けに走ったディ・キャンプ一派と袂を分かち、ハワードの原典を世に出すことに執念を燃やした人であった。

 一読者にすぎなかったロードが、世界一のハワード研究家への道を踏みだしたのは1956年。
 当時カレッジの学生だったロードは、あるときハワードの詩集があったらいいのにと友人にもらした。すると、ないのなら自分たちで作ろうということになり、関係者に連絡をとりはじめると同時に、ハワード作品の渉猟をはじめた。

 さいわい〈ウィアード・テールズ〉はインデックスがあったので、同誌掲載の詩を中心に見つかるかぎりの詩を集め、1957年に Always Comes Evening として上梓した。
 もともとは自費出版するつもりだったのだが、話を聞いたオーガスト・ダーレスが、印刷費をロードがもつなら、自分の経営する出版社から出してもいいといってくれ、ホラー読者には名高いアーカム・ハウスから刊行される運びとなった。部数は636で、売りきるのに7年を要したという。

 その後1960年代後半から爆発的なハワード・ブームが興り、すでに稀覯本と化していた同書が再刊されることになった。それが Always Comes Evening (Underwood-Miller, 1977) だ。

2012-3-17 (Always Comes 1)

 本文110ページの大判ハードカヴァー。京都出身のケイコ・ネルスンという画家がアートワークを担当しており、多数のイラストが配された豪華本となっている(資料によると、1980年にべつの表紙カヴァーをつけた版が出まわったとのこと)。

2012-3-17 (Always Comes 2)

 初版刊行後に見つかった3篇が増補され、配列が全面的に変えられているほか、ロードが新たな序文を書きおろしている。

 独立とした詩として邦訳があるのは、「断章」、「死都アーカム」、「顕ける窓より」の3篇にとどまるが、小説のエピグラムとして掲げられた詩も収録されている。「真紅の城砦」、「黒魔の泉」、「闇の帝王」、「不死鳥の剣」、「黒い海岸の女王」がそれに当たる。

 と知ったようなことを書いてきたが、この本は天使の贈り物。あらためて代島正樹さんに感謝を捧げる。(2012年3月17日)

2013.06.23 Sun » 『ロバート・E・ハワードの書』

【承前】
 ハワードの歴史冒険小説“Red Blades of Black Cathay”は、The Book of Robert E. Howard (Zebra, 1976) という本にはいっている分を読んでいた。当方が持っているのは1980年にバークリーから再発された版で、表紙絵は例によってケン・ケリーである。

2012-3-16 (Book Of)

 これはハワード研究の泰斗だったグレン・ロードが編んだ傑作集。ロードは昨年(追記参照)の12月31日に80歳で惜しくも鬼籍にはいられたので、追悼の意味をこめて、つまみ食いしていた本を今回頭から読んでみたしだい。

 ハワードの多様な作品世界をコンパクトな形で示すという意図で編まれており、小説11篇と詩10篇が収録されている。ただし、容易に入手できる作品はあえて落としているので、コナンやブラン・マクモーンやソロモン・ケインといった人気キャラクターが登場する作品は選ばれていない。各篇の冒頭に丁寧な解説が付されているのが特徴である。

 詩は「キンメリア」しか邦訳がないし、煩雑になるので省略。小説は、簡単な注釈つきで題名をならべてみる(括弧内は推定枚数。《》でくくった部分はシリーズ名)――

1 鳩は地獄から来る  '38 (85) 南部を舞台にした現代怪奇小説
2 The Pit of the Serpent  '29 (45) ユーモア・ボクシング小説 《船乗りコスティガン》
3 Etchings in Ivory  '68 (35) 散文詩
4 Red Blades of Black Cathay  '31 (85) 中央アジアを舞台にした歴史冒険小説
5 Knife, Bullet and Noose  '65 (35) シリアス・ウェスタン(三人称) 《ソノーラ・キッド》
6 Gents on the Lynch  '36 (50) ユーモア・ウェスタン(一人称) 《パイク・ベアフィールド》
7 She Devil  '36 (45) 南洋を舞台にしたお色気もの
8 The Voice of El-lil  '30 (70) 中央アジアを舞台にしたロスト・レースもの
9 Black Wind Blowing  '36 (65) ウィアード・メナスもの
10 The Curse of the Golden Skull  '67 (10) 《キング・カル》外伝
11 Black Talons  '33 (45) 探偵小説

 それまで私家版やファンジン掲載の形でしか発表されていなかった作品が3篇。残りも数十年ぶりにパルプ誌の山から救いだされた作品で、例外は1くらい。まさに渉猟家ロード執念の結晶である。

 とはいえ出来のほうは玉石混淆で、石のほうが多い。ホラーの秀作として、すでに評価の定まっている1を別格とすれば、いちばん面白かったのは2。
 コスティガンというアイルランド系の船乗りが、マニラの港で女をめぐるトラブルに巻きこまれ、〈蛇の穴〉と称される地下ボクシング場で闘うはめになるという物語で、大げさな一人称でユーモアたっぷりに語られる。マーク・トゥエインの系譜を引く作品で、たちまち人気シリーズになったというのもうなずける。

 このパターンを西部劇に持ちこんだのが6だが、一枚落ちる感は否めない。
 2は正直なカウボーイと腹黒い銀行家の闘いを描いたシリアスな西部劇で、フォーミュラの極致。

 3はロードにならって散文詩としたが、じっさいは一人称による夢の記述ともいうべきもの。主に古代ギリシアやローマを舞台にした不可思議なエピソードが5つ並べられている。文学青年が書きそうなスケッチである。

 9は残虐趣味を売りものにしたサスペンス小説で、俗にウィアード・メナスと呼ばれるジャンル(スプラッタ・ホラーの源流のひとつ)に属す。この作品は、邪教集団の暗躍を描いたもので、凄惨な拷問場面が書きこまれている。
 11は探偵小説だが、実態はウィアード・メナスに近い。推理などないに等しく、ハワードがつくづくこのジャンルに向いていないことがわかる。

 7はスパイシーと呼ばれるお色気ものだが、せいぜいヒロインが下着姿になるくらい。アイルランドとラテンの血が混じった美女で、名前はラクエル。当然のごとくラクエル・ウェルチの顔が浮かんできて困った。(2012年3月16日)

【追記】
 2011年のこと。誤解なきように。

2013.06.22 Sat » 『黒い契丹の赤い刃』

 昨日のつづき。
 掲題は「赤と黒」の対比を示すため、意図的に誤訳した。Black Cathay は中央アジアに実在した国カラキタイ(西遼)のことなので、誤解なきように。

 ハワードとの共作に関するテヴィス・クライド・スミスの証言は、Red Blades of Black Cathay (Donald M. Grant, 1971) という本の序文が出典である。

2012-3-11 (Red Blade)

 これはスミスとハワードが共作した歴史冒険小説3篇をおさめたもの。小ぶりのハードカヴァーで、本文125ページの薄い本である。資料によると1091部しか発行されなかったとのこと。デイヴ・カーボニクという人のイラストがはいっているが、たいした絵ではないのでスキャンはしない。

 この本は天使の贈り物その4である。代島正樹氏にあらためて感謝する。

 テヴィス・クライド・スミスは、ハワードがハイスクール最終学年のときに知りあった友人。ハワードと同じく文学と歴史に興味をいだいていたので意気投合し、その友情はハワードの早すぎる死までつづいた。ハワードがスミスに送った膨大な量の書簡は、現在多くが公刊されており、ハワード研究者にとって得がたい資料となっているほか、スミス自身もハワードとの交友を回想したメモワールを著している。
 その本をふくめ、スミスには何冊かの著書があるが、すべて自費出版。例外はこのハワードとの共作だけらしい。

 さて、前述どおり、序文でスミスがハワードとの共作について明かしている。それによると、表題作は「わたしが調査し、ボブが執筆した」。べつの作品は「交互にタイプライターについているうちに、ひとりでにできあがった」。残りの1篇は「わたしが大まかなプロットを作り、ふたりで練ったあと、わたしが執筆した」となる。
 このうち表題作は〈オリエンタル・ストーリーズ〉というパルプ雑誌に掲載されたが、残りの2篇は売れ口がなく、本書が初出となった。

 表題作はハワードの原典に忠実な編集の Lord of Samarcand にも収録されているので、両者をくらべると、雑誌初出時に各章の冒頭にかかげられていたエピグラフが、後年に流布したヴァージョンでは省略されているとわかった。代島さんの名言どおり、「くらべてみないとわからないこともある」ということか。

 表題作は、十字軍に参加したノルマン人戦士が、プレスター・ジョンの国を探せという不可能同然の使命をさずかり東へ向かううち、山賊に襲われていたカラキタイの姫君を助けることになり、その国に滞在していると、チンギス・ハンひきいるモンゴル軍が攻めてきて……という話。
 いきなり戦闘場面からはじまり、85枚ほどの小説の半分は戦闘シーンに費やされているというしろもの。ハワードの冒険小説は、だいたいがこんな感じである。フォーミュラの極致だが、読んでいるあいだは楽しいので、これでいいのだろう。

 白状すると、ほかの2篇は読んでいない。じつは表題作も、べつの短篇集で読んでいたのであった。その本の話は、つぎの岩につづく。(2011年3月11日)


2013.06.21 Fri » 『女剣士その他の歴史冒険小説』

 昨日のつづき。

 ダーク・アグネスもの第3作は、永らくジェラルド・W・ペイジが補筆した形でしか読めなかったが、昨年ついに未完ヴァージョンが公刊された。ハワードの歴史冒険小説を集大成した Sword Woman and Other Historical Adventures (Del Rey, 2011) に収録されたのだ。

2012-3-10 (Sword Woman)

 これはデル・レイから出ている一連のハーワド本の最新刊(第11巻にあたる)。表題通りの内容で、14篇の小説、4篇の詩のほか、付録として9篇の未完成作品、スコット・オーデンの序文、ハワード・アンドリュー・ジョーンズの解説がおさめられている。

 邦訳された作品はひとつもないので題名はあげないが、やはりラスティ・バークの肝いりで出た Lord of Samarcand And Other Adventure Tales of the Old Orient (Bison, 2005) に Sword Woman (Zebra, 1977) を合わせたものといえる。小説を読むだけなら買う必要のない本だが、付録と解説が目当てで購入した。ジョン・ワトキッスという画家のイラストが全篇に配されており、これも魅力的で、持っているだけでうれしい本だ。

 ひとつ面白いのは、これまで親友テヴィス・クライド・スミスとの共作とされていた“Red Blades of Black Cathay”が、ハワード単独名義で収録されて いること。スミスは共作について「自分が調査をし、ハワードが文章を書いた」と証言していたが、草稿のくわしい調査から、スミスの貢献度はゼロと判断したらしい。解説を書いたジョーンズは、「作家志望の親友の名前に箔をつけるための処置ではないか」という説を紹介している。

 もうひとつ面白いのは、付録にハロルド・ラムの小説の梗概がはいっていること。ハワードが作家修業の一環として作ったメモらしい。ハワードに影響をあたえた作家としては、ジャック・ロンドン、エドガー・ライス・バローズ、ラディヤード・キプリングらの名前がとりざたされるが、むしろラムを筆頭にあげるべきかもしれない。

 ところで、デル・レイのハワード本は、もともとワンダリング・スターというイギリスの出版社がはじめたプロジェクトの発展・継承版である。つまり、綿密な校訂を経たハワードの真筆だけを集め、未完成作品や創作メモは付録としてそのままの形でおさめたうえ、全篇にイラストを配し、詳細な解説をつけるというプロジェクトだ。
 ワンダリング・スター版はすばらしい内容の超豪華本だったが、製作費がかかりすぎて完売しても利益が出なかったらしい。それをデル・レイが引き取って、普及版が出るようになったわけだ。

 デル・レイのトレードペーパーは、イラストがカラー印刷でない点をのぞけば、まったく文句がつけようがないが、ワンダリング・スターから予定されていた《コナン》シリーズ第3巻は見たかった気がする。ああ、ファンとはなんと身勝手なものか。(2012年3月10日)


2013.06.20 Thu » 『女剣士』

 確認したいことがあって、ロバート・E・ハワードの本をひっぱりだしてきた。Sword Woman (Berkley, 1979)である。

2012-3-9 (Sword Woman)

 もともとは1977年にゼブラ・ブックスから出たものの再発。署名の上に文字がかぶさっているが、表紙絵はケン・ケリーの筆になるものでまちがいない。

 これは中世フランスの女剣士、ダーク・アグネスを主人公にしたシリーズをまとめたもの。表紙絵を見てもらうとわかるが、アグネスの髪は赤く、肌は白い。では、なぜダーク・アグネスと呼ばれるかというと、「彼女のまわりには なにか dark なものが漂っているから」だという。この dark もいろいろな意味がこめてあって、その場その場で「暗い」とか「不吉」とか「陰鬱」とか訳すしかないだろう。

 アグネスは農民の娘だが、貴族の血を引いている。というのも、父親は、さる貴族が農民の娘に産ませた子供だからだ。
 物語はアグネスの婚礼の朝からはじまる。いいなずけは親が決めた農夫で、アグネスはこの男を嫌いぬいている。そして婚礼の場でいいなずけを刺し殺し、村から出奔。街道でエティエンヌという剣士に出会い、助けられたと思ったが、じつはエティエンヌの狙いが自分を娼館に売ることだと知って、この男を半殺しの目にあわせる。ところが、エティエンヌは地元の貴族に命を狙われており、その正体が露見したのは自分のせいだと悟り、命を救うための行動に出る……。

 といった具合で、恐ろしく荒っぽい女剣士の活躍が描かれる。
 中世フランスを舞台に赤毛の女剣士が活躍するといえば、C・L・ムーアの《ジョイリーのジレル》シリーズを連想しないわけにはいかないだろう。
 じっさいハワードは《ジレル》シリーズを意識したらしく、1935年に第一作“Sword Woman”の草稿をムーアに送り、これを気に入ったムーアから「アグネスの活躍をもっと読みたい」という返事をもらっている。ちなみに、《ジレル》シリーズはその前年にはじまっており、ハワードがその影響を受けたと考えたくなるが、真相は不明。

 ともあれ、このシリーズはほかに1篇の完成作“Blades for France”と“Mistress of Death”と題された未完の草稿が書かれたが、けっきょくハワードの生前は未発表に終わった。要するに、売れ口がなかったのである。

 さて、未完の草稿はのちにジェラルド・W・ペイジが補筆し、これが世に出まわった。本書にもこのヴァージョンが収録されている。
 現在では未刊の草稿が公刊されているので、両者をくらべると、うしろのちょうど半分が補筆部分だとわかる。主人公が魔道士に奈落へ引っぱりこまれそうになり、悲鳴をあげて男に慰められるというシーンがあって、ハワードらしくないと思ったら、やはりペイジの書いた部分だった。

 ところで、《ダーク・アグネス》シリーズの第1作と第2作は、超自然の要素がない純粋な歴史冒険小説である。第3作になって、魔道士と蘇生術という要素が導入されるのは、〈ウィアード・テールズ〉向けに方向転換を図ったためと推測されるが、その試みも放棄された。ハワードの心境やいかに。

 もっとも、この3篇では分量がすくなくて本にならないので(全訳して215枚ほど)、本書にはリイ・ブラケットの序文と、未完に終わった長篇(上記シリーズとは無関係)の冒頭部分が2篇おさめられている。(2012年3月9日)

2013.06.19 Wed » 『ロバート・E・ハワードの恐怖小説』

【承前】
 ロバート・E・ハワードのホラー短篇集としては、決定的な本が簡単に手にはいる。ハワード研究の第一人者ラスティ・バークの肝いりで出た The Horror Stories of Robert E. Howard (Del Rey, 2008) だ。

2011-10-6(The Best Horror)

 これは同社から刊行されているイラスト入り叢書の一冊で、ジョージ・ステープルズという人の美麗イラストが全篇に配されている。これを見るだけでも価値があるが、内容のほうも文句なし。ハワードの秀作ホラーはほとんど網羅されており、この本を持っていればワイルドサイド・プレスで出た同種の本は無理して買う必要がない。

 大判トレードペーパー約530ページに小説36篇、詩14篇、付録として未完の草稿4篇が収録されている。そのうち邦訳があるのはつぎのとおり(追記参照)――

小説……「密林の人狼」、「夢の蛇」、「獣の影」、「死霊の丘」、「われ埋葬にあたわず」、「夜の末裔」、「黒の碑」、「屋上の怪物」、「吸血鬼の墓」、「闇の種族」、「鬼神の鬼塚」、「大地の妖蛆」、「闇に待つ顎」、「悪霊の館」、「老ガーフィールドの心臓」、「ブードゥー教の半魚人」、「鳩は地獄から来る」、「死人は憶えている」「アッシュールバニパル王の火の石」
詩……「顕ける窓より」、「断章」

 通常ヒロイック・ファンタシーに分類される《ソロモン・ケイン》シリーズや《ブラン・マク・モーン》シリーズからも作品を採っているのが特徴。

 さすがにめぼしいところは邦訳があり、未訳のものでこれぞという作品は、ボクシング小説仕立ての幽霊譚“The Spirit of Tom Molyneaux”くらい。
 だが、残りの作品もハワード・ファンとしては読んでおきたい。というのも、それぞれがビアス風だったり、ラヴクラフト風だったり、ミステリ仕立てだったり、ウェスタン仕立てだったりと、ハワードの試行錯誤の跡が見えるからだ。

 さて、本書の内容に文句はないが、たとえば昨日紹介した“The People of the Black Coast”のような珍品は入っていない。ハワードの世界は意外に奥が深いのである。(2011年10月6日)

【追記】
 のちに創刊された「ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌〈」ナイトランド〉が、本書から採った作品をステープルズのイラストとともに掲載してくれた。順に「矮人族」(創刊号)、「失われた者たちの谷」(2号)、「墓所の怪事件」(4号)である。




2013.06.18 Tue » 『ブードゥー教の半魚人』

【承前】
 ロバート・E・ハワードのホラー短篇集としては、Black Canaan (Berkley, 1978) というのもある。

2011-10-5(Black 1)

 バークリーから刊行されていた折り込みポスター付きペーパーバックの一冊で、ネットにその画像があったので借りてきた。

2011-10-5(Black 2)

 まるでフランク・フラゼッタの絵のようだが、ケン・ケリーの筆になるものだ。ゲイアン・ウィルスンが序文を書いている。

 収録作は10篇で、そのうち表題作と“Moon of Zambebwei”が昨日紹介した本と重なっている。どちらもアメリカ南部を舞台にしたブードゥー教がらみの話である。
 邦訳があるのは表題作と「黒の詩人」のみ。ちなみに後者はハワードの未完原稿をオーガスト・ダーレスが補完したもの。前者の邦題はあんまりという気もするが、ソノラマ海外文庫がそういう題名にしたので仕方がない。

 表紙絵は“People of the Black Coast”という短篇を題材にしているのだが、これがハワードにしては珍しくSFといえそうな作品。というのも、表題の「ピープル」は、人間ではなく、ここに描かれている巨大蟹のことだからだ。なんと、この蟹は知性を持っていて、文明を築いているのである。

 物語は、主人公と女流飛行家である婚約者の乗った飛行機が、太平洋の孤島に不時着するところからはじまる。黒い岩石がひな壇上に積み上がった特異な地形で、見たところ無人島らしい。主人公はあたりを探検に行くが、帰ってくると婚約者の姿はなく、彼女の片手だけが残っている。
 その直後、主人公は馬よりも大きな蟹の群れに遭遇し、彼らが知性を持つ生物であることを知る。というのも、巨大蟹にはテレパシーがあるらしく、精神攻撃を仕掛けてきたからだ。その代わり、向こうの思考もぼんやりと読める。
 その結果わかったのは、蟹のほうが人間よりも進んだ文明を持っており、島の上部に都市を築いていることだった。ただし、その知性は人間とはまったく異質であり、彼らにとって人間など虫ケラ以下の存在でしかない。婚約者は、彼らの好奇心の餌食になったのだ。
 彼らにとって野獣である主人公は、婚約者の仇をとるため、彼らにゲリラ戦を仕掛ける。巧妙に立ちまわって何匹かを倒すが、しょせん多勢に無勢。やがて命がつきるだろう……。

 というわけで、「野生対文明」という図式はそのままに、怪物と人間の役割を逆転させた作品。ハワードらしいと同時にハワードらしくない珍品といえる。
 生前は未発表に終わり、〈スペースウェイ・サイエンス・フィクション〉1969年9-10月合併号に発表された。(2011年10月5日)

2013.06.17 Mon » 『闇のなかの踏み分け道』

 必要があってロバート・E・ハワードの短篇集 Trails in Darkness (Baen, 1996) を引っ張りだしてきた。

2011-10-4(Trail)

 《ザ・ロバート・E・ハワード・ライブラリ》と銘打たれた叢書の第6弾。第4弾に当たる本のことは、以前この記事でとりあげた。そちらと同じく、S・M・スターリングが短い序文を寄せている。ちなみに表紙絵はC・W・ケリー。

 この本のコンセプトは明確で、「北米を舞台にしたハワードの怪奇小説」ばかりを集めている。全部で10篇が収録されているが、そのうち邦訳があるのは「死人は憶えている」、「ブードゥー教の半魚人」、「闇に待つ顎」、「吸血鬼の墓」の4篇である(追記参照)。

 “Kelly the Conjure-Man”という小品が、ブードゥー教の呪術師を題材にしたノンフィクションであるのをべつにすれば、残りはだいたい邦訳がある作品と同工異曲で、それらより一枚落ちる作品。つまり、西部劇と怪奇小説の合体やら、南部の沼沢地に巣食うブードゥー教の恐怖を描いた作品である。

 そのなかでちょっと面白いのが、“The Valley of the Lost” という短篇。
 西部の荒野を舞台に、ふたつの家族が血で血を洗う抗争をくり広げている。片方は主人公を残すだけとなり、その主人公もついには先住民が忌み嫌う谷へ逃げこむはめになり……と典型的なウェスタン風にはじまるのだが、主人公が洞窟へはいりこんだところで急転直下。なんと、この谷間の地下には、はるかむかし地中へ逃げこみ、いまは退化をとげた矮人族が住んでいたのだ、とアーサー・マッケンばりの怪奇小説になるのだ。
 「ディセント」というろくでもない映画があったが、あれの先駆けだと思ってもらっていい。出来のほうはともかく、ハワードの想像力の本質を生の形で見せてくれる作品といえる。
 
 ところで、この本を引っぱりだした理由は、年末ぐらいに明らかにできるかもしれない。乞御期待。(2011年10月4日)

【追記】
 この後、“The Valley of the Lost”が、「失われた者たちの谷」の題名で「ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌」を標榜する〈ナイトランド〉2号(2012)に掲載された。ただし、不幸な事故があって、不完全な形で世に出てしまった。その詳細については、こちらの記事を参照していただきたい。

2013.06.16 Sun » 『ソロモン・ケイン』

【承前】
 ロバート・E・ハワードの《ソロモン・ケイン》シリーズだが、当方はバンタムから出た2分冊ヴァージョンを持っていた。それぞれ Solomon Kane #1: Skulls in the Stars (1978)、Solomon Kane #2: The Hills of the Dead (1979) と題されている。

2009-3-29 (Solomon Kane 1)
2009-3-29 (Solomon Kane 2)

 造本が面白い。ペーパーバックの表紙が内側に折り込みになっていて、広げると横長の1枚絵になるのだ。
 表紙絵の画家は、2のほうはボブ・ラーキンと判明しているが、1のほうは不明。タッチがちがうので別の画家だと思うが、くわしいことはわからない。表紙絵の版権はバンタム・ブックスの所有になっている。果たしてこの画家はだれなのだろう。ご存じの方がいれば、教えてください。

 内容だが、どちらもJ・ラムジー・キャンベルの序文つき。第一巻には小説7篇と詩1篇、第二巻には小説5篇と詩2篇が収録されている。

 最大の特徴は、未完作品3篇がラムジー・キャンベルによって補完されていること。つまり、ハワードが放棄したあとを承けて物語を書き継いでいるのだ。
 
 英国ホラー界の雄キャンベルとハワード作品の組み合わせは奇異に思えるかもしれない。じつは、このころキャンベルは、ホラーだけでは食っていけないのか、〈剣と魔法〉にも手を染めていた。そのためお鉢がまわってきたのだろうが、この人選は完全に誤っていた。ご承知のとおり、キャンベルの作風は、粘着質な文体でじわじわと恐怖を盛りあげていくものであり、冒険活劇にはおよそ向いていないからだ。要するに水と油である。

 ディ・キャンプが先鞭をつけたせいで、ハワードの未完作品は補完して世に出すことが通例となった。この傾向に異を唱えたのが遺産管財人のグレン・ロードで、主に小出版社のドナルド・M・グラントと組んで、未完作品は未完のまま収録した作品集を刊行しつづけた。その好例が、昨日紹介した Red Shdows である。

 さいわいにも、いまではハワードの主要作品については、未完作品は未完のまま収録した作品集が簡単に手にはいる。たとえば《ソロモン・ケイン》シリーズの場合は、前に紹介した The Savage Tales of Solomon Kane (Wandering Star, 1998 / Del Rey, 2004) という完全版がある。グレン・ロードとラスティ・バーク様々である。(2009年3月29日)


2013.06.15 Sat » 『血まみれの影』

 太っ腹つながりで、天使の贈り物を紹介しよう。つまり、代島正樹さんが譲ってくれた本のこと。その3はロバート・E・ハワード Red Shadows (Donald M. Grant, 1978) だ。

2009-3-28 (Red Shadows)

 大型ハードカヴァー、337ページ。発行部数1350。表紙絵はジェフ・ジョーンズ。さらにカラー・イラストが別刷りで8枚と表紙裏(図版下)に1枚はいっている超豪華版である。

2009-3-28 (portrait)
 
 本書は16世紀の清教徒戦士《ソロモン・ケイン》シリーズの集大成本。グレン・ロードが編集にあたっており、未完作品は未完のまま収録されている。
 前にも書いたが、このシリーズは近い将来邦訳が出るそうなので、内容については触れない。邦訳はいまのところ3篇あり、訳題はつぎのとおりである――「血まみれの影」、「死霊の丘」、「はばたく悪鬼」

 表題を「赤い影法師」と訳すと柴田錬三郎の伝奇小説と同じになって面白いのだが、ここはおとなしく既訳題にならっておこう。

 せっかくなので書誌学的な蘊蓄を少々。
 グラントからこの本が出るのは、じつは本書で三度め。最初は1968年に出た版で、ひとまわりサイズが小さく381ページ。ジェフ・ジョーンズのカラー・イラストは4枚だった。発行部数896。カヴァーではなく、本そのものの表紙の色からこれはレッドと呼ばれる。
 1971年に上記は再刊されたが、表紙の色は濃灰色。これはグレイと呼ばれ、カラー・イラストの位置が本文と合うように修正されていた。発行部数741。
 そして版型、イラストを一新したのが本書というわけだ。

 このシリーズ、当方は別のヴァージョンをペーパーバックで持っていたので、その話は次回に。(2009年3月28日)


2013.06.14 Fri » 『終わりなき探求』

【承前】
 ハワードの書誌をもうひとつ。ポール・ハーマンの The Neverending Hunt: A Bibliography of Robert E. Howard (Wildside Press, 2006) だ。ただし、当方が持っているのは2008年に出たペーパーバック版だが。こちらにもさんざんお世話になった。

2013-6-12 (Neverending)

 縦28センチ、横21センチ、厚さ3センチの巨大な本。図版は1枚もなく、ただひたすらデータが羅列される。その分量は、なんと500ページ以上。無愛想といえばこれほど無愛想な本も珍しいだろうが、ハワードの書誌としては最高峰に位置する。とにかく、情報量がただごとではないのだ。

 目次を簡略化して示す――

散文索引(英語)
散文索引(英語以外)
韻文索引
書簡索引
書籍(英語)
定期刊行物
アンソロジー収録
パンフレット、その他
書籍とアンソロジー(英語以外)

 以上の項目にしたがって、作成者の知りえた情報がすべて記載されている。つまり、本人は現物を見ていない外国語版やファン出版物の情報もまじっており、その信憑性には疑問符がつくということだ。じっさい、日本語版の情報は驚くほど正確だが、誤記のたぐいは多い(たとえば、「屋上の邪神」が“Okiyou No Jashim”となっている)し、誤った推測もなされている。
 
 とはいえ、その点に気をつけさえすれば、ハワードの書誌としてこれほど心強い味方はない。なにしろ、世界一のハワード・コレクター、グレン・ロードの全面協力のもと、世界で二番めのハワード・コレクターが作りあげた書誌なのだから。

 しかも、太っ腹なことに、本書の情報は現在(一部の外国語版情報をのぞいて)すべてネット上で公開され、つねにアップ・トゥ・デートが図られている。世の中には、本当に偉い人がいるものだ。(2013年6月12日)

2013.06.13 Thu » 『ロバート・E・ハワード』

 《新訂版コナン全集》の編纂にあたって、基礎資料のひとつにしたのが Robert E. Howard : A Collector's Descriptive Bibliography of American and British Hardcover, Paperback, Magazine, Special and Amateur Editions , with a Biography (McFarland & Co., 2007) という書誌だ。

2008-7-7(Robert E. Howard)

 内容については、長い副題がすべてを表している。簡単なハワード伝+詳細きわまる書誌である。
 ハワードの書誌に関しては、グレン・ロードの決定的な仕事がある。著者はもちろんそのことを承知していて、ロードの書誌を補完することをめざしている。つまり、ロードの書誌以降に出た版や、ロードの書誌で手薄だったファンジン関係の情報を充実させているのだ。その仕事ぶりは徹底していて、見たことも聞いたこともないようなファンジンや私家版の情報が満載。商業出版についてはいうまでもないだろう。世の中には恐ろしいコレクターがいたものである。

 著者はレオン・ニールセンという人。もしかすると古書商のたぐいかもしれない。というのも、この本は完全なコレクターズ・ガイドで、古書の状態の判定のしかたや、平均古書価までがくわしく書かれているからだ。
 とにかくたいへんな労作で、ロードの The Last Celt と合わせれば鬼に金棒である。

 ところで、この本には「もっとも蒐集価値のあるタイトル」として70冊の題名/版があげられている。そのうち当方が持っているのはたったの3冊。いっぱしのハワード・ファンのつもりだったが、コレクターではなかったわけだ。まあ、安いペーパーバックばっかり買っているので当然といえば当然だが(追記参照)。(2008年7月7日)

【追記】
 その後16冊が追加された。そのうち15冊は代島正樹氏に譲っていただいたものである。あらためて深謝。


2013.06.12 Wed » 『ロバート・E・ハワード傑作集』

【前書き】
 創元推理文庫の《新訂版コナン全集》が、5月末に出た第6巻『龍の刻』をもって完結した。編纂を担当した者としては、ようやく肩の荷がおりた気分だ。最終巻の解説では、作者ロバート・E・ハワード死後の動きを概括した。わが国では知られていなかった事実に重点を置いたので、関心のある向きは是非お読みください。

 そのうちミスが続々と見つかり、天を仰ぐことになるのだろうが、いまは解放感に浸っているので、ハワード関係の蔵書自慢する。まずはハワード研究家ラスティ・バークに敬意を表して、彼が編んだハワード傑作集から。この人の仕事がなければ、《新訂版コナン全集》はずいぶんと見劣りするものになっただろう。ひたすら感謝あるのみだ。


 最新のハワード傑作集を紹介しよう。 The Best of Robert E. Howard, Volume 1 : Crimson Shadows (Del Rey, 2007) と The Best of Robert E. Howard, Volume2: Grim Lands (Del Rey, 2007) だ。

2008-4-5 (best 1)
2008-4-5 (best 2)

 版元のデル・レイは、ハワード研究家ラスティ・バークの監修のもと、イラスト満載のハワード作品集を大判トレード・ペーパーでつぎつぎと出している。本書はその一環であり、バークが満を持して放った傑作集だ。なんでも「友人に読ませるため、これ一冊あればハワードのすべてがわかる本」を作るのが夢だったそうで、その夢を実現したわけだ。もっとも、一冊ではなく、各巻500ページを超える二分冊になったのはご愛敬だが。

 なにしろハワードの全貌をつかめるようにするため、これまでデル・レイで出ていた作品も重複をいとわずに収録している。特徴としては、小説と詩をほぼ交互にならべていること。各巻とも小説16篇、詩12篇をおさめ、バークの序文、気鋭のハワード研究家の解説がつくという内容になっている。

 邦訳があるのはつきのとおり――

第一巻 「影の王国」、「血まみれの影」、「闇の帝王」、「黒の碑」、「灰色の神が通る」、「大地の妖蛆」、「妖蛆の谷」、「黒い予言者」、「黒河を越えて」
第二巻 「ツザン・トゥーンの鏡」、「象の塔」、「はばたく悪鬼」、「老ガーフィールドの心臓」、「鳩は地獄から来る」、「赤い釘」、「キンメリア」(詩)

 未訳の小説はウェスタン、歴史冒険小説、ボクシング小説など。このまま未訳で終わりそうな作品群だ。
 
 じつをいうと、第一巻の序文と解説しか読んでいない。ここにおさめられた作品は、ほとんどほかの本で読んでいるのだ。われながら感心する。
 もともと撫でさするために買った本だが、ほかの本にくらべてイラストの出来がいまひとつなのが残念である。(2008年4月5日)

2013.06.11 Tue » 『地獄の地図作成者たち』

 《SF作家の自伝》シリーズ第4弾。ブライアン・W・オールディス&ハリー・ハリスン編 Hell's Cartographers (Harper & Row, 1975) である。これまでの3冊とはちがって、6人の自伝を集めたアンソロジーだ。

2009-9-25(Hell's)

 おかしな表題だが、これはキングズリー・エイミスのSF評論『地獄の新地図』(1960)を承けたもの。エイミスはSFの諷刺的側面を重視しており、SFをこう呼んだ。それなら、おれたちは地獄の地図作成者だ、というわけである。

 収録作家の顔ぶれと生年(と没年)を書いておこう(追記参照)。

ロバート・シルヴァーバーグ (1935-)
アルフレッド・ベスター (1913-1987)
ハリー・ハリスン (1925-)
デーモン・ナイト (1922-2002)
フレデリック・ポール (1919-)
ブライアン・オールディス (1925-)

 シルヴァーバーグがひとり飛びぬけて若く、40歳のときの自伝ということになるが、すでに巨匠だったし、内容も抜群に面白いのは特筆に値するだろう。

 さて、内容だが、この本を基に各作家の経歴が紹介されている。手っ取り早く中身を知りたい人は、以下を参照してもらいたい。

 シルヴァーバーグ 『いまひとたびの生』(ハヤカワ文庫SF)の浅倉久志による解説。『時間線を遡って』(創元SF文庫)の中村融による解説。
 ベスター 『虎よ、虎よ!』(ハヤカワ文庫SF)の浅倉久志による解説。『願い星、叶い星』(河出書房新社)の中村融による編者あとがき。
 ナイト 『ディオ』(青心社)の大野万紀による解説。
 ポール 『ゲイトウエイ』(ハヤカワ文庫SF)の中村融による解説。
 オールディス 『手で育てられた少年』(サンリオSF文庫)の山田和子による解説。

 ハリスンについてもあるのだろうが、思いつかない。(2009年9月25日)

【追記】
 その後、ハリスンが2012年に亡くなった。合掌。

2013.06.10 Mon » 『人喰い鬼の伝記』

【前書き】
 このたび転居しました。ようやく身辺が落ち着いたので、ブログを再開します。心機一転といきたいところですが、〈SF作家の自伝〉シリーズが途中だったので、そのつづきからはじめます。なんだか締まらない話ですが、気にしないで行きましょう。それでは、今後ともよろしく。


 〈SF作家の自伝〉シリーズ。第3弾はピアズ・アンソニーの Bio of An Ogre (Ace, 1988) だ。ただし、当方が持っているのは、例によって翌年に同社から出たペーパーバック版だが。

2009-9-23(Bio of)

 なにしろ大ヒット作《魔法の国ザンス》シリーズの人なので、その1冊と見まがうような表紙絵がついている。表題の人喰い鬼とはアンソニー自身のこと。怒りっぽくて執念深い性格は自覚しているらしい。じっさい、かなりのトラブル・メーカーぶりである(もっとも、長いものに巻かれない性格ゆえで、かならずしもアンソニーが悪いわけではないようだが)。
 
 アンソニーは1934年生まれで、50歳までの半生を回顧したのが本書。けっこう波瀾万丈の生い立ちで、幼少のころはいじめられ通しだったという。その恨みつらみが克明に書かれているのがすごい。
 恨み節はさらにつづくが、圧巻はアメリカSF作家協会の大物(ロバート・シルヴァーバーグ!)や編集者をこきおろした部分。それでもユーモアを忘れないので、読んでいていやな気分にならないところはさすが。

 印象的なエピソードをひとつ。
 アンソニーの両親は内乱の渦中にあったスペインで救援活動に従事していた。1940年に父親がフランコ政権に逮捕され、国外退去を命じられた。アメリカへわたる航海中、ピアズ少年は6歳の誕生日を迎えた。おりからの物資不足で、テーブルに出されたのはおが屑でできたケーキ――
「砂糖衣で綺麗におおわれ、蝋燭が燃えていたのを憶えている。だが、いざ切り分けようとすると、みんなが変な顔をして、ケーキを持ち去った。そのときはどうしてか分からなかった。……ある意味で、あのケーキはわたしの幼年期を象徴しているように思える。しっかりした土台が、じつはおが屑でできていると分かってしまったのだ」

 ところで、人喰い鬼には「受けた恩義を忘れない」面もあることをアンソニーの名誉のために申し添えておこう。(2009年9月23日)

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