fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2013.06 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 » 2013.08

2013.07.07 Sun » 『ヴァルハラの行進者たち』

 天使の贈り物その11。つまり、代島正樹さんにいただいた本である。

 ロバート・E・ハワード Marchers of Valhalla (Donald M. Grant, 1972) は、本文121ページの小型ハードカヴァー。これは初版で、限定1654部。のちに1篇を増補した普及版が出たそうだ。

2012-11-8 (Valhara)

 初版にはロバート・ブルース・アチスンという人の白黒イラストが6枚はいっているが、悲しくなる出来なので紹介しない。

 内容のほうはというと、ハワードの生前には未発表だった小説2篇のカップリング。ともに本書が初出であり、前世の記憶をあつかっている点で共通している。

 表題作は、ジェイムズ・アリスンという不具の現代人が、前世を回想するという形式で書かれている。その記憶のなかの彼はヒアルマーという名の戦士であり、超古代に北欧ノルドハイムから北米へ流れてきた部族の一員である。この放浪の戦士団が、いまのテキサスに当たる地でレムリア人の子孫が築いた都市ケミュに遭遇し、いったんは闘いになるが、和議が成立する。というのも、ケミュ側は、敵対する蛮族との闘いにノルドハイム人の力を借りたいからだ。
 いっぽうヒアルマーは、女神イシュタルに仕える巫女で、北欧人のアルーナという女に惹かれていく……。

 本篇は1933年に〈マジック・カーペット〉誌に投稿されたが、没になったという。まあ、東洋歴史冒険小説専門を標榜する雑誌のカラーにはまったく合わないので、没もしかたないだろう。
 一種の枠物語になっていて、その枠がいかにもぎこちないが、全体としては、それほど悪い出来ではない。特に戦闘シーンは圧巻。

 さて、ジェイムズ・アリスンの名前でピンときた人もいるだろうが、傑作「妖虫の谷」に先立つ作品である。この作品が没になったので、ハワードは同じ形式でべつの物語を紡ぎあげたわけだ。もっとも、部族の放浪の歴史など、一部の要素を流用しているが。

 ちなみに、そのあと「恐怖の庭」が発表されたので、《ジェイムズ・アリスン》ものは完成作が3作ということになる(ほかに未完の断片が5つある)。
 
 もうひとつの作品は“The Thunder-Rider”と題されている。
 こちらはコマンチ族の血を引くジョン・ガーフィールドという現代人が語り手。白人社会に溶けこみ、白人と変わらぬ暮らしを送っているが、ときおりインディアンの血、戦士の血が騒ぎだす。放っておくと犯罪者になりそうなので、コマンチ族の治療師の指導のもと、前世を思いだし、その人生を生きなおす儀式に臨む、というのが外枠。

 いまガーフィールドとなっている魂は、輪廻転生をくり返しており、何人分もの記憶がよみがえってくる。そのなかでひときわ強烈なのが、16世紀に生きたアイアン・ハートという戦士の記憶だった。ポーニー族と闘っていた彼は、そのさなか、突如としてあらわれた男たちに敵ともども捕らわれてしまう。謎の男たちはアステカの血を引いているらしく、非常に残忍な性質を帯びていた……。

 この簡単な要約からもわかるとおり、《ジェイムズ・アリスン》ものを徹底的にアメリカ化(西部劇化)した作品といえる。使われているタイプ用紙の種類から、ハワードの死の直前に書かれたものと判明している。このころハワードは、怪奇幻想小説の執筆をやめ、ウェスタン一本で行くと決めていたが、それでもこういう作品を書かずにはいられなかったわけだ。
 ハワードは輪廻転生を本気で信じていたそうだが、それもうなずける。

 残念なのは、一応完成しているものの、明らかに未定稿である点。外枠であるべき部分が長すぎるのに対し、最後のほうは駆け足もいいところで、シノプシスに近くなっている。ハワードが本篇をもっと肉付けしていたら、幻想ウェスタンの秀作が生まれていたはずなので、惜しいというほかない。(2012年11月8日)


スポンサーサイト