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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.06.23 Sun » 『ロバート・E・ハワードの書』

【承前】
 ハワードの歴史冒険小説“Red Blades of Black Cathay”は、The Book of Robert E. Howard (Zebra, 1976) という本にはいっている分を読んでいた。当方が持っているのは1980年にバークリーから再発された版で、表紙絵は例によってケン・ケリーである。

2012-3-16 (Book Of)

 これはハワード研究の泰斗だったグレン・ロードが編んだ傑作集。ロードは昨年(追記参照)の12月31日に80歳で惜しくも鬼籍にはいられたので、追悼の意味をこめて、つまみ食いしていた本を今回頭から読んでみたしだい。

 ハワードの多様な作品世界をコンパクトな形で示すという意図で編まれており、小説11篇と詩10篇が収録されている。ただし、容易に入手できる作品はあえて落としているので、コナンやブラン・マクモーンやソロモン・ケインといった人気キャラクターが登場する作品は選ばれていない。各篇の冒頭に丁寧な解説が付されているのが特徴である。

 詩は「キンメリア」しか邦訳がないし、煩雑になるので省略。小説は、簡単な注釈つきで題名をならべてみる(括弧内は推定枚数。《》でくくった部分はシリーズ名)――

1 鳩は地獄から来る  '38 (85) 南部を舞台にした現代怪奇小説
2 The Pit of the Serpent  '29 (45) ユーモア・ボクシング小説 《船乗りコスティガン》
3 Etchings in Ivory  '68 (35) 散文詩
4 Red Blades of Black Cathay  '31 (85) 中央アジアを舞台にした歴史冒険小説
5 Knife, Bullet and Noose  '65 (35) シリアス・ウェスタン(三人称) 《ソノーラ・キッド》
6 Gents on the Lynch  '36 (50) ユーモア・ウェスタン(一人称) 《パイク・ベアフィールド》
7 She Devil  '36 (45) 南洋を舞台にしたお色気もの
8 The Voice of El-lil  '30 (70) 中央アジアを舞台にしたロスト・レースもの
9 Black Wind Blowing  '36 (65) ウィアード・メナスもの
10 The Curse of the Golden Skull  '67 (10) 《キング・カル》外伝
11 Black Talons  '33 (45) 探偵小説

 それまで私家版やファンジン掲載の形でしか発表されていなかった作品が3篇。残りも数十年ぶりにパルプ誌の山から救いだされた作品で、例外は1くらい。まさに渉猟家ロード執念の結晶である。

 とはいえ出来のほうは玉石混淆で、石のほうが多い。ホラーの秀作として、すでに評価の定まっている1を別格とすれば、いちばん面白かったのは2。
 コスティガンというアイルランド系の船乗りが、マニラの港で女をめぐるトラブルに巻きこまれ、〈蛇の穴〉と称される地下ボクシング場で闘うはめになるという物語で、大げさな一人称でユーモアたっぷりに語られる。マーク・トゥエインの系譜を引く作品で、たちまち人気シリーズになったというのもうなずける。

 このパターンを西部劇に持ちこんだのが6だが、一枚落ちる感は否めない。
 2は正直なカウボーイと腹黒い銀行家の闘いを描いたシリアスな西部劇で、フォーミュラの極致。

 3はロードにならって散文詩としたが、じっさいは一人称による夢の記述ともいうべきもの。主に古代ギリシアやローマを舞台にした不可思議なエピソードが5つ並べられている。文学青年が書きそうなスケッチである。

 9は残虐趣味を売りものにしたサスペンス小説で、俗にウィアード・メナスと呼ばれるジャンル(スプラッタ・ホラーの源流のひとつ)に属す。この作品は、邪教集団の暗躍を描いたもので、凄惨な拷問場面が書きこまれている。
 11は探偵小説だが、実態はウィアード・メナスに近い。推理などないに等しく、ハワードがつくづくこのジャンルに向いていないことがわかる。

 7はスパイシーと呼ばれるお色気ものだが、せいぜいヒロインが下着姿になるくらい。アイルランドとラテンの血が混じった美女で、名前はラクエル。当然のごとくラクエル・ウェルチの顔が浮かんできて困った。(2012年3月16日)

【追記】
 2011年のこと。誤解なきように。

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