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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.11.25 Sun » 『未知』(ベイン版)

 ヘンリー・カットナーの作品をいくつか読む必要が生じた。理由はそのうち明らかになると思う。

 そのうちの1篇が“The Devil We Know”というノヴェレット。これはSFではなく、「悪魔との契約」をひとひねりしたホラー系の作品だ。
 20年くらい前に読んで、そこそこ面白かった記憶があるので、この作品が収録されているアンソロジーを引っぱりだしてきた。スタンリー・シュミット編 Unknown (Baen, 1988) である。

2011-4-7(Unknown)

 表題どおり1939年から1943年にかけて出ていた伝説のファンタシー雑誌〈アンノウン〉の傑作集。同種の試みとしては、すでにこの日記で紹介したD・R・ベンセン編の傑作選(2種類)があるが、収録作は1篇も重複していない。編者の趣味のちがいも大きいのだろうが、それだけ同誌の内容が豊富だった証左でもある。

 編者のスタンリー・シュミットはアメリカのハードSF作家だが、むしろSF誌〈アナログ〉の編集長として有名だろう。なんと1978年からずっと編集長の座にあるのだ。もっとも、1980年から毎年ヒューゴー賞の編集者部門の候補になりながら、いちども受賞していないところを見ると、その手腕は堅実ながら凡庸というあたりかもしれない(追記1参照)。

 ハードSF誌の編集長がファンタシー雑誌の傑作選を編むのを疑問に思う人がいるかもしれないが、これは理にかなった人選。というのも、〈アンノウン〉というのは、〈アナログ〉の前身である〈アスタウンディング〉の編集長だったジョン・W・キャンベルが創刊したファンタシー雑誌だから。売り物は「理屈っぽさ」で、伝統的な怪奇幻想小説とは一線を画していた(とはいえ、それは建前で、じっさいは古臭い怪奇小説も載っているのだが)。
 シュミットの趣味なのか、本書には「理屈っぽさ」とユーモアを兼ね備えた作品が多くおさめられている。収録作はつぎのとおり(例によって推定枚数を付す)――

1 たぐいなき人狼 アンソニー・バウチャー (150)
2 The Coppersmith レスター・デル・レイ (45)
3 裏庭の神様 シオドア・スタージョン (55)
4 Even the Angels マルコム・ジェイムスン (35)
5 煙のお化け フリッツ・ライバー (45)
6 Nothing in the Rules L・スプレイグ・ディ・キャンプ (95)
7 A Good Knight's Work ロバート・ブロック (65)
8 The Devil We Know ヘンリー・カットナー (70)
9 みみず天使 フレドリック・ブラウン (140)

 未訳作品について簡単に触れておくと、2はエルフの鋳掛け屋の話。ほのぼのとした味わいが悪くない。
 4は公文書やら私的メモを並べて、天国も地獄もお役所仕事で運営されているようすを描きだすユーモア譚。
 6は人魚を水泳競技の試合に出す話。主人公が弁護士で、この行為がルール違反に当たるかどうかが綿密に検討される。
 7はマーリンの命で聖杯を置く台の探索に送りだされたアーサー王臣下の騎士の話。もちろん魔法の力で時空を超え、現代アメリカの片田舎にやって来るのである。
 8については、もうじき邦訳をお目にかけられる予定なので、そちらをお読みいただきたい(追記2参照)。(2011年4月7日)

【追記1】
 シュミットは今年ついに勇退した。編集長としての在位期間は34年におよび、伝説の名編集ジョン・W・キャンベル・ジュニアをもうわまわる最長記録を打ち立てた。が、けっきょくヒューゴー賞はとれなかった。

【追記2】
 〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉2011年7月号に掲載された「おなじみの悪魔」のこと。この号は水木しげるをフィーチャーした「ゲゲゲのミステリ〈幻想と怪奇〉」という特集を組んでおり、その一環だった。当方は作品選びに一部協力したのだが、その詳細については項をあらためる。


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