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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.22 Sat » 『囁き 第三集』

 ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌〈ナイトランド〉3号が発売された。内容は版元のサイトを参照していただくとして、まずは無事な刊行を祝いたい。

 当方は今号にカール・エドワード・ワグナーの中篇「夜の夢見の川」を訳出した。このエロティック・ホラーの秀作を紹介するのは念願だったので、それが実現してとてもうれしい。
 ちなみに、風変わりな題名は、ミュージカル「ロッキー・ホラーショウ」からの引用。元の詞は「The darkness must go down the river of night's dreaming」である。
 ワグナーがこの作品の一部で試みた特異な文体を、どこまで日本語に移せたかは心もとないが、ひとりでも多くの人にこの作品を読んでもらいたい。

 さて、「夜の夢見の川」は、スチュアート・デイヴィッド・シフが編んだアンソロジー Whispers Ⅲ (Doubleday, 1981) に発表された。ただし、当方が持っているのは、例によって1988年にジョーヴから出たペーパーバック版である。

2012-9-17(Whispers 3)

 すこし説明が必要だろう。
 もともとシフは〈ウィスパーズ〉というホラー系のセミプロジンを発行していた。1973年から87年にかけて、不定期で16号(合併号があるので、名目上は24号)を出し、ホラー不遇の時代に貴重な短篇発表の場を作った。その功績を認められ、4度も世界幻想文学賞に輝くなど、非常に評価が高い。

 この成功を承け、シフは大手出版社と契約を結び、アンソロジストとしても活躍をはじめる。最初に手がけたのが、雑誌と同名の《ウィスパーズ》というシリーズだった。
 これは雑誌〈ウィスパーズ〉から選びぬいた作品に、書き下ろしの新作を加えたもの。1977年から87年にかけて全部で6冊が出たほか、そこからさらに選りすぐった作品に新作を加えた The Best of Whispers (1994) が出ている。
 今回とりあげるのは、アンソロジーのほうの第三集というわけだ。

 シフの序文につづいて、14篇がおさめられている(うち5篇が再録で、残りは書き下ろし)。邦訳があるのは、当方の知るかぎり、デニス・エチスン「最後の一線」、ラムジー・キャンベル「自分を探して」、カール・エドワード・ワグナー「夜の夢見の川」の3篇である。

 パルプ時代の生き残りから、モダンホラー世代まで、ヴァラエティ豊かな顔ぶれがそろっている。めぼしい名前をあげると、上記に加え、デイヴィッド・ドレイク、ヒュー・B・ケイヴ、フィリス・アイゼンシュタイン、ロジャー・ゼラズニイ、フランク・ベルナップ・ロング、フリッツ・ライバー、ウィリアム・F・ノーランといったところ。

 未訳のなかでいちばんいいのは、アイゼンシュタインの“Point of Departure”だろう。ゴーストストリー仕立てで兄妹の和解を描いた作品で、古風な枠組みながら、現代感覚が横溢している。

 次点はチャールズ・E・フリッチの“Who Nose What Evil”か。題名からして駄洒落だが、内容も相当におかしい。ある日めざめると、鼻のなかにお姫さまと悪い魔法使いに住みつかれていた男の話。フェアリー・テール風の不条理小説かと思っていると、強烈なバッド・エンディングが待っている。

 僅差でつづくのが、ゼラズニイの“The Horse of Lir”。ネス湖の怪物を思わせるシーサーペントを代々世話している一族の話。静謐な雰囲気がすばらしい。これはどこかに訳したいものだ。(2012年9月17日)

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