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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.10.05 Fri » 『ケルヴィン卿の機械』

 元祖スチームパンクについてしゃべるように頼まれたので、いろいろと資料にあたっているところ。
 というわけで、ジェイムズ・P・ブレイロックの Lord kelvin's Machine (1992) を読んだ。初版はアーカム・ハウスから出たハードカヴァーだが、当方が持っているのは、例によって同年にエースから出ペーパーバック版である。

2012-7-15(Lord).jpg

 これは邦訳のある『ホムンクルス』(原著1986/ハヤカワ文庫FT)の姉妹編。同じ人物が登場するが、出来事が数年にまたがっていて、『ホムンクルス』で起きた事件は、そのあいだのどこかに位置するらしい。もちろん、主な舞台は19世紀のイギリスである。

 プロローグは壮絶な馬車の追いかけっこ。悪の科学者ナルボンドが、正義の科学者セント・アイヴズの恋人アリスを誘拐したのだ。必死の追跡の途中、路傍にひとりの男があらわれ、馬車を飛ばすセント・アイヴズに紙切れをわたそうとする。もちろん、セント・アイヴズはそんなものにかまっている暇はない。だが、その男になんとなく見覚えがあり、妙な気がかりが残る。
 そしてセント・アイヴズはナルボンドを追いつめるが、すでにアリスは殺されていた。セント・アイヴズは号泣し、復讐を誓うのだった。

 以下、本書は三部に分かれている。

 第一部はもともと「ケルヴィン卿の機械」という中篇として、『ホムンクルス』より前に発表されたもの(〈SFマガジン〉1989年11月号に邦訳がある)。単行本化にさいして細かいところに手がはいっているが、基本的に同じで、迫り来る巨大彗星に地球をぶつけるぞ、と世界を脅迫するナルボンドの陰謀と、それを挫くセント・アイヴズたちの活躍が描かれる。
 表題の〈ケルヴィン卿の機械〉は、地球の磁場をコントロールできる装置で、これをめぐって善玉悪玉入り乱れたドタバタがくり広げられるわけだ。

 第二部は、前のパートで脇役をつとめたジャック・オウルズビーが主人公で、この部分だけ一人称で書かれている。
 前のパートで氷河に消えたナルボンドを捜しだし、氷づけの死体を蘇生させようとしている者たちがおり、セント・アイヴズ一党とのあいだで闘いになる。頭のめぐりの悪い青年の視点で書かれているので、ただでさえ混乱した話がますます混乱し、読んでいるとゲンナリしてくる。

 第三部は〈ケルヴィン卿の機械〉を使って時間旅行をくり返し、なんとかアリスを救いだそうとするセント・アイヴズの苦闘が描かれる。この部分はきわめてまともな時間旅行SFで、タイム・パラドックスや歴史の分岐といった問題がクローズアップされる。
 いうまでもないが、冒頭にあらわれた謎の人物は、時間をさかのぼってきたセント・アイヴズ自身だったわけだ。

 不思議なのは、肝心の〈ケルヴィン卿の機械〉の正体がいまひとつはっきりしないこと。外見は表紙絵に描かれているようなバチスカーフ形だが、磁気制御装置からタイム・マシンに突如として機能が変わるのだ。頭のなかを疑問符が駆けめぐる。

 三人称と一人称をまぜた構成も効果をあげているとは思えない。失敗作というしかないだろう。

蛇足
 アーカム・ハウス版の発行部数を確認しようと思ってS・T・ヨシ編 Sixty Years of Arkham House (1999) を見たら、ヨシがでたらめの説明を書いていて驚いた。なんと、本書は『リバイアサン』(ハヤカワ文庫FT)の続篇で、ロサンゼルスの地下に広がる地底海の住人にまつわる話だというのだ!
 ヨシのいうことは鵜呑みにしないようにしよう。
 ちなみに、発行部数は4015だったそうだ。(2012年7月15日)

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