fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2024.01 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 » 2024.03

2013.02.13 Wed » 『TVAの落とし子』

 テリー・ビッスンの第四短篇集 TVA Baby (PM Press, 2011) を読んだ。2006年から09年にかけて発表された近作13篇が収録されている。

2012-10-5(TVA)

 ビッスンの近年の作品は、世界への絶望をにじませた苦いものになっているのだが、その傾向はますます顕著になっている。
 たとえば表題作は、ほとんど理由もなしに殺人をくり返しながら逃避行をつづける男の話。この男が「おれはTVAベイビーだ」と名乗るのが、題名の由来になっている。
 ちなみに、TVAベイビーとは、大恐慌時代にルーズヴェルト大統領が打った政策で、テネシー川のダム工事に北部からやってきた青年たちが、南部の女性とのあいだにもうけた子供たちのこと。ビッスン自身がTVAベイビーのひとりらしい。とすると、この主人公は作者のダークサイドなのか。

 “Pirates of the Somali Coast”は、ソマリアの海賊に襲われた豪華客船の話。この船に乗り合わせた少年が、母親と友人へ送るeメールを並べる形式で書かれており、冒険旅行を語るような明るい調子の母親宛メールと、海賊の残虐行為を赤裸々につづる暗い調子の友人宛メールが、事件を立体的に描きだす。

 “BYOB FAQ”は、商品に関するQ&Aの形式で書かれており、読み進めるうちに、暗澹たる未来のビジネスが見えてくる。「BYOB」とは“Build-Your-Own-Boyfriend ”の略であり、孤独な女性向けにボーイフレンドを売る商売。そのボーイフレンドは、アジアやアフリカの健康な青年。ただし、いっさいの記憶が消されており、買い手が自分好みに仕立てられるようになっている。志願制が建前で、その多くは貧困からぬけだそうとする者たちだ(受刑中の犯罪者も多い)。半年以内なら返品もきくというのが、買い手にとっては大きな魅力だそうだ。

 ほかの作品もこういう調子か、逆にセンチメンタルすぎるくらいセンチメンタルな作品。ビッスンも変わってしまったなあ、というのが偽らざる感想である。
 
 とはいえ、ひとつだけ大笑いできた作品がある。“Billy And the Circus Girl”だ。
 題名からわかるように、ビッスン版ナンセンス童話《ビリー》シリーズの1篇だが、シリーズを集成した単行本 Billy's Book (2009) への収録は見送られたといういわくつきの作品。理由は「子供向きではない」から。
 冒頭を訳してみよう。


 ビリーには小さなオチンチンがついていました。こすると、それは大きくなりました。そんなことがあるなんて、ビリーの理解している物理法則に反するように思えます。なのでビリーは科学の先生、ミスター・スマートに見せることにしました。
「これ見て」とビリーはいいました。

「どうして校長室へ来ることになったの?」校長先生のミセス・サットンがいいました。「ミスター・スマートは教えてくれないのよ」
「これを見せたんです」とビリー。「こすると大きくなる理由がわかりません」


 この調子でビリーはいろんな人にオチンチンを見せてまわり、騒ぎとビリーのオチンチンはますます大きくなっていく。とはいえ、サーカス・ガールのおかげで万事は丸くおさまるのだが、それがどういうことかは、みなさんのご想像にまかせよう。(2012年10月5日)




スポンサーサイト