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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.07.18 Thu » 『カップ一杯の宇宙』

 編纂したアンソロジー『時を生きる種族――ファンタスティック時間SF傑作選』(創元SF文庫)の見本がとどいた。今回も鈴木康士氏が雰囲気のある表紙絵を描いてくれて、うれしいかぎりだ。

 本書に収録したミルドレッド・クリンガーマンの作品は、A Cupful of Space (Ballantine, 1961) という短篇集から選んだ。著者は主に1950年代に活躍した作家だが、フルタイムではないため作品の数は極端にすくなく、これが唯一の著書である。ちなみに、表紙絵はかのリチャード・パワーズの筆になるもの。

2013-7-14 (Cupful)

 同書には1952年から1961年にかけて発表された作品が16篇収録されている。そのうち〈F&SF〉掲載が11篇、〈コリアーズ〉掲載が2篇、〈ウーマンズ・ホーム・コンパニオン〉掲載が1篇、書き下ろしが2篇である。
 ちなみに邦訳があるのは、「無任所大臣」、「鳥は数をかぞえない」、そして今回のアンソロジーに採った「緑のべルベットの外套を買った日」の3篇(追記参照)。

 デビュー作「無任所大臣」は、平凡な老女が異星人とコンタクトし、事情がわからないまま世界を救ってしまう話としてSF史に名をとどめている。これがハートウォーミングな小品なので、そういう作風なのかと思ったら、意外にも薄気味の悪い話、不穏な空気をかもしだす話が多かった。ホラーとまではいかず、むしろ〈奇妙な味〉に近い作風である。

 集中ベストは、前に紹介したことのある“A Red Heart and Blue Roses”か、SF版ロマンティック・コメディ「緑のベルべットの外套を買った日」だろうが、それにつづくのが“The Gay Deceiever”という短篇。こんな話だ――

 旅まわりの芸人で、笛を吹きながら、風船を売って歩く老人がいる。もちろん、子供に大人気で、行く先々で子供にとり巻かれる。本人も子供好きらしく、売り上げの見こめないスラム街へ足をのばし、風船を無料で配ることさえある。だが、老人があとにした街では、かならず事故にあった子供の死体が発見されるのだ。捨てられていた冷蔵庫に閉じこめられた形で……。

 老人にあこがれて職を辞し、助手をつとめている若い女性の視点で書かれているのがミソ(つまり、最初のうちは老人が善意のかたまりに思える)。ハーメルンの笛吹きの伝説を下敷きにしており、なんともいやな後味を残す一篇だ。

 このほか、天使のように可愛いのに、凶暴きわまりない幼女が出てくる“The Little Witch of Elm Street”も面白い。この子は三輪車に乗って人に忍びより、うしろから轢くのが大好きなのだ。(2013年7月14日)

【追記】
「緑のべルべットの外套を買った日」は、橋本輝幸と当方の共訳である。橋本氏は、海外SF紹介者としてすでにめざましい活躍をしているが、翻訳はこれがデビュー作となる。共訳者としては僭越だが、新鋭の門出を祝いたい。

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