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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.07.19 Fri » 『L・スプレイグ・ディ・キャンプ傑作集』

 編纂したアンソロジー『時を生きる種族――ファンタスティック時間SF傑作選』(創元SF文庫)には、L・スプレイグ・ディ・キャンプの中篇「恐竜狩り」を収録した。むかしから好きだった小説なので、新訳できてとても嬉しい。

 新訳とわざわざ強調したのは、一字ちがいの旧訳「恐龍狩り」(船戸牧子訳)とは別のヴァージョンに基づいて翻訳したからだ。
 手元にあった原文と船戸訳をくらべたら、原文のほうは随所に手がはいっているとわかった。改訂は主に刈りこむ方向でなされており、新ヴァージョンのほうが出来がいい。
 というわけで、船戸訳に愛着はあったのだが、あえて新訳に踏みきったしだい。

 その別ヴァージョンを収録していたのが、The Best of L. Sparague de Camp (1978) である。初版はSFブック・クラブのハードカヴァーだが、当方が持っているのは、例によって同年にバランタイン/デル・レイから出たペーパーバック版である。

2013-7-16 (de Camp)

 ポール・アンダースンの序文につづき、小説14篇、エッセイ1篇、詩3篇が収録されており、最後にディ・キャンプ本人の「あとがき」がつく。
 このうち邦訳があるのは「命令」と「恐竜狩り」の2篇だけ。わが国におけるディ・キャンプの不人気ぶりを如実に表わしている。この人も彼我の評価の差がはなはだしい。
 
 原因のひとつは、1940年代のSF黄金時代を支えたスターのひとりという側面が、知識としては頭にはいっても、実感できないからだろう。ディ・キャンプのSF界デビューは1937年であり、〈アスタウンディング〉誌編集長ジョンW・キャンベル門下生としては、ロバート・A・ハインライン、A・E・ヴァン・ヴォート、アイザック・アシモフなどの先輩にあたる。
 しかも、SFを書きはじめる前からプロの作家として活動していたので、当時のSF雑誌の常連にくらべれば文章が抜群にうまく、さらに工学や歴史に関して造詣が深かったので、キャンベルの高い水準をクリアする力があった。そのためディ・キャンプは、「キャンベル厩舎のホープ」として期待され、その期待に応えたのだった。

 その好例が、本書にも収録されているエッセイ“Language for Time Travelers” (1938) だ。英語がいかに変化してきたかを概括し、未来にどう変化するかを予測して、時間旅行者が言語の障壁でどれほど苦労するかをユーモアに論じたもの。この種の考察は史上初だったらしく、ディ・キャンプの名を高らしめた。

 こうしたデビュー当初の活躍が、SF作家ディ・キャンプの評価を確立した。その証拠に本書の収録作のうち、小説7篇とエッセイは1938年から40年にかけて〈アスタウンディング〉か〈アンノウン〉に発表されている。つまり、この時期のディ・キャンプやハイラインたちの作品が、SFの新たなスタンダードを作りあげたわけだ。

 しかし、わが国では、そのスタンダードの上に築かれた1950年代SFのほうが先に紹介されたので、こうしたディ・キャンプの活躍は実感できないのだ。逆に洗練された作品のあとに読むと、泥臭く感じられるのである。

 前置きのつもりが長くなったので、収録作の話は割愛。
 ひとつだけ書いておけば、表紙絵は“The Emperor's Fan”という短篇を題材にしている。架空の中華帝国を舞台に、生き物を別世界に送る力を秘めた魔法の扇にまつわる東洋趣味ファンタシーだ。
 ダレル・K・スィートの絵は、あんまり中華風ではないので、キャンベル追悼アンソロジー Astounding (1973) 初出時にケリー・フリースが描いたイラストを紹介しておく。やっぱりフリースはいいなあ。

2013-7-16 (Emperor's)


蛇足
 L・スプレイグ・ディ・キャンプという名前は変わっているので、当初は著名作家のペンネームだと思われたらしい。ヘンリー・カットナーやL・ロン・ハバードの名前が取りざたされたそうだ。(2013年7月16日)

 
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