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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.06.20 Thu » 『女剣士』

 確認したいことがあって、ロバート・E・ハワードの本をひっぱりだしてきた。Sword Woman (Berkley, 1979)である。

2012-3-9 (Sword Woman)

 もともとは1977年にゼブラ・ブックスから出たものの再発。署名の上に文字がかぶさっているが、表紙絵はケン・ケリーの筆になるものでまちがいない。

 これは中世フランスの女剣士、ダーク・アグネスを主人公にしたシリーズをまとめたもの。表紙絵を見てもらうとわかるが、アグネスの髪は赤く、肌は白い。では、なぜダーク・アグネスと呼ばれるかというと、「彼女のまわりには なにか dark なものが漂っているから」だという。この dark もいろいろな意味がこめてあって、その場その場で「暗い」とか「不吉」とか「陰鬱」とか訳すしかないだろう。

 アグネスは農民の娘だが、貴族の血を引いている。というのも、父親は、さる貴族が農民の娘に産ませた子供だからだ。
 物語はアグネスの婚礼の朝からはじまる。いいなずけは親が決めた農夫で、アグネスはこの男を嫌いぬいている。そして婚礼の場でいいなずけを刺し殺し、村から出奔。街道でエティエンヌという剣士に出会い、助けられたと思ったが、じつはエティエンヌの狙いが自分を娼館に売ることだと知って、この男を半殺しの目にあわせる。ところが、エティエンヌは地元の貴族に命を狙われており、その正体が露見したのは自分のせいだと悟り、命を救うための行動に出る……。

 といった具合で、恐ろしく荒っぽい女剣士の活躍が描かれる。
 中世フランスを舞台に赤毛の女剣士が活躍するといえば、C・L・ムーアの《ジョイリーのジレル》シリーズを連想しないわけにはいかないだろう。
 じっさいハワードは《ジレル》シリーズを意識したらしく、1935年に第一作“Sword Woman”の草稿をムーアに送り、これを気に入ったムーアから「アグネスの活躍をもっと読みたい」という返事をもらっている。ちなみに、《ジレル》シリーズはその前年にはじまっており、ハワードがその影響を受けたと考えたくなるが、真相は不明。

 ともあれ、このシリーズはほかに1篇の完成作“Blades for France”と“Mistress of Death”と題された未完の草稿が書かれたが、けっきょくハワードの生前は未発表に終わった。要するに、売れ口がなかったのである。

 さて、未完の草稿はのちにジェラルド・W・ペイジが補筆し、これが世に出まわった。本書にもこのヴァージョンが収録されている。
 現在では未刊の草稿が公刊されているので、両者をくらべると、うしろのちょうど半分が補筆部分だとわかる。主人公が魔道士に奈落へ引っぱりこまれそうになり、悲鳴をあげて男に慰められるというシーンがあって、ハワードらしくないと思ったら、やはりペイジの書いた部分だった。

 ところで、《ダーク・アグネス》シリーズの第1作と第2作は、超自然の要素がない純粋な歴史冒険小説である。第3作になって、魔道士と蘇生術という要素が導入されるのは、〈ウィアード・テールズ〉向けに方向転換を図ったためと推測されるが、その試みも放棄された。ハワードの心境やいかに。

 もっとも、この3篇では分量がすくなくて本にならないので(全訳して215枚ほど)、本書にはリイ・ブラケットの序文と、未完に終わった長篇(上記シリーズとは無関係)の冒頭部分が2篇おさめられている。(2012年3月9日)

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