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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.12.27 Thu » 『分解された男』幻のプロローグ

 思うところあってアルフレッド・ベスター『分解された男』(創元SF文庫)を読みなおした。
 沼沢洽治訳の創元版を読むのは3度め。このほか伊藤典夫訳『破壊された男』(ハヤカワ・SF・シリーズ)を1度読んでいるのだが、今回もやはり面白く読めた。
 とにかく、たたきつけるような文体と、歯切れのいい会話がもたらす疾走感がすごい。さすがにラジオで鍛えあげられただけはある。文体の密度という点で、70年代以降の作品とはくらべものにならない。そうそう、これがベスターだよ。

 いまとなってはそのあたりの事情がわかりにくくなっているが、タイポグラフの実験や、人名を「@キンズ」と表記するようなお遊びも、当時の読者にはさぞかし新鮮だったのだろう。アメリカでは永らく『虎よ、虎よ!』より本書のほうが人気が高かったというのもうなずける。もし紹介順が逆だったら、わが国でも『分解された男』のほうに軍配があがったかもしれない。

 ところで、『分解された男』には幻のプロローグが存在するのをご存じだろうか。1952年のSF誌〈ギャラクシー〉連載時にはついていたものが、翌年シャスタから刊行されたときに削られたのだ。まだ第二次世界大戦後の紙不足の影響が残っているころで、紙を節約する必要があったらしい。
 それ以後、半世紀近くのあいだ、このプロローグは幻だったのだが、2000年になって事態が変わった。ibooks から Redmolished というベスターの落ち穂拾い的作品集が出たとき、おまけつきで同書に収録されたのだ。ちなみに当方は、4年後に出た同書のペーパーバック版で読んだ。

 さて、プロローグの内容だが、『虎よ、虎よ!』のそれと同様、物語がはじまる前の背景説明となっている。つまり、エスパー社会ができるまでや、物語で重要な役割を果たすコンツェルンの起源が語られるのだ。
 もっとも、本筋にはまったく出てこない反重力(Nulgee という用語が使われている)発見の顛末が記されているなど、むしろ邪魔なエピソードが多い。いま見る形のほうがずっとすっきりしているし、ベン・ライクの悪夢を描いた冒頭の衝撃度も大きい。このプロローグを削除した編集者の判断は正しかったと思う。

 蛇足ながら、おまけというのは、編者による解説と、“Writing and The Demolished Man”と題されたベスターのエッセイ。後者は1972年にファンジン〈アルゴル〉に発表されたもので、『分解された男』執筆にまつわる裏話を明かしながら、自己の創作作法について語っている。それによると、テレパスのパーティー場面(タイポグラフの大規模な使用)が、スプリングボードになったらしい。なるほど。(2010年9月28日)

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