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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.02.11 Mon » 『謎の惑星』

【前書き】
 以下は2010年4月25日に書いた記事である。誤解なきように。


 7月に出る予定の本の初校を見終わった。テリー・ビッスンの短篇集である。
 前にも書いたが、ゲラを見る作業は本当にストレスがたまる。今回は「万が一(ということがある)」と「万一(にそなえて)」をどちらかに統一しろという指示があって呆れはてた。官僚的思考もここにきわまれり、という感じだ。

 こういうときは蔵書自慢。ものはテリー・ビッスンの Planet of Mystery (PS Publishing, 2008)だ。
 ジャケットつきの豪華版とジャケットなしの普及版、2種類ハードカヴァーが出ているが、当然ながら後者を買った。

2010-4-25(Planet)

 これは邦訳して230枚ほどのノヴェラを単行本化したもの。版元はイギリスの小出版社で、こういう形式の本をたくさん出している。その多くは書き下ろしで、意欲的な出版姿勢が高く評価されている。ただし、本書は2006年に〈F&SF〉に掲載された作品。

 ときは2077年、いましも人類初の有人金星着陸がおこなわれようとしていた。ホール船長とチャン機関士を乗せた中国アメリカ宇宙サーヴィスの着陸船は、分厚い金星の雲をぬけて地表をめざす。そこは太陽の光が届かないので永久に闇につつまれ、金属も溶ける高熱の支配する地獄のような世界――のはずだった。

 ところが、宇宙飛行士たちの目に映ったのは、光のあふれた平原で、植物らしきものが存在していた。そして着陸予定地点には、乾いた大地のかわりに水をたたえた池が広がっていたのだ。操船が間にあわず、着陸船は池にはまって沈没してしまう。
 
 からくも脱出したホールとチャンは、そこの空気が呼吸可能であることを知る。だが、驚く暇もなく、ケンタウルスそっくりの生物と短いチュニック姿の女戦士(アマゾン)たちに襲われ、捕虜にされてしまう。ふたりは城へ連れていかれるが、そこで待っていたのはアマゾンの女王と、11年前に行方不明になった金星探査ロボットだった……。

 ハードSF風の導入部から一転してパルプSF風の展開を見せる。明らかに往年のプラネタリー・ロマンスへのオマージュだが、正直いって冴えない。最近のビッスンの傾向だが、文章の密度が薄いのだ。すくなくとも、初期の短篇に見られたような味わい深い文章ではなく、事務的でスカスカの文章である。もしかするとノヴェライズをたくさん書いた弊害かもしれない。
 長めの作品を書こうとしたのだろうが、長篇用のプロットを組み立てられず、短篇を引きのばしただけに終わっている。

 ビッスンの長い作品は成功した例がすくない。例外は『世界の果てまで何マイル』と『赤い惑星への航海』だが、いずれもA地点からB地点への移動という単純なストーリーで、エピソードを数珠つなぎにした形式であり、複雑なプロットをそなえた作品ではない。本質的に短篇作家なのだろう。(2010年4月25日)

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